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うちの娘の為ならば、俺はもしかしたら魔王も倒せるかもしれない 。 作者:CHIROLU
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閑話、雪の降ったある日。

明けましておめでとうございます。今年も宜しくお願い致します。
番外編です。季節ネタだったので。
 クロイツは雪が少ない。一年の内、数度、白くうっすらと雪化粧が施されることがせいぜいで、はっきりと積もることは稀なこととなっている。
 それでもラティナは、はじめてクロイツに来た年の初雪などは、非常に大興奮だった。彼女の郷里は雪がほとんど降らない地域なのだという。

 そしてその翌年。彼女が九歳の年の冬。
 クロイツでは珍しいほどの大雪が降った。これはその時の話になる。


 その日、ラティナは朝から大張り切りだった。今日はクロイツの子どもたちによる雪合戦大会が開催されるのだ。
 クロイツ中心部の広場は、子どもたちにとって重要な遊びの場だ。
 今回のように、大雪などが降った後はちょっとした騒動になる。皆が皆、雪遊びがしたいのだ。そこで広場の使用権が子どもたちの間の重大な争点となる。
 今回はクロイツの子どもたちの間に一大協定が結ばれた。
 それが『雪合戦大会』である。
 誰かが独占するのではなく、皆で一斉に遊ぼうという短絡的な企画ではあったのだが、意外にもすんなりと実現の運びとなったのだった。

 --この突然の大雪で、冒険者たちへの街の人々からの依頼は、大多数が雪かきとなっている。そんな街中に散らばる『冒険者(じょうれん)』たちが、『我らが姫君(アイドル)』が大層、雪合戦を楽しみにしていることを察して、骨を折ったとか、折らなかったとか--という噂もある。

 昨日『踊る虎猫亭』の前の雪かきを兼ねて、特訓もしたのだ。その途中作った大きな雪だるまは今朝になったら崩されてしまっていて、少ししょんぼりしたが、今のラティナの闘志をくじくまでには至らなかった。

「今日こそ、ルディをやっつけるのっ!」
 お気に入りのもこもこの上着に、ピンクの毛糸の帽子とマフラー、手袋の三点セットを装備したラティナは、『踊る虎猫亭』の入り口の前で気勢をあげた。

 今回の雪合戦は、子どもたちを二つのグループに分けて行う。
 そこで珍しくラティナは、いつもの仲間たちと別れることになったのだ。とはいえマルセルとは同じグループなので、そこまで緊張はしていない。他にも顔見知りの友だちが、この一年半で出来ていたことも大きい。
 マルセルの隣で大量の雪玉を作りながら、ラティナはぷふぅと興奮気味だ。
「そんなにルディをやっつけたいの?」
「ルディいっつもラティナのこと、よわいとか小さいとかとろいって言うんだもん! ラティナ、ルディに負けないもん!」
 彼女はちいさいながら、矜持が高い。とはいえ、単純な追いかけっこなどの普段の遊びでは、体格と体力に秀でたルディの方に軍配が上がる。それがこの少女には我慢がならなかった。
 いつかぎゃふんと言わせてやる。
 この子は愛らしい外見に似合わず、そのあたりの気は強いのだった。

 とはいえ、ルールはざっくりしたものだ。
 雪玉に当たれば失格。相手チームの旗を取った方のチームの勝ち。
 すでに広場にはあちこちにシェルターとなる雪壁が築かれており、広場の端と端には本陣となる壁とフラッグが用意してある。
 大人には、この規模で大勢が入り乱れるのは、クリア不可能なゲームにしか見えないが、子どもたちにとっては、別にどうでもいいらしい。
 年齢層にも幅のある、なかなかにたくさんの子どもたちが今か今かと開始の合図を待っていた。

「スタートっ!」
 その声と同時にラティナは走り出す。まだ距離があるから、相手の雪玉は届かない。ピンクの毛糸の帽子に付いたボンボンを揺らして、安全なルートを推測して走って行く。
 始めに狙っていたシェルターの陰に滑り込むと、パシュンパシッとシェルターに当たった雪玉が砕けた。相手チームの間合いに入ったのだ。
(ルディは、ぜったいまんなかに来るから、ここでねらうの!)
 確信を持っているのは、友人の性格をよく知るからでもある。小手先の策など練らずに、持ち前のパワーで押しきるタイプなのだ。普段はそんな彼に押しきられるラティナであったが、今日は違う。味方の援護の雪玉に合わせて先を伺い、ターゲットを探す。
(いた!)
 目的の人物の姿を確認したラティナは、早速『作戦』実行に移ったのだった。


 一方ルディの方からも、ラティナの様子は確認できた。
 開始直後、子どもたちの集団を飛び出したちいさなシルエットが、見慣れたピンクの帽子とマフラー姿だったのだから仕方ない。仔兎だってもう少し保護色というものを考えるだろう。よく似合っているけれど。あの大きなボンボンが歩く度にぽふんぽふん揺れるのを見ると、思わず鷲掴みにしてしまうのは、もう本能的な何かを刺激するのだから仕方がない。そのたびちょっとむくれた顔で上目遣いで睨んでくるのだ。そんな顔も可愛いかったりするけれど。
(あれで隠れているつもりなんだから、とろくさいよな)
 シェルターの陰から、ピンクのボンボンがちょこんとはみ出ている。
 彼女は勉強もできるし、頭も良いはずなのに、時々こんな風に抜けているのだ。
 ルディは相手チームの様子を伺いながら移動する。
 ラティナのいるシェルターに迂回して近づいた。
(一気に決めるっ)
 位置を決めると、後は一気に飛び出した。ラティナに反撃させずにこの両手に装備した雪玉をぶつければ自分の勝ちだ。自分のことを気にした時に、上から山なりに投げた雪玉で頭上から襲うのだ。
 ぱすんっ。と、弓なりの軌道を描いた雪玉は、呆気なくピンク色の帽子に命中する。ルディは悔しがるラティナの顔を思い浮かべながら、シェルターの奥を覗き込んだ。

 そこにあったのは、一本の棒と、それにのせられた雪をかぶったピンクの帽子。

「っ!?」
 囮だとルディが理解した瞬間、シェルターの奥でちいさな体を縮めていたラティナが立ち上がった。
 視界の端で、キラキラと光の粒子が弾ける。
「ちょっ……魔法は反そ……」
 ルディはその叫びの途中で、ラティナの生み出したぷち雪崩に巻き込まれた。

 ラティナが扱える天属性の魔法のうち、防御壁を作るものや、攻撃魔法というものなどは、結局は同じ力の使い方の違いなのである。
 魔力で盾を作れば『防御』に。魔力の弾を飛ばせば『遠距離攻撃魔法』に。そして魔力の塊で殴れば『近接攻撃魔法』となるのだ。
 そしてラティナは魔力の制御にかけては、大人たちも唸らせる技量の持ち主だ。
 彼女は、雪の層の下に展開した、広げた魔力の壁を一気に立ち上げたのであった。雪乗せちゃぶ台返しである。

 ルディを作戦通り雪に閉じ込めると、ラティナはシェルターの奥で作っておいた特大雪玉を両手で持ち上げた。
 彼の頭にぐしゃりと落とす。トドメである。雪玉を当てないと、相手をアウトには出来ないという考え故にの行動であった。変なところで彼女は律儀だ。

「やったーっ! ルディに勝ったーっ!」
 両手を上げて思わず万歳をする。
 喜びのあまり、彼女はすっかり失念していた。
 現在はまだ、合戦の真っ最中であることに。

「ふゃっ!」
 ちいさなラティナの頭で雪玉がパシュンと砕けた。
 パシッパシッ、パシュンパシッ。直後、何発もの雪玉の集中放火を浴びる。あっという間に、悲鳴を上げるラティナは雪まみれになった。
「ひゃあぁんっ!」
「敵の魔法つかいは討ち取ったっ! 攻めるぞっ!」
 勝どきを上げたのは、彼女(ラティナ)の『親友』だった。
「はじめから、ルディは捨てゴマよっ! さあ、行くぞっ!」
 そのあたり、クロエに容赦は全くなかった。

 結果。クロエ将軍率いるチームの勝利であった。
 観戦していた大人たちが、思わずその指揮に感嘆する采配であった。


「やったのっ! ラティナ勝ったの!」
 だが、ラティナは『踊る虎猫亭』で勝利の報告をした。チーム戦では敗北したが、『彼女の戦い』においては勝利なのである。
 夕食までのお凌ぎに、ケニスがホクホクの焼き芋を持たせてくれる。雪遊びと寒さで、鼻の頭を赤くして帰って来たラティナであったが、着替えをし、砂糖を少し入れたホットミルクを一杯飲むと、すっかり普段通りになっていた。
「帰り道で、雪だるまになってるひと見たけど、カゼひいたりしないのかなぁ」
 ふと、そんなことを思い出したが、勝利の報告の方にすぐに意識は向く。
 芋をもふもふと食べて、新しく注いでもらったミルクを飲む。勝利の美酒ならぬ勝利のミルクはいつもよりも美味しい。
「昨日練習してたもんな」
 デイルにもにこやかに微笑まれ、ラティナはますます嬉しそうに笑った。

 デイルは行くことこそ出来なかったが、店の常連客たちが何人かは彼女の雄姿を見物に行っていたので、既に話は聞いていた。それでもやはりこのちいさな彼女から、武勇伝は聞かなくてはならない。

 南区のある子ども(・ ・ ・ ・ ・)が作った、大作の雪だるまを蹴り壊したやんちゃ者が、強面の男どもにきついお灸をすえられたなんて噂は、デイルの元にも来ていたが、まぁたいしたことではない。

「今度、一緒に雪だるま作ろうか」
「うんっ」
 こんな笑顔のラティナと一緒なら、童心に返って雪遊びに興じるのも悪くない。
 いっそのこと、巨大雪像を作ってみるのはどうだろうか。
 そんなことを思いながら、デイルはラティナから一口もらった焼き芋を口の中に放り込んだ。
現実的には大雪は大変なだけですが……フィクションとしてお楽しみくださいませ。
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