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うちの娘の為ならば、俺はもしかしたら魔王も倒せるかもしれない 。 作者:CHIROLU
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幼き少女、もふもふを堪能する。

 マーヤと手を繋いだまま、村の中央広場でラティナはぽかんと口を開けていた。
「いのちちっ」
「イノシシって大きいんだねぇ……」
 マーヤが指差すのは本日の獣人族の狩りの成果だ。
「おにきゅ」
「マーヤちゃんおにく好きなの?」
「ちゅき」

 少女二人が睦まじく会話をするそんな様子は癒される。
 そのためしばらくそのまま眺めていたのだが、デイルははっと我に返った。
「……ラティナ」
「ん?」
「あれ、魔獣だからな。『普通の猪』並べたら、あれの赤ん坊位にしか見えないからな」
「そうなのっ?」

 どうやら本気で驚いているらしい。
 ラティナが誤った知識を身に付ける前に是正出来て本当に良かった。
 家屋と並んで見劣りしない体格の獣が、『普通』の猪であってたまるか。
 それが二体も並んでいる。
 確かに狩りは大成功であったらしい。

 この村にいる『紫の神(バナフセギ)』の巫女の『加護』は、村の周囲--限られた範囲--にある『危険なもの』の予知であった。
 今回はそれで『魔獣』の存在を察知できたということだ。
 この村の周囲でこの猪型の魔獣はよく姿を見られるらしく、村では頻繁に食べられている肉となっている。
 だが、危険ではないという訳ではない。
 事前に危険の芽を摘むことが可能となる、紫の神(バナフセギ)の巫女の存在理由は大きい。

「なぁ……解体作業はグロいぞ?」
「これもべんきょうかなって思ったの」
「……解体は肉屋にやらせれば良いんじゃねぇかな……それに流石にでかすぎてあまり参考にならねぇと思うぞ」
「うーん……そうだね」
 一人の男の獣人族が運んできた包丁は、もう包丁というより両手持ちのグレートソードのような姿だった。
 とてもじゃないが、ラティナでは大人になっても扱えるとは思えない。到底捌けるサイズではないのだ。

「あてぃあ。あちょぶ」
 マーヤにとってはよくある光景で、面白くもなんともないらしい。ラティナの手をクイクイと引いている。ラティナが視線を向ければ満足そうな態度で歩き出した。
「デイル」
「ああ。気をつけろよ。村からは出るなよ」
「うんっ」
 マーヤに引かれながらラティナはデイルに許可を貰う。
 二人は村の中の散歩に出掛けて行った。


「マーヤちゃんはもふもふだね」
「くふゅふゅ」
 散歩にもすぐに飽きたマーヤの相手をするラティナは、今は彼女の柔らかな毛を堪能していた。マーヤも嫌がることなく、キャッキャッと笑って身を捩っている。くすぐったがっているようだった。
「あてぃあ、もひゅもひゅ?」
「もふもふー」
 特に意味の無いことを言って笑い合う。
 首の下の辺りの毛が特に柔らかいことに気付いて、そこを撫でると、マーヤは気持ち良さそうにふにゅふにゅと笑う。

 幼いマーヤは、全身の毛が柔らかい産毛状態だった。しかも父親の溺愛具合が察せられる愛情一杯の丹精の込めようであった。もふもふ具合は最高のコンディションである。

 マーヤもラティナに撫でられるのは心地良いらしい。
 くすぐったいのを乗り越えた後は、どこかとろんとした表情となっている。途中でゴロンと寝返りをうち、もっと撫でろとばかりの体勢をとっていた。
「あてぃあ。なでなでーっ」
「ここ?」
「もっとー」
「うん」
「くふゅふゅーっ」

 獣人族をも虜とする撫でっぷり。ラティナの新たな才能の片鱗が見られた瞬間だった。

 満足気なマーヤと、疲れは見せているがやはり満足気なラティナが、手を繋いで帰って来たのは、半刻はゆうに過ぎた後であった。


「あてぃあーっ」
 家の中でもマーヤはラティナの後を追いかけている。
「あちょぶ」
 そんな微笑ましい様子に、家の中で地図を確認していたデイルも、柔らかい表情を向けた。
「だいぶなつかれたなぁ、ラティナ」
「うんっ。マーヤちゃんと仲良しになったよ」
 もぎゅっと小さなマーヤを抱きしめてラティナが微笑む姿は、クロイツに帰ったら即座に巨大なぬいぐるみを求めるべきだとの天啓を覚えるほどの衝撃だった。

 何故自分は今まで彼女に、ぬいぐるみを買い与えるという行動を成さなかったのだろう。
 ガックリと項垂れてしまいそうだった。

「へん?」
「ん? なんでもないよ。デイルたまにああなるんだよ」
 意外にシビアなマーヤとラティナの状況判断は、デイルの耳には幸いにも届かなかった。


 マーヤは自分の寝床にもラティナを引っ張り込んだ。
 少しデイルの方を見て悩んだラティナだったが、明日の朝発つ事を考えるとマーヤとの別れを惜しみたくなったようだった。
 あどけない寝顔のラティナと、もふもふで満足そうな寝顔のマーヤが並んで眠る姿は、デイルとヨーゼフ(親 バカ ふたり)の相好を崩壊させた。


 そしてこれほど仲良くなっても、別れの時はやって来るのだ。

「いやああぁぁあぁあっ!! あてぃあ、やぁあだぁっ!!!」
 早朝の獣人族の村に、マーヤの泣き声が響き渡った。
 ラティナと引き離されて、ヨーゼフに抱かれたマーヤは、その腕から逃れようと暴れつつ全力で泣き喚いていた。
「やぁあぁぁっ! ちらいっ! あてぃあ、いいのぉっ!」
 愛娘に全力で拒否され、嫌いと言われ、ラティナの方が良いと言われたヨーゼフのダメージは計り知れない。
 常には天を向いている三角耳が、へにょんと情けない形になっている。

 デイルが隣のラティナを見れば、マーヤの涙につられたのか、少々眸が潤んでいた。小さく鼻をすすっている。
「……お別れしてきな。また、帰りに寄るからってな」
「……うん」
 しょんぼりした様子のラティナがマーヤの近くに寄ると、彼女はもがき暴れながら、短い腕を精一杯ラティナへと伸ばしていた。
「あてぃあ! あてぃあっ!」
「マーヤちゃん……」
 ラティナは眉をハの字にして、言葉を探した。
「元気でね、マーヤちゃん……また遊びに来ても良いかなぁ……?」
「あてぃあ……」
 マーヤはラティナの言葉に、泣くのを止めると、笑顔となり手を振って別れの挨拶をした--なんてことはなく。

「やぁああぁぁっっ!! あてぃあ、やぁあだぁっ!!!」
 更に全力で泣くスイッチを入れただけだった。
 言葉ひとつで聞き分ける幼児なんてものは存在しなかった。

「ああっ、もう! いいからお前等もう出発しろ! そのうち諦めるから!」
 ヨーゼフが、ぐにゅんぐにゅんしながら脱出を試みる愛娘と格闘しながら、声を張る。
「うわあぁぁあぁああっ! あてぃあっ! あてぃあっ!」
「マーヤが泣き止むの待ってたら、夜になっても無理だからね。気をつけて行きなよ」
 娘の号泣具合にも、苦笑混じりではあるようだが、平然としたウーテがデイルを促す。

「ああ。それじゃ……お世話になりました。帰りも寄らせて頂くと思います」
「わかったよ。気をつけてね」
「おせわになりました。……マーヤちゃん、バイバイ……」
 ぺこんと頭を下げるラティナを、馬に乗せたのは彼女の足取りも重くなるだろうことを見越してのことだった。
「ほら、良いから行け! 気ぃつけろよ!」
 ヨーゼフの声を背中に聞いて、デイルは手綱を引いて歩き出す。
 案の定ラティナは後ろを振り返り、ずっとマーヤの姿を目で追っていた。


 村の出口を抜け、ビュンテ家一同の姿が見えなくなっても、マーヤの泣き声だけはしっかりと届いていた。

(近所迷惑だったかなぁ……)
 少し冷や汗をかきながらデイルは森の中の小道に入る。
 くすんくすんと、小さく鼻をすするラティナのことは、今は見ないでおいた。
「……帰りも一緒に遊べると良いな」
「……うん……」

 別れが寂しいと感じるのも、ラティナにとっては良いことだろう。
 そんなことを思いながら、歩く。
 森の木漏れ日が細く幾筋も降り注ぎ、彼らの行き先を照らしていた。

半刻で約一時間位って考えてください。
もふもふ当方もしたいです。
いつもお読み頂き、誠にありがとうございます。
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