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うちの娘の為ならば、俺はもしかしたら魔王も倒せるかもしれない 。 作者:CHIROLU
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幼き少女、亡き人に報告に行く。

 クロイツの東区は街道に接している。そこを北上すると大河があり、いずれは港へと至る。逆に街道を南下していくと王都へ到達する。クロイツが物流の要所である所以だ。

 デイルはまず最初の目的地を海だとラティナに告げていたが、二人は街の外壁を南門から出て南西方向へと向かっていた。全く方向が異なる。そのことに気付くと、不思議そうにラティナはデイルを見上げた。

「デイル? なんでこっちに行くの? 」
「次に、ラティナを連れて外に出るのが何時になるのか、見当も付かないからな……墓参りして行かないか? ラティナが辛いなら止めるけどな」
 その言葉にラティナもこの方向に何があるのかを悟る。
「……デイルとはじめて会った森、こっちなの? 」
「そうだ。魔獣も多いから危ないけど……あれから何度か確認して、森の外から最短で行ける道も見付けておいた。ラティナの事はちゃんと守るよ」
 そうデイルが言った直後、ラティナは彼の手をぎゅっと握った。
「ありがとう、デイル」
「ん? 」
 このタイミングで何故礼を言うのだろうと、疑問に思ったデイルに、ラティナは
「何度もラグ(・ ・)のおはか、行ってくれたんだね。本当はラティナが行かないといけないのに。ありがとう」
 そう、言った。
「……ラティナ、おはか行く。ラグ(・ ・)に、今、すごくしあわせだよって言わないとダメだから」
「……そうか」
 穏やかな表情のラティナに安心して、デイルもまた、微笑んだ。


 クロイツの南西にある森は、魔獣や獣の多い事からもわかるように、非常に豊かな森だ。
 正式な名称もあるらしいのだが、クロイツに住む者たちは、『魔の森』だとか『闇の森』だとかと、適当に呼んでいる。クロイツで『森』といえばここの事なので、細かいことには拘らないのだろう。

 デイルは森が見えても直ぐには入らず、外周に沿ってぐるりと回った。時折獣の気配は感じたが、こちらに襲いかかってくるものはいない。
「うーん……たぶん、ここらだったな」
 デイルはぶつぶつと独白し、早口に魔法を使う。彼は地属性魔法を得意としている為、方向を見失うという事は無いらしい。
 馬の手綱を引きながらラティナを招く。
「ここから、森に入るぞ。魔獣とか危険な生き物が多い事は、ラティナもわかっているだろうけど、気をつけろよ」
「うん。デイルからはなれないようにする」
 真剣な顔で頷いて、ラティナは気合い充分といった雰囲気だった。

 デイルがラティナに、『自分に危害を与える存在(もの)を察知する』能力があることを知ったのは、この時だった。

 しばらく歩を進めた時の事だ。
 彼女は急に森の中で足を止めて、キョロキョロと周囲を警戒し始めた。その後、何かを見付けたように視線を一点で止めると、身構える。歩くのに邪魔になるからと背中のカバンに付けていた(ロッド)を両手で握った。
「……? どうした、ラティ……」
 声を掛けようとした時、デイルも気付く。
 彼女の視線の遥か先で、複数の気配が動いた。
「っ!? 」
 その事以上に、それにラティナが気付いていたことに驚愕する。
 一流と呼ばれているデイルでさえも、『その方向に注意を向けていた』から気付くような遠い距離だ。普通(・ ・)ならば気付く筈が無い。
「……あそこに、魔獣がいるの、わかるのか? 」
「うん」
 デイルの問いに、迷いも無くこくり。と頷く。
「ラティナ『危ない』のわかるの。前ここにいた時は、そういう時、すぐ逃げたり隠れたりしたの」
「……凄いな。どうしてなんだ? 」
「わかんない。なんとなく。ラグ(・ ・)は、ラティナは『運命に守られてる』ってよく言ってた」

(……『加護』持ちなのか? でも、そんな気配はラティナからしないが……)
 内心で呟きながら、動揺を圧し殺す。今はとにかく先手を取れるこの利を活かすべきだ。
 デイルは、そう切り替えると、左腕を一振りした。
 籠手の形をしていた『魔道具』のストッパーが外れる音がする。彼は慣れた動きで、次のひと呼吸の内に、更にそれを拡げた。瞬く間に左腕に装着されたままの小型のボウガンが完成する。

 これは武器としての『魔道具』--魔力を糧とする武器だ。
 魔力を矢と変え射ち放つ能力を有する。
 矢の残数を気にする必要が無く、装填の手間も無い。そして、魔法と違い、呪文を唱えるタイムラグを必要としない。
 元々魔法属性上、遠距離攻撃魔法を不得手とするデイルには、欠かす事の出来ない『相棒』だった。

 デイルは剣を下げている姿や、実際剣技も優れている事から、剣を得手とする近接型の戦士だと思われがちなのだが、彼が最も得意とするのは弓術。遠距離の射出武器なのだ。

 ひゅう、と呼吸を一つ。止めた、という瞬間には連続で魔力の矢が発射される。
 二本の連射された矢は、狙い違わず未だ遠い距離にいる魔獣--群れで狩りをする大型の猫科の生き物に近いモノだった。--に突き刺さる。小型のボウガンとはいえ魔力の矢。威力はかなりのもので、眉間を貫かれた一匹は茂みの奥で倒れた。
 もう一本の矢は急所から逸れたらしい。側にいた別の一匹の胴体に突き刺さり、苦悶の様子で暴れている。

 仲間が倒れたことで、魔獣たちが動揺する。
 その動きで、デイルは正確に残りの魔獣の数と位置を把握した。

 後はもう簡単な作業だ。

 彼の放つ連続した矢をかわしつつ、これだけの距離を詰める事が、どれだけ不可能めいているのか。いくら数の利が相手にあっても、勝ち目などある筈が無かったのだった。


 ラティナの『能力』はデイルと相性が良い。
 先手をかなりの遠距離で取れる以上、彼の最も得意とする、弓による攻撃が活かされる。
 森の中という障害物の多さから、矢をかいくぐってきた稀な個体も、デイルは弓を左腕一本で操っている為、空いた右手に握るロングソードで対応される。
 また、今日のデイルには支援がある。ラティナの魔法は、実戦慣れこそしていないが、制御においてはデイルをも唸らせる。
 彼女の身を守らせる為に、出発前に『防御壁』系の魔法を覚えさせておいた。彼女はその頭の回転の良さで、それをデイルの支援にも使う。

 カエルに似た魔獣と応戦した時もそれは遺憾なく発揮された。
 かつてデイルがラティナと出会った時に、討伐依頼を受けていた、例の魔獣だ。

 それらの群れを発見して、デイルは思わず顔を歪めた。
 体液と、威嚇行動として放つ粘液の悪臭を思い出したからだった。
 倒すのは難しくない。だが、どうやって倒すべきだろうか、と、思案する。

「デイル? どうしたの? 」
「ん……あいつら、あまり近接戦闘したく無いんだよな……」
「ラティナ、攻撃魔法使えたら良かったのにね」
「……いや、ラティナは自分の身を守ることだけ考えていれば良いさ」

 まだ子どものラティナに、『命を奪う』術など、教えなくて済むなら、それに越したことはない。そして『命を奪う』重みを、背負っても欲しくない。それがいくら魔獣や獣だとしてもだ。--そう、『保護者』として考える。
 その為、デイルがラティナに教えた攻撃魔法は『例の事件』の折りのあの一つだけ。本来の効果では、近距離の相手に殴り付ける程度の圧を与える魔法だけだった。

「どうして、近くダメなの? 」
「……体液とか、臭いんだよ。すげぇ」
「そうなの」
 デイルの答えにラティナはこくん。と頷く。
「ラティナ、それだけならたぶん、がんばれるよ? 」
「ん? 」

 聞き返したデイルに、ラティナは杖を向ける。
「" 天より降り注ぎし光よ、我が名の元に我が願い叶えよ、あまねく災難を払いし盾と成りて汝が身を護らん《魔力防壁》 "」
 彼女の杖から広がる柔らかな光がデイルの全身を包む。
「デイルの体ぜんぶ盾で囲んだよ。あんまり長い時間はムリだけど。しばらくはこのまんまだよ」

 あっさりと言ってのけるが、この魔法は本来『魔力の盾』を作る魔法である。決して『鎧』を作るものではない。
 彼女は優れた制御能力で、魔法の効果範囲を彼の全身に拡げたのだ。

(……当たり前のようにやってるけど……これが『普通』なら、世の中の魔法使いたちは泣くな……)
 最後の一匹となった『カエル』を踏みつけ剣を降り下ろした。そんな作業の合間に、思わずそんなことを考えてしまった。
(でも、魔法使う時の光に包まれてるラティナは、もう、神々しい位にすげぇ可愛いからなぁ)
 でれっと表情を緩める。
 余裕綽綽であった。


 目的地は、静寂の中にあった。

 白い巨石は風雨に晒されて、以前より白さを際立たせているようにも感じる。
 ラティナはとてとてと、近づくと、石にその小さな手を滑らせた。
 彼女が時折浮かべる大人びた表情をする。まるで、泣くのを我慢するように、寂しさを飲み込むように、幼い子供が背負うには重すぎる彼女の過去を感じさせる表情だった。

 コツンと額を石へと付けた。

「 " **、***、****、*****、***** " 」
 デイルには聞き取れない複雑な単語が滑り出る。
「 " ***、****************。**、********、****** " 」
 ラティナの声は途切れることなく続く。
 彼女はその姿勢のまま、ずっと、眠る彼の人へと、語りかけていた。


「デイル、ごめんね。おそくなったね」
 しばらく経った後、顔を上げたラティナは、まず、そう言って彼に謝罪した。
 彼女の墓参りの間、周囲を警戒していたデイルは、その言葉に微笑んで彼女の頭を撫でる。
「たくさん、伝えたい事あったんだろ? 色々あったもんな」
「うん。いっぱい……」
 ラティナは少し泣き出しそうな顔をしたが、デイルがもう一度頭を撫でると微笑みを見せた。
「いっぱいだよ。ラティナ、しあわせだから、だいじょうぶだって言ったの」


 --いつか、彼女の口から、彼女の父親の話を聞いてみたいと、デイルは思った。
 ラティナが心穏やかに語れる日が来たならば、聞くことが出来るだろうか。そんなことを思った。


 ラティナは、名残惜しそうにもう一度、手を石に滑らせる。そうしてから、お別れをするように手を振った。
 それを合図に二人は踵を返して、森を抜ける為に歩きはじめる。

(そういえば、ラティナは、『母親』の話は、一度もしたことが無いな……)
 --そんな疑問を、デイルが抱きながら。

相変わらずまったりな感じで進んでいきます。
いつもお読み頂き、誠にありがとうございます。今後もお付き合い頂ければ幸いと存じます。
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