挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
うちの娘の為ならば、俺はもしかしたら魔王も倒せるかもしれない 。 作者:CHIROLU
しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

23/213

青年、モンスター < ペアレントと化す。( 前 )

モンスターも裸足で逃げ出すペアレント
出動です。
 いつもの革のコートでも、普段着のシャツでもなく、上等な黒の衣を着ているのは、それもまた彼にとって、『戦闘服』であるからだった。
 首から『聖印』を下げているのも、普段の彼にはない装いだ。
 だいぶ凝った造りの『聖印(それ)』は、神殿での身分に応じて使う材質が厳格に定められていることを少しでも知っていれば、彼が『神殿』で、かなりの地位を持たされていることに気付くだろう。

 このクロイツの街の『黄の神(アスファル)』の神殿を任されている年輩の女性司祭も、彼のことは知っている。
 現宰相である公爵閣下と深いつながりを持つ冒険者。

 だが、『神殿』は国家権力からは切り離された、治外法権の認められた独立した機関となっている。
 ラーバンド国内にあるとはいえ、王家や公爵家から命を受ける筋合いはないのだ。
 少なくとも建前の上では。

 デイルもそれは知っている。
 だから彼は今日は『公爵家子飼いの冒険者』としてではなく、『高位神官位を持つ者』として、『黄の神(アスファル)』の神殿を訪れていた。
 デイルの持つ『加護』--神が脆弱たる『ひと』に与える奇跡のちから--は『黄の神(アスファル)』の物ではないのだが、他神のものであったとしても、『神の加護』を持つ者を各神殿は邪険に扱うことはできない。
 神々は全て対等であり、共に並び立つ存在であるのだから。

 しかもデイルの『加護』はかなり高位のものだ。それがわからない『神官』はいない。よほど下位の、雑用の為に雇われている者でもない限り、『神殿』にいる者は全て『加護』を持っている。
 元々『神殿』という組織の発端は、『加護』という異能を持つ者たちを囲いこみ、守る為の場所として設立されたのだ。『神官』とは、『加護』を持つ者だけに許された職業なのである。


「何故、俺がこの場を訪れているのか。改めて申し上げる必要はないでしょう。事の次第を伺う権利が、俺にはあると思うのですが」
「ええ……はい。そうですわね」
 責任者である彼女の元にも報告は上がって来ている。
 眼前の青年が後見となっている『魔人族』の少女が、この秋から神殿が運営している学舎に通っていること。

 そして、その少女に、
 この神殿の『神官(教師)』が行った愚行についても。
 
「俺としては、どんな主義主張を掲げていても、否定をするつもりは無いんですがね。『人間族絶対主義』者も、珍しいものではない。……けれど、この『クロイツ』という街に暮らす者に対しては、だいぶ狭量な見解だと思うのですが」
「……仰る通りですわね」
「旅人と流通で成り立つこの街では、どんな職業の者も他種族との関わりが深い。そんな当たり前のことを、まさか『(学問)の神』に仕える方が知らないはずもないでしょうに」

 デイルという男は、感情が凪いで見える時ほど恐ろしい。初対面である司祭(かのじょ)も、背中に嫌な汗が伝うのを感じる。
 巨体の怪物や魔獣を屠る覇気など、いくら高位の神官であっても、そうそう体験するものではない。

  「子ども(・ ・ ・)たち(・ ・)に、『魔人族』という『種族』への愚弄と罵倒をご高説下さったそうですね。それが最近の『黄の神(アスファル)』の見解なのですか? 」
「……彼女(・ ・)は、魔人族の生活区域と隣接する土地の生まれで……親族を『彼等』とのいさかいで喪っているのです。そのため……」
「そのためなら、なんの罪もない少女を『化け物』と罵倒しても構わないというのが、『神殿(アスファル)』の言い分なのですか。新しい解釈ですね」
「いいえ、とんでもありません……」

 額の汗を拭いながら、司祭(かのじょ)は言葉を探す。
 今の一言で、もうすでに眼前の青年は、『何が起こったのか』一部始終を知っているのだということを、示していた。

 現にデイルは、ラティナの身に何が起こったのか、一通り調べていた。
 ラティナの友人たちに話を聞き、裏付けも『本職』であるリタ経由と、クロエの母経由の『市井の噂』、双方を照らし合わせて確認済みだった。


 ラティナたちへと教鞭をとった女神官は、ついこの間、隣国と接した街から赴任してきたばかりだったそうだ。
 子どもたちは、彼女のことを『いつもキンキンしている人』と称していた。当人にそのつもりはないのかもしれないが、子どもたちはそういった面は敏感で、言葉を飾ることはしない。

 ラティナは当初から、その女神官から距離を取っていたそうだ。その前まで教師を務めていた神官相手には、ラティナはよくなついていたし、ラティナが誰かにそんな態度を取ること自体が今までなかったことだった。
 仲間たちも、警戒はしていたらしい。

 --そしてあの日。
 女神官(そのおんな)はラティナの『角』に気付いた。

「『魔人族』……」
 低く呟いて、ラティナの髪を掴んだ。飾り布(リボン)に隠れた彼女の艶やかな角が露になると、憎々しげに言葉を吐いた。
「何故、『ひと』の街に、忌々しいお前のようなモノ(・ ・)がいるのっ! 」
「っ! もの(・ ・)って……」
「『人間族』以外の亜人(・ ・)が、『ひと』であるはずがないでしょう! 」
 いかにも当然であるかのようにいい放つ。
 呆然と言葉を失ったラティナに、更に毒にまみれた言葉を放った。

「異形にして、百年以上も同じ姿で生き続ける『化け物』が、ひと(・ ・)であるはずがないでしょう」

 自分の言葉が何一つ間違っていないと信じきった顔で、女神官(かのじょ)は、この状況に困惑する子どもたちに高らかに告げた。
 髪を掴まれたまま、動くこともできないラティナを、獲物を見せびらかすように前に突き出す。
「『人間族』以外の亜人(・ ・)は『ひと』ではありません。このように、異形の証を持ち、命の在り方すら、『ひと』とは異なる化け物です。皆さん、騙されてはなりませんよ! 」

 --『人間族』は、比率に於いて圧倒的に多数を占める種族であり、時には『閉鎖的な種族』以上に『閉鎖的』な者も少なくはない。
『人間族』こそ唯一の『ひと』であり、他種族を『亜人』と呼ぶ『人間族絶対主義』と呼ばれる考え方も、悲しいことに少数派とは言い切れないものがあるのだ。

 だからそういう意味では、女神官(かのじょ)は自分の主義主張を述べただけとも言える。

 だが、『クロイツ(このまち)』では、それこそ異端だ。

 子どもたちによぎった嫌悪にも気付かす、更に喚きたてる。
「特に『魔人族』は、『魔王』に連なる邪悪にして卑劣な生きモノ! 決して油断をしてはなりません。このように素性を隠して、『ひと』の街に紛れ込んでいるのが何よりの証拠なのですから! 」
「きゃあっ! 」
 更に髪を強く掴まれ、顔色を真っ青にしたラティナが悲鳴を上げたのが、合図だった。

 クロエが全力で机の上の『石板』を投げつけた。
 当たりはしなかったが、壁に叩きつけられたそれが大きな音をたてて砕ける。
「何をするのです! 危険な! 」
 クロエの行動に気を取られて、手が緩んだ。ラティナがぺたりと床に座り込む。

 アントニーとマルセルが、ラティナを助けに行く為、動き出す。

 その瞬間、ルディが机を蹴った。
 三人掛けの大きな机は、子どもひとりの力では、少し揺り動かすのが限界だったが、女神官(そのおんな)の気を引くには充分だった。
「止めなさい! 何てことをするのです! 」
 喚きたてる姿に、教室の子どもたちに嫌悪だけでなく、恐怖が広がる。
 目を吊り上げて金切り声を上げるその女(・ ・ ・)の姿と、皆の仲の良い友人である可憐な少女が、泣きそうな顔で蹲る姿。
 子どもたちにとって、どちらが『化け物』か、比べるまでもないことだった。

 ルディが再び机を蹴ろうとした瞬間、クロエがタイミングを合わせて反対の端を蹴る。
 今度こそ大きな音をたてて、机は床に倒れた。
「止めなさい! 止めなさい! 」
 一度コツを掴んだ二人によって、次々に倒される机に、益々大きな金切り声が上がる。子どもたちの何人かが、泣き出した。その声にさえ苛立ったように更に叫ぶ。
「止めなさい!! 止めなさい!! 止めなさい!!」


 激しい物音と尋常ではない様子に、他の神官たちが駆けつけて見たものは、
 嵐の後のような教室の惨状と、怯え、泣きじゃくる子どもたち。
 それに中央で鬼の形相で喚く『自分たちの同僚』と、その『同僚』から、真っ青になった少女を庇い、睨み付けている子どもたちの姿だった。


「せんせえ……」
 神官たちに連れ出されて行く『教師という立場であったはずの女』を見送りながら、ついこの間まで子どもたちの教育担当だった神官を呼び止めたラティナは、酷い顔色だった。
「何がちがうの? ラティナ……『まじんぞく』は、みんなと何がちがうの? 」
「……ラティナさん。違うことなんて……」
「いのちがちがうって何? ひゃくねんいきるって、何? ……みんなとちがうの? 」
 悲痛な声に、神官(そのひと)は、眉を寄せ、悲しそうな顔をしたが、言葉を偽ることはしなかった。
 膝を折り、小さなラティナと視線を合わせる。

「……『人間族』と『魔人族』の最大の違いは、外見上のものではありません。『魔人族』は『人族』の中でも長寿な種族です。『人間族』の倍以上の、長い年月を生きる種族なのです」

 ラティナの灰色の眸が大きく開かれた。
 正しくその言葉の意味を理解してしまう程には、ラティナは賢い少女だった。


 衝撃を受けた様子を隠さず、ラティナは帰路に着いた。心配する友人たちの声も届いていない様子だった。

 そして、自分の魔法で、自ら『角』を折ったのだ。
思った以上に長くなってしまったので、前後に分けました。
本来分けるつもりのなかったところなので、夕方続きをアップします。

文中の『石板』は、各生徒がノートとして使っている、小さな黒板状のものです。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ