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うちの娘の為ならば、俺はもしかしたら魔王も倒せるかもしれない 。 作者:CHIROLU
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後日譚。白金の娘と親友と。壱

後日譚も、終わりまで後僅かとなりました。
やっぱり『娘』の、純白のウェディングドレス姿見たいですよね……
 急な姉の訪問や、それに伴うなんだかんだで、ごたつきまくっていたラティナだったが、ようやくそれらが落ち着いたある日のことだった。

「え?」
 ラティナは、親友の部屋を訪れていた。久しぶりにゆっくりと会うことの出来た親友を前にして、すっとんきょうな声をあげる。
 その理由となったクロエは、驚くラティナの前で茶を啜り、手持ち無沙汰気にベッドカバーを指先で弄っていた。
「え? え? クロエ? どういうこと?」
「どういうことって言われても……そのまんまとしか言いようがないんだけど……」
 少し視線を泳がせてクロエは、ついさっきラティナに告げた言葉をもう一度繰り返す。
「結婚することになったから」
「いつの間にそんなことになってたのっ!?」

 ラティナとクロエとの付き合いは、ラティナがクロイツに来た幼い頃からのことである。その頃からデイルに恋心を抱いていたラティナは、親友に相談もしていた。だが、そういった話はラティナが一方的に話すばかりだった。
 クロエの方から恋愛の話を聞くことはほとんどなく、彼女の周囲にそんな話は、一向に発生しなかったのである。

 親友の急な結婚話に、ラティナは動揺を隠さなかった。

「え? お見合いでもしたの?」
「いや……そうじゃないんだけどね……」
 気恥ずかしいのか、クロエの表情には照れがある。
 当人にも、自分はそういう色恋話をするタイプではないという自覚があるのだった。
「じゃあ、クロエっ、相手は誰なの……っ?」
 ラティナの方が前のめりとなっていた。
 幼い頃から一途にデイルを想い続け、想いが通じた以降は婚約者となったその相手に溺愛されまくっているラティナは、恋愛主義の面が比較的強くなっている。
 亡き両親に加え、『虎猫亭』のケニスとリタの夫婦など、日頃目にする夫婦の仲が円満なことも、彼女のその思考を強めていた。

「いや、そのね……ルディの……」
「ルディ?」
「いや、ルディじゃないよ」
「うん。それはないだろうなぁって思う」
 当人のいないところで、酷い言い様である。
「ルディの同僚なんだけどね……」
「じゃあ……憲兵さん?」
 クロエの言葉に、ラティナは首を傾げる。『虎猫亭』の常連客の中には憲兵隊に所属している者も多いが、その中の誰かだろうかと考える。
「『虎猫亭』のお客じゃないよ。あの店は、お偉いさんが多いから行き難いって言ってた」
「そっか……」
 納得した後で、ラティナは再びクロエに向き直る。
「それにしても、本当にいつの間にそういうことになってたの? それに……」
 そこでほんの少し言葉を切ったラティナの顔には、複雑そうな寂しげなものが宿っていた。
「どうして教えてくれなかったの……?」

 そんなラティナに対するクロエの答えは、明確だった。
「一番相談したい時に、行方不明になっていたのは、何処の誰だったかなあ……?」
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい……」
 身に覚えがありすぎた。

 ラティナがデイルと婚約したのは、ラーバンド国に於ける女性の結婚適齢期に対して若干早い時期だった。あれから数年経ち、もうすっかり、結婚していても一向におかしくない年齢になっているのである。
 そんな『お年頃』の親友の傍にいなかったのは、自分に責任があることをラティナはしっかりと自覚はしていたのであった。

「それでも、どんな切っ掛けでそんなことになったの?」
「……まあ、最初は仕事の付き合いのある繊維問屋の人とお見合いする予定だったんだけど……その時には、ちょいちょい顔合わせていた向こうが、見合いなんかするなって言って……」
 クロエは、慌てて謝るラティナをちょっと意地の悪い顔で見た後で、表情を緩ませる。婚約者との馴れ初めを話しながらも、内心では少し安堵していた。

 結婚相手と親しくなった切っ掛けは、ラティナが行方不明になったことだった。
 それまでは、恋愛沙汰とは関係のない、時折顔を見る挨拶するだけの間柄の相手に過ぎなかった。

 ラティナが行方不明になり、デイルも姿を消してから、『踊る虎猫亭』の常連客たちは各々自らに出来ることで、起こってしまった出来事を探ろうと行動を開始していた。
 長年の幼馴染みであるルドルフもその一人で、クロイツ中を駆け回り門番からの目撃情報を集めて、『ラティナと瓜二つの女性』という鍵となるだろう人物を探っていた。
 もう一人の親友であるシルビアも、クロイツ、更にはラーバンド国からも出て、ラティナを捜して行動を起こしていた。

 ただの街中に住む一般人である自分には、何も出来ることがなかった。
 せいぜいめったに行くことのなかった神殿で、友人たちの無事を祈ること位だった。幼い頃からのずっと大切な親友のことだというのに、何も出来ない自分自身のことが、とても嫌だった。辛かった。
『厄災の魔王』によって、世界情勢が危うくなり、憲兵たちや冒険者たちは自らの身を挺して治安維持にあたっていた。
 その時も自分には、何も出来ることはなかった。

 そうやって自己嫌悪で落ち込んでいた自分を支えてくれたこと。
 それが、顔を見知っている『知り合い』から、そうではない相手として認識を改める切っ掛けなのだった。
 冒険者たちを中心にする、同じ思いで動くものたちの為に『象徴』を造ることを助言してくれたのも、彼だった。
 仕事柄、布を染める職人や織りの職人との伝手はある。
 大まかなデザイン画は自分で描いたが、意匠を作る専門家の手直しも受けて、素人仕事にならないように仕上げた。
 サンプルを作った後で、『虎猫亭』の冒険者たちに話を通せば、予算がおりた。それでずいぶん大掛かりな仕事となったが、やりがいは増した。
 何よりも、自分にも出来ることがあるのが嬉しかった。
 完成した『妖精姫』の旗を--自分たちは此処でこうやって捜しているのだから、早く気付いてと声を上げているかのようで--胸に詰まる感慨を覚えながら、クロエは見上げたのだった。

 それでも、それは全て終わったことだ。
 親友はこうやってちゃんと帰って来てくれた。
 割りきる性格であるクロエにとっては、言うべき文句もしっかりと言った以上、ぐだぐだと引き摺るつもりはない。
 そして『終わった』以上、あの時のやるせない心境をつまびらくつもりはないのだった。

 そして何より照れくさい。
 恥ずかしい。
 幼い頃から自分のことを知っている相手だからこそ、常の自分らしくない乙女心を露にするのは、悶絶するほど恥ずかしいことなのだ。

 だからクロエは冗談の中に本音を隠して、親友相手に『報告』だけをしたのだった。

「クロエが結婚……」
「式には参列してくれる?」
「もちろん。……だけど、私の方が先になると思ってたから……」
 何処か呆然としたように呟いた後で、ラティナは親友に笑顔を向けた。
「幸せになってね、って、私が言うのも何か変なんだけど……」
「まあ、不幸になるつもりで、こんなことは決めないしね」
「……クロエを取られちゃうみたいで、何か変な感じなの」
「ずっとさんざん惚気てたラティナには、言われたくないなあ……」
 それもそうだと、二人で同時に吹き出し合う。
「旦那さんになるひと、どんなひと?」
「一度くらいは、ラティナも会ったことがあるかも」
「そうなの?」
 思いあたる節がなく、誰だろうと首を傾げるラティナを前にして、クロエは面白そうに声を上げて笑った。

 一方その頃。
 同僚からクロエとの結婚を決めたことの話を休憩中に聞いたルドルフは、飲みかけていて、口に含んでいた冷たい水を吹き出した。
「汚ね……」
 眉をしかめる同期の同僚を前にして、ルドルフも同じような渋面で相手を見る。
「結婚とは人生の墓場と称した奴もいるらしいけどな……」
「お前からそういう祝辞を貰ったとは、クロエにも伝えておくな」
「すまん。本当にすまん。本当に勘弁……」
 即座に謝り倒すルドルフの様子には、幼馴染みとの力関係がはっきりと滲んでいたのであった。
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