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うちの娘の為ならば、俺はもしかしたら魔王も倒せるかもしれない 。 作者:CHIROLU
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後日譚。黄金の娘、白金の娘と詣でる。参

 やがてデイルは、そんな風に祈りの余韻の中にいる二人へ向かい、言葉を発した。
「……なぁ、フリソス」
 それは、以前ふと浮かんだ思いつきを問う為だった。
「こんな『森』の中じゃなく、ちゃんとした墓所に葬ってやる方が良いか? ヴァスィリオに運ぶっていうなら、俺の方からも、事前に話を通しておくぞ?」
「む……」
 デイルの言葉に、フリソスは何かを考えているような顔をした。
 デイルは、フリソスとその隣のラティナを見てから、自分が今まで彼女に隠していた事実を口にする。

「後……『二の魔王』の元にいた……あの『紫の神(バナフセギ)』の神官は……お前たちの母親だったんだろう? 彼女の遺体も、ヴァスィリオに届ける手配が必要なんじゃないか?」

 既にそのことを知っていたフリソスだけでなく、ラティナにもはっきりとした動揺は見られなかった。
 ただ姉妹は互いの手をしっかりと握りあって、同じ感情を分けあっているように見えた。
「……ラティナ」
「モヴが、もう何処にもいないことは……ヴァスィリオで知っていたことだったから……」
 罪悪感のようなものを声に滲ませるデイルに、ラティナは微かな苦笑のようなものを向けて答えた。
「デイルは、モヴと会ってたんだね」
「……ああ」
「モヴ、綺麗なひとだったでしょ?」
 ラティナから出た言葉は、デイルの予期していなかったもので、少々彼を驚かせた。
「ラグは、よく私とフリソスのことを、モヴに似てるって言ってたよね」
「……そうであったな」
「モヴみたいな綺麗なひとになれたかは、ちょっと不安になるの」
「強いひとでもあった。余は、王としてしかと在れることこそ、モヴの名を汚さぬ最低限の努めであると思うておる」
「ラグもモヴも……私、まだまだ全然届いていないね」
「余もだ」

 二人の会話を聞いて、デイルは安堵した。
 両親の死を悼みながらも、二人は、思い出を共有する互いの存在により、大きく支えられている。
(……まぁ……ラティナを支えるのが自分じゃねぇってことに、少し残念な気もするな)
 そして自分の知らない時間を二人が共有していることにも、微かな嫉妬を覚えた。
(でも……ラティナとフリソスは、互いの存在があったからこそ、乗り越えてこれたことが沢山あったんだな……)

 思い出話に興じる二人は、鎮魂の祈りを捧げている時と同様に、両親のことを深く想っている。
 二人の姿から、そこにあるのが悲痛な記憶だけではないことも窺うことが出来る。穏やかで、優しい空気が感じられた。
 普段は突き抜けてマイペースなヴィントも、今は二人の間に割り入るべきではないと感じたのか、身体を伸ばして『待て』の体勢となっていた。それでも耳を時折動かしている様子から、周囲に気を張っていることがわかる。デイルから見ても、ヴィントは護衛としての役割を充分過ぎるほどに果たしている。魔獣の生息地という環境下でも、二人に危険はない。

「フリソス、モヴとラグは……互いに互いを、とても大切にしていたよね」
「うむ」
「モヴの立場だと、政略結婚とかでもおかしくないと思うんだけど……私の記憶にある二人は、そんな風には見えなかったな」
「モヴから直接聞くことは出来なかったが……周囲から聞いたところによると、モヴがラグに想いを寄せていたということらしい」
「そっか……」
 亡き両親のことを話していた二人は、そこで言葉を切った。同じように考え込んでいた後で、示し合せたように同じタイミングで再び口を開く。
「ねえ、フリソス」
「うむ」
「モヴとラグを……」
「余も、考えておった」
「そっか」
 それだけの短い単語のやり取りで、姉妹は互いの意思の疎通を終えてしまったらしい。
 互いにつなぐ手に再び力を籠めて、微笑みを交し合っている。

 状況的にそういうことを言うべきではないのだが、デイルはちょっぴり、そんな二人の関係に妬けた。
 ある意味彼は、そのあたりは全くぶれないのである。

「ラグは、この地にそのまま廟を建て、奉ろうと思っておる。モヴも、この地に共に葬ることとしたい」
「……こんな所で良いのか? 故郷に連れ帰りたいとは……?」
 デイルの疑問に、ラティナが姉の言葉を補足した。
「モヴは神官で、ラグはそうじゃなかったの。ヴァスィリオでは……力のある神官だったモヴは、神殿の中の墓所に葬られることになるの。でも、ラグはそこには入れない」
「せめて今後は共に在れるように……それは遺された我等の感傷に過ぎぬことかもしれぬがな」
 そんな二人の思いを聞かされてしまえば、デイルにも他に言うことなどなかった。
「なら、俺の方からも、話を通しておく」
「うん。ありがとうデイル」
 微笑んだラティナの隣で、フリソスは珍しくデイルに穏やかな妹とよく似た笑みを向けた。
「ラグの廟を建てるのと同時に、ヴァスィリオとラーバンド国の間の道を、この地の傍に通そうと思うておるのだ」
「あ……」
 確かに、両国の最短距離からは逸れるかもしれないが、大きく迂回する位置関係ではない。
 神気が強いこの地では、街道を維持する為の施設も必要になる。どのみち建造物を築く必要も出てくるのだった。

「ラグもモヴも……好奇心が強く、新たな事柄を知ることの出来ることを好むひとであった。数多の人びとを見守ることの出来る地で、ヴァスィリオとプラティナにとってのもう一つの故郷である街の間に在ることの方が、故国の墓所の片隅に在るよりもその意に沿っているように思えるのだ」
「ラグもモヴも、たくさんの人に慕われていたから……二人を偲んでくれるひとが、そのままラーバンド国を訪れて、交流も進んでくれると良いな」

 姉妹はそうやって、互いにそう遠くはない未来の光景に思いを馳せて微笑みを交し合っていた。

 しんみりする雰囲気は、直後、すっかりこの状況に飽きたわんこによるデイルの膝裏を狙った突撃により、終わりを告げた。
「おま……っ、今そういう空気じゃ……」
 至近距離からの突然の攻撃ではあったが、デイルはギリギリ攻撃を避け、転ぶことは回避する。
 だが、そのデイルの反応に対して遊んでもらえるという判断をしたヴィントは、再びデイルに突撃する。
「止めろって!」
「わふっ」
「あんな輩で、本当に良かったのか、プラティナ?」
「私は、デイルだから良いんだよ」
 そんなじゃれ合う一人と一匹に冷めた目をしたフリソスに、ラティナは微笑みを向ける。そして純白の墓石へとそっと言葉を贈った。

「"私はとても幸せなの。あの時ラグが願ってくれたように……私は、ちゃんと幸せになったんだよ"」
 そう、亡きひとへの報告をする妹と手を繋ぐ姉は、多少素っ気ない声を出した。
「"『幸せになった』では、足りぬ。これからもっと我らは欲張りとなっても良いのだからな"」
「"『魔王』だもんね。ちょっとは我が儘言っても良いって言うんでしょ?"」
「"勿論だ"」
 二人はそこで、同時に笑みを溢した。

「"フリソスが……リッソがいてくれて、良かった"」
「"余もだ。……ラティナ"」
 幼い頃に使っていた愛称で互いを呼ぶ。
 そして二人は、もう一度純白の墓石に微笑みを向けてから、その場を後にした。
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