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うちの娘の為ならば、俺はもしかしたら魔王も倒せるかもしれない 。 作者:CHIROLU
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後日譚。白金の娘、森に行く。弐。

 その一言でデイルも、納得する。
 女性の冒険者というのは、護衛の依頼の需要が非常に多いのだ。
 護衛を必要とする依頼人が女性である場合、やはり外見が厳つく粗野な男性の冒険者であると、どうしても萎縮してしまう。また、冒険者自体、全てが品行方正という訳にはいかない。護衛として雇った筈の者に、性的な意味も含めて襲われたなどという事態を避ける為には、人品の見極めが重要となるのだが、なかなか初対面でそれというのも難しい。
 それらの問題も、護衛を請け負うのが女性であれば、多くが解決する。
 また冒険者側も、魔獣の討伐や採取の依頼よりも、護衛の依頼の方が需要があるだけあって、実入りが良くなるのだ。

 駆け出しの若手が、今後を見込んでスキルを身に付けたいと望むのは、むしろ向上心があると評価するべき行動だった。

「冒険者はじめてしばらくは、ジルさんが紹介したパーティーの下で、採取とか小型の魔獣退治のお仕事してたんだって」
 その女性のパーティーと面識のあるラティナが、デイルに説明を続けた。
「駆け出しの定番の仕事だな」
「ジルさんもそう言ってた。武器や道具の基本的な使い方や、お仕事の受け方や報告の仕方……私がデイルと旅に出るとき教えてもらったことと似ているなって思ったよ」
「夜営や旅の仕方ってのも、どうしても必要になることだからな……冒険者なんて言っても、駆け出しの奴は、ついこの間まで街や村の中しか知らない奴ばかりだしな」
 デイルに言われて、ラティナも頷いた。
「それでね。一通りは教えてもらったって、『独り立ち』したから、今後は自分たちだけでお仕事することになったんだって。だけど女の子たちだけだと、どうしても絡まれたりすることもあるから、私に気にかけて欲しいって、ジルさんが」
「あー……」

 ラティナは、『虎猫亭』を利用する冒険者たちの中で、ベテランと若手たちとの間の緩衝材の役割を担っていた。
 皆のアイドルたる彼女の前では、ベテランのおっさんどもも若手も、良いところを見せたくなる心理が働く。結果、衝突やトラブルは減り、相互互助が働くという状態になっていた。
 元々店主が女性のリタであるこの店は、女性の冒険者にとって利用しやすい店である。そこにラティナの存在が加わることで、女性に対する環境はだいぶ良い状態になっているのだった。

 そんな会話を経て、ラティナはデイルを伴い、久しぶりにクロイツの外へと出掛けることになったのだった。
 ヴァスィリオへ行っていた件は、意識のない間に運搬されていたので、彼女的にはノーカウントなのである。

「本当に久しぶり。やっぱり、なかなか街の外には出ないねえ」
 南門からクロイツの外に出たラティナは、そう言って、くるりと回ってみせた。
 年齢よりも幼い印象のそういった仕草が出る時のラティナは、浮かれてはしゃいでいる証拠なのである。

 デイルにとっては初対面である女性の冒険者たちは、アデリナ、エルヴィーラ、パウラという名の三人組のパーティーだった。戦士職が二人で後方支援が一人であり、初級といえど魔法を扱えるメンバーが含まれている。
 ラティナと同年代ということも、まだ若干の幼さが表情に残っていることからもわかる。
 デイルは黒いコートと左手の籠手、武器は剣とナイフといういつも通りの装備だが、今日は近場の『森』に行くとは思えないほどの荷物を負っていた。
 普段着の上にケープを羽織っただけのラティナは、そんなデイルに不思議そうな顔を向ける。
「大きな荷物だけど……」
「訓練なんだろ? 日帰りにしないで、夜営の様子も見る。そうすると、どうしても荷物は嵩張るからな」
「運ぶの手伝おうか?」
「大丈夫だぞ。気にするな」
 出発直後から、仲の良いところを必要以上に見せられた面々は、微妙な表情になっていた。
『虎猫亭』では周知のこととはいえ、お腹いっぱいな光景である。

 戦士職のうちの一人、三人組のリーダーであるパウラを先行させ、その後に魔法を扱え後方支援を担うアデリナが続く。デイルとラティナを間に挟んで、もう一人の戦士職エルヴィーラが殿を務めた。
 デイルから見て、三人組はがちがちに緊張している。
 思わず苦笑が漏れる。いくら不慣れな仕事とはいえ、この状態では長く持たないだろう。どこかで気を抜く必要も教えなければ、なんてことを考えた。
(まぁ、そのへんはラティナに任せれば良いかなぁ)
 ラティナの場を和ませる天性の能力は、特技の域に達している。

 三人が緊張する理由に、現在進行形で英雄と讃えられている存在が控えていることが含まれていることは、デイルは全く意識していなかった。
 デイル自身に、自分が『英雄』である自覚がほとんど無いのである。

 ラティナは跳ねるような足取りになっている。如何にも楽しげだった。デイルは、ラティナの注意散漫なそんな浮かれっぷりには注意をしようとしない。
 護衛対象が、注意深く警戒して歩むとは限らないからである。
 決して、はしゃぐラティナを眼福と、愛でていた訳ではない。
「天気が良くて良かったね」
「訓練としたら、悪天候も視野に入れるべきなんだけどな」
 そう言って歩むラティナは、自分の目の前にいるアデリナに笑顔を向ける。
「アデリナの荷物も大きいね。大丈夫?」
「私は近接戦闘は出来ないから。二人は咄嗟の時に、荷物を捨てて戦闘に入ることになるし」
「そっか……前、デイルと旅に出た時は荷物は馬で運んでたけど、そういう訳にもいかないもんね」
「馬車で荷運びするようなひとたちには憧れるけど、仕事の内容によっては難しいからね」
 アデリナとラティナの会話をする様子から、二人はそれなりに親しい関係であることが見て取れた。そんなデイルの視線に気付いたのか、ラティナは彼を見上げて微笑む。
「アデリナは、簡易式の回復魔法と防壁の魔法が使えるんだよ。でも、発動が安定しないって相談受けたりしてたの」
「簡易式でも魔法を教わろうって思えば、謝礼がかなりかかるんだけど……ラティナはそれも良いって言うから」
「一から教えるのは、それを教える人の領分だと思う。でも、私がしたのはちょっとしたアドバイスだし。ローゼさまからの受け売りだったりするし」
 その発言を聞きながらデイルは、ローゼは神官としてだけでなく魔法使いとしても、公爵閣下がラーバンド国でも有数の人材として認める人物なのだということを考えていた。『黄の神(アスファル)』の高位の神官である恩師も含めて、期せずしてラティナには望んでも得られぬような人びとに師事させてきたのだななんて微妙な心持ちになったりする。

 ともあれ、そんな風に同年代の少女が雑談をしながら歩む姿は、長閑な風景とも相まって、ピクニックのような穏やかな光景に似ていた。先頭を歩むパウラはリーダーとしての気負いがあるのか、緊張は抜けきっていないようだったが、全体としては肩の力が抜けてきている。悪くはない傾向だった。
 ふと、気配を感じてデイルは隣を見る。殿を勤めているエルヴィーラがさっきまでよりも一歩近い距離でデイルを見ていた。
 パウラとアデリナよりも長身のエルヴィーラは、その分デイルと視線が近い。男性と見違えるほど素っ気ない風貌のパウラとは異なり、女性らしい色気のようなものを備えていた。彼女は、少ししなを作って、デイルを見る。
「デイル様は、今の私たちより若い頃から冒険者として過酷な依頼も受けてらっしゃたんですよね」
「……いちいち依頼者相手に媚びを売るような真似してたら、冒険者としてはやっていけねぇぞ」

 エルヴィーラの仕草が、意図的なものであることを見抜ける程度にはデイルは冷静であったし、これだけ年下の小娘相手にしてやられるような、場数の踏み方はしていなかった。

 エルヴィーラは、デイルの反応に、残念半分安堵半分のような表情をした。
 憧れの英雄像に落胆しなくて済んだという感情が、その表情から余計な力を抜く。
「処世術です。パウラはあんなだし。やっぱり相手はこっちを女だって見るから、それを利用してやるぐらいでいないとやっていけないので」
「……うまく立ち回ってるつもりかもしれねぇが、甘く考えるなよ」
「ご忠告ありがとうございます」
 長くラティナの『保護者』をやって来た影響から、デイルは年齢以上に『保護者』としての視点と立ち位置に立つ習慣が染みついていた。

 ケニスが『安全な監督役』として太鼓判を押すのが、名誉なのか不名誉なのかは、判別しにくいほどのデイルの思考回路なのであった。
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