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うちの娘の為ならば、俺はもしかしたら魔王も倒せるかもしれない 。 作者:CHIROLU
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後日譚。白金の娘、森へ行く。壱。

 最近のデイル--というか、ヴァスィリオから戻って以降のデイルは、毎日ごろごろだらだらしているという、駄目人間生活を謳歌していた。
 一方ラティナは、彼女らしく、毎日くるくると忙しそうに働き続けている。療養期間中の儚げな姿は、すっかりそこから払われていた。やはり、多少忙しい方が彼女にとって良いらしい。

「何だか、一見すると、ラティナに養われているみたいよね」
「ラティナなら、俺がヒモになっても、平気で養っていきそうだよなぁ」
 答えながらデイルは、リタが捌く大量の書類のうち、処理済みのものに穴を開けて紐で綴じていく。それは手伝いというよりも、暇潰しの行動であった。リタにしてみても、デイルの視線はラティナを追っているので、複雑な仕事は任せることが出来ないのである。
 リタはそんなデイルに呆れながら、彼の前に処理済みの書類を積み上げた。
「こっちは『緑の神(アクダル)』の神殿に提出する分だから、分けておいて……まあ、働く必要がないっていうのが、本音なんでしょうけど。新居探しはどうなったのよ?」
「数年、休み無しで働いてたから、休業してるだけだって。……それなんだけどさぁ……」

 リタが言うのは、世界規模の英雄たるデイルが、『魔王退治』という偉業を成したことによる結果であった。
 しかもそれが、『二の魔王』、『四の魔王』、『七の魔王』という--『災厄』と呼ばれる魔王以外の魔王をデイルが討ったことは、表沙汰にはなっていなかった。私怨で魔王を襲った彼は、証拠を残さず暗殺するという手段を取ったのだった--複数の魔王である。彼が得た報償金は莫大なものだった。文字通り、一生遊んで暮らせる額である。
 元々デイルは、公爵直属の契約もあり、通常の冒険者とは比べものにならない収入を得ていた。
『森』で幼いラティナを拾って来たデイルが、彼女を自分が引き取ると言い出した時、リタやケニスが止めることがなかったのも、デイルの経済力を知っていた為でもある。幼い彼女に、ぽこぽこ物を買い与え、時に高価な魔道具を買っていたのも、デイルの懐具合が温かい故であった。

 そんなデイルに育てられたのだが、ラティナの金銭感覚は非常にシビアな庶民的なものであったりする。当人の性格がよく出ていた。

 デイルは、ちらりとラティナの様子を確認してから、少し声を潜めてリタに答えた。
「今は、駄目だな。ラティナ、まだ本調子じゃねぇだろ?」
「……そうね」
 一瞬、声を詰まらせたリタも、同意する。
 リタもずっとラティナを見てきた。女性であり、二人の子どもの母親であるリタの視点は、デイルやケニスでは気付けないことに気付くことが出来るのである。
「色々あったからなぁ……だから今は、あんまり環境変えねぇ方が良いかなって思うんだよ。家とかってのは、やっぱりラティナと一緒に決めてぇしさ」
「本当に頑張り過ぎちゃうのよね、あの子」
 リタは溜め息をついて、デイルを見る。
 リタの表情には、明らかな心配があった。
「……時間の解決に任せるのが、一番良いことなの?」
「心の整理がついてないんじゃねぇかな……『里帰り』の間もずっと気ぃ張ってたし。やっと落ち着けたって感じに、俺には見える」

 故郷を罪人として追放されたラティナは、実姉が国主となった現在のヴァスィリオでも、あまりあの場に良い感情を抱いていないように見えた。
 実姉に迷惑を掛けまいと、必要以上に気を張っていた向きもある。
 クロイツに帰って来て、『いつも通りの毎日』が戻って来たことに、本当に安堵しているように感じられた。
 そんな彼女を、再び別の環境に追い立てたいとは思わない。

 そんなデイルだったが、彼が現在仕事をしていないのは、経済的な理由以外にも幾つか理由があった。
 まずは、彼にとっての『仮想敵』であった『厄災の魔王』が、全て駆除されたことだった。『勇者』としての業務は、今のデイルには発生しないのである。
 更に、『魔族』となって基本能力が向上したことが大きな理由となっていた。
 経済的に余裕のあるデイルが、頻繁に仕事を受けて『森』に入っていたのは、鍛練の一環だった。筋力を始めとした肉体作りと維持、剣や魔法の技術力の向上、そして危険な環境に身を置くことで、戦闘などの勘を鈍らせることのないようにという、非常に生真面目な行動であったのだ。
 それが魔族化により、基本能力が底上げされたことで、能力が低下することがなくなってしまったのだった。

 戦闘の勘は多少鈍るかもしれないが、多少くらいは鈍っていてくれた方が、世界平和の為であるとは、某魔王の談である。

 そんなこんなで無理に働く必要のないデイルは、長期休業を満喫していたのだった。
 働きたくない。というか、働く為にラティナの傍を離れたくなどないのである。

「暇なら、頼まれて欲しいんだが」
 そこに、厨房から顔を出したケニスが声を掛けた。
「なんだよ?」
「最近独立した若手の冒険者連中に頼まれたんだが……護衛の依頼を受けてみようと思ってるんだが、経験が少ないので、指導して欲しいと言われていてな……」
「……俺、護衛系統の依頼は、ほとんどやったことねぇぞ。それこそケニスのパーティーにいた時ぐらいだ」

 故郷から出た直後のデイルは、ヴェン婆の眼鏡にかなったケニスの元で冒険者としての経験を積んだ。
 そこから独立して以降のデイルは、討伐任務を主として請け負ってきた為、護衛の仕事の経験はほとんどない。

「それが……その冒険者連中とラティナが意気投合してな。護衛される方にも充分な実力があれば、多少危険な場所でも行けるんじゃないかという話の向きになっていてな……」
「そう簡単にはいかねぇだろ」
 と、答えながらデイルの表情は別の意味で険しくなっていた。
 ラティナが意気投合した冒険者なんて、いつの間に、という点である。
 自分の知らない間にラティナに近づくとはいい度胸だ。自分のしたことを、よぉく思い知らせてやろう。なんてことに思考を傾けていた。

「ラティナなら、街の外に出たとしても……一人でもなんとかなるんだ」
 そうデイルが言ったのは、魔王としての恩恵がある彼女は、基本、外敵に襲われて命を落とすなんて事態にはならない為である。元々魔法使いとしての能力も高いラティナは、一人でもなんとか出来るだけの能力があるのであった。
「下手な奴と一緒にいたら……そっちのフォローに回ろうとして、かえって危険だろ」
「だろうな」
 不満そうなデイルの言葉を、ケニスはすんなりと肯定した。
「だからお前も付き合ってくれないか? ついでに、『森』の地図を作る為に情報を幾つか集めて欲しいって依頼もある」
「『森』の?」
「ヴァスィリオとの道を拓く為に、地図を作っているんだが、先方の希望で、幾つか空白地帯になっている場所を調べて欲しいそうだ。お前なら迷うこともないから、丁度良いだろう」
「まあ……そうだが……」

 デイルは地属性魔法を得意にしている為、方向を見失って迷うということはない。
 地形や道がわからない場所に踏み込む際、そういった魔法は非常に威力を発揮するのだった。

「何の話?」
 そこに、ひょこん。とラティナが顔を出した。後ろにはエマがべったりと付いて歩いている。
「ラティナ……」
「この間話していた、『森』の探索の話だ。デイルに付き添って貰えれば問題ないだろう?」
 ケニスがラティナにそう答えた瞬間、デイルは反射的に「やられた」と思った。
 案の定、ラティナが表情を明るくしてデイルを見る。ラティナにそんな表情をされてしまうと、デイルのとるべき反応は一つに限られていくのであった。
 だが、ラティナの返答はデイルの予想外のものだった。
「あのね、『森』の探索は私からの依頼でもあるの」
「ラティナの?」
「デイルに直接頼んでも良かったんだけど、ヴァスィリオに関係ある話は、この店に来る冒険者のひとたちにも、たくさん関わって欲しいから『依頼』ってかたちにしたの」
「……フリソスからの依頼か?」
「うん」
 いつの間にか、ラティナは姉と連絡を取っていたらしい。

 --正確には、ラティナはフリソスと直接連絡は取っていなかったが、シルビア経由で『緑の神(アクダル)』の神殿の情報網を使い、私的なやり取りもしていたのだった。--

「そこでね、丁度、護衛依頼を受けてみたいってひととお話になってね」
「いつの間に……」
「ジルさんに頼まれたの。私とあんまり歳も変わらないから、『虎猫亭』の中で気にかけてくれって……」
 ラティナはそう言ってから、渋い顔のデイルを見て、少し考え込んだ。
 そしてこう言った。

「女の子だけのパーティーだからだよ?」
 その一言で、劇的にデイルの機嫌は回復したのであった。
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