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うちの娘の為ならば、俺はもしかしたら魔王も倒せるかもしれない 。 作者:CHIROLU
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ちいさな娘、友達との日常。

 とっことっこと、弾むように歩く姿だけでも彼女が楽し気な事がわかる。その動きに合わせて、左右の高い所で結い上げられた髪と、鮮やかな青い大きな飾り布(リボン)が揺れる。
 (つや)やかな白金の美しい髪は、時折光を含んできらきらと輝いていた。
 水色のチェックのワンピースは最近の彼女のお気に入りで、今日はやはりお気に入りのちいさな白い藤のかごを提げている。

 広場で遊ぶ友人を見つけると、ぱあっと、表情が明るくなった。
「クロエっ! 」
 大きく手を振って、彼女は駆け出して行った。


 ラティナが住む南区は、子どもが遊ぶには不適切な場所が多々存在する。その為、ラティナが一人歩きを許可されているのは、南区の大通り、それも『踊る虎猫亭』から中央へ向かう方向のみの区域だけだった。
 街の中央には広場がある。東区に住む友人たちと、そこで落ち合って一緒に遊ぶのが、最近の彼女のひとつの楽しみだった。

 ついこの間までは一人歩き自体が禁止だったのだが、彼女の年齢を知ったケニスの言葉により、禁止するだけではいけないと、幾つかの注意を守ることで許可が出るようになっていた。

 広場の中でも普段市場が出ている場所から、少し離れたあたりは公園として整備されており、街の人々の憩いの場となっていた。ラティナの知らない子どもたちもたくさん遊んでいる。そんな人々の合間を抜け、友人たちの元にたどり着くと、ラティナは嬉しそうに微笑んだ。

「どうしたのラティナ? なんかうれしそう」
「良いことあったの? 」
 クロエとマルセルが尋ねるのに、上機嫌で報告する。
「デイル、かえってきたのっ」
「そうなんだ」
「良かったね。ラティナ」
 友人たちも保護者(デイル)が留守中であった時のラティナが、かなり意気消沈していた姿を見ている。ようやく心の底から笑えるようになっているちいさな友人に、素直な祝福の言葉を贈った。
「デイル、みんなにもおみやげだって。おやつにたべよ? 」
 お土産の菓子を詰め込んでいたかごを差し出してラティナが微笑めば、食べ物だと検討を付けたルディが嬉々としてのぞきこみ、アントニーが苦笑する。
「うわっ、高そうな菓子っ! ぜんぶ食っていいのかっ? 」
「気をつけなよ、ラティナ。ルディなら全部食べちゃうから」


 ラティナの普段の遊び仲間たちは、この四人が中心となっていた。

 集団のトップでありリーダー格として君臨するのは、四人の中で、紅一点であるクロエだ。
 もうすでに、ラティナとクロエは親友と呼べる程に、仲良くなっていた。
 男の子たち相手でも毅然とし、最強の座をも確固のものとしている彼女のことを、ラティナは凄いと尊敬している。
 クロエもまた、ラティナのことを、体格は小さいが、自分よりずっと頭が良いと認識している。
 互いに自分に無いものを持つイーブンの存在として認め合っているのだ。性格も全然違う二人が、急速に仲を深めたのも、その為だった。

 穏やかな性格の、丸顔の少年であるマルセルにも、ラティナは早々に慣れた。
 彼女に対して妹分にするように優しく接してくれる彼のことは、ラティナはクロエの次に好意を持っている。

 すらりとした体型の茶色の髪のアントニーのことを聞かれたら、ラティナはあまりよくわからない。嫌いかと聞かれたら、そうではない。となる感じだった。
 クロエに言わせれば、「ちゃっかりしている」となり、大人に言わせれば「要領が良い」となる。そんな子どもだ。

 そして最後の一人。四人の中で一番体の大きな男の子。ルディ--本当はルドルフというらしいが、仲間たちは皆愛称で呼んでいる--のことは、ラティナは少々苦手だった。
 最初の出会いも良くなかったが、それ以降も度々ちいさなラティナをからかったり、いたずらを仕掛けてきたりするのだった。その度クロエに手痛い反撃を受けるのだが、全く懲りた様子は無い。

 あまり今まで、同年代の子どもというものと接した経験の無いラティナにとって、『子どもらしい子ども』であるルディは、どう接したら良いかわからない存在なのだ。


 生粋のクロイツ育ちである彼らの顔は広く、ラティナは四人の後について行けば、はじめて会う子どもたちの集団との遊びの輪にも簡単に入れた。
 ラティナはクロイツに来て、はじめて『友だちと遊ぶ』という体験をしていたのだった。

「きょうは、なにしてたの? 」
「これから『手つなぎおに』やろうって言ってたんだ」
「向こうの子たちとね。ラティナも行こう? 」
「うん」
 手つなぎ鬼も、ラティナは四人に教えてもらった。
 鬼ごっこの一種で、鬼に捕まった子は鬼と手をつなぎ、一緒に追いかけるという遊びだ。人数が多い方が楽しい。
 ラティナも含めた五人は、広場で遊んでいる子どもたちの集団へと駆け寄って行った。


 ぷすぅ。と、ラティナは可愛らしくその頬を膨らませていた。
 不本意である。という彼女の最大のアピールである。

「ラティナ機嫌なおしなよ」
「お菓子おいしいね? 」
 ラティナ持参のお菓子を食べながら、アントニーとマルセルがとりなそうとする。だが、ラティナはぷう。と膨れたままだった。
「なんでいつも、ルディはラティナばっかりつかまえるの? 」
「ん? ラティナが小さくてとろくさいからだよ」
 ラティナの抗議にも動ずることはなく、ルディは両手に持ったブラウニーをもりもりと食べている。
 --王都の貴族御用達の有名店の高級品であるのだが、子どもたちにとっては、『なんだかとても美味しいお菓子』程度の認識しかない。

「ラティナより、ちいさいこだっているもん」
「小さいやつも、ラティナよりすばしっこいよな」
「ラティナおそくないもん」

 不本意である。
 ラティナの矜持は大いに傷付いていたのだった。

「ルディ、いっつもラティナのこと、いちばんに、おいかけるんだよ。だからだもん」
 ラティナの主張にアントニーが苦笑いをし、クロエが眉をしかめた。
 マルセルは「そうだね」と何気ない相槌をうつ。
 だが、当事者であるルディはケロッとしていた。

「当の本人がむじかく(・ ・ ・ ・)って変じゃないの? 」
「ルディは子どもだから」
 クロエとアントニーがこそこそと言葉を交わしていた。

 だが、ぱくりとブラウニーを口に入れた瞬間から、表情をにこやかに変え、それに夢中となったラティナは気にもしていなかった。



 --はじめて出会った時から、クロエたち四人にとってラティナは『特別』だった。
 きらきら輝く白金の髪に、下町の子はお祭りの時しか付けない様な、綺麗な飾り布(リボン)を結んだ少女。
 最初はガリガリだったけれど、今はふっくらとして、とても愛らしく可愛い。『お伽噺のお姫さま』みたいな女の子だ。
 遠い異国の生まれで、言葉は少し不自由だけど、魔法を使う事もできる。
 親はいないけど、親代わりの人と冒険者たちの集う店の一角で、暮らしている。
 --どれひとつとっても、彼らにとって『非日常』を集めた存在なのだった。

 ラティナに角があることも四人は知っている。
 飾り布(リボン)に隠れた黒い小さな角を、ラティナ自身が見せてくれたのだ。
 つるつるとした手触りなのに、ほのかに温かさを感じるラティナのその部分をクロエは触らせてももらっていた。
 片方が根元から折れていることは、ラティナが悲しそうな顔をしたから、『聞いてはいけないこと』なのだろうと、みんなで思っている。
 気配りと無縁のようでいて、ルディでさえも、その辺りのことはちゃんとわかっているのだ。
 子どもたちは大人にはない柔軟さで、「自分たちと少し違うけど『まじんぞく』という、同じ『ひと』」として、あっさりとそれらの事も受け入れてしまっている。

 はじめは確かに『非日常』への憧れだったけれど、今はラティナという小さくて優しい友だちの存在そのものが、彼らにとって、とても大切になっていた。

 そして、それがわかるから、ラティナも彼らの事がとても大切な存在なのだった。



 ~~ 蛇足的な本日の保護者 ~~

「なぁ、ケニス。最近ラティナから、『マルセル』っていう名前がよく出るんだけどさ、男の名前だよな? 」
「…… (あの位の歳の子どもに、男も女も無いと思うが……) そうだな。ラティナの友だちの男の子の筈だ」
「俺のラティナに……変な虫が……」
「友だちだろう」
「ラティナがっ! その男の家(・ ・ ・)に遊びに行きたい、なんて言い出したんだっ! 男の家(・ ・ ・)にっ! 」
「男の家って……友だち(・ ・ ・ )の家(・ ・)だろう…… (ん? 確か…… ) 」
「うぐぐ……クロエって子の家ならまだわかるが、なんでそいつの家なんだ……」
「……多分だがな」
「ん? 」
「マルセルって子は……東区の『パン屋』の子だ」
「っ!!! 」
「……パン屋の様子が、気になるんじゃないか? 」
「食い物かっ! 食い物なのかラティナっ!? 」


覚えていらっしゃいましたでしょうか。この話には『恋愛』タグが付いているのですよ。
そして、最後の蛇足ですが。
このネタだけで独立させる程でもないが、今書いておかないと、何時入れて良いかわからなかったので、付け足してしまいました。
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