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うちの娘の為ならば、俺はもしかしたら魔王も倒せるかもしれない 。 作者:CHIROLU
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後日譚。わんことわんことわんこ。弐

「きゃん」「きゃん」「わん」
 三つの毛玉が、高い声で鳴く。それに妙に納得したような顔で、デイルは一つ頷いた。
「ヴィントと違って、ちゃんと犬らしく鳴くんだな」
「わふぅ」
「お前のは、嘘くさい」
 そんな風にやり取りしているデイルとヴィントを気にすることもなく、三匹の毛玉は一斉にラティナの方に向かって行った。くるくると周囲を回り、甘え声で鳴きながら、彼女の膝に登ろうと試みる。
「ふわぁ……」
 動物好きのラティナは、すっかり現状に突っ込みを入れることも忘れて、膝を折り毛玉を両腕で抱き締める。ぺろぺろと頬を舐められ、相好を崩した。
 彼女にうりうりと撫でられる毛玉たちもご満悦のようで、如何にも気持ち良さげに目を細めている。

「……どうしよう、デイル。仔犬可愛いよ!」
「あ。ようやく戻って来たんだな」
 しばらく完全に周囲を忘れて、毛玉たちに没頭していたラティナに、理性の色が戻った。
 そんな幸せそうな彼女の姿を愛でることも、デイルにとってはライフワークであるため、黙って放置されていたのである。
「ヴィント、どうしたんだこの仔犬」
 翼を持つ様子から、『天翔狼』の仔犬である推測は出来る。だが、あまりに幼いのか、仔犬たちは、何れも人語を話す素振りはなかった。
「おとーと、いもーと、おとーと」
「ヴィントの兄弟犬?」
 そう言われれば、三匹中二匹は、ヴィントとよく似た灰色の毛色をしている。だがヴィントよりもだいぶ、ふわふわとしていた。
 既に皆『犬呼ばわり』なのであるが、そこには誰も疑問は抱かなかった。『犬』の基準が、この店(虎猫亭)では大きく狂っているのである。

「いつのまにか、生まれてたー」
「そういうもんなのか」
「ダディもびっくり」
「あー……俺と世界中彷徨(うろつ)いていた間に生まれてたのか」
 魔王殲滅の旅も、既にデイルにとっては過去のことになりつつあり、世界漫遊ぶらり旅のようなニュアンスとなっていた。殺られた魔王が浮かばれない勇者の所業である。
「そういえばハーゲルはどうしたの?」
「マミィとイチャイチャしてるー」
 問いかけたラティナへのヴィントの返答は、父狼に対して容赦がなかった。
「また、ふえるかも」
「きゃん」「きゃん」「きゃん」
 仔犬たちも、同じように答えるところを見ると、人語は理解しているらしい。そして仔犬たちにも、そう思われるハーゲルとその嫁の関係であるようだった。
「まぁ……俺について来てくれるって時に、あいつ群れの長の仕事は引退したって言ってたしなぁ」
「そうだったの?」
「時間があるんだろうなぁ……」
 ハーゲルは、リタイア後の第二の犬生を満喫しているらしい。マイペースなヴィントの父狼らしい行動である。

「ダディとマミィ、みずいらず、らぶらぶ」
 この犬も『虎猫亭』暮らしが長くなり、微妙な語句が日々増えているのだなと、デイルは急にそんな思考に囚われたりするのである。

 そして、仔犬たちの愛らしさにすっかり魅了されたラティナはもとより、完全に残念仕様が常態化しているデイルも失念していたのだが--
 この直後『虎猫亭』は、常連客を緊急召集した上での会議の場となった。
「ケニス、とりあえず店の扉を閉じろっ」
「リタ、悪いが、臨時休業にして、一般客の出入りも制限するぞ」
「仕方ないわね。テオ、エマと二階に行っていなさい。ちゃんと面倒見てるのよ!」
「憲兵所の詰所には人を走らせた、直ぐに隊長が来る筈だ」

 バタバタと騒ぐ面々を見ながら、ラティナは不思議そうな顔で、毛玉を愛でている。
 一方デイルは、そこでようやく脳の回路が繋がったかのような反応を見せた。真面目な勇者期間を乗り切った反動は、だいぶ深刻(ざんねん)なようである。
「……大変じゃねぇかっ」
「わふ?」
「こんな戦闘力皆無な仔犬でも、幻獣だぞ? 黄金を積んでも欲しがる好事家も、幻獣を素材として欲しがる職人も出て来るだろ?」
「あ……」
 そこでようやくラティナも、『飼い犬』が、幻獣という稀少な生き物であることを思い出したらしい。
 そんなラティナに抱かれるヴィントの弟妹犬たちは、彼女の指先を、あむあむと甘噛みしている。どう見ても殺傷能力ゼロの毛玉であった。
「だからといって、この仔犬に何かあれば、里の天翔狼たちが報復に来るだろう」
 ケニスに言われて、ラティナは困った顔をヴィントに向ける。
 相変わらずヴィントは、当事者の意識のない顔であり、マイペースにかしかしと後ろ足で背中を掻いていた。

「まぁ……だよな」
「それが一番無難だろう」
「あいつが一番暇だもの」
 暫し熱烈な議論を経て、一同は溜め息まじりに結論に至った。
 各々勝手なことを言いつつ、会議に召集された面々はそれぞれにデイルを見る。
 そんな視線も気に留めずに、デイルは会議に参加することなく、毛玉にじゃれつかれているラティナを見ていた。弟妹に嫉妬したヴィントが、毛玉をポイポイと前足で払い、ラティナの膝にぱふっと頭を載せる。ラティナに苦笑しながら頭を撫でられて、機嫌を直して尾を嬉しそうに振る。
 ヴィントに払われた仔犬たちも、それでへこたれる様子はなく、二匹は兄犬の横を回り込んでラティナの元に戻り、一匹はヴィントの背中の上でラティナにつぶらな目を向けていた。
「(動物と戯れるラティナも)可愛いな」
「本当に可愛いねぇ」
 デイルの内心の独白には気付かぬ様子で、ラティナは笑顔でデイルに応じる。デイルは目を細めながらも、ヴィントに声を掛けた。
「ヴィント、『来たいって言うから』ってのは……この仔犬の目的は」
「もちろんラティナ」
「だろうなぁ……」
 彼女の撫でスキルは、既に天翔狼たちにとって伝説(カリスマ)的なものであるらしい。
「ダディもつやつや毛なみで、モテオーラばっちし」
「ラティナのブラッシング(せ い)か……」
「マミィとイチャイチャましまし。たぶん、ふえるー」
「きゃん」「きゃん」「きゃん」
 仔犬たちも、更に弟妹が増えることには好意的であるようであった。
「仲良しなんだね」
「らぶらぶぅ」
 よほどラティナは犬系の生き物に好かれる質をしているらしい。仔犬たちはラティナの側を一向に離れる様子はないし、ヴィントはそんな弟妹の様子を、当たり前のものとして見ている。

 そこでようやくデイルは、自分に集まっている周囲の視線に気が付いた。
「……なんだ?」
「いや、その仔犬の目的はラティナだろう?」
「そうらしいな」
 一同を代表して話し始めたケニスに、デイルは頷きを返した。
「とすると、仔犬はラティナの近くにいる時間が最も長いだろう」
「まぁなぁ……」
「なら、必然的に仔犬の責任者はお前ということで、結論が出た」
「は?」
 聞き返したデイルに、周囲の視線の温度は一斉に生ぬるいものになる。
「お前最近、ラティナの側から動かないだろ」
「嬢ちゃんの尻見てるついでだ」
「尻だけ見てる訳じゃねぇぞっ」
 デイルの反論のポイントは、おかしかった。
「ラティナの側を離れなくて良い理由が出来て、あんたにとっても万々歳じゃない」
 リタの言葉に、満更でもなく、それもそうかという反応をする彼は、色々末期なのである。
「それに、お前がこの中で、最大の権力者だ。実力的にも、お前に手を出そうなんて……よほどの馬鹿でなきゃやろうとしない」
「なら、仔犬にとっての最強の護衛は、お前ってことにもなる」

 現在世界規模での救国の英雄である『白金の勇者』は、出るところに出れば、この街の領主である伯爵殿よりも大きな発言力を持つ。
 英雄譚に語られるように、数多の魔王を打ち倒した偉大なる戦士でもある。実力行使で彼を負かせる者は--規格外魔族となった現実も含めて--まず、現在存在しない。

「……ヴィント、さすがに仔犬たちをここで飼う訳にはいかないぞ 」
 責任を押し付けられることを悟り、デイルはまるで親が子どもに「拾って来ても、ウチでは飼えません!」のやり取りをするような顔を向ける。
 だか、それを言う相手も『犬』であるという、かなりシュールな光景であった。
「ダディとマミィ、みずいらずおわったら、かえす」
「あ。遊びに連れて来た感覚なのか?」
「きゅーん」「くーん」「きゃん」
 少し安堵した顔のデイルに向かい、仔犬たちが甘えた声で鳴きながら、尾を振り取り囲む。
「なら、しばらくしたら帰すんだな?」
「かえすー」
 ヴィントに倣って、声を合わせる仔犬たちは、確かにふわふわの毛並みや、くりっとした眸で見る様も愛らしかった。

「……」
 しばらくくらいなら、良いかと言う心境に傾いているデイルを見ながら、ラティナはふと、首を傾げた。
(やっぱりヴィントの弟妹犬なだけあって……)
 計算づくであざとい可愛さ押しをしてくる仔犬の姿に、ラティナは気付いていた。
 だか、彼女はそれを悪意として受け取らず、ヴィント同様要領が良いのだなぁと、すんなり受け入れていたりもしたのである。
(まぁ。可愛いから良いかな)
 結局ラティナは、もふもふなわんこの誘惑には勝てないのでもあった。
灰1(弟)、灰2(妹)、黒(弟)となっております。
ヴィントのママわんこが、黒毛のわんこであったりするのです。
因みにヴィントは灰色の毛並みに、耳と尾、手足の先が黒くなっております。
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