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うちの娘の為ならば、俺はもしかしたら魔王も倒せるかもしれない 。 作者:CHIROLU
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前日譚番外編。青年、初夢を見る。(前)

年末年始、お正月特別企画ということで、文字通り『夢の』、『元親バカ』と『実親バカ』の対決をお送り致します。
大晦日に見るのは、初夢ではないのですが、そこは語呂ということで宜しくお願い致します。
56話、『閑話、クリスマス番外編』とあわせてお楽しみくださいませ。
 あ。これ、夢だ。
 目の前の光景を見ながら、デイルはそんな風に自らの状況を把握した。

(昨日は……確か、ラティナに聖夜だから散歩に付き合ってくれって頼まれて……)
 昨夜のことを思い返す。
 大晦日の夜は『聖夜』と呼ばれ、親しい者や家族で宴を開き、家で過ごし新年を迎える習わしになっている。
 家の入り口に神殿から譲渡された護符を掛けるのは、『悪いものが入らないように』という(まじな)いのようでいて、その日だけ街中に出没する特殊なアンデッドを避ける為という実利も大きい。

 植物を輪にして装飾をつけた華やかな護符を、『虎猫亭』の表と裏の扉両方にしっかりと飾ったラティナは、キリッとした顔でデイルを見た。
「デイル」
「なんだ?」
「今日の夜、外に出ようと思うの」
「は?」
 すっとんきょうな声をデイルが発したのは、ラティナが無類のお化け(アンデッド)嫌いであることを知っている為である。
 何故か『聖夜』の夜だけ出没する黒い人影のアンデッドに、子どもの頃取り囲まれて、大泣きしていたラティナの姿を、デイルは今でもはっきりと覚えている。
「なんでそんなこと……」
「苦手だから、克服しようと思って!……フリソスもね、『浄化』の魔法得意になったって言っていたし!」
(……ラティナだけじゃなかったんだな)
 デイルは、心の中でぽつりと呟いた。
 ラティナが、対アンデッド系の魔法を覚え、怖いからこそ対処法をと熱を入れていたことは知っていたが、彼女の姉も同じ状況であるようだった。アンデッドへのトラウマ然とした苦手っぷりは、姉妹共通のものらしい。

 因みに、フリソスがアンデッドを苦手としたのは、ラティナと同様、墓場ポイ投げ恐怖体験からであった。
「余は『天』属性魔法だけではなく、『冥』属性魔法も、対アンデッド魔法は極めた」と、真顔で言い放つフリソスは、ある種、母親の教えを守って、トラウマを真っ向からぶん殴る方向で克服していたりするのである。
 --『克服』というには、ほぼ無害な低級霊相手にも、強力な魔法をぶっ放つという過剰防衛気味であるのだが、そこは大目に見るべき項目となっていた。--

「私も、ローゼさまに『浄化』魔法教えて貰って、昔みたいにはならない筈だけど、一人じゃやっぱり不安だし……」
「なら、わざわざ……」
「でもね。何かあった時、使えなかったらもっと怖いから、練習しておきたい気持ちがあるの」
 発言があまり前向きとは言い切れなかった。
 どうやらラティナが、アンデッド嫌いを『克服』するまでの道のりは、まだまだ長そうである。

(でも、確かになぁ……)
 魔法の練習の為に、墓場や地下迷宮のような場所にわざわざ出掛けて行くのは難しいし、怖がりのラティナには荷が勝ちすぎるだろう。
 それに、今回は一人で飛び出たりせず、ちゃんと自分の同行を求めている。自分が付いていれば彼女に万が一にも危険な思いはさせることはない。
「もし、俺がいない時にアンデッドに出くわしたら……大変だもんなぁ……」
「ちゃんと呪文が詠唱できるかも、実際にやってみないと安心できないなぁって」
「そうか……」
  うーんと考えこみ、デイルは結論を出した。 ラティナがアンデッドに怖い思いをしても、それはそれで自分に甘えてくるだろう。結果的にオーライである。
「無理はするなよ?」
「うん」

(そんで、ラティナが『虎猫亭』の近くでアンデッド見掛ける度に『浄化』魔法ぶっ放して……魔力切れ起こす前に連れて帰って……一緒に寝たんだよな)

 頑張ると発言していても、やはり恐怖心があるのか、腰が少し引けていたラティナであった。デイルの手をぎゅっと握り、いつもよりも近い距離で共に街中に出る。そうすると、デイルが想定していた以上の数のアンデッドに囲まれた。
 涙目となったラティナだが、呪文の詠唱自体は問題なく行えていた。そしてデイルの放つ殺気は、死者をも威圧するらしく、一定の距離をアンデッドは詰めること叶わずラティナの魔法で消し去られて行ったのであった。
「出来た……っ」
「うん。頑張ったなぁ、ラティナ」
 よしよしと幼い頃の彼女にしていたように頭を撫でて、健闘を讃える。
 そしてその後、二人で一緒に確かにベッドに入った筈である。イチャイチャはしていない。まだ恐怖の残るラティナにぎゅっと抱き付かれて、幼い頃同様に甘やかしているうちに、気持ちが『親バカモード』寄りに入ってしまったのだった。

 それでも眠りについたことは覚えている。
 だから間違いなく、この光景(・ ・ ・ ・)は夢である。

(ラティナの両親に挨拶に行くってシチュエーション……あり得ない筈だもんな!)
 夢だとわかっていても、手の中がびっしょりと汗をかく。自分の隣でにっこりと笑うラティナは、夢の中でもやはり可愛いらしかった。
 ヴァスィリオの一般的な生活様式を自分は知らない。それなのにラティナに連れられて行くままに、見慣れぬ整然とした街並みの中を歩く。やがて、シンプルな日干し煉瓦の建物の前にたどり着いた。
 この中にはラティナの両親がいる。
 夢の中特有の状況を確信している精神状態で、デイルはだらだらと汗をかいていた。
(夢の中だってわかっていても、なんだこの、緊張感……っ)

 建物の中から、フリソスがひょっこりと顔を出して、ニヤリと意地悪く微笑んだ。
「ほう。其方も緊張するという人の子らしい姿を見せるのか」
「相変わらず酷ぇ言い種だよな」
「ほれ、中に入るが良かろう。ラグもモヴも待っておるぞ」
 一国の王が出迎えに出るなどあり得ないとわかっていながら、この状況を受け入れて、招かれるままに室内に入る。
 日陰に入ると、少し体感する気温が下がる。気持ちも落ち着けようと、深呼吸を無意識に繰り返した。
「う……」
「そんなに緊張するの?」
「そりゃあ……な」
 強張った表情になったデイルの様子に、ラティナは不思議そうに首を傾げて彼を見上げていた。
「ラティナは……まぁ、あの時は、この状況とは違うもんな……」
 ラティナがデイルの故郷を訪れた時は、まだ彼女は幼すぎて、結婚だなんだという話題は全く出なかった。
 ラティナ自身、初めて訪れる場所への緊張はしていたのかもしれなかったが、今のデイルの状況とは全く異なる。

 デイルのそんな逡巡に全く頓着せずに、フリソスは更に奥の部屋を指し示した。ラティナは少し困ったように微笑んで、それでもデイルの手を引いて部屋の中に入る。
 ラティナとフリソスと同じ、白金色の髪の男性の姿に、デイルはびくりと立ち竦んだ。
 数多の魔王を打ち倒した英雄とは思えぬ、腰の引けっぷりであった。
 そんなデイルを嘲笑することもなく、彼は穏やかに微笑んだ。
「初めまして、は、少しおかしいかな。けれどもこうして会うのは初めてのことだからね」
 翠の眸は柔らかな若葉を思わせる色で、ラティナが戴いていたものと同じ、艶やかな黒い貴石のような角を有している男性だった。

 その人こそ、スマラグディ--デイルにとっては故人となった後でしか会ったことのない、ラティナとフリソスの父親だった。
本年は、本編に完結の目処をつけ、コミカライズがスタートし、過分な評価を頂くなど、当作品にとっても大きな節目の一年になりました。
これもいつもお読みくださる皆さまのお蔭に存じます。本年も拙作にお付き合いくださいまして、誠にありがとうございます。

後半は、新年のご挨拶と共に早めにお届け致します。
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