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うちの娘の為ならば、俺はもしかしたら魔王も倒せるかもしれない 。 作者:CHIROLU
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白金の娘、対峙する。

 様子の変わったラティナが、ヘルミネの視線を気にしていることには、ローゼも直ぐに気が付いた。それでも彼女は何も言わなかった。ローゼは、この状況を見守ることに決めたらしい。
 何よりもラティナは、もう俯こうともせずに、涙で濡れた灰色の眸で、真っ向からヘルミネの視線を受け止めていた。

「……ずいぶん大きくなったものだと思ったけれども、まだまだちいさな、お嬢ちゃんのままみたいね?」
 やがてヘルミネが発した言葉に、ラティナはぎゅっと眉間を寄せたが、否定することはなかった。
「ヴァスィリオの王妹殿下に、このような口の利き方をするなんて……と、叱責してくれても構わないのよ?」
「……この国で、私は何の権力も権限も持ちません。『黄金の王』の意向を軽んじるようなことさえしないでくだされば、私個人には何を言ってくださっても構いません」

 ラティナは、フリソスが自分のことを誰よりも大切に想ってくれていることをわかっていた。そしてこの国の『王』であるフリソスのその意向は、重んじるべきであるとも、ラティナは理解していた。
 だが、同時に自分には何の権限もないと、自らを戒めているラティナは、フリソスの権勢によって自分が過剰に甘やかされることを是とは考えていなかった。
 だから今、ヘルミネの言葉がどれだけ自分にとって『痛い』ものでも、フリソスの名を出して逃れようとは思わなかった。

 ラティナの返答に、ヘルミネは薄く微笑む。
 その表情だけでは、彼女がラティナをどう思っているのかはわからなかった。

「ラーバンド国は、『四の魔王』の侵食により、南部地域は大きな被害を被った。復興までに、国力は大きく削がれることになる。国境を接する他国はこれを機にと、不穏な動きを見せているようだわ」
 ヘルミネの言葉は、ラティナにとって『聞きたい話』の筈だった。それでも起こってしまったことを聞くのは、想像以上に苦しいことだった。
「『七の魔王』により、ラーバンド国から東の方にある小国は幾つか滅んだそうよ。多くの犠牲が出たなんて、軽々しくも口に出来ない程の惨状ね」
「…………」
 青い顔のまま、関節が白くなるほどに手を強く握るラティナを、ヘルミネは見た。表情は薄い微笑みのままだった。
「だからといって、あなたが泣く理由もないでしょう? それとも、『泣くだけの理由』があるのかしら?」
「……っ」
 ラティナは呼吸をするだけでも、辛い痛みを覚えた。反論することも出来ない自分自身に、ヘルミネの言葉を自分も認めてしまっていることを自覚する。
「『理由』があったとしたとしても、それはそれで、泣くことしか出来ないなんて……『お嬢ちゃん』だから仕方のないことかしら」
 ヘルミネが浮かべる微笑みが、明らかな嘲笑のものへと変化する。
 ラティナは俯きかける自分を叱咤して、顔をしっかりと上げた。

「……私は」
 掠れた苦し気な声だが、ラティナはヘルミネから視線を逸らさなかった。
「確かに、未熟です。何も出来ないことも……事実です」
 少しだけヘルミネは、その碧い眸を見開いた。
「泣くことしか出来ない、未熟者だというのは、事実です……それでも、それでも……」
 浮かんだ涙をぐいと拭い、ラティナはだんだん声に力を入れていった。
「ちゃんと、考えます。自分がしてしまったこと。どうするべきだったのかということ……そして、これから自分に何が出来るのかを」
 もう、俯くこともせず、しっかりとした意志の光を宿した眸をヘルミネに向けて、ラティナは言い切った。
 そんなラティナの姿にヘルミネは、クスリと笑い、挑発するように答える。
「そう。やってご覧なさいな『お嬢ちゃん』」

 離宮を出て少し離れてから、ローゼは自分の背後の人物を振り返った。
「あまり意地の悪いことをされませんように」
 ローゼの言葉に、ヘルミネは微笑みを浮かべ少し肩を竦めてみせた。
「少し意地悪をしたくなってしまったのよ」
「ラティナさんが『幼い』というのは、年齢を考えても、まだ無理もないことでしょう」
「そうねえ」
 クスクスと笑い、ヘルミネは少しだけ遠くを見るような顔をした。
「けれども、思っていたよりも『子どもの成長』とは早いものね。前に会った時は、何に対しても噛みつく仔猫のようなお嬢ちゃんだったけれど」
 ヘルミネは、自分の言葉に「ちいさくないもん」と全てに反発していた幼い少女を思い返す。客観的な視点ではなく、自分の主観でしか物事を見ることが出来ない、全てに於いて相応の、幼い少女だった。

「ちゃんと自分の『未熟さ』を認めることが出来る程度には、大人になったということね」
 ヘルミネはそう言って微笑んだ。ローゼは溜め息をついて、自分よりも遥かに長い時間を生きてきた女性を見詰める。
 甘やかし過ぎるつもりは無いが、それでもローゼにとってラティナは、自分を慕ってくれる可愛い『妹分』である。一方的にやられているのを見るのは、あまり面白い光景ではなかった。
「意地悪をされるというのも、『大人げ』が無いことだと思いますが」
「そうねえ。私もまだまだね」
 クスクスと笑うヘルミネは、ローゼの言葉にも動ずることは無く、微笑むだけだった。

「あんなデイルの顔を見てしまったから、つい意地悪したくなってしまったのよ」

 少しだけ、今までとは異なる感情の籠ったヘルミネの声に、ローゼは反論する気持ちを失って彼女を見た。
「本当に追い詰められていたみたいね、あの子(・ ・ ・)。あんな様子見たの久しぶりだったから……つい、ね……私もまだまだねえ」

 ローゼに同行してヴァスィリオに向かうことになった直前、ヘルミネはエルディシュテット公爵家でデイルと会っていた。
 トレードマークの黒いコートを脱ぎ捨て、輝く半身鎧を纏い『白金の勇者』と称える声に応えるデイルは、外見上には、何の気負いも見られなかった。新たに得たふたつ名に相応しい、輝くばかりの英雄然とした表情で応じてみせていた。

 だが、ヘルミネの目には、『少年』の頃のデイルの面影が被った。

『勇者』として負わされた役割に、『ひと』を殺した感触に、思い悩み苦しむ『少年』の頃の面影をそこに見た。

 その時のヘルミネには、デイルが『何』に追い詰められているのかはわからなかったが、ヴァスィリオで再会して確信した。
 ラティナを抱き締め、依存に近い様子で、溺愛する姿。
 もう二度と失いたくないと、失ってしまったならば、自分は自分のままではいられないと--必死にすがり付くその姿は、詳しい事情などわからなくとも、デイルが壊れかけていたのが『彼女(ラティナ)が理由』であることを察するには、充分過ぎる光景だった。

 昔馴染みとしては、少々『意地悪』したくなってしまったのだ。
 ラティナが、何に嘆き悲しんでいたのかは知らないし、知る必要もないことだと思っている。何をしてしまって、その結果デイルがあれだけ苦しんでいたのかもわからない。
 だから、説教をするつもりはないし、論法でやり込めようとは思わない。あくまでも自分の主観と感情に基づく『意地悪』だ。

 貴女のしたことで、デイルがあれだけ苦しんでいたのだと--ヘルミネなりの、多少の意趣返しなのだった。

『大嫌い』な相手に、自分の未熟さと非を認めることは、あの矜持の高い少女には堪えたことだろう。
 だが、それを認めることが出来たことは、評価してあげなくてはならない。『お嬢ちゃん』という認識を改めるまで後一歩というところか。
 ヘルミネはそう考えて、もう一度繰り返して呟いた。
「本当に『子どもの成長』とは早いものね」
コミカライズ二話、本日配信予定であります。ちっさい『娘』は、安定の可愛さだと思っております。
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