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うちの娘の為ならば、俺はもしかしたら魔王も倒せるかもしれない 。 作者:CHIROLU
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青年、裏側で行われていた事を知る。参

 ヴァスィリオでは、『角』の欠片は、敵愾心を以て迎えられる。
 シルビアはそれを百も承知だった。

 だが、ルドルフからシルビアは、同時に興味深い話も聞いていた。
「俺の持ってるラティナの角の欠片を見た三人組の内、一番立場が上の奴の反応は、不快だって反応じゃなかった」
 記憶を辿りつつも断言したルドルフに、シルビアは首を傾げる。彼女の知る『常識』とは、外れた事象だった。
「そうなの?」
「ラティナは、そいつは角に籠められたラティナの『思い』まで見てるんじゃないかって言ってた」
「……立場が上の奴、よね? 私が見たラティナを捜してたって奴と同じなら……」
 シルビアの前で、魔人族の男は、公衆の面前だというのに、躊躇いもなくラティナの前で膝をついて頭を垂れた。
 それはどう見ても、貴人に対する臣下の行動だった。
「ラティナ……若しくは、ラティナのお姉さんか妹は、かなりヴァスィリオで良い身分ってことだよね」
「前に『虎猫亭』で聞いたことがあるし、俺たちも思ってたことだけど……ラティナは、良いところ出のお嬢様なんじゃないかって」

 ルドルフとラティナの付き合いは、シルビアよりも早い。
 学舎に通う前の、言葉も不自由だったラティナは、ちいさく幼かったが、下町育ちのルドルフたち友人たちに、『お姫さまみたいな女の子』という印象を持たれていた。
 異種族人であり、他国出身のラティナは、『常識知らず』で天然の面が目立つ。だが、礼儀作法はしっかりしていて、考え方が一般庶民のものとはずれていた。
 帝王教育等は受けていない為、だんだんと庶民派少女と化していったラティナだったので、その印象はより幼い頃を知る者の方が強い。

「ラティナを捜してた奴は、どう見てもラティナを『罪人』として扱ってはいなかったんだけど」
「それは『虎猫亭』でも言われてた」
 シルビアの疑問に、ルドルフは答える。
 彼は『虎猫亭』に出入りをする間に、常連客たちと話をする機会もあったし、憲兵隊の一員として『罪』について考える機会も多い。
「元々ラティナが追放された時って、あいつが七歳の時だぞ。それで魔人族にとっての最高刑にあたる追放刑って、普通なら執行される筈がないだろ」

 ルドルフはそう言った。魔人族と人間族の価値観が同じとは限らないが、魔人族は子どもを大切に扱う種族だと聞く。ならば子が罪を犯したら、親の責任を問うのが当たり前の考え方だろう。それに、過失ならともかく、あれだけちいさくお人好しなラティナが、重罪を犯せる筈がない。
「ラティナの『父さん』は、罪人とはされてなかったらしい」
 デイルがラティナの父親だと思われる遺体を埋葬した時、両方の角があることを確認している。幼馴染みたちは、ラティナからそんな話も聞いていた。

「だからラティナが追放された『罪』っていうのは、宗教か……政治的な何かの可能性が高いんじゃないかって言われてたな。そんなの、『普通の子ども』に起こる『罪』の筈がない。ラティナはお家騒動が起こるような家の子だってことだろう」
 ヴァスィリオは権力を世襲制で受け継ぐことのない国ではあるのだが、彼らはそうやって当たらずとも遠からずの結論に至っていた。

 その為にシルビアは、クロエの持つ角の欠片を借りたのだった。
 ラティナを知る者、出来ればラティナの姉妹というヴァスィリオの上層部のひとと会えた際、この欠片は自分が『ラティナにとって親しい相手』である証明となってくれるだろう。
 ラティナがルドルフに伝えた『お守りになっている』という言葉を信じたかったというものもある。
 クロエは借りに来たシルビア相手に、こう言った。
「無事に帰って来てよ、シルビア。出来ればラティナも連れて帰って来て。全力で一発ぶん殴ってやるんだから」
 --と。

 シルビアがヴァスィリオに侵入した最終手段は、ヴィントに乗ることだった。短い距離ならシルビアの魔術でも何とか対応出来ると、賭けに出たのである。
 ヴィントはラティナの居場所を知っている。そしてヴィント当人は、『白金の姫』の忠実なる(わんこ)として認識されている。魔術で撃墜されることはなかった。

 シルビアにとって予想外だったのは、『ラティナの姉』であるフリソスが、ヴァスィリオの国主『黄金の王』であったことだった。

 フリソスは侵入者に色めき立つ護衛たちを、静かに制した。
「シルビア、ラティナともだちー」
 ヴィントに紹介されるというシルビア的に微妙な状況の中、ラティナと同じ顔をした女王はシルビアをまっすぐに見た。
「……プラティナ、人間族、知人か?」
「"私はシルビア。ラティナとは、クロイツ……ラーバンド国の街で会いました"」
 人間族が使う西方大陸語を、ぎこちなく使うフリソスと、難解な単語は扱えないが、魔人族の言葉を最低限は操れるシルビア。基本的なコミュニケーションは交わせる素養は出来ていた。
 フリソスは、シルビアが差し出したラティナの角の欠片を驚いた顔で見た。
「"これが、証"」
「"プラティナ……"」

 フリソスの目にははっきりと、角が纏う優しい気配が見えた。
 自分自身の魔力と似た、自分のものよりも柔らかな魔力。この欠片を持つ者の幸せを純粋に願う、祈りを具現化したかのようなものだった。
「"私はラティナを捜しに来ました。ラティナは此処にいますか?"」
 物怖じすることのない強い眼差しを向けるシルビアの言葉を聞きながら、この相手を害することは(ラティナ)は決して望まないだろうということを、フリソスは悟ったのだった。

 そして、フリソスも人間族との繋がりを求めていた。

『玉座』の間から、日に日に魔王の気配は失われていく。
 タイミング的にも、『八の魔王』の縁者が関わっているだろうことはわかっていたが、当のラティナは未だ会話が出来る状態でない。
 人間族との伝がないフリソスには、集められる情報が限られていた。
 そして、『災厄』による人間族への干渉により、『魔人族』という種の状況は悪化していっていた。ヴァスィリオの外にも同胞(どうほう)はいる。『王』であるフリソスは、救いを求められれば、それらをも救うべき立場にあった。
『災厄』との戦いに最も大きく貢献している『勇者』を抱えし国、ラーバンド国。隣国でもあるその国に、フリソスは使者を送ることにしたのである。

 フリソスが送った使者は、シルビア。シルビアは緑の神(アクダル)の神殿を経て、ラーバンド国首脳部、すなわちエルディシュテット公爵の元にヴァスィリオの意向を伝えた。
 この時からシルビアは、両国の間を取り持つメッセンジャーの役割を担ったのであった。

 エルディシュテット公爵が、フリソスからの使者としてシルビアを受け入れた背後にも、『踊る虎猫亭』が関わっていた。

 行方不明のデイルだが、彼が世界中を転戦しながら『勇者』としての役割を果たしていることはクロイツにも伝わってきていた。
 それでも『手紙』を送ることは難しい。
 居場所がわからない相手では、世界中の多くの地域をカバーする『手紙の配達組合』でも、それを可能とはしないのである。
 ラティナに関わりのある人物がヴァスィリオにいること、更には行方不明のラティナがヴァスィリオにいるらしいこと。『虎猫亭』の面々は、それらが明らかになるたび、デイルと連絡を取るべく試みていたのだった。

 その結果、デイルがおそらく連絡を取っている相手。
 彼の故郷ティスロウと、雇用主であるエルディシュテット公爵の元に一部の情報を送ったのである。


「は?」
 そこまでを聞くと、デイルは思わずといった様子で、すっとんきょうな声をあげた。
「ちょっと待て……ケニスたち、ラティナが此処にいるって……何時から知ってたんだ?」
「うーん……確か、『七の魔王』との戦争が始まるって頃に、そこのわんこが教えてくれたから。あの店はその時には知ってたよ」
 シルビアに断言されて、呆気にとられたデイルの隣でヴィントはえへんと胸を張った。
「やればできるこ」
「……ヴィント、私のこと……クロイツから運んで来たの?」
「できた」
 記憶が曖昧なラティナも、冷や汗混じりに問い掛けると、ヴィントははっきりと肯定する。
「え? ラティナ……?」
「私……気付いたらヴァスィリオにいて……どうやら、封印から出た直後はクロイツにいたみたいなんだけど……此処までヴィントが運んでくれたみたいなの」
 そんな事情を全く知らなかったデイルが問い質せば、ラティナは困った顔でそう答えた。

「あー……」
 デイルは天を仰いで息を吐いた。
 精神的にきついだとか言っていないで、一度でも『虎猫亭』に戻っていたならば、状況は全く変わっていた筈だ。と、デイルは自らを省みる。
 あの店の面子の能力を侮っていた訳ではないのだが、もっと頼ってしまっても良かったのだ。
 ラティナを大切に思っているのは、自分だけではない。
 ラティナの為に何かをしたい者は、あの街に大勢いたのだ。
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