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うちの娘の為ならば、俺はもしかしたら魔王も倒せるかもしれない 。 作者:CHIROLU
11/202

青年、ちいさな娘の件について悩みを抱く。

お盆休みなので投稿時間を変えてみました。ラストです。そして連続投稿も小休止。とびとびに戻ります。今後のストック次第です。
 想像以上にラティナは賢いらしい。
 一週間もすると、ラティナは日常会話位なら、支障なくこなせるようになっていた。

 そして、その頃のデイルには、一つの悩みが持ち上がっていた。

 ラティナがケニスになついた。

 ぶっすぅーーーっと、不機嫌そうな顔を隠そうともしないデイルの前で、親鳥の後を付いていく雛鳥のように、ケニスの後をとてとてとラティナが追いかけている。
 デイルが買った覚えのないエプロンを、ワンピースの上に付けたラティナは、エプロンと同布の三角巾を付けている。
 幼子の『お手伝い』ルックだった。
 ケニスが店の掃除をしている横で、ラティナは精一杯手を伸ばして卓を拭いている。

(まるで、親子みてぇだよな。ケニスと並ぶとさ……)
 元々、デイルはケニスを警戒していた。
(はじめから、ラティナ、ケニスに胃袋掴まれてたし! )

 悩みというよりも、単純な嫉妬である。

「おそうじ、おわり? 」
「ああ。そうだな」
 掃除用具を片付けるケニスに確認してから、ラティナは厨房に行き、台に登って布巾を洗う。力が弱い彼女ではうまく絞ることが出来ないため、そのまま置いておく。
 洗い場の近くにあった彼女専用の台をずるずると引き摺って移動する。
 そうしてそれを彼女の『定位置』に据えると、台にちょこんと座った。
 これもまた、いつの間にか厨房に用意されていた、彼女用のペティナイフを小さな手でしっかりと握り、たどたどしい手つきで野菜の皮を剥き始める。
 ペース自体をみれば『手伝う』よりも、手間を掛けている。といった具合だが、ケニスは邪険にすることもなく、その隣に座り、自身もまた黙々と皮剥き作業に入った。

 --数日前に教えたばかりなのに、拙いながらも一人でやれるようになったのは、充分すぎる成長だ。

 とはケニスの談で、ハラハラしながら思わず手を出してしまいたくなるのを、デイルは自重するので精一杯だった。

「そんな気になるなら、いっそ見てなければ良いのに」
「ラティナの成長を見逃しちまうじゃねぇか」
 この男、いっそ清々しい程に言い切ってしまった。
 リタは書類整理をしながら、顔に生暖かい表情をはりつける。

 皮剥きを終えたらラティナは休憩時間と決めているらしい。
 食材倉庫の片隅に置いたままの絵本を取って来ると、店に居るデイルの所にやって来た。
 絵本は二冊ある。
 一冊は彼女が始めから言葉を覚える為に使っている絵本で、もう一冊はそれよりかなり難しい、物語となっている絵本だった。
「デイル、ごほん、よむ」
「ああ」
 デイルとしては、ラティナに読み聞かせる為にと選んだ本だったので、彼女自身が読むには難しいと考えていたのだが、彼女はこの短期間で、つかえつかえではあるが、一人で読むことが出来るようにまでなっていた。
 普段は静かに黙読しているが、デイルが居る時は声をあげてよみあげることで、添削してもらいたい意図があるらしい。
 最後まで読み終え、デイルの合格を貰うと、次にラティナはもう一冊の絵本と帳面を広げる。帳面には、みっちりと幼さの残る拙い文字が書き綴られていた。

「これも、リタとかが、こうしろって言ったわけじゃなく、自分から勉強しだしたんだろ? 」
「そうね。ラティナが紙が欲しいって言い出した時は、お絵かきでもするのかって思ったんだけど、まさか文字の練習始めるとは思わなかったわ」
黄の神(アスファル)の神殿がやっている学問所でも、まだラティナ位の歳の子はいねぇだろ? 」
「うん……でも、ラティナ始めからペンの握り方は知ってたのよね。ナイフの持ち方はケニスが一から教えていたけど、ペンは誰にも聞かなくても、ちゃんと使えてた。この子、勉強出来る環境で産まれた子なんじゃないかしら」

 ラティナは会話が出来るようになっても、自分のことをあまり話そうとしなかった。
 話してくれたのは、数点のみ。
 やはり、森の中の遺体は父親であったこと。角を折られた後、父親と共に生まれ故郷を出たこと。彼女が生まれたところは、魔人族だけの集落であったこと--といった程度だった。

 この子の賢さからすれば、もっと様々なことを知っていてもおかしくない。
 恐らくこの子は、『角を折られる』ことの意味もわかっているのだろう。詳しく自分の素性を話せば、郷里のように追い出されるのかもしれないと不安に思っているのかもしれない。

 デイル自身は、ラティナが話してくれるなら聞きたいが、無理に聞き出そうとは思っていない。
 この短い期間共に過ごしただけでも、この幼子が、罪人とされるような邪悪な存在とは思えない。ならば『罪』とは、彼女自身の人格とは関係なく与えられたものだろう。
 それが政治的なものか、宗教的なものかまではわからないが、理不尽であることは間違いない。
 だからこそ、この子の父親は、この子と共に郷里を出たのだろうから。

「デイル、どうしたの? 」
 そんなことを考えていたら、難しい顔になっていたらしい。いつの間にかラティナが、こてん、と首を傾げてデイルを見上げていた。
「ん? なんでもねぇよ。ラティナ言葉上手くなったな」
 そう言って頭を撫でると、彼女は本当に嬉しそうに笑う。
「おはなしできてうれしい。がんばった」
「そうか」
 彼女の笑顔を見ていると、つられてデイルも柔らかい表情になる。
 デイルも、ラティナと暮らすようになってから、自分がよく笑うことが出来るようになったことに気づいていた。
 リタやケニスと馬鹿な話をすることはあっても、こんな風に穏やかな微笑みなんてものを浮かべる時間は今までなかった。
 ラティナが来てからの明らかな変化だ。

 昼食、昼寝、おやつといった時間の合間もラティナの自由時間らしく、彼女はデイルが仕事等で外出していない日は、近くで過ごしている。
 たまに店の入口から外を眺めていたりするが、今まで勝手に一人で出て行ったことはないらしい。
 デイルやケニスに付いて近所の散歩をする位で、まだ街の地理を覚えていないということもあるのだろう。

 だが、ケニスが夜の仕込みを本格的に始める時間になると、またラティナは厨房に行き、ケニスの後を付いて回る。
 デイルはその様子を見に行っては、「頑張っている」とでも言いたげな彼女の至極真面目な顔に、何も言えなくなってすごすごと戻るというのを繰り返している。
 今は、真剣な顔で、大量の芋をマッシュするという任務に挑んでいた。

「少しは落ち着きなさいよ」
 リタがエールのジョッキを運びながら言う。
『踊る虎猫亭』は基本的には、注文の品と引き換えに精算する形になる。踏み倒しを防ぐ為だ。ただ、常連客はその例に当てはまらず、最後にまとめて精算することも認められている。
 デイルに至っては、よっぽどでなければ家賃と合算だった。
 リタのエプロンから、小銭の音が響くのはその為で、彼女は注文と精算を手際よく捌いている。

 そんなリタの言葉にもぶすっとしたまま、ろくな返答をしないデイルだったが、そうこうしているうちに。
 厨房から、お盆を持つラティナが出てきた。重さに少々よろよろしている。

 一瞬、店の喧騒が静まる。
 この一週間でラティナは常連客に存在を認識されている。
 ちまっこいのが、イタズラする訳でもなく、店内をチョロチョロしているのだ。嫌でも目に付く。そして何だかやたら微笑ましいのだ。この幼子は。

 彼女は慎重に、慎重にとお盆を運ぶ。
 デイルの隣まで辿り着くと、にぱあっ。と、満面の笑顔をみせた。
 ミッションコンプリート的な笑顔である。
 客席から、音にならない拍手が聞こえた気がした。
「デイル、ごはん、どうぞーっ」
 デイルがお盆を受け取り、テーブルの上にあげる。ここ最近のラティナの最大の試練は、このデイルの夕食配膳だった。
 まだ、客に運ばせる訳にはいかないが、やりたそうにしている彼女の練習と、矜持の妥協点の結果だった。
 ラティナは厨房に戻ると、今度は自分の分を運んで来る。量にだいぶ差があるため、彼女の足取りは先程より明らかに軽い。

 デイルと並んで座ると、彼女は夕食を前に、得意げな声をあげる。
「ラティナ、きょう、おいもつくった。デイル、たべて」
「ああ。今日も頑張ったなラティナ」
 山盛りのマッシュポテトを指さして、ラティナが笑顔で報告するのを、デイルが褒めるというのも、ここ数日の定番のやり取りだ。

 因みに、この二人のやり取りの後に、ラティナが手伝ったメニューの売り上げがなんとなく上がるのも、ここ数日の傾向だった。



 今日も幸せそうに食事をするラティナの姿を、複数の調理を同時進行でこなす合間に確認しながら、ケニスはにやりと笑う。

 ラティナは毎日一生懸命だ。
 いつか、デイルの為に食事を作りたい。彼女はその目標を掲げている。そして真面目に取り組むことを知っている。
 ケニスは、ちゃんと努力する者は好きだ。
 彼女は充分すぎる程、頑張っており、結果もきちんと出している。 ケニスにとっても教えがいのある相手だ。

 デイルだけが、知らない。
 ラティナがこの店の中で、穏やかな顔で過ごしているのは、この店が『デイルが連れて来てくれた安心できる場所』だからだということを。
 ラティナが無条件で安心しきった様子でいられるのは、デイルが隣に居るからだということを。

 デイルが居ない時のラティナは、そのちいさな体で、必死に周囲に気を張り、威嚇すらする時があるということを、デイルだけが見ていない。

「互いに、少し位依存する相手が居るのも、悪くはねえよな。デイル(あ い つ)にとってもな」
 デイルの兄貴格を自称し、それなりに信頼されていることを知る男は、鍋の中身を盛り付けながら、そんなことを呟いた。

ラティナ喋ります。
今まで以上に可愛く思って頂けるよう、描けていれば良いのですが。
そして、デイルさん……お前それで良いのか? と書きながら呟く今日この頃。
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