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うちの娘の為ならば、俺はもしかしたら魔王も倒せるかもしれない 。 作者:CHIROLU
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青年、療養中。壱

この作品には、警告タグが付いております。悪しからず。
『病気』には、回復魔法は効かない。そしてありとあらゆる『病』を束ねる存在(もの)は、『四の魔王』である。--というのは、誰もが知る当たり前の『常識』だった。

 病をもたらすものは、『四の魔王』の魔力--独自の能力を有することから『魔素』との呼称を以て呼ばれている--と、考えられている。
 正式には『魔素障害』と呼ばれるそれは、対象の魔力や生命力といった『気』の流れを狂わせる。干渉するべきそれらが乱れている為に、直接魔法で治すことが困難になるのであった。場合によっては、『魔法』の干渉が悪い方向に働く場合もある。
 その為、症状を薬で抑え、可能ならば『体力回復』の系統の回復魔法を併用しながら、魔素による影響が身体から抜け、本来の『気』の流れに戻ることを待つしか無い。

『魔素障害』以外の病気には、回復魔法が効くものもあるのだが、それは一見してわかるものでも無く、『藍の神(ニーリー)』の神殿という、専門機関に判断を委ねる必要があるのであった。


 ごろごろと宛がわれた大きなベッドの上で、だらしなく身体を伸ばしたデイルは、手にしていた分厚い書籍を、ぽいと隣に投げた。
「あー……飽きた……」
 療養の為、大人しく寝ている生活に、三日目で既に飽きた、デイルなのであった。
「身体動かしてぇ……剣は、さすがにばれるだろうけど……トレーニングくらいなら……」

 普段、仕事で公爵邸に滞在する期間も、デイルは書籍などを以て、公爵家という最高峰の環境で得られる、最新の知識に触れていた。
 些細なことで軽んじられるような貴族相手の『仕事』である。付け入られる隙を簡単に与えるつもりはなかった。
 その為、デイルはかつてコルネリオ師父に受けた教育を背景に、今でも折を見ては、『学習』を続けているのであった。
 それでも、それしか出来ないという状況は、飽きがくる。

「よし、なら……こっそり……」
「お前がそう言い出す頃だと、使用人から連絡があったぞ」
 扉を開けて遠慮なく入室してきたグレゴールが、呆れた声音を滲ませて言う。
 グレゴールの気配には、とっくに気付いていた。だからこそわざとらしく、デイルはごろごろと転がりながら、うらめしそうな顔を友人へと向けることで応じる。
「飽きた」
「ローゼの『加護』による治療で、魔素の影響が最小限に抑えられていても、治ったわけではないことも、お前ならわかっているだろう」
「わかっているから、大人しく寝てるだろう……」
「お前の判断で隔離していた、二人の罹患者も、快復期に入ったそうだ。ローゼも、お前の対応に感心していたぞ」
「ウチの田舎じゃ、『藍の神(ニーリー)』の神殿は無いからな……薬学と病理学も、自衛の為に、ある程度修めとく必要があるんだよ」

 それは、かつて『一族の次期当主』として受けた教育の一部だった。一族を護るべき当主として、デイルが受けた教育は、多岐に渡る。
 そして、そんな教育を当たり前に受けさせる土壌があるのが、周辺諸侯に恐れられるティスロウという一族なのである。
 実力主義のエルディシュテット公爵の眼鏡にかなったのは、それらの深い教養も影響していた。

「『二の魔王』には、してやられたという結果だったがな。隠蔽で保身に走った該当者は、父上が制裁を与えると仰っていた」
「なんかそれは、相手に同情できそうだな……」
「周囲の集落も確認したが、特に異常は無く、罹患者も出なかったようだ。明らかな異常事態に、好奇心を出さず、慎重に距離をおいた結果だろうな」
「ある意味、隠蔽工作の為に、街道を封鎖したってのも、良い方向に働いたのかもしんねぇよな」


 クロイツから王都に着いたデイルは、そのまま任務に就くことになった。
 誘拐された後、連れて行かれた先で『二の魔王』と遭遇したローゼの証言の確認である。赴いた先で『魔王』と遭遇する可能性がある以上、本来なら斥候隊に先行させるところではあるが、『勇者』の能力者であるデイルの同行を必要としていたのであった。

 ローゼの証言を元に割り出した該当する集落は、街道が封鎖され、『なかったこと』にされていた。
 一夜にして村人全てが惨殺され、確認に向かった者も戻らない明らかな異常事態。この地を治める地方貴族は、エルディシュテット公爵の言うところの『小者』であるが故に、確認することや国に報告することよりも、隠蔽という選択をしたらしい。

 一見すると、集落の中は『綺麗』だった。
 ただ、えもいわれぬ不快感が、空気として漂っている。ひとの気配ひとつしない静寂さが、当たり前の田舎の光景と、あまりにもそぐわない。
 それが、建物を開けて確認する度、『異常さ』を露にする。

 どの死体も、『遊ばれて』いた。
 幼子が玩具を並べるように。玩具を弄ぶように。--おそらく『二の魔王』にとって、それら(・ ・ ・)は紛れもない『玩具』なのだろう。
 ある一軒の家の中で、壁というキャンパス一杯に描かれた、原型を留めぬ程に擂り潰されたそれ(・ ・)を絵具として用いた、『芸術』の姿には、戦場に慣れた一行も表情を歪めた。
 全てが、建物の、場合によってはその中の一室のみで行われている凶行だった。
 だからこそ、この惨殺の舞台は、一目見ただけでは何ごとも無いように、ただ静寂さを纏っているのだった。

 緊張感をはらんだまま、目的の館--かつて豪商の別荘として建てられたことが調べた結果わかった--に到着する。
 扉を開けた瞬間広がっていた予想外の光景に、彼らは一瞬判断に迷った。

 ローゼの誘拐犯たちの惨殺の舞台となった玄関ホール。そこには、おびただしい数の死体は--なかった。
 肉片ひとつ残さず片付けられ、壁にも血糊ひとつ飛んでいない。ただどす黒く変色したカーペットの染みだけが、この場で起こったことを証明していた。
 そして、時間の経過を感じさせない、傷んだ様子の無い『若い女』の死体が、飾りたてた豪華な衣装を着せられて、彼らを迎えるように、腰掛けていた。

 罠だ。と、はっきりしている状況。
 それでも、『彼女』がローゼの侍女だと推測されることから、確認しなくてはならない。
 --結果として、それ(・ ・)はやはり罠であった。
 高濃度の『魔素』を仕込まれたそれ(・ ・)は、病の爆弾という効果をもって、彼らの目前で四散したのである。
 逃したローゼの性格から、必ず確認に再訪するだろうということを見越した、『二の魔王』の『置き土産』だった。

 先行した二人の斥候が、直撃した。
 後ろにいた残りの者たちは、『一流』の名に恥じぬ迅速な判断で、簡易式の『障壁』と、正しく周辺を隔てる為に『発生元』を囲む障壁という二重の魔法で、難を逃れた。

 結局『二の魔王』の姿も、それに繋がる手掛かりも無く、『二の魔王がここにはいない』という現状を、確認するに留まる結果となった。

 最終的に、領主の判断と同じかたちで、この集落は放棄されることになった。高濃度の魔素がその能力を失うまでには、途方も無い時間が必要となる。高位の『藍の神(ニーリー)』の神官が幾人も浄化作業に当たれば、可能とはなるが、それも一朝一夕に行えるものではなかった。

 罠の直撃で、『魔素障害』に陥った二人の治療にあたったのは、デイルだった。
 高位の加護持つ神官などは、『魔素障害』になり難いという特徴をもっている。『最善』がそれであると、デイルは即座に判断を下した。
 彼らは、治療にあたるデイルと、罹患した二人を、馬車を以て隔離した状態で、王都--最高位の『藍の神(ニーリー)』の神殿--へと戻ったのである。
 その過程で、デイルもまた、軽度の『魔素障害』にかかることになった。とはいえ王都には、ローゼを始めとした高位の『藍の神(ニーリー)』の神官が多数いる。治療に最高の環境が整っているのもまた、この都市なのである。

 その為、重症化することも無く、病らしい症状もほとんど出ていない体調で、デイルは退屈な療養生活を強いられていたのであった。

「クロイツには、連絡入れてくれたか?」
「一応、最低限の状況は伝えたが……お前自身で私信を綴れば良いだろうに」
「あー……俺、さぁ……報告書は書けるんだけど、手紙って微妙に苦手で……それに、今、なんとなく、送り難いって言うか……」
「……痴話喧嘩でもしたか」
「ち、違っ……」
 わかり難いテンションではあるが、グレゴールとしては珍しく挟んだ『冗談』だった。だがそれに、デイルは過剰に反応した。
 ベッドからガバッと起き上がり、グレゴールに押し返されて再び横になる。
 そんな彼の反応も含めて、グレゴールは、今回、呼び出される前にデイルが王都を訪れたという、不可思議な行動から始まる一連の彼の言動が--彼の養い子が原因だと確信するのであった。

 --本来、呼び出されても、養い子と離れたくないと、駄々をこねるデイルが、自主的に王都を訪れた。そのこと自体考える、不審を抱かせるには充分過ぎる『異常事態』なのである。
『回復魔法』では『病気が治らない』という設定説明であります。相変わらず、ざっくりとした設定となっております。
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