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うちの娘の為ならば、俺はもしかしたら魔王も倒せるかもしれない 。 作者:CHIROLU
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閑話。にゃんこをモフモフしたい話。

皆さまのお蔭により、書籍版二巻発売目前です。今週末19日発売となります。
店舗特典SSの一部にて、『デイルの剣技は祖父と父親から学んだ』という設定を出しましたので、関連閑話となっております。
 ラティナは動物好きである。

 そのうち、犬系の動物には動物側からも好かれやすいようだった。ティスロウで起こしたあれやこれやの『事件』を除いたとしても、散歩途中の犬が、向こうの方から寄って来て、彼女にじゃれつくなんて光景も珍しくはないのだ。
 だが、猫には距離を置かれてしまうようだった。距離の取り方が下手なのだと思われる。触りたい、撫でたい、という気持ちが先走り過ぎて、逃げられてしまうのだ。

 動物園のようなものはこの世界には存在しない。その為に街に住む者が、目にすることのできる動物の種類というものは、かなり限られている。ペットや家畜として飼われているものが、せいぜいなのである。
 ラティナは、妙なところで、かなりシビアな判断をするようであった。家畜は家畜として捉えているらしく、「可愛いけど、お肉はおいしい」と考えていた。
 ベジタリアンにはなれない。何故なら美味しいからなのである。

 そんなある日、ラティナは毎日通う『黄の神(アスファル)』の学舎で、親友の一人であるシルビアからこんな話を聞いた。

「ネコ集会……っ!」

 夢のような『集会』の話であった。
「そうそう。ネコはね、夜になると皆で集まったりしてるんだよ。中央広場の、昼間、市が出てるとこで見たことあるよ」
「ネコ……ネコ、いっぱいいるの?」
「いるいる。すっごいいる」
 シルビアの話の中程から、ラティナの表情は、かなり上気した興奮気味のものになっている。
「ネコ……ネコっ……」
「さっきからラティナ、『ネコ』しか言わなくなってるけど、大丈夫?」
 冷や汗混じりのクロエの台詞に、シルビアは笑い声をあげたが、ラティナには聞こえてすらいないようであった。

(いっぱいのネコ……っ。虎猫も、白いのも、黒いのもいるかなっ! たくさんいたら、一ぴきくらい、なでたりできるかなっ)
 心は、にゃんこパラダイスに逸っていたのである。


 だが、大きな障害があった。
 時間である。
 ラティナは、ひとり歩きは許可されているが、それは日中に限られている。
 以前--いつもの仲間たちと共に、『聖夜』の夜に魔物見物に行くために--抜け出して怒られたこともあったが、怒られたことよりも、デイルだけでなく、リタやケニスにも『心配をかけた』ことの方が堪えたらしい。それ以後は、勝手に夜遊びをしようとしたことはなかったのだった。
「……ネコ集会見たいの……でも……」
 だが、夜は『踊る虎猫亭』は営業時間中だ。仕事をするリタやケニスに、自分勝手な我が儘で中央広場に行きたいとねだることはできない。
 デイルは毎日帰宅時間が不規則だ。
 その上、疲れて帰って来るデイルに、余計な手間を掛けさせることは出来かねた。ラティナは昔から『大好き』だからこそ、デイルには我が儘が言えないという面を持っていた。

 どこかしょんぼりとして、夕飯を食べるラティナを、大人たちは不思議そうに見ていた。

 その夜、ラティナは夢を見た。
 辺り一面に様々な猫が思い思いに身体を伸ばし、好き勝手に遊びまわる光景だった。
 楽園はここにあったのか、と思った。
 どきどきしながら、茶色の虎模様のふわふわな仔猫に手を伸ばした瞬間に目が覚めた。
 目が覚めてしまうので有れば、もう少しじっと眺めていれば良かったと、布団の中でラティナは思った。
 気がついた時には、枕が涙で濡れていた。


「ラティナに何があった?」
 デイルの突然の台詞であったが、それは『踊る虎猫亭』に集う大人たち一同の共通の認識であった。

 何かぼんやり考えているかと思えば、ふう。とため息をつく。
 悲しげな表情に問いかけても、「何でもないの」と首を振る。
 かと思えば、物思いに耽りながら、楽しそうな微笑みを浮かべてみたりしているのだった。

 ラティナには『前科』がある。
 彼女の異常を察知していながら、後回しにして様子を見た為に、『自ら角を折る』なんてことをしてしまうまで、彼女が追い詰められる結果にしてしまったことを、大人たちは悔いていた。
 今回の『異常』を放置しておく訳にはいかない。

 だからこそ必死に、ラティナの『理由』を聞き出した瞬間--デイルは安堵で、崩れ落ちた。
(可愛い過ぎる……っ!)
「デイル?」
 肩を震わせ、下を見る自分を気遣うラティナの声にも、答えることは出来ない。真面目なラティナには申し訳ないが、笑い転げる自信がある。それも安堵故なのだが。

「……猫が見てぇんなら、夜遊びしなくても、俺ん家の隣が西区でも有名な『猫屋敷』だぞ」
 常連客のジルヴェスターの声に、ラティナが「なんと!」という表情で振り返った。
『ネコ集会』だけでなく、世界にはそんなパラダイスがあるだなんて、まだまだ自分の『世界』は狭いのだと感じ入った。

 我に返ったデイルが顔を上げた時には、ラティナの関心はジルヴェスターの元へと向かってしまっていた。
 出遅れた。
 仕方ねぇなぁと、言いつつ、OKを出して「やっぱりデイルが一番大好きっ!」と、言って貰えるチャンスを逸脱した。
 ハンカチをギリリと噛みたい気分だ。

「ジルさんのお家のお隣さん、ラティナ行くこと出来るかなぁ? ダメかなぁ?」
「隣だからな。それなりに付き合いはある。俺の方から話しておいてやるよ」
「本当っ!? ジルさんありがとうっ!」
 満面の笑みを浮かべるラティナに、礼を言われるジルヴェスターの顔はだらしなく緩んでいる。相好を崩しているという普通の表現を使うことを憚ってしまう程には、凶相のジルヴェスターが浮かべる笑みの威力は凄まじい。

「ゴジョ・シヘスっていう独り暮らしの爺さんでな、海の向こうの島国出身らしい。変わった名前だろう?」
「ん? ジルヴェスター、もう一度、その爺さんの名前聞いて良いか?」
 デイルが聞き返すと、ジルヴェスターは不思議そうにしながらも、繰り返した。
「ゴジョ・シヘスっていう元冒険者の爺さんだよ」
「……もしかしたら、俺、その爺さん知ってるかもしんねぇ」
 記憶を辿った後でデイルがそう呟けば、ジルヴェスターだけでなくケニスも驚いたようであった。
「シヘス老って言えば……俺の上の世代の冒険者なら世話になった奴もいるが……デイルが冒険者になった頃には、完全に引退していただろう」
 ケニスが首を捻るのは、デイルに冒険者としての手解きをしたのが自分自身であるからだ。
「俺の爺さんの葬式に……そんな名前の爺さんが来てたんだよ。俺の爺さん、婿に入る前は剣士として世界を回ってたって聞いたことがあったから、その頃の仲間なのかもしんねぇ」

 デイルの記憶は確かであったらしく、ジルヴェスターが仲介して引き合わされたシヘスという老人は、デイルがティスロウの出身であることを聞くと、

 --はっきりと表情を歪めて叫んだ。
「ヴェンデルガルドの孫だと……っ!」

 老人の様子に、反射的にデイルは頭を下げた。
「すいません。祖母が、その節はご迷惑をおかけしました!」

『どの節』かなど、知ったことではない。だが、間違いなく、あの祖母が何かやらかしたに違いない。何せあの(・ ・)婆さんだ。
 デイルが即座に謝罪に走ったことに、ラティナは驚いて声を無くし、シヘス老は何だか複雑そうな、しょっぱいような顔をした。

「……そ、そうだな。ヴェンデルガルドの孫ということは、ライナルトの孫ということでも、あるのだな」
 そうして、デイルの祖父『ライナルト』の名を呟いたのだった。

 シヘス老は、デイルの祖父ライナルトが、冒険者であった頃のパーティーメンバーであったらしい。
 ヴェン婆も一時期彼らに同行していた為、面識があるのだという。
「婆が、冒険者の真似事をしていたことを聞くのは初めてです」
「ライナルトは剣の腕だけでなく、魔術にも長けていたが、属性の関係で回復魔法の適性がなかった。そこで、回復魔法を得手とする魔法使いを探したのだが……」
「あぁー……」
 ああ見えて、ヴェン婆の有する属性は『天』『水』『地』。魔法を使う技術に長けたティスロウ育ちの彼女は、回復魔法と防御系の魔法のエキスパートであったりするのだ。
「何故、戦闘補助系の魔法を専門にする小娘が、前衛よりも前に出て、魔獣を殴り殺すとかするのだ」
「あぁー……あー……本当、すみません……」

 小柄な若い娘であった、当時のヴェンデルガルドが、自分よりも遥かに巨大な魔獣をフルボッコにする姿。

 腕に覚えのある男連中が心を折られ、若干トラウマになる光景であった。

 孫であるデイルは、自分の祖母のでたらめっぷりを知っている。
 祖母ヴェンデルガルドは『加護』を持っている。『橙の神(コルモゼイ)』一柱だけではあるが、その『加護』はデイルよりも高位のものであった。
 巨体の魔獣を殴り倒すなんていう、常識はずれの行動を可能にしていたのは、その高位の『加護』が成せるわざであった。

 そして、『あの』性格である。

 仲間内で、紅一点であることを覚えていられた者は皆無だ--と、思われていた。

「友人の贔屓目があるとしても……俺から見ても、ライナルトはできた奴だった。色男だったから、相手も選び放題だったろうに……何でよりによってヴェンデルガルドだったんだ?」
「それは、孫の俺から見ても、謎だと思います」

  というか、一族(ティスロウ)の中でも皆が首を傾げる事実であった。
 外部から婿入りしたという『余所者』だった祖父ライナルトではあったが、デイルの記憶にある祖父は、一族の誰からも尊敬され、慕われている人物だった。
 コルネリオ師父が来る前であった故に、一族の子どもたちへの教育役を担い、息子のランドルフや孫のデイルに剣術の手解きをしたのも祖父だった。狩人の集団であり、弓を得意にする一族出身のデイルが、剣を扱う姿が板についているのは祖父の教えがあったが故なのである。

 人格者で、何でも出来る非の打ち所のないひと。ただひとつ残念なのは、あの(・ ・)ヴェンデルガルドの婿だということ。
 --いや、あのひとだからこそ、ヴェンデルガルドさえ受け入れることが出来たのかもしれない--
 当時をよく知るティスロウの年配者たちが、遠い目をして呟く思い出話であった。当時、ヴェン婆と同年代だった一族の男性陣は、全員一致で「無理!」であったらしい。
 --若きヴェンデルガルドが、『外』で冒険者じみたことをしていたのは、婿探しが理由であったことは、孫であるデイルは知らない。


 祖父の昔話を聞いているデイルの前では、ラティナが猫じゃらしを片手に、大きな白猫との距離を詰めようと、じりじりと進んでいた。
 クロイツ西区の高級住宅街に邸宅を構えるだけあって、シヘス老は使用人を幾人も雇う生活をしていた。独り暮らしの無柳を慰める為に飼うたくさんの猫という獣が居ても、部屋の中に荒れた印象はない。
 ラティナはリビングに通されて、のびのびと過ごすたくさんの猫の姿を見た瞬間、はしゃいだ。

 デイルも見たことの無い、はしゃぎっぷりで、ちょっと驚いた。
「ーっ! デイルっ! デイルっ!! ネコ、ネコっ! いっぱいっ!」
 ぴょんぴょん跳びながら、半周回り、台詞に全て感嘆符が付いている勢いだった。
 デイル以上に驚いたのは、部屋の猫たちで、その一瞬でラティナは警戒対象にされてしまった。一部の猫は、即座に部屋から逃げ出した。
(それは悪手だぞ……ラティナ……)
 だが、興奮気味のラティナは冷静に状況を把握することが出来ないらしく、逃げ腰の猫たちを追い詰めるように追いかけてしまった。

 恐らく、普段も上手くいかないが故に、溜まっていた衝動が、抑えきれないのであろう--なんて、デイルは分析してみたりする。

 その結果、完全に猫たちに『危険人物』扱いされてしまったラティナは、なかなか距離を縮め切れずに逃走されていた。
 だが、彼女もそれくらいでは諦めることもなく、何度も挑戦を繰り返している。
 今も、大きな体に似合わぬ機敏な動きで白猫が、ラティナの届かない棚の上へと飛び上がったところだった。
 ラティナががっかりと肩を落とす。

「頑張るラティナも可愛いなぁ」
 そう呟くデイルの膝の上では、黒いぶちのある猫がのんびりと居眠りしている。デイルはその獣をゆったりと撫でながら、どうやってラティナに声を掛けるかを考えていた。
 今の状態のラティナでは、大きな声を出して猫を起こして逃げられてしまうだろう。寝てくれているままならば、ラティナに思う存分撫でさせることが出来るのだから、どうにかラティナを落ち着かせなければならない。

 そんなデイルを、老人は、久しぶりに思い返した古い友人の面影を重ねながら、眺めていた。
 深い皺の刻まれた顔を、穏やかな熱いものに満たされた感情を飲み込むような表情にして、過ぎたかつての時間に、そっと思いを馳せたのだった。
ゲリラ投稿でありました。
二巻の内容は、旅~故郷編でありますが、改めて見て「『娘』ちっさっ!」と思う当方であります。
おっきくなっちゃった現行の『娘』も合わせて、今後も宜しくお願い致します。
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