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うちの娘の為ならば、俺はもしかしたら魔王も倒せるかもしれない 。 作者:CHIROLU
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青年、兄貴分に諭される。(前)

 ケニスの言葉に、驚いた顔をした--と、思った次の瞬間には、デイルは再び苦笑いに表情を戻した。

「何言ってるんだよ……何で、そんなこと……」
「ラティナが大人になったことを認めたら、お前はラティナを『手放さないといけない』……だからだろう」
 デイルは、ケニスのその言葉には、ギクリとしたように表情を強ばらせる。
 ただそれは、ケニスの言葉の本質を理解してというよりも、考えることを避けている現実を、本能的に拒否したという反応に過ぎない。
 それでは、まだ『自分の厄介さ』を、自覚したとはいえない。

  「お前はラティナと過ごす、今の生活を失いたくないんだろう。端から見ていても、ラティナが来てからのお前は、はっきりと『変わった』からな。そう思うのも無理はない」
「そ……そりゃあ、そうだろっ! 可愛いラティナと一緒にいたいってのの、何が悪いんだよ……っ」
 
「あの子が大人になったら……あの子を嫁にしたいって奴は、ごろごろ出てくるだろうな。『魔人族』だっていうことを差し引いても、あの子は性格も容姿も、『並』と比べることも出来ない優良物件だ」
「それも、そうだろ……っ! だから俺は、変な『虫』が付かないように、目を配って……」
「ラティナ()、嫁に行っても良いって奴が現れたら、どうする気だ」
「……っ!」
 はっきりと表情を歪ませて、--それでもデイルは『保護者』らしい(・ ・ ・)言葉を低い声で絞り出した。
「……ぶち殺してやりてぇ気持ちは、あるが……ラティナが望んだなら、そうしてやるさ」

 あの子が幸せになれるならば。
 自分がずっと願っているのは、彼女の幸福なのだから。

「だろうな。お前ならそう言うだろうと思ったさ」
 ケニスはそして、こう続けた。
「あの子が大人になったことを認めたら、必ず『この事』を直視しないといけなくなる。それがお前が『認めたくない』ひとつめの理由だ」

「ひとつめ……って、まだ何か、あるのかよ……」
「リタがあれだけ怒っている理由を考えたことがあるか?」
「んなもん、わかる訳ねぇだろ……」
「リタはずっとラティナの『相談相手』だったからな。俺やお前には聞けないことが、女の子にはあるものだろう」

 成長に伴う身体の変化や、それによって起こること。
 男性相手では聞き難く、聞かれても答えることが出来ない様々なこと。ラティナがそれらを相談する相手は、一番身近な大人の女性であるリタだった。
 リタは、ラティナにとって、ケニスとは異なる立ち位置での『相談相手』なのだ。

 リタは、ラティナが『大人になる』ことを、間近に見てきた。

 幼い頃から自分の『保護者』相手に、恋をしているちいさな少女が、年相応の幼い恋心を抱いていたことも。
 大人になりつつある少女が、自分のその恋心を、無邪気な好意だけのものから、切なく苦しい気持ちを併せ持つものへと、育てている姿にも。
 リタは、ずっと傍で、そんな彼女の成長を見守っていたのだ。

「リタに言わせれば、お前がラティナの恋慕に鈍感なことが、何より許せないんだろうさ」
「だから、それ(・ ・)だって……ケニスやリタの気のせいだって可能性も……」
「俺から見ていても、ラティナがお前にそういう感情を持っているっていうのは、よくわかっていたぞ」
「な……っ」
「俺がはっきり気付いたのは、あの子がお前と『旅』に出て、帰った後位だったがな。リタに言わせれば、もっと前からあの子は、お前にそういう感情を向けていたらしい」
 動揺して、愕然とした表情になっているデイルは、本当にラティナのその様子に、『気付いていなかった』らしい。

「ラティナはお前への恋慕を隠してはいないんだよ。表情も、声も、ひとつひとつの仕草も……あの子がお前へ向けるものは、それほど、はっきりしたものだった。それなのにお前が『気付こうとしないこと』に、リタは怒っている」
「そんなこと言われても……俺は……」
「お前が『気付かない』のは、さっきと同じ理由だ。お前はラティナを『ちいさな子ども』という枠の中に収めている。そういう目であの子のことを『見ている』からだ」

 デイルは、ラティナのことを『可愛いちいさなうちのこ』として見ている。彼女が大人になりつつある今も、『ちいさなラティナというフィルター』を通して彼女を見ている。
 周囲が気付いている程に、明らかなラティナの思慕も、『フィルター』に阻まれたデイルの視野には入らない。

 リタでなくとも、ラティナの想いを知る者からすれば、ひとつやふたつ、詰りたくもなる。
 --恋心に気付かれない、ラティナの切ない表情にも、それを飲み込んだ笑顔にも--デイルが気付こうとしない、少女の健気な様子を、周囲は見てきたのだ。

 何故気付かない! と、リタが、 直情的になるのも、もっともなのであった。

「ここまで言われたら……いくら今の(・ ・)お前でも、ラティナが『反抗期』だなんて馬鹿なことは、言わないだろう」
「でも……だって……俺、は……」
 視線を泳がせながら、途切れ途切れの単語を呟いたデイルは、しばらくして、ようやく意味のある言葉を絞り出した。

「でも、やっぱり、俺にとってのラティナは、『可愛いちいさなラティナ』で……そういう相手には、思えねぇ……から」
 確かにそれも一理はある。まだ彼女は成長途中の少女なのだから。だが、それも『答え』にならないことをケニスは突き付けた。
「あと、数年後には、そんなことは言えなくなるだろうな。その時も、お前はそう言ってられるのか」
「そんなの……なってみなけりゃ、わかんねぇよ」

 ケニスがデイルに『逃げること』を許さないのは、まだデイルが自分の最も厄介な性質を自覚していないからだった。

「何でそんなに、『ラティナの気持ちを受け入れる』ことを、避けるんだ」
「だ、だから……それは、まだ、ラティナが……っ」
「ラティナが『誰かの嫁になって』も、……お前が『誰かを嫁に貰って』も、お前たちの『今の生活』は終わりになる。だが、『お前がラティナを嫁にしてしまえば』、『今と同じような生活』を続けることが出来るだろう」

 端から見ていても、デイルとラティナ二人の生活に、他者が入る余地など無いように思えるのだ。
 二人は互いに精神的にも支え合って、寄り添うことで幸福を分かち合っている。
 それだけでなく、デイルは日々の生活の家事や細々としたことを、当人が意識している以上に、すっかりラティナに依存している。彼女はデイルのことをよく知っているからこそ、当人が望む以上に、甲斐甲斐しく細やかな気遣いをしてみせているのだ。
 食事だってそうだ。ラティナの作る料理は、デイルの好みを良く知った上で作る物だ。
 --正直に言って、デイルが伴侶を求めた時、ラティナ以上に自分の好みを熟知した、快適な生活を整えてくれる女性なんて存在が現れるとは、思えない。デイル自身がそこまでを求めないとしても、『比べられる相手』が、ハイスペック少女であるラティナとなる、その女性の方が嫌がるだろう。
 男女としての相性というものは、それこそ、そうなってみないとわからない。今の段階でどうこう言うものでもなかった。

「今すぐじゃなくても、後、数年たったらそうすれば良い。なのに、何故、そうする可能性(・ ・ ・)を考えようとしない?」
 今のまま、二人で幸福を分け合う生活を続けたいのならば--デイルには、そうするという『選択』もあるのだった。
 すぐさまそういう関係になれとは言わない。だが、『可能性のひとつとして考慮する』位のことはしても良いだろう。
 元よりデイルには、ラティナ以上に『共に居たい』存在もいないのだから。

「だから……これは、『お前の問題』だ。お前が何で昔っから、『特定の相手』を作ろうとしないかは……俺もだいたいは察している。たぶんあの子は、そんな(・ ・ ・)ことは、とっくに覚悟を決めていると、俺は思うぞ」
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