12 快適さの追求
以前、この世界の発展に影響を与えるようなものは持ち込まない、と言ったな? アレは嘘だ!
いやいや、出回らせないよ、流石に。でも、自分で使う分はいいんじゃない? ミツハが突然居なくなっても誰も困らないし、もし見つかっても、あまりの技術の格差に複製どころか解析も出来ず、そのうち朽ちて失われるだろうから問題ない。あと、防犯や身の護りには出し惜しみしない。
出回らせるものには注意して、慎重に検討しよう。自分が突然消えても困らない、その場限りのちょっとした便利品、贅沢品。無くなると残念だけど、そう困りもしないもの。そのせいで職を失う人が出ないように。
それと、あまり偉い人に目をつけられないもの。…これは難しいかな。
でも、ま、なるようになるか。最悪、遠く離れた他の国で最初からやり直すとか、どこかで超高額品を金貨に換えてさっさと逃げ出す、とかいう手もある。あまりやりたくはないけど。できれば、のんびりお気楽に、みんなで楽しくやりながら楽して大儲け、というのが理想なんだけどな。
…そんなうまい話はありませんか、そうですか。
そういうワケで、あちこちから物資の集積です。場所は我が家。幸いと言うのはちょっと辛いけど、って、『幸い』と『辛い』って似てるよね。何て皮肉? いや、それは置いておいて、とにかく駐車場が空いているわけです。クルマ、家族と一緒に昇天しちゃったんで。で、そこに次々と配達の品が。
ホームセンター、量販店、通販、その他。
ガス屋とはプロパンの大きいやつ6本で契約。2本ずつ3組に分けて、カラになったのから交換に回す。うちで使っているようにダミーの配管に繋ぐけど、すぐに王都へ運んで交換する。
ガスはガスレンジ、ガスオーブン、お風呂の給湯に使うけど、こんなに大きなボンベを多数使用するには勿論理由がある。電気、である。
ソーラー発電と大容量蓄電装置も当然用意するけれど、それだけでは『文化的な生活』には不足する。そこで頼りになるのが化学反応式ガス発電である。
ガソリンや軽油の発電機は騒音、危険物である燃料の大量貯蔵、給油の面倒、長時間連続運転時の心配等、デメリットが多い。その点、ガスは楽ちんだ。
そして勿論、ソーラー発電システムと電気エネルギー管制制御システム。色んな発電の電力や蓄電等の制御盤のことね。
ソーラー発電パネルは屋上に置くから目立たない。レンガ造りで屋根ではなく屋上になっているのもあの物件の利点のひとつだ。洗濯物干し場として使われていたらしい。
省電力型液晶テレビにマルチレコーダー、各種ゲーム機器。
いや、これからは生活の中心は異世界で、時間の大半はそちらで過ごすのだから、未視聴の留守録消化やゲームのための機器は必要でしょ。
改修に必要な窓用金属格子、防犯用機材等は順次転移輸送。略称『転送』でいいか。販売用のものは家の中で保管。
あちこちの100均でも色々と買い漁った。銀貨数枚、数千円相当で売れそうなものがたくさんある。いや、モノによっては小金貨以上も行けるかも? 宝の山である。
そして、合間を見て雑貨屋と自宅に貯金穴を造った。
貯金穴。それは治安の悪い雑貨店側と不在が多い自宅、双方に造った「安全なお金の隠し場所」である。
作り方は簡単。まず大きなプラスチック容器と10メートルの塩ビパイプを用意する。床をめくって『縦に細く10メートル、その先に空間』とイメージして転移。転移先に現れる細長い円柱形の土の棒と、その先の土の塊。次にプラスチック容器、塩ビパイプと共に転移で戻る。容器は地中深くの空間に、塩ビパイプは穴に合わせて出現させて、出来上がり。
ある程度金貨が貯まったら床をあけてパイプに金貨を投入、10メートル下に落ちた金貨が立てる澄んだ音をパイプに耳を当てて聞き楽しむ。
これを盗むには、この貯金穴の存在を知り、誰にも見つからない間に10メートルの穴を掘り抜き、その深さから金貨を引き上げる必要がある。家の中で。重機も何も使えずに。
まず不可能である。ミツハならば転送で簡単に取り出せるが。
また、ミツハは自動車学校に通った。今まで免許は原付しか無かったのだ。
むこうで使うなら免許もクルマの登録も要らないが、こちらでの買い出しに使うには必要である。また、給油や整備等にも、免許や登録がないとどうにもならない。必要な投資として、そこはきちんと処理することにした。
今のところ、向こうでクルマや原付を使う予定は全くない。主に日本で使うことになるだろう。むこうで使うには目立ち過ぎ、目を付けられる原因となる。
まぁ、どうしても、という場合には考えよう。
改修工事は試行錯誤を繰り返しながらも比較的順調に進み、雑貨屋の2階に商品の転送も行った。ミツハの居住部分は最上階の3階である。昇降の面倒さよりも安全を優先したのだ。2階には後で色々と仕掛けを施す予定である。
また、屋上には当然のことながら脱出用の縄ばしごや避難器具『オリロー』が設置され、非常用の緊急用品を詰めたリュックが隠される。もし従業員を雇って自分が不在の時に賊が、とか、知られるとマズい者が一緒とかで転移できない事情があったりした時の備えである。
ミツハは、基本的に慎重で心配性、臆病な人間であった。普段はとてもそうは見えないが。
「隊長さん、金貨、どうだった?」
「相変わらず、突然現れるよな、嬢ちゃんは……。ああ、鑑定して貰った。純度90パーセント、今の相場で、手数料込みで1枚当たり208ドルくらいだとさ」
う~んと、日本円にすると25000円くらい? 思ったよりだいぶ安いなぁ。計算が狂ったよ…。
宿や食事の料金とかから考えて、金貨は10万円くらいかと思ったのに。
あ、いや、それもそんなに間違っちゃいないか。感覚が違うだけで。
地球の文明圏での生活は支出が多い。税金、家賃、電気、ガス、水道、交通費、交際費、衣服、食費、教育費、町内会費にその他色々。それに対してむこうは支出の種類が圧倒的に少ない。家がある者は、税と食費、衣服と薪代、あとは酒代とか? とにかく現金支出が少ない。もちろん、その分収入も少ないけど。
4人家族の月収が金貨2枚なら、金貨1枚は日本でいうところの10万円以上の価値があるだろう。ただ単に、その金貨の地球貨幣との交換レートが1枚25000円だというだけで。
それに、物価を比較しても、農作物は日本よりずっと安く、工業製品、服や食器、高級食材や贅沢品は驚くほど高価であり、どこを基準にして比較するかで結果は大きく変わる。
結局、そういった比較は意味がなく、『日本で暮らすなら毎月何十万円、むこうで暮らすなら毎月金貨何枚が必要』というくらいしか言いようがないだろう。
ならば、日本で100年暮らすのに金貨4万枚。向こうで美味いもの飲み食いして着心地の良い服着て灯りともして夜更かしして最新式の便利家財を手に入れて、という、日本なら普通、向こうではかなりの贅沢、をするのに同じく金貨4万枚。合わせて金貨8万枚。よし、これが私の最終目標か!
貯めるぞ、金貨8万枚!
私の、安泰で幸せな老後のために!!
完
ミツハ先生の次回作に御期待下さい。
じゃないよ!
とにかく、向こうでは金貨10万円、小金貨1万円、銀貨1000円、って感覚で考えよう。で、地球との換算レートでは金貨1枚25000円、ということで。完全に分けて考えよう。商品の値付けには気を付けなくちゃ。
販売価格はかなり高く設定する。だけどそれは、仕方無く、だ。あんまり安くするわけには行かないからね。飛ぶように売れててんてこ舞い、他のことは何もする暇がない、なんて生活は勘弁して欲しいから。大きな影響は避けたいしね。
でも、『この値段でも売れるだろう。お前達、ほら、これでも買うんだろ?』という、某マニア向け商法みたいなのはしたくない。そうすれば凄く儲かるのは分かってる。でも、そうすればそれは、もう『山野光波の店』じゃない。そんなことをするくらいなら、各国を回って真珠や人造宝石を超高額で売り抜けて逃げれば良いのだ。変装と偽名や人を使ってやれば、その後どこかでのんびり暮らすことも可能だろう。
でもやらない。
なぜかって?
それじゃ、人生面白くないもの。
お金を増やすのが人生の目的じゃない。
お金は、楽しく人生を過ごすのに必要なだけあれば良いんだよ。
足りないと辛い。だから私は足りるだけのお金を集める。
でも、そのために楽しくなくなれば、本末転倒だ。
だから、余裕があるならのんびり貯めよう。
幸い、偶然手に入った能力のおかげで余裕たっぷり。
じゃあ、みんなにお裾分けでもしながら、のんびり行こうよ。
……但し、邪魔する敵は容赦なく叩き潰すよ。私達の幸せのために。
「…終わったか?」
「え、何が?」
「妄想タイム。今回はだいぶ長かったようだが……」
ごめん。
「よし、行くぞ」
「は~い」
今日はようやくアサルトライフルの実技訓練。
手榴弾はあきらめたよ。後ろに飛んだり、自分が殺傷圏内に入ってたりして、教官やってくれる部隊の人達全員から禁止されたよ。
RPGなんとか、というのに期待しよう。
ミツハ先生の次回作、『RPG22』に御期待下さい。
って、それはもういいって!