挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
老後に備えて異世界で8万枚の金貨を貯めます 作者:FUNA
1/105

01 ミツハ、異世界へ行く

初投稿です。よろしくお願いします。
R15は保険です。
 ミツハ、異世界へ行く


 その少女は、切り立った断崖絶壁の上で古びた木製の柵に手を掛けてぼ~っとしていた。いや、別に自殺とかを考えているわけではない。山野光波(やまのみつは)、18歳。肩胛骨のあたりまで伸ばしたストレートの黒髪に、化粧っ気の全くないすっぴん、152センチメートルと年齢の割にはかなり低めの身長と童顔も相まって、良くて中学生、酷い時には小学生と間違えられることもある小柄な少女である。

 光波は半年前に両親と兄を事故で亡くして突然天涯孤独の身となった。天涯孤独と言っても叔父・叔母以遠の親族はいない訳ではないが、数度しか会ったことがないし、今後二度と会うこともないだろう。
 光波は、葬儀や事後処理を終えるやいなや巻き起こった、両親が遺してくれた自宅や遺産、保険金等を狙った叔父一家の襲撃や、一人暮らしとなった光波の家を溜まり場にしてカネを巻き上げようとした学校の不良共の攻勢をなんとか退けたものの、時間的、精神的な負担は大きく、大学受験に失敗してしまったのだ。

 お兄ちゃんっ子であった光波にとって、両親と共に2つ違いの兄まで一挙に失ったことはあまりにも大きな喪失であり、事後のゴタゴタの間は気が張っていたためかなんとかこなしたものの、その後の落ち込みは酷く、とても勉強に集中できるようなものではなかった。
 そして受験失敗の痛手もある程度落ち着いた光波は、気分転換のため地元のショボい観光地であるここ、見晴らしの良い岬の突端に簡単な木の柵が作られ、コイン投入式の双眼望遠鏡と公衆トイレがあるだけの、通称「見晴らし台」からぼんやりと海を眺めていた。
 平日の昼過ぎという時間帯のせいか、光波の他にいるのは大学生くらいのカップルと老夫婦、それと如何にも頭悪いチャラ男です、と言わんばかりの3人連れの若い男達くらいである。

 光波の学力なら、受験前のトラブルがあったとはいえ行ける大学はいくらでもあった。しかし、両親が残した自宅から通える大学となると1つしかなく、そこはかなりの難関校であった。それでも万全の状態であれば光波には突破できなくはないレベルであったが、最悪の状態での受験ではそれも果たせなかったのだ。
 本来ならば下宿や寮から通う大学も受ける予定であったが、自分ひとりとなった今、両親が建て、家族で住んだ家を放置する気にはなれず、自宅から通えるその1校しか受験しなかったのだ。

(ああ、どうするかなぁ…)

 光波は悩んでいた。来年また大学を受験するか、それともこのまま高卒で就職するか…。
 家のローンは、父が債務者死亡時に残金全額が支払われる保険にはいっていたので全額支払い済み。他に両親がはいっていた普通の生命保険でかなりの金額がはいったとはいえ、大学4年間の学費と生活費、家の維持費その他を考えると、そのかなりの部分を消費する。
 それならばお金は温存してこのまま就職してしまえばどうか。大卒に較べ幾分収入は落ちるかも知れないが、この街で自宅から通えるところにそんな大企業があるわけでもなく、このご時世、大学を出たからといって必ず良い就職先があるわけでもない。どうせ結婚して子供ができたら正社員を続けることは難しいだろうし、それまでの稼ぎの差額より大学4年間の費用とその間に働いたお金のことを考えると、無理して大学に行く必要もないのでは…。
 特にどうしてもこの職業に就きたい、という思いがあるわけでもない光波は、綺麗な海を眺めながらぼんやりと考えていた。

「おいおい、こんなところで学校サボりか?」

 突然後ろからかけられた声に光波が振り返ると、そこには3人の男達が気持ちの悪いニヤニヤ笑いをしながら立っていた。その内のひとり、髪を金髪に染めた二十歳くらいの男が話し掛けてきた。

「どうだい、これからちょっと遊びに行かないか? お兄さん達が面白いところに連れて行ってあげるよ。御飯も奢ってあげるよ」

(ああ、また学校サボった中学生とか思われてるな…)

 光波はうんざりした顔をした。女性は若く見られると嬉しいものだと言われるが、この年齢で中学生に見られても全然嬉しくない。しかし本当の年齢を告げてもナンパの勢いが増すだけだろうから敢えて訂正することもない。まぁ、元々中学生をナンパしようとする時点であまり変わらないかも知れないが。流石に小学生だと思っていて声を掛けてきたとは思えない。と言うか、思いたくない…。
 相手をしたくはないが、後ろは木の柵と崖。仕方ない。

「ううん、もうすぐおとうさんとおかあさんが迎えに来てくれるから…」

 光波はわざと幼い喋り方をしてみた。これで「まだ子供」と思ってくれれば、流石に手出しはしないだろう。それに保護者がすぐ来る、ということになればさっさと消えてくれるだろう、と思ったのだが…。
 金髪の男は、ささっと周りに目をやり保護者らしき者の姿がないことを確認すると、光波に近寄り腕を掴んできた。

「いいから一緒に来るんだよ!」

 残りのふたりもにやにや笑いながら光波に近付いて来た。
 あせって周りを見回すも、若いカップルも老夫婦も面倒事に関わりたくないのか見て見ぬ振りをして動こうとはしていない。
(そうだよね~、関わりたくはないよね~)
 仕方ない。自力で頑張るか。

 光波は見た目はアレだが知能も身体能力も決して低くはない。いざという時の度胸も中々のものである。でないと、遺産狙いの叔父一家や不良連中を手際良く撃退できたりしていない。とりあえず、深く考えるより速く身体が動き、正面の金髪の男の股間を思い切り蹴り上げた。
「………」
 金髪の男は声も無くしゃがみ込んで悶絶する。…あ、倒れた。

「このアマ、何しやがる!」

 残りのふたりが激昂し、典型的な雑魚セリフと共にひとりが光波を突き飛ばした。

「あ……」

 突き飛ばされて身体が当たった木の柵がバキッと嫌な音を立て、身体がふわりと浮くような嫌な感覚がした。
(……って、ええ、ぇぇぇ~~っっ!!)

「ぎゃあああぁぁぁぁぁ~~~~!!!」
(落ちる、落ちる、落ちる、落ちるうぅぅぅ~~~!!
 死にたくない、死にたくない、死にたくないよォォォォォ~~~!!)
 叫び声を上げ、光波は祈った。心の底から。血を吐くほどの思いで。
(死にたくない! 死にたくないよォォォッ!!!)

ブチッ!

ぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁッ!!!

 なにか変な音と、私のじゃない凄い悲鳴が聞こえたような気がして、光波の意識はプツリと途切れた。


「ここは……」
 目が覚めると、森の中だった。
 いやいやいやいやいや、崖から落ちたよね、私! 下、海…と言うか、波打ち際の岩場だったよね! いや、ここが岩場じゃないことに文句はないよ! だって岩場だったら死んでるじゃん、私!

 と、のんきなことを考えているうちに、身体は自動的に立ち上がり手足や胴部に異状がないかを確認していた。
 いや、これって私の癖? 特技? 習慣? よく分からないけど、子供の時からこうなんだよね。頭で考える前に身体が自動的に動くの。他の人とは少し違うみたいなのが気になって以前色々と調べてみたんだけど、よく判らなかった。

 普通、目の前にボールが飛んできたら、とりあえず避けるか掴むよね。その場で悠長に「あ、ボールが飛んで来ているな。どうしようかな。受け止めようかな、避けようかな。右に避けようかな、左に避けようかな」なんてゆっくり考えてから行動したりしないよね?
 でも、買い物をする時に何も考えずに反射的に買ったりはしないよね? これって、時間的に余裕がある時はゆっくり考えてから行動するけど、余裕がない時はとりあえず現在の保有情報を直感的に瞬時に処理・判断して、まぁ、応急対処みたいな感じで反射的に行動する、って感じかなぁ。
 ただ、他の人はそれが単純な肉体動作くらいにしか適用されないそうなんだけど、私の場合、その適用範囲がかなり広いというか、何というか…。まぁ、その、友人達に「あんたは行動したあとにその理由を考える」と言われて、アダ名が「セキハン」…「脊髄反射」の略…って。女の子がセキハンとか呼ばれたら、その、アレかと思われてイヤだっての!

 まぁ、結局、瞬間的にした判断とあとでゆっくり考えた結果って、殆ど変わらないんだよね。多分、本当は人間ってすごく速く考えて判断できるんだと思う。普段ゆっくり考えるのは、自分を納得させるためなんじゃないかなぁ。
 …と、いやいや、そろそろ本当に考えないと。どうやら怪我も無く、身体に異状は無し。ポケットには財布と家の鍵。3年間持ち歩いていた学生証はもう無いんだった。肩にかけていたショルダーバッグもある。中身は折りたたみ傘とティッシュとスーパーのレジ袋だけだけど。いや、色々と役に立つんだよ、レジ袋。
 で、ここはかなりうっそうとした森の中。あまり手入れされている様子はなし。小道らしきものも見当たらず。勿論人影も皆無。…さて、歩くか。考えるのは歩きながらでもできる。

 …疲れた。歩き始めてもう2時間。日も差さない森の中、方位も判らず、適当な方角に進んでいるだけ。それも、木々や岩などを避けつつ歩いているから真っ直ぐ進んでいる保証は全くない。もしかするとグルグルと同じところを回っているだけという可能性も…。
 一応、時々目印みたいなものは付けているけど、再びそれを目にすることもなかった。夜になる前になんとか森を出ないと、どんな危険な動物が居るか分からない。もし夜までに森を出られないなら、木に登って枝の上で寝るか。寝相悪くて落ちたらオシマイだなぁ…。あと、水を見つけないとヤバいかなぁ。小川か泉、湧き水とかないかなぁ。果物でもいいや。

 ……疲れた。歩き始めてもう4時間。道が無いから足場が悪くて歩くのにすごく疲れる。足を痛めそう。そろそろ暗くなってきたし、良さそうな木があったら寝る場所を探そうかな。まともに眠れそうにはないけど、夜に地面を歩き続けるのは自殺行為だろうしなぁ。体力的にも、転倒事故的にも、夜行性の大きなお友達的にも……。

 ………疲れた。夜明けからずっと歩き続けて、もう3時間くらい経ったかな。昨夜は全然眠れなかった。木の枝から落ちるのが怖かったのもあるけど、そもそも敷くものもない固い木の上で寝られるわけがなかった。水も食べ物も見つからず、さっき捻った左足首の痛みが段々酷くなってきた。お腹空いた。喉が渇いた…。

 現状については、昨日から嫌というほど考えた。時間はたっぷりとあったからね。まず、昨日の気を失っていた時間、それほど長くはなく、せいぜい20~30分程度。腕時計で確認した。そんな短時間で移動できるところにこんな広い森はない。そしてそもそも、あの崖から落ちて無傷なんて事はあり得ない。
 結論その1。私はもう死んでいて、ここはあの世。
 結論その2。私は病院で意識不明、夢を見ている。
 結論その3。超常現象に捲き込まれ、遠くに転移した。…いや、私だって不思議小説くらい読むよ!
 …で、できれば、3を希望! 1と2は勘弁して下さい!! なんとか人里に辿り着いて、国内なら警察に、国外ならば大使館を目指そう。

 …………疲れた。森で目覚めてからもう3日目。まぁ、目が覚めたのは午後っぽかったし、今日はまだ朝方だから、正確には1日半くらいしか経っていないんだけど。今まで結局食べ物も水も見つからず、イチかバチかで怪しい植物の葉っぱを数枚口にしただけ。空腹はともかく、喉の渇きが耐え難い。このままだと死んじゃう…。

 昨日に較べ休憩の頻度が増え、ふらつくためか木の根や岩に足を取られて転倒する回数が増えた。もう、腕や足が細かな傷だらけ。左足首の痛みも酷くなる一方。でも移動するのをやめたら絶対死んじゃうから、気力で足を動かし続けた。もう時間感覚も薄れ意識が朦朧としてきた頃、ようやく、小道っぽいものに行き当たった。人ひとりが歩く程度の幅の、少し踏み固められただけの「道かも知れないもの」程度のものに過ぎないが。

(これ、人が歩いた跡だよね。獣道、ってことはないよね? お願い…)

 道らしきものを見つけ緊張の糸が切れたのか、光波はその場にへなへなと座り込むと、そのままパタリと倒れて意識を失った。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ