服を脱がす方法
こんなタイトルだけど、そこまでエッチな話ではないとだけ先に言っておく。
これからするのは、有名な童話。
北風と太陽についてだ。
どちらが強いかで言い争いをしていた北風と太陽は、決着を付ける為に実際に力比べを行う事にした。
方法を提案したのは、果たしてどちらだっただろうか。
「あそこを歩いている旅人の服を脱がせた方が勝ちとしよう」
物語では旅人の性別には触れていないが、きっと女性であったに違いない。
さてこの勝負の結果は良くご存知だと思う。
北風が冷たい風をビュービューと吹き付けると、旅人は飛ばされないように前かがみになり、服をしっかりと押さえつけて一向に脱がせる事が出来なかった。
北風が諦めて太陽と交代すると、ポカポカと暖かな日差しに旅人はあっさりと自分から服を脱ぎ、この勝負は太陽の勝ちとなった。
強引な方法では人は動かないという教訓として、広く知られている物語だ。
実はこの広く知られている部分は物語の後半であるらしい。
最初の勝負は旅人の帽子を脱がせる事だった。
結果はご想像通り、太陽がいくら照り付けても旅人は決して帽子を脱がなかったが、北風の力であっさりと帽子は飛ばされてしまった。
そして二回戦として服の話に続く。
こちらの話の教訓は、状況に合わせて方法を変えろという事だそうだ。
ここまでが、一応世間的に知られている物語である。
しかし疑問に思わないだろうか。
力比べをしていたにも拘らず、互いに一勝一敗で勝負がついていないのだ。
それはなぜか。
きっとそこには理由があったに違いない。
子供には聞かせられない、こんな理由が……。
一勝一敗。
互いに相手の力を認めはしたものの、どちらも自分の方が強いのだと一向に引かない。
そこで二人はもう一度勝負を行うにし、太陽が辺りを見渡してこう言った。
「今度はあそこを一緒に歩いている二人組にしよう」
狙いを付けたのは紳士面した男性と、少々派手な外見の女性だった。
「よし、分かった。だったら今度は、どちらか一方の服だけを脱がすというのはどうだろうか?」
「なるほど、それは面白そうだ」
こうして三度目の勝負が始まった。
最初に動いたのは太陽だった。
日差しを上手くコントロールしながら、女性の側から強く照らす。
作戦が上手くいったのか、女性が上着を脱いだ。太陽はその瞬間を見逃さず、すぐに日差しを弱めて男性が上着を脱ぐのを阻止する事に成功したのだった。
「次は北風さんだよ」
自慢げな太陽に、苦虫を噛み潰したような北風。
絶対に負けられないと、気合を入れて風を吹き付けた。
狙いは女性が脱いだばかりの上着。
作戦は功を奏して、女性の上着は風に煽られて空へと舞い上がった。
「あっ」
間の抜けたような声で男女の視線が空へと向いた。
北風はそれに構う事無く、狙いを上着から二人に移して更に風を吹き付ける。
するとどうだろう。
女性のスカートが捲れあがったのだ。
刹那、男性が、北風が、太陽が、一様に目を見開いた。
――クマさん。
なんと純白のパンツに、可愛らしいクマさんがワンポイントで入られていていたのだ。
派手な外見からは想像できなかった。そのあまりのギャップに時間の流れが止まったかのようだった。
キャッッという可愛らしい悲鳴で我に返った男性が、慌てて自らの上着を脱いで女性に着せた。丈の長い上着でスカートは押さえつけられ、女性は安堵の溜息を吐き出した。
勝負は引き分け。
再び振り出しに戻ったかに思われた。
しかし……。
「北風さん」
「太陽さん」
さっきまでの争いが嘘のように、二人は互いにガッチリと手を取り合ったのだ。
そう、二人はやっと気付いたのである。
どれだけ冷たい風を吹き付けても、厚着をしていては簡単にはスカートは捲れない。
どれだけ暖めて薄着にしても、自分からスカートを捲るような変態はほとんどいない。
しかし二人で力を合わせれば、簡単にスカートが捲れるのだ。
これはどんなに強い力を持っていても、一人だけでは限界があるという教訓である。
因みに、これを機に女性の初心な中身を知った男性が猛アタックをし、めでたく結ばれたのは、また別の話。
このお話しはフィクションであり、派手な女性が実は初心だという事は滅多にありません。