チャコの転生前の小話
チャコ視点です。
「はー!? なにこれ。」
思っても見なかった展開に持っていたコントローラーを思わず投げた。
既にエンディングに入っていたゲームは何も指示を与えなくても、美麗なアニメーションを再生していく。
「これが鋼ちゃんルートのトゥルーエンドだよ。」
ソファに座っていた友人がくすくすと笑いながら、無慈悲な現実を突きつけた。
その明らかに面白がっている声に後ろを振り向いて抗議の声を上げた。
「おかしいよー。こんなのトゥルーエンドじゃない。このキャラ、明らかにヒロインじゃなくて、悪役の方が好きだよねー?」
「うん。私もそう思う。……とりあえずさ、折角エンディングまで来たんだからちゃんと見なよ。」
ぶーぶーと文句を言うと、ほらほらとテレビ画面を指差された。
そこには悪役が消え、喪失感に苛まれているヒロインと復活した攻略対象者の姿が。
そのまま映像が消え、場面転換し二人でショッピングセンターのような所を歩いている。
すると、そこに長い黒髪の女の子が通りかかった。
画面の中の二人は同じタイミングでその女の子を振り返り、同時に小さく溜息をつく。
そして、どちらともなく二人で見つめ合い、そっと微笑んだ。
「……あー。切ない。」
「この二人の顔のスチル見てよ! すごくいいよね。この二人で同じ物を背負って、二人で共有して……。それで、お互いに微笑み合って……。胸がきゅーんってする。」
二人の優しくて柔らかくて……ちょっと切ない笑顔でエンディングは終わった。
このトゥルーエンドのスチルは何度も見てるだろうに、友人が盛り上がっている。
「どう? 鋼ちゃんとヒロインのこの感じもいいでしょ?」
「まあ……幸せは色々だねー……。」
にやにやしている友人を見て、はあと溜息を吐く。
絶対にありえない! と言い切れないのが悲しい。
確かに同じ気持ちを共有できる二人ならこれから寄り添って生きていけるだろう。
そして、その傷もいつかは癒え、そんな日もあったよねって二人は笑い合えるのかもしれない。
「次はどうする? 友孝先輩かな、やっぱり。」
友人がテレビ画面を見ながら、次の攻略対象者の名前を上げる。
これは乙女ゲームだから、一度クリアすれば終わりというわけでなく、たくさんのルートがあるのだ。
「えー。それってこの王子様だよねー。」
友人の持ってきたゲームのパッケージに描かれている褐色の髪のキャラを見る。
説明書にミステリアスな王子様って書かれていたキャラだ。
「……もういい。」
「なんで。」
もうゲームしない、と伸びをすれば、友人がえー、と声を上げた。
その声に適当に首を回しながら答える。
「だって、どうせまたムカムカする感じで終わりそう。これってゲームとしてどうなのー?」
「それがね、いろんなルートをすると、色々と秘密がわかって楽しいんだよ。」
「いやー、いい。この王子を攻略する気がまったく起きないしねー。」
「そっか。」
これ以上このゲームをしたら、何度コントローラーを投げ捨てるかわかったもんじゃない。
そもそもなんで乙女ゲームをしてるんだって話だし。
「ねー。違うゲームするからやろうー。」
ゲームを持ってきてくれた友人じゃない、今は漫画を見てる友人へと声をかける。
すると、いいぜー、やろうやろうとこちらへと寄ってきた。
「明日のハイキング楽しみだねー。」
「ああ。俺は準備万端だ。」
「やー、絶対なんかわすれてるよ。いつもそうだしー。」
友人へ軽口を叩きながら、テレビの下に置いてあるゲームの本体へと近づき、ディスクを取り出す。
それをケースへ戻して、本体には対戦ゲームを入れ、友人へと笑いかけた。
「ま、明日になればわかるよねー。」
イヒヒと笑えば、友人も楽しそうに笑ってくれた。
それにしても、友人がやらせてくれた乙女ゲームは変だったな。
もっと単純に愛を囁いて、ヒロインが幸せになるゲームかと思ったのに。
まさか、ヒロインの友人が悪役で、最後は消えてしまうなんて……。
悪役がかわいそうだなぁとは思うけど、まあ悪役なんだし、それは仕方ない。
でも、あのヒロインはもっと幸せになるべきなんじゃないのかなー。
他にも色々なルートがあるみたいだし、他のルートではこんなちょっと切ないエンディングじゃなくて、本当に心から笑って欲しいな、と思う。
「ここにヒロインがいたらなー。」
幸せにしてあげるのに。




