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シーズン・シリーズ

シーズン・ストーリー 冬の王子様

作者: アワイン

 ここは冬の国。ハリウはセントバーナード犬のリスモと共にまだ幼い娘ヘスティアを連れて、冬の山をおりていました。


「さあ、吹雪が来ないうちに村に戻ろう」


 しんしんと降る雪。ヘスティアは空を覆う雪雲が悲しんでいるように見えました。雪が顔に当たり、冷たくて、思わず目を閉じます。


「ひゃ、冷たい」

「そりゃ、そうだ。さあ、急いで『冬の王子』が来るまで帰るぞ」

「……『冬の王子』」


 代々、ヘスティアの住む村に伝わる伝説『冬の王子』様です。遠い遠い昔、春、夏、秋、冬の国は元々は別れていない一つの王国でした。その王国には、雪のような綺麗な王子様がいました。

 王子様は綺麗な心を持っていて、民から愛されております。

 ある日。一人の魔女が王子様に惚れ、求婚を申し込みました。しかし、王子はそれを拒否。王子様は魔女の邪悪な心を見抜いたていたのです。魔女はそのことを恨み、王子様に不老不死の呪いを掛けました。王子様が呪いを掛けられたことにより、人々は王子様を恐れ、国を離れていきます。

 やがて国は滅び、長く生きた王子様は人の温もりを忘れてしまいます。心が氷のように冷たくなり、冬を司る力を持ってたのです。王子様が冬の力を持ってしまったことにより、冬の国を作ってしまいました。

 時折、吹雪がやって来るのは、王子様が人を拒んでいるからだと言います。


 ヘスティアは『冬の王子様』の話を昔から聞いており、会って聞きたいことがありました。

 冬が好き? と。


「……『冬の王子』様かぁ」

「だけど、それは伝説だぞ。だが、此処に王国があったのは本当らしいが……」


 山奥には王国の名残である城があると、山奥に遭難した人は見たと何度も言っていました。ハリウの仕事は雪山で遭難した人を助ける仕事です。リスモはよく父と共に仕事をしにいっていました。立派なお仕事です。


「でも、王子様にあってみたいな」


 純粋な思いでヘスティアは言うと、ハリウはいい顔をしませんでした。


「物騒なことを言うな。冬の王子に凍らされるぞ?」


 村の大人たちは子供のしつけに昔から、『冬の王子様に凍らされる』と言ってきました。


「大丈夫だよ。冬の王子は、私と同じ冬が好きだと思うもん」


 ヘスティアは冬が好きで、雪遊びをよくしています。ハリウでないしょに天気のいい日に時々、雪山を探検しているときがあります。可愛い娘の言うことに、ハリウは笑いました。


「そうかもしれないな。さあ、急いで村に帰るぞ」


 ヘスティアは頷いて、リスモと父の後を追った──その時です。びゅうっと風が強く吹き始め、風向きが変わりつつありました。吹雪が吹き始めようとしているのです。


「っ! ヘスティア、リスモ! お父さんから離れるな!」


 ハリウの声が響きました。ですが、吹雪は段々と強くなり、世界が真っ白になります。ハリウとリスモの姿が見えなくなったのです。ヘスティアは慌てました。


「お父さん、リスモ!」


 ハリウに向かって声をあげますが、声は聞こえません。ヘスティアは激しい吹雪の中を歩き、お父さんとリスモを探しました。しかし、段々とヘスティアは震え始めます。唇が青くなり、肌が白くなっていきます。このままでは、ヘスティアが危ないです。


「寒い……よ……お父さん……リスモォ」


 ゆっくりと静かに目を閉じてゆきました。




         *   *   *




 シャリシャリと足音。雪に足をつかまれていないような足音。不思議な感じがします。


「……人が居たのか」


 白いマントを着た人物はヘスティアを見て、去ろうとしました。ですが、足を止めて考えはじめました。考え終わり、少女を抱き上げ、吹雪の中を歩いていきます。





         *   *   *




 パチパチ。暖炉の薪がなる音が聞こえます。ヘスティアは目を開けて起き上がると、ふかふかのベッドの上でした。


「えっ?」

「起きたか。小娘」


 ヘスティアは目を向けると、綺麗な男の人がいました。白銀の髪に白に近い肌でアイスブルーの瞳。貴族の服を着ており、王子様に見えました。

 暖炉を焚いているのに、上着を脱いでいました。寒くはないのでしょうか。ヘスティアがいるのは、豪華なお部屋。お城の住人になったように思い、男の人を見ました。


「あなたは?」

「……私か? 私はお前達の言う伝説の冬の王子だ」


 冬の王子様。容姿はまさしく冬の王子様に相応しいです。ヘスティアは驚き、思わず聞きました。


「本当に冬の王子様?」

「嘘だと思うなら、窓の外を見ろ。お前が城に居ることが分かる」


 素っ気なく言われて、ヘスティアは窓の外を覗きました。

 しんしんと降る雪が見え、辺り一面は銀世界が広がっています。窓の下には、広い雪の庭園が有りました。ヘスティアは驚きで目を万丸くします。華やかさは無いですが、広いです。


「嘘は言ってはいないぞ。小娘」


 小娘と言われて、ヘスティアはカチンときました。


「小娘じゃないもん。ヘスティアだもん」

「別にお前の名前は聞いていない」

「王子様の名前は?」

「教えるか」


 ふんとそっぽを向きます。冬の王子様は冷たいです。ヘスティアは頬を膨らませて、聞きました。


「じゃあ、王子様。王子様は不老不死なの?」

「ああ」

「何年生きてるの?」

「千年くらいだろうな」

「おじいちゃんなんだね」

「だろうな」


 素っ気ない答え方にヘスティアは再び顔を膨らませて、質問をし続けます。


「王子様は寒いの苦手? 私は苦手じゃないよ!」

「冬の王子だから、苦手じゃない」

「王子様は冬は好き? 私は好き!」

「だいっきらいだ」


 冬の王子様は即答をしました。ヘスティアはショックを受けてます。冬の王子様は、冬が好きであると思っていたからです。大嫌いである理由がわからないので、聞いてみました。


「何で、冬が嫌いなの?」

「小娘に教える必要は無い」


 一瞬だけ、見せた悲しみの表情。ヘスティアは気にせずに王子様の小娘という言葉に眉を下げます。嫌だと感じたからです。


「小娘じゃないもん。ヘスティアだもん!

ちゃんと名前があるもんっ!」

「ああ、そうか」


 冷たく返して冬の王子様は上着を持ちます。椅子から立ち上がって、ひんやりとした目だ告げます。


「帰れ、小娘。此処はお前の居て良い所じゃない」

「帰り道わからないもん!」

「自分で探せ」


 助けてくれたのに、ばっさりと切り捨て酷いです。冬の王子様の名にあう冬のような冷たさ。その冷たさを目とせずに、ヘスティアは冬の王子様にしがみつきました。冬の王子様はびっくりです。


「っ!」

「私は冬の王子様に会いたくて、冬を好きになったの。なのに、何で冬が嫌いなの? あり得ないよ!」

「冬の王子でも、冬が嫌いになるのがおかしいのか?」

「おかしい!」


 すぐに返ってきたヘスティアの答えに、冬の王子様は驚きを見せました。


「だったら、王子様が冬が好きになるまで、私、諦めないもん!」

「冬を好きになるまで……?」


 王子様は更に驚き、高らかに笑いました。


「ははっ! 私に冬を好きになれと? 馬鹿なことをするな」

「馬鹿なことじゃないもん! 王子様が冬を好きになるまで帰らないもん!」

「帰れ。お前が居て良い場所ではない」

「やだっ!」

「帰れ」

「い、や、だっ!」


 諦めの悪いヘスティア。王子様はしびれを切らせて、鼻で笑いました。


「はっ、無力な小娘が何をできるって言う。やるなら、やってみるんだな」



 こうして、ヘスティアと冬の王子様が冬を好きになるまで、住む事になりました。城の中は凍っており、美術品とシャンデリアも凍っています。廊下も慎重に歩かなければ、滑って転びます。ヘスティアは寝ていた部屋で泊まることになりました。冬の王子様は廊下を歩きながら、少女の強引さに頭を押さえます。


「まったく、子供の相手とは疲れるものだな……」

「お疲れさまぁ」

「お前が言うな」

「ねぇ、王子様は御飯は食べるの? 不老不死だから、要らないの?」


ヘスティアは王子様の言葉を無視し、質問をします。


「……食べるには食べる。不老不死でも、食事が必要だ。食べなければ飢餓で苦しいだけだ」


 質問に答えないと、ヘスティアはしつこく聞いてきます。冬の王子様は答えたくありませんでした。ですが、しつこく聞かれるのは嫌である為、諦めて答えています。


「へぇー、じゃあ、お風呂! お風呂にはいる?」

「……熱いのは苦手だ。だから、普通の風呂は好かん。水風呂がいい」

「何で?」

「……手をさわってみろ」


 王子様は手をヘスティアの前に出します。何気なくさわってみました。手に氷のような冷たさが身に染みます。ヘスティアは思わず手を離し、王子様の顔を見ました。


「冬を身に宿してから、体が氷のように冷たくなった」

「じゃあ、王子様の心は温かいんだ」

「小娘。話を聞いているのか?」

「小娘じゃないもん。だって、手が暖かいと心は冷たくて、手が冷たいと心が暖かいんでしょう?」

「そんなのただの迷信だろ」

「めーしん?」

「理屈に合わない誤った言い伝えと言う意味だ」

「……つまり、嘘ってこと?」

「まあ、迷信は嘘とも言うな。お前がいった話は、嘘かどうかはわからない。だが、私はそうだとは思う」

「じゃあ、私は本当って信じる! 冬の王子様の心は温かいって!」


 ヘスティアはにこっと笑います。笑顔に冬の王子様は虚を突かれて、視線をそらします。


「好きにしろ」





         *   *   *





 城に住み始めたヘスティアは、冬の王子様の家事を手伝っていました。まずは掃除。布を口に巻いて、箒とバケツを持ってうでまくりをします。


「よし、やるぞぉ!」

「いくぞ、小娘」

「小娘じゃないもん。ヘスティアだもん!」


 いつものやり取りをして、冬の王子様は腕をまくります、らヘスティアの部屋の暖炉を片付け始めました。


「ったく、暖気がまだ残っているじゃないか。窓を開けたい」

「王子様、家事できるんだね」

「長生きすると、やりたくない事も覚えてくる」


 王子様は優雅の印象がありますが、冬の王子様はその印象を見事を裏切りました。とっても家庭的です。先ほどの服装は貴族だったが、今は動きやすくするため、シャツとズボン。三角巾にエプロンをつけています。


「家事ができる王子様って、何か変だよね」

「自覚しているから、言うな」


 率直な感想に王子様は炭かきを強く握りしめ、不機嫌に返しました。

 ヘスティアは「はぁい」と返事をして、机と窓を拭きます。王子様が暖炉にある炭を片付け終える。ヘスティアは自分の仕事を終え、王子様と共に炭を運びました。


「んしょ、んしょ」

「手伝いをしなくていいんだが」

「王子様が冬を好きになるまで帰らないもん」

「……家族が心配するぞ」


 その言葉にヘスティアは反応し、静かに黙ります。王子様は目を細めました。


「私が言える義理ではない。だが、帰りたければ、帰れる」

「……だったら、村まで連れてってよ。辺り雪ばかりで道がわからないよ」

「断る。此所は冬の国だ。一年中、冬であることが当たり前だ。道など分かる訳がない」

「だったら、私、王子様が冬を好きになるまで帰らないもん! 冬を好きになったら、村まで連れてってよ!」

「無理だ。帰りたければ、何時でも帰って良い。雪の中で迷子になっても知らん」


 ヘスティアの言葉に、冬の王子様は冷たく切り捨ててしまいました。炭を片付け終えたら、服を着替えます。そして、二人は食堂の調理場にいきました。


「わぁ! 凄い」


 食材庫を開けると、氷の中に食材があります。


「此処に、食材を保管している。野菜を調達しに行く時は、近く村で買い占める。此処の山は自然が豊富だ。狩りや釣りに出れば、肉や魚には困らない」


「へぇー、そうなんだ。でも、そこまでくると王子様じゃないよね。王子様、山の中でも生きていけそうだね!」


 率直な感想に冬の王子は眉を下げて、不機嫌さを露にします。


「……だから、言っただろう。長生きすると、やりたくない事も覚えてくると」

「熊と格闘できそう!」

「誰がするか!」


 熊と格闘する王子様。さすがのヘスティアのボケに、王子様は突っ込みました。




 汗を拭き、王子様はヘスティアに暖かいシチューとパンを出します。調理場はヘスティアにとって、暖かい空間。ですが、冬の王子様にとっては夏場に等しい暑さです。


「食べろ」

「あれ、王子様は?」

「シチューを冷やしてから食べる」


 暖かいものでも、熱く感じるらしいのです。ヘスティアは食事の挨拶をし、シチューをスプーンですくって食べました。


「美味しい!」


  思わず笑顔で口に出すと王子様は反応し、ヘスティアに顔を向けます。


「……本当か?」

「うん、王子様は料理の美味しいよ!」


 純粋に感想を言い、ヘスティアは美味しいそうにシチューを平らげました。平らげたあとに、冬の王子様ににっこりと笑います。その様子を見て、ふっと胸が熱くなるのを感じました。王子様は驚き、胸を押さえます。顔もほかほかとし暖かくなってきました。


「今のは、一体」


 ヘスティアはパンも完食しましたが、王子様の様子がおかしいと気付きました。心配になって、声を掛けます。


「王子様?」

「なんだ」

「……大丈夫? 顔が赤いよ」

「大丈夫だ。お前はさっさと皿を水場に置け」

「はぁい」


 いつものように冷たく言い、ヘスティアは返事をします。皿を片付けながら、王子様は胸に手を当てました。まだ、胸が熱いのでしょう。


「王子様、片付けたよー」


 ヘスティアがやって来て、王子様は頷きます。


「うん! じゃあ、私はお城を探検するー!」

「……滑って転ぶなよ。小娘」

「小娘じゃないもん。ヘスティアだもん!」





        *   *   *





 しばらく冬の王子様と暮らして、ヘスティアは家事を覚えていきます。冬の王子様はあまりにも、城から出ません。

朝日が差し込みヘスティアは身を起こして、あくびをして起きます。寒さに身を震わせながら、服を着替えました。

 いつもの服。寒さに強いヘスティアは寒い廊下を白い息を吐きながら、走りました。調理場で昨夜残ったスープを暖め、パンを用意してます。ヘスティアはその位は出来るのです。

 王子様の部屋の前に来ると、勢いよく扉を開けました。


「おーじさま! 朝だよ!」


 冬の王子様の部屋は暖炉はついていません。その為、氷点下の寒さです。それでも、元気よく挨拶するヘスティア。冬の王子様はベッドに身動きするだけ。ベッドに近付いて、冬の王子様を揺らします。


「おーじさま! 朝だよ、朝だよ! コケコッコーっ!」

「…………」

「コケコッコー!  コケコッコー! ピュウヒョロロー!」

「──ええい、 うるさいっ!」


 がばっとベッドから身を起こし、ヘスティアを怒りました。


「毎回、決まった時間にうるさく起こしに来るな!」

「ええー……」

「ええーじゃない! 何故、毎回毎回、起こしに来る!?」


 王子様の質問にヘスティアはきょとんとします。


「朝御飯を一緒に食べるためだよ?」

「……たったのそれだけで、お前は起こしに来るのか」


 怒りの火がさらに燃え上がります。が、王子様にヘスティアは顔をじっと見て、首を大きく縦にふった。


「うん。だって、御飯を家族と一緒に食べることって当たり前でしょう? ねぇ、王子様。一緒にご飯を食べることって、当たり前じゃないの?」

「なっ」


 王子様は驚き、ヘスティアは悲しい表情をし、頭を下げ謝ります。


「……さっきは、ごめんなさい。迷惑だったら、起こしに来ません」


ヘスティアの悲しみの表情に王子様は戸惑い、頭を撫でました。ヘスティアは驚き、王子様も謝ります。


「……悪い、言いすぎた。今から、起きる。悪いがお前は調理場で待っていてくれ」

「はぁい!」


 ヘスティアは笑顔に戻って、王子様の部屋を出ていきました。



『一緒にご飯を食べることって、当たり前じゃないの?』



 その言葉が深く心に刺さったのです。冬の王子様は長く生きてきた為、孤独でした。不老不死のせいで、友を失い、家族を失い、国を故郷を失いました。冬は静かで嫌いなのです。ひとりぼっちになっていく気がするから、王子様は嫌いになってしまったのです。

 ヘスティアを連れてきたのは、王子様の気紛れ。暇潰しでした。その暇潰しに連れてきた少女が、自分の心にあった暖かさを少しずつ思い出させてくれたのです。


「……前に、胸が熱くなったのは」


 王子様は胸を押さえながら、少女の待つ調理場に向かいます。




 高い所から、お皿をとろうとするヘスティアが見えます。危なっかしく王様子がかわりに取りました。


「あっ、王子様。私がとろうとしたのに!」

「小娘がとれるようなものじゃないだろ」


 お皿を置き、スープを用意しました。王子様がパンをナイフで切ったとき、手に傷ができます。


「っ!」

「王子様、大丈夫!?」


 ヘスティアが来たとき、王子様にできた傷はみるみると塞がっていきました。見られたくないところを見られ、王子様は眉を下にしました。


「……傷が治った?」


 ヘスティアは驚いた後、すぐに目を輝かせました。


「凄い、凄い! 王子様、どうやったの!?」


 王子様はとてもびっくりして、気味悪がらないヘスティアに呆れました。


「どうやったのって……不老不死だから、傷ができても治るんだ」

「あっ、そっか」


 ヘスティアは納得していると、王子様はヘスティアを不思議に思いました。あり得ないものを見たら、普通は気味悪がるのです。冬の王子様はヘスティアを変わっていると思いました。ヘスティアは王子様を見て、笑います。


「じゃあ、熊と格闘できても王子様は勝てるね!」

「誰が格闘するか!」


 またこのやり取り。ヘスティアは熊との格闘をしてほしいようです。




 ご飯を食べ終えたあと、ヘスティアはマフラーと手袋を身に付けて、王子様と共に外に出ました。


「青い空に一面の白だよ。王子様!」

「……何故、外に」


 王子は嫌そうに言い、ヘスティアは鼻唄を歌いながら雪玉を作ります。王子様は冬を操れるので、寒くはありません。王子様は気付かれないように、城に戻ろうとした時でした。

 ぼふっと王子様の頭に雪玉が当たります。振り替えるとヘスティアがにこにこと笑って、雪玉を持っていました。


「小娘。一体何を」

「小娘じゃないもん。ヘスティアだもん!」


 力強く雪玉を王子に投げつけました。しかも、顔です。


「あはは! 王子様に当たった!」


 雪だらけの顔に、ヘスティアは笑いました。可愛い子供のいたずら。大人なら許すはずですが、冬の王子は王子様なので。


「小娘。お前……っ!」


 許すはずがありません。冬の王子様の周りには雪の竜巻が舞います。ヘスティアは不味いとわかって、雪の中から急いで逃げ出しました。


「ご、ごめんなさいぃー!」

「待てぇーっ!」


 ヘスティアの後を王子様は追いかけます。必死でヘスティアは逃げますが、子供と大人の差は埋まらないのです。腕を捕まれ、すぐに捕まりました。


「この小娘が……」

「うぅ、ごめんなさい」


 反省している顔を見て、王子様は腕を離しました。ヘスティアは王子様を見ると、瞳に冷たさはありませんでした。王子様の微かな変化を感じ、ヘスティアは首を横に傾げました。


「……別にそんなに怒っていない。だが、遊んでほしいのなら、普通に言え」

「……うん」

「で、何をしてほしいんだ」


 ヘスティアは驚き、喜びます。


「……えっと、ね。雪だるま!」

「雪だるまか。……少し待ってろ」


 王子は何も無いところに手をかざしました。雪の竜巻が起こり、雪像を作っていきます。長い耳に可愛い姿の兎が出来きました。


「わぁ! 凄い。魔法!?」

「冬の王子だからな。こういうことも出来る。作ったのは雪だるまではないが……」

「じゃあ、あの川を凍らせてみて!」


 ヘスティアが示すのは、雪の中でも流れる川。冬の王子様は息を吐きました。


「……一瞬だけだぞ」


 王子様は手を振りかざすと川が凍り始め、一瞬で川が凍ります。


「凍った、凍った!」


 はしゃいで川を見ていました。自分の力を見て、恐れないヘスティア。王子様は口元に笑みを浮かべていき、ヘスティアは王子様に声をかけました。


「ねぇ、次はペガサスを作って!」

「川を戻してからな」


 指をならすと、川の氷が溶けて消えます。ヘスティアは驚くと、冬の王子は指揮者のように手を振り、雪像を作っていきました。ペガサス、お城、可愛い動物に雪だるま。ヘスティアは興奮し、冬の王子様の目の前でとび跳ねます。


「凄い、凄い! 流石、冬の王子様!」

「……凄いか?」

「うん!」

「そうか」


 王子様が笑うと胸が熱くなりました。王子様は驚き、胸を押さえるとヘスティアがやってきました。


「ねぇねぇ、王子様。手を合わせても良い?」

「……構わないが」


 王子様とヘスティアはお互いの両手を合わしました。王子様の手は氷のように冷たい。しかし、今はひんやりと冷たいぐらいでした。夏の川の水にさわると冷たい。そのくらいの冷たさです。ヘスティアはその変化に気づき、王子様に尋ねます。


「ねぇ、王子様。少し温かくなった?」

「……はっ?」

「だって、前は氷のように冷たかったのに、今は冷たい水のようだよ」

「……なっ!」


 王子様は驚き、再び胸を押さえます。先程の熱さはありませんが、体に温もりを感じました。


「……ねぇ、王子様って、体が冷たいよね? 何で、少し温かくなったの?」


 王子はそっぽを向きます。


「さあな」

「話を誤魔化すの良くないって、お父さんが言ってた」


 ヘスティアの言うことに、王子様は黙り息を吐いて地面に座ると、ヘスティアも隣に座りました。


「王子様?」


 顔を見ると、どこか遠くを王子様は見ています。ヘスティアも遠くを見ると、きれいな山脈と湖が見えました。


「……私が人の温もりを思い出したからだろうな」


 王子様の言葉にヘスティアは首を横に傾げます。


「……人の温もり?」

「小娘。お前は『ありがとう』と言われ、『よくできた』と誉められたら、どう思う?」

「言われたら? ……えっと、ね」


 笑顔でありがとうと言われ、笑顔でよくできたと頭を撫でられる。想像したら、心がぽかぽかと温かくなりました。ヘスティアは笑顔になっていました。


「あのね、心がぽかぽかしてきて、何だか嬉しい!」

「……つまり、私はそれを思い出したと言うことだ」


 ヘスティアの笑顔に王子様もつられて笑う。笑った王子様にヘスティアは「あーっ!」と大きな声を出した。


「王子様。笑った!」

「……あっ」


 見られてしまったことに、王子様の顔は赤くなりました。ヘスティアを見ないように、顔を横に動かしました。


「王子様。何で、顔を見せないの? おーじ様!」


 照れてしまった王子。ヘスティアに顔を見せると恥ずかしいと思うので、意地でも顔を見せないのでした。





        *   *   *




 二人は毎日のように雪遊びをしました。たくさん遊び、疲れる。冬の王子様に変化が現れ、笑うことが多くなりました。いつものように家事をし、遊び、晩ごはんを食べます。

 ある日の夜、王子様は部屋でベッドで本を読んでいむす。コンコンとノックが聞こえ、王子様はベッドから降りて扉を開けました。ヘスティアが枕をもって、泣きそうな表情で王子様を見ています。


「王子様……」

「小娘。どうした」

「……眠れないの」

「眠れないと言う理由だけで、ここまで来たのか」


 王子様は溜め息を吐き、厳しい顔でヘスティアに言いました。


「戻れ、此処はお前の居ていい部屋じゃない」


 王子様の部屋はヘスティアの部屋より寒いです。ヘスティアは寒さで震えています。廊下自体も暖かくありません。ヘスティアは首を横にふり、「嫌だ」と言いました。戻れと言ったのは、ヘスティアの体が冷えることを心配したからです。王子様は仕方なくヘスティアの目の前に来て、しゃがんで顔をみました。


「じゃあ、何があった」

「……怖い夢を見たの」


 枕を顔半分まで埋め、小さな声で話しました。


「お父さんが、私を探して倒れるの。それで、吹雪の中で寝てるの。……お父さんって呼んでも、ヘスティアって呼んでくれないの」


 枕を強く抱き締め、大粒の涙を流しました。家族が亡くなる夢。王子様は家族を亡くす辛さを知っており、優しく頭を撫でました。


「……それは辛かったな」

「……うん」


 涙声で頷き、部屋に招き入れました。

 部屋は寒いです。暖炉に薪をいれ、王子は火をつけます。ヘスティアは王子様の腕の中でおさまりました。ヘスティアが眠って倒れないようにする王子様の気遣い。

 温かい光がヘスティアに当たり、王子様は顔を少し歪めました。暖炉の火はやはり暑いと感じます。同時にヘスティアの体温を感じるので、更に熱く顔に汗をたらしました。

ヘスティアは微笑みました。


「……暖かい」

「そうか」


 二人は黙って、暖炉の火を見ます。王子様はヘスティアを見て、尋ねました。


「お前の家族は父親だけか?」

「……リスモも居るよ」

「母親は?」

「覚えてないの。お母さん、私が物心つく前に星になったって、お父さんが言ってた」

「……そうか」


 王子様は悲しそうに目を伏せ、ヘスティアは王子様に聞きます。


「王子様のお父さんとお母さんは?」

「……私の家族か?」

「うん、お城に誰もいなかったから、王子様のお父さんとお母さん。どこいったのかなって」

「……」


 王子様は静かに窓の外を見ました。ヘスティアも窓の外を見ると、見えたのはぴかぴかと輝く星たちでした。


「……私の家族も星になった」

「星に?」

「ああ、お前の母親も私の家族も、きっと星になって、私を見守っている」


 ヘスティアは空を見ると、ぴかぴかと星が輝いていました。

 私は此処に居るよと、告げるかのように。ヘスティアは冬の王子様の伝説を思い出しました。

 冬の王子様は不老不死。年を取らないで死にません。長く生きているから、父親と母親もすでにいません。ヘスティアは父ハリウに尋ねたことがありました。何で人は亡くなるの、と。ハリウは困りながらも、こう答えました。


【休むためだからだよ。お母さんも精一杯頑張ったから、いっぱい休むんだよ。寂しいけど、お母さんの思い出があるから、お父さんは平気だよ】


 ヘスティアは目に涙をため、言います。


「王子様は疲れてないの?」

「……何がだ」

「だって、いっぱい生きたんでしょ? いっぱい生きたから、疲れてないの?」


 その言葉に王子様は驚き、静かに息を吐いてヘスティアに頷きました。


「……ああ、そうだな。いっぱい生きて、いっぱい寂しい思いをして、いっぱい色んな事を忘れた。感謝すること、誉められて嬉しいと思うこと、楽しいと感じること。今まで、色んな事をわすれていたよ」

「王子様は休まないの?」

「さあな、いつ休むのかは、わからない」

「……王子様には冬を好きになってもらいたいよ。冬を好きになって、いっぱい王子様と遊びたい」

「家族が心配するぞ」

「王子様が冬を好きになるまで、帰らないもん……」

「……」


 王子様の胸が熱くなります。ヘスティアはそれに気付かず、王子様の胸の音を聴き微笑みました。


「ドキドキ、言ってる……」

「当たり前だ。生きているのだからな」


 生きている。王子様にとっては、恨めしい言葉でした。しかし、今は恨めしくありません。ヘスティアのおかげで、生きていることに感謝を思い出したからです。


「……うん」


 瞼をゆっくりとおろし、ヘスティアは夢の世界に旅立ちます。

 冬の王子様ははっとして、暖炉に近づきました。今では、暖炉の火をあまり熱く感じません。自分の変化に驚きました。王子様は、最初はヘスティアを邪魔と思いました。だけど、今は居ないと寂しいと感じています。王子様は柔らかに見つめて、胸の奥から暖かいものが湧いてきます。

 ヘスティアに向けて唇を少し動かします。



「……ヘスティア」



 王子様は名を呼び、ヘスティアの頭を撫でます。優しく、壊れないように。


「ヘスティア」


 名を呼ぶと何とも言えない気持ちになり、冬の王子様は熱くて優しい思いが溢れてきました。王子様ははっとし胸を押さえます。胸がとてもほかほかしてきたのです。胸を中心に体が全体が暖かくなっていきます。

 王子様は静かになって、ヘスティアをゆっくりと床に寝かせました。服を着替え、白いマントを羽織って、ヘスティアに上着を着させて抱き上げます。





         *   *   *





 暖かさを感じ、足音が聞こえました。ヘスティアは少し目を開けます。

 真っ暗な夜空、瞬く星。銀色に輝く雪。誰かに抱き抱えられているなと、ヘスティアは感じました。


「……戯れ言だと思って聞いてくれ」


 優しい王子様の声。ヘスティアは居心地よく頬擦りをしました。


「お前を連れてきたのは、私の気まぐれだ。暇潰しになると思って、連れてきた。小さな命を助けるだとかどうとかを、あの時の私は考えていかなった。あの時、ほっとけばよかったと思ったこともある。お前を城に置いたのも気まぐれで、お前を追い払うのも面倒だった。勝手に出て、凍死すればいいとも考えていた。

最低だろう?  冬の王子は。そんな冬の王子の傍にお前はいてくれた。お前と過ごした日々は、暖かくて楽しかった。……少しだけだが、冬を好きになれたような気がした」


 冬が好きになって、ヘスティアは嬉しく思いました。ですが、ヘスティアはこれを夢だと思っています。ヘスティアは、冬の王子様が何処かに行ってしまうような気がしたのでしょう。冬の王子様には、何処にも行ってほしくありません。ヘスティアは冬の王子様が大好きなのです。


「いかないで……王子様」


 ぽつりと呟きました。

 すると、冬の王子様はふと足を止め、ヘスティアを見ました。ヘスティアはまどろみに入って、幸せそうに微笑んでいます。王子様は息を吐いて、少女の背中を愛しく撫でました。





         *   *   *





 ヘスティアは目を開けました。気が付けば、見慣れた部屋です。自分の家でした。


「目覚めたか! ヘスティア」


覗くようにハリウは娘を見ました。ヘスティアは驚き、起きました。ハリウはヘスティアを強く抱き締めます。


「……お父さん?」

「……長い間、何処に行っていたんだ。お前は村の近くに倒れていたんだぞ?」

「村の近く?」


 ヘスティアは我にかえり、外を見ます。外は雪が降っており、まだ、真っ暗でした。あの時、王子様がヘスティアに話しかけたことは夢ではありません。

 何で村に返しくれたのか、理解したのです。冬を好きになったから、王子様はヘスティアを村に帰してくれました。でも、ヘスティアは王子様とまだ一緒に居たいのです。


「……っ!」


 ベッドから降りて、ヘスティアは家のドアを開けました。


「ヘスティア、何処に行くんだっ!?」


 ハリウの声を聞かずに、ヘスティアは外に出ます。





        *   *   *




 雪が降る中。村の外に出て雪原で王子様を探します。裸足で雪の冷たさを感じなから、大声で王子様を呼びました。



「王子様っ……王子様!」



 何で、村に帰したの。何で、言葉もなしにおいていくの。たくさん聞きたいことがあります。ですが、先にでたのは、悪口でした。



「……っ! 王子さまのばかぁ! 雪男、つめたいやろー、アホ、おたんこなす。私は小娘じゃないもん!

ヘスティアだもんっ! 王子様のバカぁぁぁぁっ!!」


 大声で叫んでみますが、何も帰ってきません。


「……王子様の馬鹿っ」


 寒さに震えて身を縮み、暖をとろうとしました。





         *   *   *





 吹雪が吹き始めました。唇が真っ青になり、眠気を感じます。


「……王子様っ」


 ヘスティアはそのまま眠ろうとした時、足音が聞こえました。顔をあげると白いマントを着た人物がヘスティアを見て、目を見開いています。


「……お前っ!」

「……王子様?」


 王子は駆け寄り、マントをヘスティアにかけ、包み込みました。そして、王子様はヘスティアを抱き締めます。暖かい。心音がドキドキと聴こえ安心します。白い息をはくと、王子様は叱りました。


「お前は、馬鹿か。吹雪の中で歩き回るか!?」


 優しい王子様の声です。ヘスティアはほっとして、気持ちをぼろっと溢しました。


「だって、王子様。私をおいて、何処に行くと思ったから。

会えなくなると思ったから……」

「……っ」


 泣きそうな声に王子様は何も言えなくなります。ヘスティアは王子様の温もりを感じて、微笑みました。


「あったかい」

「……当たり前だ。生きているのだからな」


 白い息を吐き、言葉を吐きました。危ない目に遭っても、ヘスティアは王子様に会いたかったのです。理由は簡単。王子様が大好きだからです。ヘスティアの気持ちに触れて、王子様の体はさらにぽかぽかしていきます。暖かくなっていく王子様なヘスティアは身を寄せます。王子様は少しずつ微笑みを浮かべていきました。


「……もう私に会わせないように吹雪を起こしたのに、意味がないな」


 だんだんと吹雪がおさまり、王子様の顔を見ました。すると、優しく愛しそうに微笑んで、ヘスティアを見ていました。その微笑みにヘスティアの胸はどきどきしました。


「ヘスティア。ありがとう」

「……えっ」

「お前のおかげで、色んな事を思い出した」


 暗い夜空に光がさしました。二人は光の方を見ると、朝日が全てを照らしていきます。眩しくてヘスティアは目を細めると、王子様の姿が少しずつ透けていくのに気が付きました。

 風景に溶け込んでいくように、白い髪も透けていきます。ヘスティアはびっくりしました。


「……王子様?」

「私の不老不死の呪いがとけた」

「えっ、じゃあ!」


 これから、一緒に居られる。そう思い、ヘスティアは嬉しそうな表情になると王子様は言いました。


「お別れだ」

「……おわ……かれ?」


 ヘスティアは表情を無くしていき、王子様は辛そうでした。ヘスティアを村に戻したのは、王子様はヘスティアを悲しませないためでした。


「だから、会わせないようにした。私が目の前で消えないように」

「で、でも、王子様。まだ、暖かいよ?」

「……人の温もり、心の暖かさを思い出すのが呪いを解く鍵だ。春になると雪解けするように、私が消える呪いでもあったのだろう」

「えっ……えっ、じゃあ」

「ヘスティア」


 名を呼ぶとヘスティアは驚くと王子様は優しく笑って、頭を撫でます。


「私はいっぱい生きたから、休むよ。だから、寂しくないように、星になってお前をずっと見守っている」

「……やだっ……やだよっ! 王子様」

「ルカだ」


 王子様はヘスティアに自分の名を言いました。


「ルカ・スノーブライド。それが私の名だ。最後になるが、私の名を呼んでほしい」


 ヘスティアは驚き、口を開いて名を呼びます。


「……ルカ?」

「ああ」


 初めて呼んだ王子さまの名前。ヘスティアは口にします。


「ルカ……ルカ、ルカ、ルカ、ルカッ!」


 名を呼ぶたび、ヘスティアの涙が溢れて止まりません。すがり付いて、思いをぶつけます。


「大好きだから、大好きだからいかないでっ!」

「ああ、私も好きだ。愛してる」


 王子様は満足そうに微笑み、ヘスティアの額にキスをしました。


「ヘスティア」

「やだよ、ルカ。いかないでっ! 私、良い子でいるからいかないでっ!」


 一瞬だけ苦しそうな顔をし、ヘスティアの涙を指でぬぐいます。


「愛を思い出させてくれて」

「いかないでっ!!」


 泣くヘスティアを見て、消えていく王子様。彼は万感の思いを込め、笑いました。


「ありがとう」


 同時に、王子様は朝日の光の中にのまれて静かに消えていきます。残ったのは、ヘスティアと王子様が身を包ませてくれた白いマント。ヘスティアに残った王子様の温もりだけでした。





         *   *   *







 冬の王子様が消えた後、ヘスティアは悲しみました。ですが、前に進むんで生きていくことを決めます。

 王子様と過ごした日々は、人の温もりのありがたさを改めて思い出させてくれます。その後のヘスティアにとって、大きな支えになりました。

 冬の王子様が消えたことにより、冬の国は一年中冬ではなくなり、普通に四季が来る国になったのです。だけど、冬は他の国より寒いので、冬の国と呼ぶのにまだふさわしいのでした。

 冬の日、ヘスティアが雪遊びをするときは、必ず白いマントをつけて遊びます。それは王子様がつけていた白いマントでした。



 



         *   *   *









 時は過ぎ、ヘスティアは十八の綺麗な女性になりました。彼女は冬が来る度、ヘスティアは冬の王子様を思い出すのです。ヘスティアにとって、冬の王子様は初恋の相手で大切な人です。忘れるわけがありません。




 とある冬の日。ヘスティアは買い出しに行っています。王子様の白いマントは今でも大切にしており、肩に掛けてカーディガンの代わりにしていました。

 辺りを見ると、村には雪が積もっており、雪かきをしている人が多くいます。彼女は寒い冬が来るたび、あの日を思い出していました。


「……本当にあの王子様を私は困らせたんだなぁ」


 御飯を食べ、掃除をし、雪遊びをした。全て懐かしい思い出です。ヘスティアは微笑み、真っ直ぐと歩きました。


「大丈夫だよ。王子様。私は元気にやっています。だから」


 空を見あげました。辛い時は空を見つめて、自分を慰めています。冬の王子様が見ていると思ったから、ヘスティア頑張れているのです。だけど、もうここまで。王子様のことを思い続けるのに、お別れをすることに決めました。もう、ヘスティアは大人のですから。感謝の微笑みを浮かべて、空に告げます。


「ちゃんと見守ってね」
















         *   *   *











 歩いていく内に、馬をつれた旅人を見つけました。茶色のフードを被っています。この村に旅人なんて珍しいです。ヘスティアは案内しようと、声をかけました。


「あのすみません。宿を探しているのですか?」

「……」

「えっと、宿はこの先にある角を曲がった所です」

「……」


  返事がありません。ヘスティアは困っていると旅人は震えだし笑いました。くつくつとおかしそうに。その笑い方にヘスティアは見覚えがあるような気がしました。


「……まさか、あの小娘が綺麗な娘になるとはな」

「……えっ?」

「しかも、あの白いマントをまだ大切に持っていたのか。本当に私が好きなんだな」

「えっ?」


 聞いた事のある声。フードを外し顔を見せると、ヘスティアは驚きます。




 何せ、あの日変わらぬ冬の王子様が微笑んでいたのですから。



「……なんで、ここにいるの?」


 あまりの衝撃に、ヘスティアは聞いてしまいました。



「きっと、互いに会いたいという気持ちが強かったからかもな」


 頬を赤くしながら、王子様は述べます。

 会いたい。幼い頃からずっと思っていた気持ち。蓋をしようとしたときに、来るとは思いもよりません。ヘスティアに向かって、冬の王子様は微笑みました。



「それに、いかないでといったお前のせいで休むにも休めなくなった」

「……っ」

「責任をとれ。ヘスティア」


 そう言った途端に、ヘスティアは冬の王子様──ルカを思い切り抱き締めます。ヘスティアは涙を流しながら微笑み、ルカも抱き締め返してあげました。





「ずっと、一緒に居よう。ヘスティア」

「うん、ずっと一緒だよ。ルカ……っ!」





 ──この日、冬の奇跡が起きたのです。







シーズン・ストーリー 冬の王子様

見てくださり、ありがとうございます。寒い冬に書きたかった童話[なのかな…]をあげました。

見所は冬の王子とヘスティアの掛け合いかと思います。

「熊と格闘出来るね!」

「誰がするか!」

出来るけど、しない王子様(笑)

最後はハッピーエンドにしたかったのですが、うまく伝わってればいいなと思います。



ちょっと、ここで解説。

ヘスティアは王子様に憧れています。だから、冬の王子が好きになったんです。実際に冷たくても、王子様は好きです。過ごすなかで王子様の優しさに触れて、更に王子のことが好きになります。


冬の王子は孤独な存在です。ずっと一人ぼっちで過ごして、不老不死と冬の力で恐れられているのですから。人の温もりを忘れていた王子にとって、ヘスティアは太陽。過ごしていくうちに、大きな存在になります。


最後に、冬の王子はヘスティアの元に人間として戻ってきます。冬の力は宿してはいますが、それ以外は普通の人間です。

どうやって帰ってきたかは、言わない方がいいでしょう。(帰ってきた話はすると思いますが)

そのあと、二人がどう過ごすかは、想像におまかせします。


誤字脱字があったら、教えてください


…ここまで長くうざいあとがきと下手なお話を見てくださり、ありがとうございました。

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― 新着の感想 ―
[一言] 可愛らしい交流にほんわかして、最後の再会にほっこりしました。 とても素敵なお話で、面白かったです。
[一言] 雪の王子様が優しくなっていくのが甘くていいです。最後は死んじゃって悲しい結末かと思いきや、ハッピーエンドで安心しました。
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