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王子さまと委員長  作者:塚原 蒔絵
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Side ―王子さま―

 王子さまはいつでもピンチのお姫さまを助けにいく。
 けれど、いつでも準備万端というわけでもない。
 王子さまには王子さまの都合というものがある。
 たとえば、城に行くまでの道端で村人に恋をしてしまったとか。
 王子さまは村人と一緒にいたい。けれど村人は言う。お姫さまを救いに行ってくださいと。
 断ることはできない。
 だって王子さまは王子さまなのだから。
 決められた配役は変わることがない。
 だから、王子さまが村人を愛しても、お姫さまを助けに行って、お姫さまと幸せになる。
 これが王道のストーリー。


「なんで王子さまが恋するのはいつでもお姫さまなんだっ!」
 手にした本を片手に、俺、木島 蓮は力説した。
 目の前にいる中村が食べかけのアンパンをかじったまま、目を丸くしている。
「蓮ちゃん、なに読んでんの?」
「委員長から借りた台本」
 創作劇らしく、どこからか取ってきた台本だと言っていた。
 タイトルが書かれている表紙には、なぜかクマとウサギと姫がいる。
 この台本、クマもウサギも出てこないのに。
「演劇部は手伝わないんじゃなかったのか?」
「それは、そうだけど」
「せっかくのチャンスだったのに、なんで断ったりしたんだ?」
「俺だって断るつもりなんてなかった。けど、気がついたら断ってたんだ!」
 雨の中、せっかくの誘いを俺はむげにした。
 理由? そんなのは聞かないでくれ。
 俺が自分に問いかけたい。どうして断ったりしたんだと。
「もう、その話はいい。それより、この話、なんで王子は姫しか愛さないんだ」
「それが王道だからじゃ、ナインデスカ?」
「他に好きな人ができたらどうするんだ」
「そんなの、モノガタリの中の人に言ったって仕方ないだろ」
 と言って中村は再びパンにかじりついた。
 ここは校舎の屋上。
 出入り口部がちょうど地面から突き出す形をしていて、その壁でできる影の部分は涼しくて快適だ。
 景色も、遠くに見える山、広がる大空で文句なし。
 ここで一緒にいるのが委員長ならなぁとか、思わなくもない。
「蓮さ、いつから三森のこと好きなんだ?」
「さぁ」
「さぁって、好きなんだよな?」
「たぶんな」
「たぶんってお前……」
 中村が呆れたように笑った。
 それに不満を隠さず俺も手にしたパンにかじりつく。
 ウィンナーが小さくて少し損した気分だ。
 ああ、青い空が恨めしい。
 いつから好きだなんて、明確な答えは出せない。
 たぶん、好きなんだろうなぁ、としかいえない。
 だけど、向いてないって自覚してる委員長の仕事を文句いわずにやってるところとか、大人しそうに見えるけど結構押しが強いところとか、黒板消すとき一番上だけ届かないところとか、風吹くと前髪がふわって上がって、そんなどうでもいいことすら可愛いなって思うからもうどうしようもない。
 ……重症だ。
 たぶん好き、じゃなくて重度に好き、かもしれない。
「そうだな、重症だ」
「……中村、なんで俺の心の声に突っ込みを入れるんだ」
 そんなスキルをいつの間に習得したんだ。
「全部もれてるぞ。しかも、今そこに委員長がいた――」
「え、うそ――ったぁ、なんか、なんか頭ぶつけた」
 寝ていたところ、起き上がった瞬間、頭のほうにあった壁の突起物に激突した。
 起き上がって周囲を見渡すけど、委員長の姿はどこにもない。
 隣からはくぐもった笑い声が。
「蓮、お前、面白すぎ」
「笑うなら普通に笑えよ」
「悪い、悪かったって。侘び代わりにいいこと教えてやるよ。委員長、いつも購買部でパン買ってるんだってさ」
 それがなんだっていうんだ、そんなの俺だって知ってる。
 相手の言わんとしていることがわからないので、中村をにらむ。
「ばっかだな。こういうときのセオリーは、昼の混雑時、パンが買えない委員長の代わりに蓮が買って、さりげなく渡す。と、好感度アップ! 女の子は思う、あ、この人カッコいいかも、とか」
 中村は両手を胸前で組み合わせ、キラキラしているつもりなのか、目をぱちぱちとしばたかせている。
 とまぁ、乙女になりきっているやつには悪いんだが、
「このパン、委員長が買ったやつ」
 俺の声に中村がとまる。
「演劇で鍛えてる声を出せるいい場所だって、張り切って俺の分まで注文してくれた」
 あのときはかっこよかったな。
「いつもは大人しくて優等生って感じなのにさ、いきなり通る声で、いちごジャムパンとサンドイッチ、カツサンドとウィンナーロール、牛乳2つください! って」
 言い切った後の委員長はやりきった感が全身に溢れていた。
 笑顔でパンを渡してくれたときとかも、うん、可愛かったし。
「ダメだ、可愛いしか出てこない。いや、カッコいいんだけどな、可愛いんだよ」
「力説するな。わかったから」
 どうして俺は演劇部の手伝いを断ったりしたんだろう。
 手伝いがあればもっと近くにいれるだろうし、話だってできる。
「俺、好きなんだろうなぁ」
 委員長のことが。
「木島くん、好きな人いたんだ」
「そうそう、可愛いんだ」
「そ、っか」
「俺も今まで気づかなくてさ。でもやっぱり考えてみたら俺、いい――」
 待て。
 俺は今、誰と話している?
 これは、中村の声じゃない。
 中村の声はこんなに高くないし、可愛くない。
 見えるのは、トイプードル。
 じゃなくて、いちごジャムパンとサンドイッチを手にした委員長アンド橋本。
「へー、いたんだ、好きな人。だってさ、ちぃ」
 委員長の細い肩を抱きしめるように、委員長の背後から俺を見る橋本。
 その目はにやりって感じだ。
 中村は身の危険をいち早く察したのか、遠くに逃げて手を振っている。
「亜子ちゃん、木島くんだってもてるんだよ。ラブレターもらってたし、この間」
「へー。もててるじゃない、木島くぅん」
「あれ、きちんと返事してあげた?」
「へー、そーだったんだ」
 ああ、涙がでそうだ。
 橋本、にやにや笑うのをやめろ。 
 人が本気で傷付いているのに。
「ちぃは髪の毛短い人が好きだモンねぇ、木島くんはちょっと長すぎかなぁ」
「あっ、亜子ちゃん、なんでそんなこというの。木島くんには関係ないよ」
 関係、ない、ですか。
 そりゃ、そうだろう。
 関係なんて、ないもんな。
 せっかくのチャンスすら棒に振るんじゃ、今後もチャンスなんて訪れるわけがない。
「木島くんは、どんな女の子が好きなの?」
「え? 俺は――」
 委員長みたいなのです、なんて言えないし。
「メガネは? ちぃみたいにあるほうが好き? ないほうが好き?」
「メガネ?」
 委員長ならあったほうが、いや、なくても好みだろうけど。
 橋本とかなら、
「ないほうが好きかな」
 お願いです、もう、退散させてください。
 俺の心が砕ける前に、誰かベッドを用意してくれ。枕を涙で濡らすんだ。
 お友達宣言はもらわなかったけど、委員長が俺を男として見てないのがよぉくわかった。
 よし、だったら、こっちにだって考えがある。
 王子さまだって、好きな女の子を口説くために、きちんと前もって下準備をすべきなんだ。
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