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王子さまと委員長  作者:塚原 蒔絵
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Side ―委員長―

 難しいことなんて、なにもない。
 ただ自分の心に正直になれば、それだけでよかったのに。
 勇気がなかったのと言いわけと涙を残して、わたしは逃げ出した。


 楽しみにしていた臨海合宿。
 その途中で委員長こと、わたし三森 千鶴は高熱を出して倒れました。
 木島くんに迷惑をかけて、中村くんに心配かけて、亜子ちゃんが泣きそうな顔をしてた。
「この馬鹿ちぃ! 一人でどっか行くんじゃないわよ」
 そう言って痛いくらい抱きしめてくれる亜子ちゃん。
 わたしは雨で濡れてたから、濡れるよって言ったんだけど、離してくれなかった。
 頭がぼぉっとする。
 ふらふらする。
 木島くんにお礼を言いたいけど、体が痛い。
「亜子、ちゃん」
「寝てなさい。熱あるから」
「木島くんは?」
「さぁ。雨上がってるし、花火でも見てるんじゃない?」
 女子はクラスの半分が入れる大部屋、その端っこでわたしは寝ていた。
 外は完全に夜の気配。
 この時間からは花火をする予定だったけど、亜子ちゃんはわたしの看病をするっていって残ってくれてた。
 その気持ちはすごく嬉しいけど、逆にいたたまれなくて……
「寝てるだけだから、花火見てきていいよ。中村くんと約束したんじゃ」
「中村なんてあとでいいでしょ」
「でも」
「うだうだ言わない! 迷惑だって思ってるなら黙ってな」
 言葉きつくしかられる。
 ただそれだけのことに涙がにじみそうになった。
 しんとした部屋。
 先生も花火の引率のために外に出ている。
「でもちぃも災難ね。たかがコンタクト入れるだけに時間取られて。迷うわ怪我するわ、ホント、心配でしょうがないわ」
 当たり前のように言われた言葉が、どうしてかすごく悲しくて。 
 コンタクト、入れるのに時間がかかる。
 森で迷ったり、勝手に怪我したり、その所為で誰かに迷惑をかけて。
 耳をふさぎたい衝動にかられたけど、そんなことしたら亜子ちゃんが変に思うから。
「でもよかったじゃない。木島くんに助けてもらえて、役得じゃん」
「……よくないよ」
「え?」
「全然、よくないよ!」
 がばりと起き上がって亜子ちゃんをにらむ。
 視界がゆれるのは、熱の所為なのかな。
「迷惑ばっかり、誰でもできることが人一倍できなくて、いつもいつも、置いてきぼりで」
 頑張ろうとしたとたん、目の前でできる人がさも当然のようにわたしの目標をまたいでいく。
 そのたびに自分はできない人間なんだなって、そう思うことが嫌なのに。
 可愛くないのなんて知ってる。
 亜子ちゃんと並んで、わたしのほうが際立つなんてそんなの絶対にないってわかってる。
「亜子ちゃんはできるからいいよ。美人だし、頭いいし、迷惑だってかけない」
 わたしは、いつだって迷惑をかけて。
 誰かに心配をかけて。
 邪魔者で。
「ちょ、ちぃなに言って」
 亜子ちゃんが戸惑ってる。
 当たり前だよ、こんなこと言ったことない。
 でもずっと思ってた。
 心の中にはずっとあった。
 どす黒い嫉みの気持ちを、憧れに置き換えることで平気を装ってた。
 本当はわたし、すごく嫌な子なんだ。
「迷惑かけてよかったなんて言えない! 亜子ちゃんが迷惑かけても許されるからそんなこと言えるんだよ。わたしそんな風に思えない。亜子ちゃんとわたしは違うの! 一緒にして考えないで! できる人に、最初からいろんなことできる人に、わかったように言われたくない!」
 ダメ。
 こんなの、言っちゃダメ。
 できる人だって、美人だってわかってる。
 それを羨ましく、嫉ましく思うときもあるけど、亜子ちゃんはわたしに――
「亜子ちゃんがいるから、わたし――」
 吐き出す息が熱くて、目の前にいる綺麗な人が憎くて、にらんで、叫んで。
 ひどいことを、言った。
 どうしてこんなことを言うのと、脳は問いかけるけど、口は開いてしまって。
 亜子ちゃんが泣きそうな表情を見せても、わたしは黙らなかった。


 悲しかった。
 亜子ちゃんも頑張ってるって知ってるのに、こんな言葉を言う自分がとても嫌で。
 涙が流れたけど、それはわたしのもの?


 熱がなにもかもを壊していく。
 遠くで打ち上げ花火の音が聞こえている。


「ごめん」


 亜子ちゃんが飛び出していくのが見えた。
 閉まる扉の音は大きくて、その音に驚いた瞬間、目じりからなにかがこぼれ落ちる。
 手のひらに乗ったそれは、わたしが流すべきものじゃなくて、亜子ちゃんのもの。
 自分勝手に流れる涙に、言ってしまった言葉に、後悔をしてももう遅い。 
 瞬きするたびにこぼれる雫はとまらなくて。
 顔が歪む。体が熱い。
 涙で前が見えなくて、でもどうしてか、とても悲しくて。
「……ごめんなさいっ」
 閉じた扉をずっと見続けていた。

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