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  満月ロード 作者:琴哉
第1章
第29話

 
 
 
 治癒魔法が終わったアマシュリは、メッシュの家で休んでいるといいと言ったのだが、どうせ無茶をするのでしょうと、少し怒ったような声でテレパシーが入り、断固としてついてくることを願っていた。
 キーツとヴィンスのみではなく、俺やルーフォン、アマシュリを連れて魔王の城へと足を進めた。
 ヴィンスの姿を見る魔物は、人間がいるからと襲うこともできず、ただ木の陰から睨みつけているだけだった。ルーフォンも、さすがに緊張しているようで、周りを見回しながらも、鞘に収まっている剣から手を離そうとはしていなかった。
 魔物の地を歩きなれている俺やアマシュリにも、少しだけ緊張が走る。
 無言だから余計。

「ごめんルーフォン」
「あ?」
「魔物だって黙ってて」
「…もしかしたらそうなんじゃないかって、何回か考えたことはあったから、それなりの覚悟はできてる」
「…そう、だったんだ? じゃあ、どうして聞かなかったの」
「聞いたって、白を切るだろう」

 鼻で笑うかのように、憎んだ口調のないルーフォンの言葉。ちらりと横目でそれを確認しながら、質問を投げかける。
 それに対しても、ルーフォンは淡々とした口調で、自分の意見を述べた。

「じゃあ、お前が最初に言った、非道なことには入っていないのか」
「人間に対して害はなかった。それに、俺は勇者になりたかったわけではない」
「でも、魔王は倒したいのだろう?」
「それはお前が言っただろう? 魔王を倒したところで別の者がなる。そしたら今よりも悪い状況になるかもしれない。だったら、お前が言う共存の道も考えてみてもいいのかもしれないって」
「…ありがと」
 
 
 
  
 
 励まされた気がした。
 魔物の土地を歩いていて、それで尚且つ魔物に囲まれた中たった一人、人間として歩いているというのに、恐れている様子がない。だからこそ、安心して魔物の土地を歩くことができた。
 魔物払いはヴィンスが行ってくれているというのも、心強かったのかもしれない。
 しばらく歩いたところで、アマシュリが足の疲れを口にはしないものの、感じている様子を見せた。
 実際、ルーフォンもそれなりに疲れては来ているだろう。俺だって疲れてきた。飛んだら早いのにと思いながらも、それは無理だということに気づいている。
 召喚し続けていた狼を、アマシュリのもとへ連れてきて乗せる。最初は遠慮していたものの、にっこりほほ笑むと、ゆっくりと腰をおろしていた。その時、ヴィンスが何かを思い出したかのようにテレパシーを送ってきた。
 内容に焦り、つい足を止めてしまった。

「あ、ごめん俺便所いきてぇ…。立ちションしてくる」
 
 そう言って森のほうへと駆け出して行った。
 誰にも見られないように、ブラインド結界を張り、片手を目の前にかざし、そっと目を閉じ、城を離れる際に行ったコピー作成を行った。
 ヴィンスから連絡が入ったのは、俺がキーツの術にかかった際に、コピーが消滅したとのことだった。登場が早かったのも、反応したシェイルとヴィンスがこちらに向かいかけているところ、ちょうどヴィンスの方に連絡が入った。シェイルを止めて代わりに向かったのだった。
 確かに、下手に気を抜いたらコピーは消える。魔法が掛かってしまった際に、すべてをリセットしてしまったのだろう。変化まで解かなかった自分がすごいと、改めて実感。
 作り上げられた魔王のコピーに、数秒だけかかる変化魔法をかけておいて、そのまま魔王の城へと飛んでいく。少ししてから結界を解き、ルーフォンの元へと戻った。
 
 
 
 それからまたしばらく歩くと、日が昇るころに城へとたどり着いた。
 ユンヒュの存在を思い出し、ヴィンスとアマシュリにその場を任し、ヴィンスに借りた上着を羽織り、フードをかぶって姿をばれないようにし、翼を出して魔物の土地から人間の土地へと飛んで行った。 
 途中で降り、ユンヒュのもとへと走って行き、必死に叩き起して魔王の城へ行くぞと説明を省き、魔物の土地へと入っていく。途中で戻ってきたときのように翼を生やし、重いユンヒュを担ぎながらヴィンスのもとへと戻った。
 その間、魔物だったのかといろいろうるさく言われたが、最初の方でサイレント魔法をかけてやった。いろいろ説明したのち、黙る様子が見られたから、サイレントをはずしてやり、地へと足をつけた。
 状況を何となく、無理やりだが飲み込ませられたユンヒュは、気に食わないようにルーフォンの隣に立ち、門をくぐって行った。
 控えていた兵には、ヴィンスかシェイルからテレパシーが入っていたみたいで、警戒はしているものの、襲いかかるのをグッと我慢していた。
 従順な兵だな。
 そう感心しながらも、兵に囲まれた通路を進んでいく。
 
 魔王の間への通路。左の大きな窓からは、ヴィンスが整えた立派な庭が見える。
 懐かしい。どうしてこんなにも懐かしいのだろうか。暫く来ていなかったから。としか言えないのだが、相当長いことこちらに来ていないような気がした。
 歩き慣れた通路でも、ヴィンスより先を歩かないように、周りを見渡しながら歩き続ける。
 ようやく辿り着いた魔王の間の扉を、ヴィンスは大きくノックを鳴らす。すると、扉が向こうからゆっくりと開かれた。
 シェイルだ。
 さすがにルーフォンもユンヒュも、攻撃態勢に入るかのように、個々の武器をしっかりと握りしめ、体勢を低くした。

「何しにここへ来た。キーツ」
「魔王様を…」
「どうしてくることを許したヴィンス」
「魔王様の御意思により」
 
 冷たく言い放つシェイルは、キーツの返事を聞くことなく、すぐにヴィンスへも問いかけていた。そのあと、また面倒なことをと言わんばかりに、シェイルの目が俺の姿を視界に入れた。
 全てを答えさせてくれなかったキーツは、ギュッと拳を握りしめ、ジッとしていられなかった魔力が、シェイルへと攻撃を仕掛けた。
 寧ろ、今までおとなしくヴィンスに引き摺られていたのが、意外だったのだが、きっとここでの体力を温存するためだろう。
 反撃するシェイルの手が挙がった瞬間、その手を目掛けて俺はドロップキックを喰らわせる。
 まさか俺からの攻撃が入ることを想定していなかったシェイルは、蹴りつけられた手をひっこめ、俺から数歩距離をとった。とりあえずシェイルの相手は俺がしておかなければならないのだろう。
 シェイルという強敵の標的が変わったのをいいことに、キーツは魔王。俺のコピーの元へと走りだした。その瞬間、その間へと向かう一つの白い靄が見えた。
 
 リベリオだ。
 
 魔王様への忠誠心がより強いリベリオが、コピーだと言うことはわかっていても、護らなければならないという使命を感じたのだろう。その反応の良さは素晴らしかった。
 リベリオだという存在がはっきりし、キーツはリベリオと対峙する。
 剣を鞘から抜くルーフォンは、キーツかリベリオ。どちらを斬るつもりかはわからないが、二人の元へと駆け出したが、そこまでの間にヴィンスが通せんぼをする。振り上げていたルーフォンの剣は、ヴィンスが構えた、どこからか見つけ出したかのような、古臭い槍で受け止めた。
 それを援護するかのように、ユンヒュがヴィンスへ向けて魔術を唱え始めるが、その後ろからある女性の魔法を感じ、中断してし、自分の守備態勢へと移る。
 現れたのは、シュンリンだ。
 一つの筋のようにユンヒュへ素早く向かう電撃を、魔術のバリアにて跳ね返す。
 跳ね返された電撃は、狙いを定めることなく、天井のほうに飛び、消えていく。
 ためらっていたアマシュリは、俺からのテレパシー指示により、駆け出してキーツが相手にしているリベリオの足元を狙って走り出し、スライディングで足を引っ掛けてやる。
 反応はしたものの、両足とも避けることができず、片足のみ足首にアマシュリの足がぶつかる。
 その隙を利用し、キーツはリベリオから視界をはずし、魔王のもとへと駆け出す。食い止めようとリベリオが手を出すのを、アマシュリは許さなかった。拘束魔法で伸ばした手を動けないように拘束し、軽く脇腹を蹴り、キーツからできるだけ離れさせた。
 アマシュリ程度の拘束魔法で、完璧にリベリオを止めることはできない。
 魔王に反抗する者を、いくら今まで味方だったからと言って、容赦ないリベリオは、確実にアマシュリを殺すかのような勢いで、魔法を発動しようとする。察したアマシュリは、恐ろしさに身体を動かすことができず、逃げることもできなかった。
 横目で確認した俺は、状況を嫌々察してくれているシェイルと、手合わせ程度にやりあっているふりをし、リベリオにテレパシーを送る。その瞬間、リベリオの手はぴたりと止まり、一度こちらを見なおした。
 頷いて見せると、何か頭の中で葛藤する様子を見せ、渋々首を縦に振った。

(ごめんねリベリオ)
(…魔王様のためなら…しかし、このままじゃ)
(まぁ、ちょっとコピーでキーツと戦うのは厳しいけどね…)
 
 しかも、今までみたいに、精神を移動することはできない。何せここにいる人間は、魔物だとわかっても、魔王だとは気付いていないものばかりだ。それで何より、今必死に動かしているコピーと戦っているキーツだって、勇者である俺が魔王だとは気付いていない。
 コピーの存在と、先入観の効果は偉大なものだ。いまだに声で、魔王だということに気づいていない。
 





 振り上げた剣は、しっかりと古い槍にて食い止められる。
 魔術を使いたいのは山々だが、ヴィンスのスピードに合わせることができない。ときどき魔法を使用してくるのも含めると、こちらはガードに回ることしかできなくなる。
 精神も体力も、もうそろそろ息が上がってくる。
 反面、ヴィンスは子供の姿のように小さい姿にはなっていない。身長は高く、細身だがしっかりついている筋力のせいか、まだ息が上がる様子はない。むしろ、余裕があるように見える。
 確かに、今の状況で勝てるとは思ってはいなかったが、いい戦いはできる自信があった。しかし、今現状をみると、互角に戦うことなんかできやしない。もてあそばれ、すぐに殺されてしまってもおかしくはない。だというのに、余裕を見せ、殺そうとする意思がヴィンスには見られなかった。
 どういうことなのだろうかと、不思議になりながらも、愛用していた剣を力強くヴィンスに向かって振り上げた。その瞬間、受けとめようとする槍ではなく、その槍から手を離し、素早い手つきでヴィンスの手が振り上げた手首をつかまれる。
 速さに追いつけなかった目は、一瞬何が起きているのかを理解させず、ぴたりと体を止めてしまった。
 止められている。それを感じた瞬間、その手首から解放されようと、必死に振り払おうとするものの、その力は一向に衰える様子はなかった。

「くっ…」
「もうそろそろ諦めたらどうだ? ルーフォン」
「…そっちこそ。どうして殺さない!? すぐに殺せるだろう…」
「結構いい腕をしているのは確かだからな。それに、殺すのは魔王の意思ではない」
「え…?」
 
 殺しが魔王の意思ではない。
 それはどういうことなのだろうか。やはり、弱い者をいじめ続ける性格をしているのだろうか。しかし、シレーナとは仲がいい。というより、悪友だと言っていた。すっかり忘れていたが、シレーナと魔王の仲はいったいどのようなものなのだろうか。
 いろいろな疑問点がわきあがり、体から力が抜けてしまう。
 そんな時、不意に奥のほうから叫ぶ声が聞こえてきて、体をぴたりと止めてしまう。

「魔王様!」
 
 



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