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山桜咲くころ
作:晴天



第七章(一) 最後の


卒業式を明日に控えて、村にも少しだけ春の気分が漂って来ました。こうして裏山に登る朝の空気が、赴任当時よりも身体に柔らかい感じです。

「山桜村立 山桜中学校」

僕は、意味もなく朝日に向って叫んでしまいました。
でも、そんな気分なんです。




「コアラ、今日は最後の授業だよ」

教室に入ると黒板にデカデカと「THE LAST LESSON」と書かれている文字を指して茜が言いました。

「そうだね」

僕が山桜中学でする最後の授業であり、山桜中学で行われる最後の授業です。

「最後の授業に相応しいことをしようとずっと考えていたんだけど何も浮かばないんだよ。みんなは何をしたい?」

僕は夕べまで今日の授業でやるべきことを考えていました。『中学の思い出を語る』『友人との思い出を語る』『将来の夢を語る』などなど。
でも、どれもこの村のこの中学の最後の授業としては陳腐で馬鹿馬鹿しい気がしてならないのです。
だって、この中学がなくなっても村の暮らしは変わらず彼らにとって語るべき思い出は、この先のことなのですから。

寂しさは、十分過ぎるほどみんなの胸に詰まっているのに特別な授業なんて思いつくはずがありません。

「コアラ、財宝を探しに行こうよ」

茜が浩太や良太、幸に秘密にしていた財宝のことを話しました。

「村に財宝があるんだ」

浩太が目を輝かせます。

「ある訳ないけど、面白そうな遊びだよね」

良太は相変わらずクールを装いながらも楽しそうです。

「絶対あるよ」

幸は茜の言うことは全て正しいと思っているようでハシャいでいます。

僕は最後の授業として、この四人で財宝を探すことが一番相応しい気がしました。
アース先生が言った大切なものが何なのか分からないけど、この四人と僕が大切なものを探すことが『最後の授業』なんです。

きっと、茜もそう思ったので今まで秘密にしていたこと、『茜とアース先生の大切なもの』をみんなと分け合う気になったのだと思います。

願わくば、茜にとっての大切なものに『僕と茜の財宝探し』が入っていて欲しいと思いました。
あの、山桜の下で二人だけで始めた村の伝説を解き明かす財宝探しが。

僕と茜、そして3人はアース先生が掘り起こしては埋めた5つの穴を一つずつ訪ねて、その場所にまつわる伝説や民話について話をしました。

僕や茜がする昔話に聞き入る浩太、良太そして幸の目には時折美しい涙が光りました。
同じように見えても、素朴で素直な浩太の流す涙と皮肉屋だけど本当は優しい良太の流す涙、そして純粋で甘ったれの幸が流す涙は、きっと違う味がするのだと思います。

最後に、アース先生が掘りかけて怪我のために中断されている穴の前に着いた時に、僕は少し離れたところに見える山桜が2つだけ小さな蕾をつけているのを発見しました。

発見と言うよりも、それは僕に気づかせるように山桜が僕の目の前に現れたような気がしたのです。

僕の目の前は急に白く閉ざされ、白いカーテンの向こうには淡いオレンジの光の点が少しずつ丸く円を描くように大きくなり、眩しさと息苦しさに意識が遠くなって気がつくと大の字に倒れている僕の頭の上には心配そうな4人の顔がありました。

「どうした?大丈夫か」浩太がデカイ声で話かけます。

「大丈夫だよ。すこし眩暈めまいがしたんだ」

立ち上がろうとする僕に良太が手を貸してくれました。

「茜、三つ目の伝説はこの木じゃないよ」

僕は吹雪の時にあった出来事。
裸の女性が僕に教えてくれた悲しい村の伝説が幻聴でも夢でもないことを今はっきりと分かりました。

僕を呼んでいる伝説の山桜に向かいゆっくりと一歩ずつ近づき、茜は僕の左腕に捕まりながら付いてきました。
僕と茜の態度が恐ろしいものに対峙たいじするかのように恐怖と畏敬に満ちているのを感じた三人は、その場に立ちすくみ僕たちの様子を伺っています。

「この山桜の下に村にとって大切なものと、それを守るために埋められた子供を失った母親が居るはずだ」

「・・・・・・」

僕の言葉に茜は無言で左腕を強く握り締めました。

「どうする?掘り起こしてみるか」

僕は掘り起こすべきなのか迷っていました。

「掘ろう」

茜は、それが自分たちの使命であるかのように小さいけど確かな声で言いました。




アース先生が掘っていた穴からシャベルや一輪車を運んで、四人の穴掘り作業が開始しました。夕方になり陽がくれる頃になっても何も出てくる気配はありません。

仕方なく、今日の作業は終了して翌日の卒業式が終わってから改めて作業を開始することとし、僕たちは帰宅することにしました。












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