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山桜咲くころ
作:晴天



第六章(ニ) 春を待って


茜が『一ノ谷高校』を受験する日は、朝から快晴で裏山に登った僕は朝日にむって拍手かしわでを三回打ち合格を祈願しました。
僕が祈願しなくても茜は絶対合格するはずです。



村から『一ノ谷高校』まではバスで40分程ですが、今日は念の為に教育委員会の車を借りて僕が引率することにしました。

「落ち着いてやれば絶対大丈夫だからな」

僕はハンドルを握り締めて慣れない山道を運転しながら茜を励ましました。

「私は大丈夫だけど、コアラの運転の方が大丈夫じゃないよ」

確かに曲がりくねった山道は、車がすれ違うのも怖いぐらいに狭く大雨の時には閉鎖になり村人達は遠回りをして街に出なくてはならなくなります。

「トンネルがあればコアラの運転でも安心して街に行けるのにね」

茜は前に僕が「村のためにしたいこと」を憶えていてくれて、振動に舌を噛みそうになりながら言いました。

「僕が作れなくても、いつか茜が作ればいいよ」

僕は茜なら出来る気がします。財宝がなくても。




試験が終わり校舎から出てくる茜の顔を見た僕は、合格を確証しました。

「四月からは、この校舎に通うんだな」

帰る車の中で考えごとをしている茜の横顔に当たり前の言葉を投げかけました。

「良かったのかな。これで」

めずらしく自分の決断に迷っているようです。でも、これで良かったんだと思えることって意外と少なくて「これでいいんだ」って自分に言いきかせることの方がどれだけ多いことでしょう。

僕には「これで良かったんだよ」と言って少しだけ背中を押してあげることしか出来ません。

「ところで、山桜がなかった穴のことは分かったの」

茜は進路の話は「おしまい」と自分に言うように話題を財宝探しに移しました。



アース先生が掘り起こして埋めた穴は五つで、そのうちの三つには近くに山桜があり、それぞれ悲しい伝説が残っていました。茜の尋ねたのは、それ以外の山桜がない二つの穴のことです。

「確かなことは分からないけど、村のお年寄りの話を纏めると一つは昔、公衆電話があった場所じゃないかと思うんだ。電話技師に失恋した娘が悲しみにくれて死んだことを供養して建てた電話ボックスのあった場所」

「ああ。なるほどね」

茜も電話技師と村長の娘の悲恋話を知っているようで、それ以上の説明を求めませんでした。

「もう一つは、かなり怪しい話だけど浩太の祖先が山桜に化けた狸に身包みはがれた場所じゃないかって」

「ぷっ」

その話も、茜は知っていたようで吹出して笑いました。

「アース先生は、伝説の確証を取っていたことは間違いないね」

茜が名探偵のように顎に手を当てて言うのを見たら、なんだか可笑しくなって二人で爆笑したので吹雪の日の出来事を茜に話すことが出来ませんでした。





受験の終わった翌日から冬の雲が低く村を覆い、今にもまた雪が降りそうな天気です。


僕と茜は財宝探しを再開したかったのですが卒業式の準備も忙しくなり、なかなかじっくりと財宝の話をすることも出来ませんでした。

僕が吹雪の時に出会った裸の女性が語ってくれたことも、時間が経つにつれて朦朧もうろうとした中でみた幻影のような気がしてきました。

山桜中学校の卒業式は今年が最後です。
そして、最後の卒業生は茜ただひとり。
村にとっても最後の卒業式です。


廃校後は防災上の問題から取り壊しが決まっている古い校舎を、村の老人たちが雑巾をもって掃除に来てくれたり、休みの日には村を離れていた卒業生が校舎の写真を撮りにきたりするのを見ると、数ヶ月しか居ない僕でさえも寂しい気持ちになります。

卒業式までは、後1週間です。












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