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闘争の渦【長期休載中】
作:朝倉 由那



βFile.00「壊滅の神槍」


「警告! 魔術師一個師団が目前まで迫っています。………くそっ! こいつはレーダーを無効化してる。シールド使いが一人は確実にいます!」モニターの前で叫びだす賢そうな顔立ちの男。耳にかけた通信機で様々な分隊に現状の報告を急いでいる。
 報告自体は些か以上に危機が迫っている事を現しているが、彼を含め、その場のほとんど全員は慌てていない。
「おい、シールドのカードにはどれだけの魔力を込めればあらゆる干渉をシャットダウンできるんだ?」彼は隣に立つ可憐な少女に尋ねる。と言っても、少女と言うには些か以上に大人びているのだが。
「………最低二万八千五十四」少女が少々考え込みながら答える。
「大した魔術師でもねぇな。せいぜいAA+ってとこだろ」彼は首を鳴らしながら呟く。

 彼の言葉に周りの者は表情を変化させる。ある者は畏怖の表情を浮かべる。ある者は尊敬の眼差し。そして、またある者は嫉妬の視線を。彼はそのように様々な表情を自分に向けられるのは慣れていたため、特に気にかける事もなくモニタを眺める。
「ったく、あそこはエーリンの管轄だろ? また飯でも食いに行くってんのか?」
「彼女は今日非番」
 肩を竦める彼と、淡々と答える彼女。目の前で様々な色で目まぐるしく点滅するモニタは揃って【警告】の文字を表示して、自らを操る人間に迫りくる危機を告げている。
 しかし、誰も行動を起こさない。なぜならば、そこにいるほとんど全員が現在起こっている事態を危機とは感じていないからである。危機とは、自らの命、及び仲間、自らの所属する組織の存在がこの世から消し去られても不思議ではない状況の事である。そこにいる全員にとって、現在はそのいずれにも当てはまらない。

「ヴァレンタインよ。今からでも行けるか?」その場でモニタを見つめる人間の中でも一際高い位置にその席を設けている初老の男性が彼に言葉を投げかける。
「分かりきってる事聞くなよ、国王さん」彼は軽く返事をすると、腰に下げた革製の特殊な入れ物に手を当てる。
「エアーのカードばかりつかってると椎間板ヘルニアになる」それは、足腰を使わないと体に悪いという事なのだろうか。無論、そんな冗談を真に受ける彼でもないし、それを少女もしっかり把握している。
「王国軍率いる【白銀の鬼神】が椎間板ヘルニアなんかで倒れた暁には皇国軍のお偉いさんはぶっ倒れちまうな」
「仮にも【エース オブ ザ カード】の異名を持つんだ。そんな病気じゃ倒れないさ」
 彼の周囲の同僚もそれを分かっているため、冗談を冗談として受け止めている。もはや、現状が一般的に見れば危機的状況であることをその場の全員が忘れ去っている。
「うるせぇよ。俺だってカゼは引くし、怪我もする」彼はその白銀の髪を靡かせながら、背中に下げた得物を抜き放つ。彼のみが操る事のできるとされる強力な宝具、壊滅の神槍・グングニルを。
「それにしても今日はよく喋るな。なんか悪いもんでも食ったか?」
「………今朝の牛乳は賞味期限切れ」
「………腹壊すんじゃねえぞ、レミィ」
 彼らはほんの短い間で互いの意志の疎通を感じる。彼にとっても少女にとっても二人の長い付き合いからすればその一瞬で互いの考えなど簡単に読み取れるのだ。

“空よ、我が存在をその流れに委ね転移させよ!”

「じゃ、行ってくる。………エアー!!」

                    【空】エアー

 その言葉と共に彼の周囲に強力な流れが渦巻き、一陣の風が彼を別座標に転移させた。



「ヴァレンタインさん! 急いでください!! もう皇国軍はそこまで迫ってきています!!」
「到着早々うるせぇよ」彼は、耳元に放たれた不意打ちにクラクラしながら呟いた。王国軍一の魔術師とは言え、鼓膜に直接攻撃を放たれたら一撃必殺レベルのダメージを受けてしまう。
「ですが、既に皇国軍の一般兵は我が軍と戦闘を始めております! 上級魔術師は敵軍の後列で待機しておりますがもうじきに進行を開始するものと思われます!」
「だからうるせぇって」部下の報告する現状を右から左へと聞き流している彼。そんな彼の様子を見ながら部下の方はイライラしている。
「ですが………」
「あ〜、分かった。今すぐやれば良いんだろ?」
 部下の焦り具合に嫌気がさしてきた彼はグングニルを構え腰から紙片を一枚抜き出す。
「敵は広範囲に渡って広がっています! 並なカードではどうしようもないですよ! 何のカードを使うんですか?」

「俺を誰だと思ってるんだよ? まあ見てろって」彼は小さく構えると手に持った紙片を二枚合わせ、槍の穂先に重ねる。
 刹那。グングニルが光を放ち、漆黒に変色した。
二重魔術ダブルマジック!!」

“水よ、全ての願いを精霊、ウェンディーネの名の下に集め、万物を清める清流の流動を呼び出せ!我が同胞を襲いし宿敵を清めの流れで薙ぎ払え!”

 通常では唱える事すら難関とされる超高位魔術の詠唱分を一気に読み解く彼。その域はもはや人のそれを脱しており、異名の【白銀の鬼神】というのもあながち間違いではないのかもしれない。
「くらえ! 一撃必殺!! ウェンディーネ・スプラッシュ!!」

                    【精霊水】ウェンディーヌ・スプラッシュ

 詠唱と共に高まる魔力を紡ぎ合わせ、周囲に放出する。解放された魔力エネルギーは槍の穂先に浮かぶ紙片を通して透き通る水流へと変換された。常人には理解できない程の膨大な力が一瞬で広範囲に広がっていき、水流に込められたエネルギーが圧縮される。
「す、凄いです、ヴァレンタインさん!!」
 上官の発動させた力の膨大さに驚愕し、尊敬の眼差しを向ける一般兵士。その力の強大さは遥か雲の上、と形容してもまだ足りない程の力である。
「………いや」
「へ?」彼の言葉に首を傾げる一般兵。

“万物の因果を断ち切り、我が身体を守護せよ!”

「止められた」彼は槍を構えると、水流の行き先を見る。そこにいたのは一人の少女であった。
「シールド!!」

                    【盾】シールド

 強大なエネルギーが展開され、少女の前に充満する。その力は強固な壁となり、盾として少女を守護する。
「まさか、ヴァレンタインさんの精霊魔術を?」一般兵が驚愕と共に少女を見る。
 少女の展開させたシールドは彼の放った膨大なエネルギーを秘めた水流を真正面から受けて、そして弾き飛ばした。それでも、彼の水流は有り余るエネルギーを周囲に放出し、少女以外の兵を押し流し吹き飛ばしていく。
「ちっ!」彼は槍を構えると跳躍し、少女へと一気に迫る。
「くっ!!」少女は後ろへと跳躍し、槍の一閃を紙一重で避ける。
「遅い!!」彼は回避不可能とも言われる超絶な槍捌きで神速の斬撃を放つ。
二重魔術ダブルマジック、ディフェンス!!」命中、いや、即死は避けられないと判断した少女は紙片を二枚重ね周囲に力を展開させた。

                    【守護】ディフェンス

ガキィィ!!

「!?」彼は自らの目を疑う。彼の持つ宝具、壊滅の神槍グングニルはその名の通り『破壊』と『滅却』を導く神の力を秘めし槍である。半端な防御など熱したナイフをバターに入れるよりも低い抵抗で切り裂く。それを、この少女は止めた。彼が今まで出会った事のないほどの力で。
「二重魔術を無声詠唱、か。………面白い。お前、名前は?」
「……………パトリシア・グランドリオン。あなたは、エドワード・ヴァレンタインね」
 強者の持つ勘が告げていた。生半可な気持ちでは一瞬で殺られると。その勘は強者が強者であるが故の勘であり、幾度にまで重ねた戦闘で磨かれたその直感は外れる事がほとんどない。
「………グランドリオン、行け。いずれまた会おう」彼、エドワードは槍を下ろし、彼女に背中を向ける。その言葉は本物であり、罠ではない。
「そうね。お互い、準備を整えてからやり合いましょうか」少女は紙片をしまうと、彼に背を向ける。お互いに分かっていた。相手てきの言葉が偽りでは無い事を。

「ヴァレンタインさん! どうして逃がしたんですか!?」いきさつを見ていた一般兵が尋ねる。その兵も彼と少女の間に立ちこめた不可視の力になす術がなかったのであるが。
「逃がしたんじゃない。逃がしてもらった。………今の状態なら殺られていたかもしれない」
 彼は振り返る。少女は既に遠くへと転送しており、その姿は無かった。
「ヴァ、ヴァレンタインさんが負けるはずないじゃないですか」
「本当にそう思うのか?」
 彼が追及する。その瞳は本気であり、皇国軍一の戦士が発した勝利以外の言葉を初めて聞いた一般兵は、何も言う事が出来なかった。

「パトリシア・グランドリオン。ルーファウス・グランドリオンの孫か」
 彼は戦場を後にする。既に戦いは終わっていた。彼の放った水流は少女以外の人間全てを薙ぎ払い、その命を奪っていたのだ。



βFile.00「壊滅の神槍」
著者:ユナ・アサクラ


 ということで始まります。魂ヲ喰ライシ者とは違い完全にシリアス一直線です。三人称なのでシリアスにしやすいです。ジャンルはファンタジーでもよかったのですが、戦争を戦略などを通して書こうと思ってるので戦記にさせてもらいました。ですが、内容はあくまでファンタジーです。
 見ての通り、二つの流れを同じ時間軸で追っていきます。今回のように二話同時に投稿したり、片方ずつ投稿したりします。それでは、今後とも応援していただけたら幸いです。











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