第7話:仔牛は何処へ行く
どなどなどなどぉ〜なぁ〜……
あ、あのぅ……なぜこんなことに?
今は家へ向かう電車の中……のはずだったんだけど……。
何故か家とは逆方面へ。
そして隣には鼻歌まじりでルンルンしているLynnさんがいる。
うーん……とりあえず頭の中を整理してみよぅっ!!
「そういえば、浅岡先生はなんでここに?」
あえて教頭先生とのダンスには触れないように私は聞いた。
「決まってるじゃないっ! 私はダンス部の顧問よ? あらあら〜、エミちゃんは入学式の担任紹介は聞いてなかったのかしらぁ?」
浅岡先生は笑顔のまま迫ってきて私の頬っぺたをつんつんと突いた。
……なんだろう、笑顔なのに怒られてる感じが……。
「い、いやぁ、あはは……」
私は言葉を返すことが出来ずにただただ苦笑いを浮かべた。
……まさか、寝てましたとは言えないもんね……。
「それで、どう? ダンス部は気に入ってもらえたかしら?」
そんな私と浅岡先生のやり取りを楽しそうに見ていたLynnさんが口を開いた。
ふふふぅっそんなの決まってるじゃないですかぁっ!!
「「はいっ! とってもっ!」」
私とあずちゃんは声をそろえて言った。
それはよかったわ、とLynnさんはその私達の様子にうんうんと満足げに頷いていた。
「入部届けなんかの手続きはみゆきちゃんに任せるとして……何か、やりたいジャンルとかは決まってるのかしら?」
へっ?? じゃんる?
「え、ええと……私達、ダンス初心者で……ジャンルとか全然わかんないんですけど……やっぱり、未経験じゃダメですか?」
あずちゃんがおずおずと答える。
うー、私も不安だぁ、ドキドキ。
「そぉんなことないわよぉっ♪ 今の部員だって、入部当時に経験者だったのって、boot camperの5人だけよ?」
浅岡先生の言葉に、私とあずちゃんは軽く息を吐き、顔を見合わせて笑った。
「そうね。ジャンルなんかは後々説明すればいいものね。入部するしないは、踊りたいかそうじゃないかだけの問題だもの」
Lynnさんが言う。んー……あ、そうだっ! ジャンルといえばっ!
「ダンスのジャンルって、音楽によって決まってたりするんですかっ?!」
うんっ、これは聞いておかなきゃっ!
私の質問に、Lynnさんはうーん、と少し考えてから、良い質問ね、と言い、話し始めた。
「そうね、厳密にこれはこのダンスじゃなきゃいけないっていうのはないけれど、それぞれの音楽の雰囲気に合ったダンスはあるわね」
ヒップホップにはヒップホップ、ハウスにはハウスに合うダンスがあるわ、と言い、それに浅岡先生が続ける。
「エミちゃんは、何か好きな音楽があるの?」
はいっ! そりゃぁありますよぅっ!
「ファンクが好きですっ! この前知ったばかりだけど、凄くいいですよねっ!」
私がそういうと、浅岡先生はお〜っ! と驚いたような顔をしていて、Lynnさんはというと……
わなわなと震えていた。
……えっ?! なんか変なこと言った、私っ?!
あずちゃんも、急な様子の変化にビクついている。
「……た」
え、な、なんですか?
「……つけた、見つけたわっ! 待ちわびていた原石よっ! みゆきちゃんっ、この子借りるわねっ!!」
ガッ!!
Lynnさんは急に叫んだかと思うと、私の首根っこをつかんでそのまま歩き出した。
えっ? えぇっ?!
あずちゃんがおろおろしている姿が見る見るうちに小さくなっていく。
あ、あ〜ず〜ちゃぁ〜んっ!!
って、全然頭の中整理出来てないよぉっ!!
ガタンゴトンガターンゴトーン……プシュー……
「さぁ、降りるわよっ♪」
再び首根っこをつかまれて引きずられていく私。
ひ、一人で歩けますよぉっ!!
高級住宅街をひたすら突き進むLynnさん。
その足取りはとても軽やかで、それこそ、踊っているかのようだ。
「あ、あのー……どこへ向かってるんでしょうか……?」
私は恐る恐る聞いてみる。
……ふ、不安でしょうがない……。
「あら、言ってなかったかしら? 着いたわよっ♪」
Lynnさんが急に立ち止まる。え……ここ?
「ウチよ」
そこは高級住宅街の一角にあって、一際大きな、いわゆる『豪邸』だった。
ふぇぇぇっ!
「ほらほら、早く中に入りましょ?」
ぐぐっと背中を押されて、私は玄関をくぐった。
「ただいま」
Lynnさんがそう言うと、奥のほうからおかえり、と返ってくる。
少し高いけど、男の人の声だ。
……挨拶しなきゃ失礼だよねっ!!
「おじゃましまぁ……あぁっ!」
「あっ……」
私と声の主は『あ』の口のまま固まった。
見覚えのある、女の子のような顔立ち、さらさらの髪の毛にくりっとした目。
「姫野君?!」
私が驚いて大声をあげると、姫野君は、お、おぉ……と言ってそっぽを向いてしまった。
「何々っ? 二人は知り合い?」
Lynnさんが興味深々に聞いてくる。
「り、Lynnさんっ! 姫野君がいますっ!」
私はあまりの驚きで変なことを口走った。
「そりゃあいるわよ。私の弟だもの」
Lynnさんは当然とばかりに言う。なんでっ?!
「り、Lynnさんの苗字は……?」
「あら、言ってなかったかしら? 姫野よ。姫野凛♪ 凛々しいの凛の字よ」
え……えぇぇぇっ?!
「姉貴……なんで頬月つれて来てんの?」
姫野君は相変わらずそっぽを向いたまま顔を紅潮させて……少し語気を強めた。
……あっ! そうだ、怒らせちゃってるんだった……!!
そんな姫野君の様子に怯むこともなく、凛さんはクスリと笑った。
「あら、気に障った?」
凛さんがそういうと、姫野君はバツが悪そうにそ、そんなことはねぇよ……と言った。
気を使わせちゃったかな?
じゃあ、夕飯の仕度お願いね、と凛さんが姫野君に言い残し、私を2階へと促した。
後ろのほうから、姫野君の叫びが聞こえてくるのを、凛さんはあっさりとスルーし、部屋の中へ。
うわぁっ、すごいっ!!
凛さんの部屋へと足を踏み入れると、そこにはCDやレコードが所狭しと……だけど、とても綺麗に整理されている。
「ふふふ、驚いてもらえたかしら?」
私はあまりの量にただただ首を上下させた。
私の驚きに満足そうに頷き、話し始める。
「エミちゃんは……そっか、ウチの笑と同学年よね。もしかして、同じクラスだったりする?」
凛さんの質問にはい、と答える。
「ただ……」
「ただ?」
「私、姫野君に嫌われてるみたいなんですよねぇ……目も合わせてくれないし……」
私がそういうと、凛さんはあちゃぁ〜っと天を仰いだ。
「笑……不憫な子……」
え、ええっと……私、またなんか変なこと言ったのかな……?
「そういうことなら心配ないわ。私がおまじないをしてあげるっ♪」
そう言いながら凛さんはガサゴソとレコードを漁り始めた。
「えぇっと……何処かしら……あ、あったわ、これよこれっ♪」
そう言って取り出した一枚のCD。
それで、おまじない?
「じゃあ、今からおまじないをかけるから、とりあえずこのヘッドフォンをして?」
私は言われたとおりに、ヘッドフォンをつける。
「今から音楽を流すから、この紙に書く質問に答えてね?」
それに、はぁいっ! と答えると音楽が流れ始めた。
お、音大きいっ!!
ヘッドフォンからの音以外、何も聞こえてこない。
凛さんは何事かを言いながら紙に文字を書いていく。当然、凛さんが何を言っているかは聞こえないけど。
すっごく楽しそうな凛さん。悪戯をしている子供のような目をしていた。
そして、質問の書かれた紙を見せられる。そこにはこう書いてあった。
『カレーはお好き?』
もちろんですっ!! 大好きですよぅ♪
私が正直に答えると凛さんは大笑いをしながらOKサインを私に出した。
……えっ、これだけ?? |