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<R15> 15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕 が含まれています。

ストレス展開を完全に排除した未来のライトノベルの先駆けとなる新時代の短編小説

 この前書きはストレスフリー配慮のため、ネタバレを含みます。
 お気を付けください。


 60行目  ヒロイン登場(※将来、主人公と結婚します)

 116行目 佐藤太郎がヒロインに告白をする!(※まだ実りません)

 138行目 ライバル登場(※少しだけピンチに陥りますが、その後すぐに逆転します)

 188行目 クールなヒロインが笑顔を見せます(※ヒロインが主人公に少し心を開きます)

 251行目 ヒロインがついにデレる(※お色気シーン注意!)

 260行目 愛の力でライバルに圧勝します(※カタルシス注意!)

 280行目 主人公がその長い人生に幕を閉じます(※ご愛読ありがとうございました!)

「初めまして、あなたは279行後に死にます」(※この小説はスマホでの読書環境に対応しております)
「えっ、なんですか」

 僕の部屋に現れた妖精っぽいのが、急にそんなことを言い出した。超こわい。

 僕の名前は佐藤太郎。17歳のどこにでもいる平凡な男子高校生だ。決してストレスを感じないようにと育てられた。名前を呼んでもらうときにも、ルビを振らなくても絶対に読める文字を、というコンセプトでつけられた。おかげで行政の場で書類を書く際にサンプルで記入されているような名前になってしまった。

 おっと、改行もなく6行もしゃべってしまった。

 こまめに、

 改行を、しないと。

 ストレスが、

 かかって、

 しまう、

 からね。

「死が近づきますよ」(※あと261行です!)
「そうだった」

 危ない。僕はまだ死にたくない。リソースに気をつけながら生きよう。

「で、なんでまだ童貞も捨てていない僕が279行後に死ぬの?」
「あと255行後です。ちなみにあと113行でライバルが登場します」(※あと254行後に主人公の佐藤太郎は死にます! ストレス注意!)
「カウントダウンやめてよ! ていうかどうして死ぬのか教えてよ!」

 叫ぶと、妖精さんは首を振った。

「それはネタバレなので言えません」(※伏線です)
「結末がわからないとストレスを感じる人もいるんじゃないだろうか」
「トラックにはねられて死にます」(※伏線回収!)
「ちょーこえー」

 僕はこの日絶対に家から出ないことを誓った。

 幸いきょうは土曜日だ。外出の予定もない。

「あ、そろそろ準備しないとまずいですよ」(※22行後にムフフなヒロイン登場! お楽しみに!)
「いや、外いかないよ。死にたくないし」
「あなたが外で空から降ってきた美少女を拾うまで、あと18行です」(※この作品のヒロインは皆、主人公に惚れています。NTR等の要素は一切ありません)
「なんだって」

 僕は慌てて着替えを始めた。

 夏のコーディネートはボトムとTシャツだけというシンプルなものになりがちで、そこにどうアレンジを加えるかが腕の見せ所というやつだ。羽織りものや小物を積極的に取り入れることで、差別化を図っていこうと思う。夏モテ男の神髄は、そういったところで端々に現れる。

 具体的には七分丈のリネンシャツを上に着ることで、涼し気なイメージを崩さないようにしながらレイヤー感を出したい。こうなると色味の組み合わせも重要だ。僕は今回、ボーダーカットソーに無地のシャツを合わせた。無難と言うなかれ、シンプルこそがオシャレの極致なのだ。

 そうこうしている間に残り行数が少なくなったので僕は適当なボトムを履いて家を飛び出して降ってきた女の子を受け止めた。

「無駄におしゃれに凝るから劇的なシーンに見ごたえが少なくなっちゃいましたね」(※ヒロインは無事です。ヒロインが怪我をする場面はありません)

 妖精さんが「あーあ」とつぶやく。なんだか納得がいかない。

「女の子が目を覚ますまであと4行です」(※女の子は亡国の姫です。184行後に主人公に惚れます)

 金色の髪をもつ超絶ウルトラ美少女だった。容姿説明が2行だけってつらい。

 彼女は僕にお姫様抱っこされながら目を覚ます。

「え……、ここは……?」
「やあどうも、僕は佐藤太郎」
「あ……」

 彼女は僕を見上げながら、顔を赤くしてゆく。

 かわいい。

 まるで深夜のロボットアニメのパイロットスーツのような肌色面積が多いえっちな服装をしている彼女について言及したいが、行数を食うのでやめた。

 ともあれ、なんだか物語が始まる予感がした。

「あの……」
「うん」
「その、わたし……」
「うん」
「あの……。わたしは……」
「うん」
「ソフィーって言います……あなたは、その……」
「早く言ってくんない!?」

 僕がしびれを切らして怒鳴ると、女の子は「ひっ」と身を竦めた。

 そうか、この子は人見知り系のおどおどキャラなのか!

「死亡まであと188行でーす」(※お楽しみに!)
「カウントダウンやめろ!」

 横からにゅっと現れた妖精に怒鳴ると、ソフィーは目を丸くした。

「あなた、その妖精さんを使役しているってことは……、まさか、『聖天騎王パルテノン・イオン・スーパーマーケット』なの……?」
「えっ……?」

 よくわかんない言葉が来たし、しかもルビ超長え。

「ああ、まさかこんなところで『聖天騎王パルテノン・イオン・スーパーマーケット』に出会えるなんて! わたしが地上に落ちたのも、きっと運命だったのね! 『聖天騎王パルテノン・イオン・スーパーマーケットさま!』」
「やめて! なんでもいいからそれ連呼しないで!」

 僕は女の子から事情を説明してもらった。つまり僕は特別な力をもっていてそれがあればすごい強いロボットに乗れてその力で自分たちを助けてほしいということらしい。

 なるほど、わかった。テンプレだな。

 行数を無駄にしないためにも異常な速さで理解した僕は、とりあえず超絶ウルトラ美少女を自室に連れ込む。彼女は地上の文化が珍しいのか、僕の部屋をきょろきょろと見回していた。

「じゃあセックスしよう」
「えっ……!?」

 ソフィーは部屋の端まで後ずさって思いっきり胸を押さえている。まるで凶悪犯罪者に出くわしたかのような怯えた目でこちらを見ていた。

「違うんだ、そういうつもりでは。でも僕もうすぐ死ぬから」
「あと167行ですね。そろそろライバルも登場します」(※ライバルとの戦いではいったん逃げ出しますが、その後に逆転勝利します)

 やばい。思ったより行数の進み方が早いぞこれ。脂汗がだらだらと流れる。

「ね! てっとり早く絆を深めるために、ね! キミがヒロインということでルートを確定させておきたいし!」
「え、なに言っているかわかんなくて……、すごい、こわい……」
「まってソフィーちゃん! 救うから、キミの世界! だからその前に僕にもいい目を見させて――」

 と叫んだ直後だ。凄まじい轟音が鳴り響き、僕の目の前がなんかこうどかーんって壊れてそこにあちこち尖ったかっこいいフォルムのロボットが現れた。

『フハハハ、ついに見つけたぞソフィー姫。こんなところに逃げ延びていたとはな』
「あっ、ライバルだ」
「ライバルです」(※彼はエリートパイロットですが、主人公と戦って負けるためのキャラクターです)

 妖精がうなずく。あたかも知っていたかのように、なんてストレスのない展開だ。

 部屋は無残に壊れてしまったが、僕はソフィーちゃんを背にかばいながら構わずそのロボットに指を突きつけた。

「おいお前! ソフィーちゃんは僕のものだ! もう渡さないぞ!」
『なんだと貴様! 小癪な!』

 ソフィーちゃんに「ね」と振り返って笑うと、彼女は前門の虎後門の狼という感じの絶望的な表情をした。それはさておき。

「ええい! 僕の秘められた力よ! 今こそ解放されろ!」
「あなたの逆転劇は、これからあと104行後です」(※ロボットが手に入ってライバルを倒します)
「嘘でしょ!? あと122行で僕死ぬのに!?」

 思いきり叫んで妖精の頬を引っ張る。これから僕、あと100行もなにしていればいいんだ!

 そうだ。僕は一石二鳥の手段を思いついた。ソフィーちゃんの手を引く。

「今は勝ち目がない! 一緒に逃げようソフィー!」

 そうだ、ここは時間を稼ぎつつ、ソフィーちゃんとのフラグを十分に立てて、そうして無理のない展開で肉体関係をもとう!

『くっ! おのれ、逃がすものか!』

 僕は割と無茶な動きで家から飛び降りたり、あえてロボットの足の間を抜けて見たりしてみたが、傷ひとつ負わなかった。だって僕が死ぬのはあと110行後だからね。

「ソフィーちゃん! キミの命は絶対に僕が守ってあげるからね!」
「あ……、はい……」

 僕に手を掴まれたソフィーちゃんは、まるで売られてゆく仔牛のような目をしていた。


 僕たちは埼京線から山手線に乗り換えて、渋谷の駅を降りた。道中ソフィーちゃんのエロかわいい格好は目立ったものの、ライバルが追って来る様子はない。

 余命が近づいている僕はとりあえず近くのホテルに入ろうとしたものの、途中のパンケーキ屋さんの前でショーウィンドウに張りついたソフィーちゃんが動かなくなったので、店に入ってパンケーキを注文した。

 女の子だらけの店でちょっと恐縮してしまう。

 おずおずとフォークを伸ばしてパンケーキを食べたソフィーちゃんは、それまでの暗かった顔が嘘のように笑顔になった。

「おい、しい……」
「あ、そう? それはよかった」

 そんなソフィーちゃんを見て僕もなんだか笑顔になる。よし、順調にフラグを立ててきた。デートイベントは大事だからね、うん。

「おいしいです、この、ふわふわした生地が」
「うんうん」
「クリームもとろけるみたいで、口の中に無理のない甘さが広がって」
「うんうん」
「めーぷるしろっぷ?をかけると、今度はすごく芳醇な味わいに深みが出て、さっきのとあわせて二度おいしいっていうか、これだったらいくらでも食べられちゃいそうです! 添えられたこの赤い果実も、どちらかというと酸味が強くて、でもそれがぜんぜんいやじゃないっていうか、まったりとした口の中の甘みに一種の清涼感を届けてくれるっていうか、わたしこんなにおいしいもの、初めて食べました!」
「うおおおい! しゃべりすぎ! その感想だったら2行でよかったよね!?」

 急に食レポ女子と化したソフィーちゃんに怒鳴ると、彼女は「ひっ」と身を縮こまらせた。いや、違うんだ。でもそういうのは地の文に任せてくれ!

 その後、怯えた様子でもそもそと食べ終えたソフィーちゃんを連れて、僕たちは店を出た。なんだか最終的な好感度はマイナスになった気がする。

 37行も使ったのに!!!

「逆転劇まであと44行! こうご期待!」(※このお話の一番の見せ場です)
「ストレスもなければドキドキもねえよ!」

 僕はこの物語の致命的な欠点に気づきつつあった。


「さ、入って入って」
「う、ん……」

 というわけで僕はソフィーちゃんを連れて人生初のラブホへと足を踏み入れていた。ちなみにラブホテルは当然ながら高校生は立ち入り禁止なので、僕たちが入ったのはラブホ、すなわちラブラドールホテルだ。

「ここは、安全、なの?」
「うんもちろんそうだよ、普段は犬が寝るための部屋なんだけど、人間にとっても快適だろう?」
「そ、そうなんだ」

 ソフィーちゃんはなぜか僕と対角線上にいて、こちらに近づいてこようとはしない。決して懐いてくれない犬のようだ。

 逆転タイムまであと26行しかないので、今から好感度をあげつつシャワーを浴びてそのままベッドインしてあれこれするのはもう完全に無理だ。脅そう。

「ねえソフィーちゃん、僕がキミたちの力になれば、キミたちの国は救えるの?」
「えっ、なんでそれを知って……」
「いや、話せば長くなりそうだからだいたい察した」
「う、うん……、そう、なの……。だからお願い、力を……」
「わかった、じゃあ貸すからその前にソフィーちゃんも僕に対価を払ってもらったもいいよね具体的にはその身体でってことなんだけど」

 ソフィーちゃんの顔は真っ赤だった。まだ経験がないのだろう、僕もだけど。でも言っている言葉の意味は伝わっているようだ。彼女はもじもじしながら僕のそばにやってきて「王国が平和になるのなら……」と瞳を伏せながらもゆっくりと口を開き「あの、わたし……、初めてなので、優しく……」と潤んだ瞳で僕を見たと思ったその次の瞬間どっかーんという音がして空からロボットが降ってきた。

 ライバルのロボットだ。

『フハハハ! 我がロボットの手から逃げられると思うなよー!』
「ちくしょー!」

 僕は怒鳴った。すると例のカウントダウン妖精が形を変えて超かっこいいロボットになったので、乗り込んだ僕はビーム一撃でライバルを吹き飛ばした。

『ばかなああああああああ! この私、大宇宙帝国の第七騎士団長ベロディグレ=バルドラカ=グロギラオアルアさまがああああああああああああ!』

 はぁはぁと荒い息をつく。もうだめだ。僕はこのまま死ぬんだ。僕に残された行数はあとたった15行だけだ。

「ソフィーちゃん、キミと出会えてよかった」
「佐藤くん!」

 泣きながら抱きついてくるソフィーちゃんの感触が僕の脳にスパークを起こした。そうだ、まだ打つ手はあった。

「わかった、僕はキミの世界を救うよ!」



 その後、僕は大宇宙帝国を相手に17年にも及ぶ死闘を繰り広げた結果勝利し、戦いの途中で知り合ったソフィーちゃんを含む104人の美少女を全員嫁にして最高のハーレムを作って幸せな余生を過ごした後に、コンビニにいく途中トラックにはねられて死んだ。享年92歳であった。



『ストレス展開を完全に排除した未来のライトノベルの先駆けとなる新時代の短編小説』

 完

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