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絶対に働きたくないダンジョンマスターが惰眠をむさぼるまで 作者:鬼影スパナ

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貴族の救助隊

 さて、先日閉じ込めた、もとい勝手に閉じ込まった貴族。
 少し進展があった。

 ……残念ながらまだ殺し合いには至っていない。食料も尽きかけてかなりギスギスしているが。
 進展はダンジョンの中ではなく、ダンジョンの外であった。捜索隊がやってきたのだ。
 その数10人。適度な数だと思う。むしろ逆にコメントに困る人数だ。

 揃いの胸当てを付けたこの自称近衛騎士団の救助部隊は、ダンジョンに潜る都合でEランク~Cランク冒険者で構成されているらしい。DPは良い感じだ。……こいつらのいいところはそれくらいしか見当たらないけどな。
 そう、こいつら、非常に態度が悪かったのだ。

  *

 そいつらは宿に来るなり、まず10人で威圧するようにカウンターを囲んだ。
 一方、受付をしているイチカはへらへらとしていた。この程度なんてことないという様子だ。伊達に奴隷落ちするような人生は送ってない、肝が据わっている。俺だったらチビりかねん。
 (イチカ曰く、借金取りに囲まれた方がよっぽど怖いらしい)

「へいらっしゃー。『踊る人形亭』へようこそやでー」
「我々はリーチ家の第三近衛騎士団である。この宿の部屋を借りてやろう、ありがたく思え」

 と、ただの捜索隊隊長はとても偉そうにふんぞり返って言った。
 イチカはそれを軽く流して、料金を説明する。

「へーへー、1人銅貨50枚、食事は別や。美味いのは保証するで?」
「はぁ?! 1人銅貨50、しかも食事が別料金だと?! ……我々はリーチ家の第三近衛騎士団だぞ!」
「ふーん、だからどうしたんや?」
「なっ……我々はリーチ家の第三近衛騎士団だと言っている!」

 その、『リーチ家の第三近衛騎士団』とやらはそれほどに凄いものなのだろうか。それとも、その名前を提示すればどこぞのクーポン券のように割引になったりするとどこかでCMでもしていたんだろうか?
 もっとも、異世界出身の俺たちが経営する宿には全く効果が無いわけだが。
 先払いにしておいてよかったな、後払いだとう適当な値段払ってごまかして逃げるタイプの集団だぞこいつら

「リーチ家の第三近衛騎士団なぁ、へー、あとでウチの正面にある冒険者ギルドの出張所で聞いとくわぁ」
「ぐっ……ええい、どうせこんな安宿の食事、不味いに決まってる! 飯はいらん!」
「ほいほい、そんじゃ……ひーふーみー……10人やな。銀貨5枚やで」

 冒険者ギルドに告げ口されたくなかったらおとなしくしろ、と牽制するイチカ。グッジョブだ。
 救助のためとはいえダンジョンに潜るからには冒険者なんだろうし、効果はばつぐんだ。
 そして銀貨4枚と銅貨50枚を置く捜索隊隊長。実にセコい。

銅貨50枚(ひとりぶん)足りんで? リーチ家の第三近衛騎士団さーん?」
「ちっ、やはりパヴェーラの者はがめついな……」

 忌々しげにさらに銅貨50枚置く。……経費で落ちないのか? リーチ家とやらもケチんなよな。

「おい女、お前あとで部屋に来い。遊んでやる」
「あ、ウチはそういうサービスしてないんで。お客さん同士でなら止めないんで存分にどうぞー」
「……我々はリーチ家の第三近衛騎士団だぞ?」

 だから知らねえってそんな騎士団。
 いや、なんか嫌な予感がしてイチカに受付をしてもらってよかったわ。これ、新人じゃさばききれない。
 というか、お客さん同士でって……イチカさん何言ってんの?

 何を言っても軽くあしらうイチカに諦めたのか、おとなしく2人部屋の鍵を5つ受け取り、部屋へ入っていく騎士団チンピラ共。ようやくひと段落ついた。

 で、そのあと。飯時になった頃。
 自分で飯は要らんといっておきながら、飯時になって食堂にやってきた。
 こちらで対応したのはニクだった。

「おい、飯を出せ。金は払った」

 払ってねぇだろお前!
 と、思わず立ち上がってツッコミを入れたくなった。ちょうど俺も飯を食べに食堂に来ていたのだ。

 というかウチでは食券制を導入している。食事は食券と交換で引き渡されるもので、食券もなく食事を出すことはあり得ないのだ。
 何らかの理由で食券を紛失した場合も同様だ。受付で食券を買ったときにきちんと説明しているし、これを聞き逃すような馬鹿は今のところ居ない。

「食券はお持ちですか? 無ければ改めて受付でお買い求めください」
「このガキ! 汚らわしい獣人のくせに生意気な!」

 マニュアル通りのテンプレート返答を教えた通りにこなすニクに、自称騎士団長が突っかかる。
 汚らわしいって、ニクはお前らよりよっぽど綺麗だよ。抱き枕にして寝ると甘いようないい匂いがするんだぞ。

「こっちへこい、教育してやる!」
「おことわりします」

 ニクの腕をつかもうとして、あっさりと避けられる自称騎士団長。とても格好悪い。
 さすがにそのことを自覚したのか、改めてつかもうとして、さらにひらりと避けられる。
 あまりの華麗な回避っぷりに、ちょうど飯を食べに来ていた他の客がピュゥ、と口笛を吹いて(はや)す。

「ぐ、獣人のくせに逆らう気か! 我々がリーチ家の第三近衛騎士団と知っての事か?!」
「知りません」

 うん、俺も知らないからニクに話せなかった。そろそろ自分たちがどれくらい偉いのかとか説明してくれないもんかね。流石に

「このような宿、リーチ家にかかれば簡単に潰すことができるのだぞ?」
「そうですか」

 ニクには、何を言われても適当に聞き流すようにと言っておいた。
 というか、仮にリーチ家が宿を潰せるとしてもお前はそこに務めてるだけだろうが。何をさも自分の力みたく言ってるんだコイツは。

「だがそうだなぁ……よし、多少は身綺麗にしているようだし、まぁよかろう。 喜べ、お前が身を差し出せばこの宿を潰さないでおいてやる」

 こんな幼女に何言ってんだ、オイ。節操ないなお前ら。

「おことわりします」
「……この宿がどうなってもいいようだな」

 ……そろそろ目障りになってきたな。周囲のお客さんもかなりイライラしている。
 というわけで、俺はニクを庇うように立ち上がり、自称騎士団長に話しかけた。

「おい、アンタ。そろそろやめときな」
「あぁ?! なんだお前、いいか、我々は――」
「ここの宿の後ろ盾は、Aランク冒険者の『白翼の女神』だぞ。滅多なこと言うと、リーチ家とやらにかなり迷惑なことになるんじゃないか?」

 ギクリ、と動きが一瞬止まる。

「……そ、それは本当か? こんな宿の後ろ盾が、『白翼の女神』だと?」
「ああ、よく泊まりに来てるぞ。嘘じゃない、なんなら正面のギルドで聞いてみるといい、隠すことじゃないしすぐ教えてくれるさ……な、問題を起こしたらマズイって分かるよな? リーチ家さんは、Aランク冒険者様を敵に回してもあんたの事守ってくれるのかい?」

 サーっと、顔から血の気が引いていく。Aランク冒険者様の肩書きはよく効くなぁ。

「じょ、情報提供感謝する。……コホン、よ、用事を思い出したので、失礼する」

 こうしてその場はサッサと引っ込んでいった。
 俺はお客さんから「よくやった」「もっと早く助けてやれよ」「女神頼りで恥ずかしくねーのかー?」という茶化し交じりの温かい声を受けつつ、ニクの頭を撫でて再び席に戻った。

「ご主人様、ありがとうございました」
「なに、元々俺の仕事だ。……これでおとなしくしてくれるといいんだが……」
「ひゃ、は、はい……そですね」

 ニクの犬耳を指でつまむようにモフり撫でつつ、多分そうならないんじゃないかな、と俺はなんとなく予感していた。

  *

 ……で。
 本当に、これでおとなしくしてくれたら良かったのだけど、自称騎士団長が食堂から直通で部屋に籠ってしまったせいか部下が好き勝手してくれやがった。

 特に風呂に入る時も『浄化』しないわ、泳ぎ始めるわ、騒がしくして周りに迷惑をかけるわ、風呂上がりの休憩室で食べ物食い散らかして床に零すわ。
 遊戯室でもスロットをガンガン叩くわ、トランプをくすねようとするわ、もうね。
 客商売やってたらそりゃこういう輩もくるよね、って感じではあるけどさ。そこまではまだギリギリ許せた。

 許せなくなったのは帰り際。オフトンを無断でこっそり持ち帰ろうとしやがった事だ。
 そんなデカいもんすぐバレるに決まってんだろうが。
 でも、少しだけ考えたんだろうな。

 オフトンを2つに切って、手分けして持って帰ろうとしていたよ。

 そこをたまたま(・・・・)廊下掃除に来ていたイチカが見つけて、切る寸前で止めたんだが……こいつら、自称騎士団長をさしおいて「我々はリーチ家の第三近衛騎士団だぞ!」でゴリ押ししようとしやがった。
 自称騎士団長が青い顔して止めたけど、うん。もうダメだわ。俺の中で越えてはいけない一線を越えたわ。

 あろうことかオフトンを切り刻んで盗もうとしたんだ。これはもはや許せないよな?

 というわけで、ダンジョンで歓迎してやることにした。
(累計100位になりました。わーい)
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