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絶対に働きたくないダンジョンマスターが惰眠をむさぼるまで 作者:鬼影スパナ

ダンジョンを発展させよう

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閑話:悩み。(レイ視点)

「……今日も何事も無いわね」

 私は、吸血鬼のレイ――モンスターである。
 ダンジョンに召喚されて、侵入者を撃退するのがモンスターの仕事……
 のはずなのだが、私は侵入者をもてなすのが仕事だった。

 先日、レイという名前を授かり、はれてネームドモンスターになった。ネームドモンスターという肩書は、それだけでボスにだってなれる凄いものだ。にもかかわらず、私の仕事は宿屋の受付。しかも補助だ。

 命名式で大々的に名前を授かったからには、なんとしてもダンジョンに貢献したいと思っているけれど、正直肩すかしである。
 もっとこう、侵入者を薙ぎ払ったり、ぷちゅっと潰したりしてDPをダンジョンに捧げたい。

 とはいっても、ここのダンジョンのダンジョンマスターのケーマ様は、ニンゲンだ。つまり、同族であるニンゲンに媚びを売って生きながらえる道を選んだというコトなのだろうか。……いや、マスターはきっと牙を研いでいる最中に違いない。普段眠そうにしていても、あの命名式での覇気はとてつもないものがあった。
 あのような金銀の豪華な、それでいて悪趣味でない鎧を身にまとい、透き通り輝く刀身の剣を装備するマスターの御姿を思い出しただけでもう再度忠誠を誓うレベルだ。

 ……しかし、私にあてがわれた仕事は宿屋の受付。

「はぁ……」

 私は自分にあてがわれた部屋の窓を開け、空を仰ぐ。……太陽が眩しい、嫌な天気だ。
 改めて日の光を浴びて自分の事を再確認する。私は吸血鬼だが、太陽の光は平気だった。

 本来吸血鬼というものは弱点が多い。
 だが、真祖ともなれば弱点は無い。肉体的にも魔術的にも圧倒的な力を行使し、夜の空だけでなく日の光の下ですら我が物顔で闊歩する。それが真祖。吸血鬼の始まりにして最強の存在だ。

 通常の吸血鬼と呼ばれる存在にも、先祖返りのように一部の弱点耐性を持つ者がいる。
 吸血鬼の中ではいわゆる真祖返り、と言われている。

 私も、そんな耐性を持つ真祖返りの1人だ。それも、真祖と同じくすべての耐性が発現している。
 これはもはや真祖といっていいんじゃないかしら?
 ……攻撃力がゼロ、という呪いの代償でなければ、だけど。

 というか、吸血鬼としての力はすべて使えない。これではただのニンゲンと同じ、いや、ニンゲンより悪い。なにせゴブリンよりも戦闘力が低いのだから。

 再び「はぁ……」とため息をついた。

 最初はこんな戦闘力の無いモンスターに何をさせる気かと思った。宿の仕事をさせると聞いて、サキュバスまがいのことをさせる気かとも思った。
 けど、やっていることは宿の受付に座って、たまにやってきた客に値段を伝え、お金を受け取り、お釣りを渡す。これだけだった。値段やお釣りの計算だって『ソロバン』が何枚出せばいいか教えてくれる。あとは枚数を数え間違えなければいい。……これ、私がいる意味ってあるの? というくらい楽な仕事だ。

 そんな、誰がやっても変わらないような仕事をしつつも、ご飯も住処も、とてもいいものが与えられている。マスターやロクコ様達が食べているものと同じものらしい。……これは到底割に合わないのではないか。むしろイチカ教官とニク先輩は宿の二人部屋を借りている状態ということを考えると、個室を与えられた私達のほうが良い待遇と言っていいかもしれない。

 ……マスターがいったい何を考えているのか、分からない。これでは私はただの愛玩動物ではないか。いや、愛玩動物でさえ主人を癒すという仕事をしている以上、私は愛玩動物以下じゃないか。
 これは……マズイ。誇りある吸血鬼(の、はしくれ)として、由々しき事態である。
 どうにかしてマスターのお役に立たねばプライドが保てない。名前までいただいたのに、これでは。

 コンコン、と部屋の扉がノックされる。
 誰だろうか。いや、決まってる。シルキーのキヌエだ。
 魔女見習いのネルネはマスターに魔法を教わる前段階として、ニク先輩から仕事と魔法を教わっている。今は食事時ではないから、魔法の時間だろう。
 マスターやロクコ様なら用があればダンジョンの連絡機能で済ませるし、イチカ教官ならノックだけという上品な真似はしないでノックしながら呼んでくる。
 宿に併設してある『従業員寮』は関係者以外立ち入り禁止なので、あと残るのはキヌエだけだ。

「レイさん、お掃除したいのですが」
「……キヌエ。掃除なんて『浄化』でパパッと終わるでしょうに、なんでわざわざ掃除用具もってきてるのよ」
「掃除がすべて『浄化』で終わるのでしたら、掃除用具というものは存在しません」
「そりゃ、そうだけど……」

 このシルキーは、なんでか『浄化』を使わずに掃除をしたいようだ。シルキーという種族がそういう存在なのはマスターに生み出された時に刷り込まれた知識としてなんとなく知ってるけど、少し前にも掃除したばかりだというのに奇特な奴め。

 まぁ、部屋が綺麗なのは気持ちいいから任せてしまうんだけど。

「では掃除しますので、出ていてください」

 そんなわけで追い出されてしまった。
 ……やることがない。うーん。

 そういえば、キヌエは宿の掃除もしているし、料理も学んでいる。ネルネも魔法の訓練してるし……そのうちもっと魔法が使えるようになれば、なにかしらで宿の役に立つだろう。
 ……私だけ役立たず、よねぇ……これは、不味い。それこそ夜のご奉仕にしか使い道がなくなってしまうじゃないの……「へへへ、吸血鬼なんだから夜は得意なんだろ?」「ああそんなっ、服を返してください!」「お前のような無駄飯食らいが役に立つ方法なんざ、これしかないだろうが」……って具合に。

 ……うう、変な事考えたせいで顔が熱くなってきた。
 マスター相手なら(やぶさ)かではないけれど、なんにせよ、なにか宿のために役立たないと。
 とりあえず部屋の前に突っ立っているのもなんだし、宿の外に出て散歩をする。
 太陽が照り付けるやな天気だけど、今の私にはちょうどいい。

 少し歩くと、畑があった。マスターが使役しているゴーレムが、ちょうど作物の収獲をしていた。
 何種類か野菜もあるが、今収獲しているのは砂糖が作れるダイコンらしい。……収穫を手伝おうかしら。

「……」

 ……手伝う隙が無い。完全にゴーレムの単純仕事だった。しかも私はこのゴーレムへの命令権を持ち合わせていないから、無理に手伝ってもやっぱり邪魔にしかならない。ゴーレムは疲れたりしないので、わざわざ手伝う意味も無い。
 うぐぐぐ。ここでも私は役立たずなのか。

 さらに散歩を続ける。
 『ツィーア山貫通大洞窟』までやってきた。……うーん。だからなんだ、ってなものよね。
 洞窟を入るのにお金がかかるし、私が洞窟に入ったところで意味もないし。

 ……あ、商人が通ってる。
 背負子(しょいこ)を背負った、行商人冒険者と呼ばれるタイプの商人だ。
 ここを通る商人たちは主に塩をパヴェーラからツィーアに運んで売りさばく。ツィーアからは木工細工とか乾燥野菜を運んで今度はパヴェーラで売りさばく。
 そうだ、私も同じようにしてお金稼ぎを……いや、そもそも私、計算ちゃんとできないんだったわ。『ソロバン』さんの補助がないと……。
 うー、『クク』ってのをしっかりできるように勉強続けなきゃ。ああ、でも先に足し算と引き算を間違えないように覚えなきゃいけないんだっけ。

 計算は苦手よ……他に、何か私ができることってないかしら……。
 ……今度、私になにかできることが無いかマスターに相談してみよう。
 ああもう、自分が何もできなくてウンザリする。
 せっかく名前を頂いたのに、役立てないなんてイヤだもの。



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