遊戯室
さて、鍛冶場の建設が始まったころ、こちらもちょくちょく作成を進めていた新施設、遊戯室が完成した。
といっても内容はスロット、ダイス、そして先日からダンジョン宝箱に入れ、さらに宿で銅貨5枚で買い取りを始めたトランプくらいなものだ。
……ダイスとトランプについては布張りしただけのテーブルを用意して、レンタル可にしただけだ。マイダイスやトランプも持ち込み可能としている。
それだけなのになんでこんなに時間がかかったかというと、俺と客の睡眠を妨害しないよう壁を防音にするのと、スロットの調整、そしてイカサマ用のダイスゴーレムの開発である。では個別に見て行こう。
防音は言わずもがな。とりあえずスポンジをDPで交換して壁の中に挟み、なんとかそれらしくなった気がする。結局は壁の厚さでゴリ押した感じもするが、許容範囲レベルだ。
スロットはいろいろ調整し、稀にデカく勝ち、結構負けるようにした。当然、全体を見れば親が勝つようになっている。
ダイスゴーレムについては、自分でやるときの保険ってとこだな。魔力を流すと、反応して10秒だけ重心が偏るようにできている。10秒たてばただのサイコロだ。
素材はクリスタルで透明。屈折率が同じ油を中に詰めているので内部構造は全く見えない。これがなかなかに苦労した。
「イカサマなんてしないよ? みれば分かるでしょ」ってなもんだ。実際はしてるけど。バレなきゃイカサマじゃないという名言があるからイカサマじゃない。
しかもこれ、他の人が使えないように魔力で個人認証をさせることに成功した。ゴーレム、魔力を判別することが可能だったっぽい。この仕組みはダンジョンの鍵とかに生かせるな。
さて、というわけで遊戯室を増設した。夜中にこっそりだ。夜中に寝ないで増築とかしたもんだから寝不足でしかたない。まだ今日は9時間しか寝てないのだ。
「前から思ってたんだけど、ケーマって1日何時間寝れば満足するの?」
「そうだなー。25時間寝れれば最高だな」
尚、この世界も1日は24時間である。
「……時空系の魔法つかえばいけるかしら」
マジかよ、最高だな時空系魔法。極めるか。DPいくらあっても足りないな。
と、そんな茶番はさておき、遊戯室のお披露目だ。
さっそくウチのお得意様な宿泊客、ゴゾーがやってきた。記念すべき初客だ。
「……昨日までこんなのあったか?」
「ああ、Aランク冒険者の知り合いの魔法使いが一晩でやってくれたんだよ」
「ほぉ……カンタラの鍛冶場もついでに建ててくれればよかったのになぁ」
「依頼料がかなりかかるぞ。普通に作れるならそっちの方が良いさ」
それにもう建築は始まってるんだ、俺が大工さんから仕事を奪うわけにもいかない。
それに余計な仕事はしたくない。働きたくない。働きたくないぞォ!
「おいケーマ。これはなんだ? 雑談室か?」
「いや、遊戯室だ。それはダイスやトランプで遊ぶテーブルだな。で、そっちの四角いのが」
「スロットやぁああ!」
俺の説明中に横を通り抜けていったイチカ。
そういえば一応俺はイチカとニクに給料をあげている。お小遣いみたいなもんだけどな。
分かりやすくお金で渡していて、欲しいものがあったら俺がDPなりで出すようにしているわけだ。基本は食い物に消える。いや、消えていた。
過去形なのは、最近のイチカは遊戯室解禁に合わせて、スロット用の軍資金にすべく貯蓄していたからだ。
「ひゃっはー! 銅貨3枚を入れる! そしてレバーを! 降ろす! 回るッ 回る回るッ! あははははッ! ボタン、ボタン、ボタン押す! 止まる、チッ、もう1回やぁああ!」
目がやばい。イッちゃってる。
うん、スロット禁止した方が……もう手遅れか?
「な、なぁケーマ? アレ、大丈夫なのか? ヤバい箱じゃないのか?」
「……スロットって言ってな、ギャンブルなんだ」
イチカがガッツリとどっぷりとスロットに嵌っているせいで客が引いてるじゃないか。
……まぁ、置いとこう。
「……気を取り直して、トランプでもするか? 他に客もいないし、相手するぞ」
「うん? これは最近ダンジョンに出始めたヤツだよな。買い取ってるって聞いたけど、遊具だったのか。ルール教えてくれ」
俺はゴゾーにポーカーとブラックジャックを教えてやった。
「ルールが分かりやすい」という理由で、ブラックジャックの方が気に入ったらしい。
「他にも人数が揃えばババ抜きとか7並べとかもあるな」
「色々な遊び方できるんだなぁ、トランプってやつは。しっかし産出するようになってからまだ日が浅いってのにもうそんなに遊び方を考えてたのか」
「いや、これは遊び方がかかれた本を手に入れただけだ。ダンジョンで手に入れた」
「なるほど、だから先だって買取りを始めたのか」
尚、お買い求めの場合は銀貨1枚。まだ数が少ないからボってる。
元々5DPで出して冒険者にタダで取らせてるんだしこれくらい良いだろ、最終的には銅貨25枚で買い取って、銅貨50枚くらいで売るようになるんじゃないかな。
「じゃあ次はダイスでも――」
「来た来た来たぁあああ!! 大当たりッ! 大当たりやぁ!」
イチカの大声と、じゃらじゃらじゃらとスロットから溢れる銅貨がみえた。……うん、箱を用意したほうがいいな。
「おお?! なんだアレすごいな!」
「フッフッフ……これでまたスロットができるでぇ……!」
それはもはや何のためにスロット回してるのか分かんないんだが。
「どれ、少しやってみようかな。ケーマ、これのやり方は?」
「そこの張り紙にある通りだ。まあ、そんな難しくない。絵柄をそろえたらそれに応じてリターンがある」
「なるほど、見た通りだな。だが冒険者の目をもってすればこの程度そろえるのなんざ簡単簡単、む、ぐ? こ、これ結構難しいな……」
すまんな。それ、運ゲーなんだ。
*
しばらくすると、他の宿泊客もやってきた。と言うか、商隊を含めて今5パーティーしか泊まってないんだが、全パーティーが集まっていた。
「ダイスやるのに向いてる布張りのテーブルかぁ。おーい、ドラニ、ダイスやらないか? まずは俺が親でいい、ビッグスモールやろうぜ!」「やるやる。親は2回交代でいいな。他に参加者いるか?」「へぇー、トランプってこういう遊具だったのか。……マイトランプの持ち込みもいいのか。次見つけたら売らないで持って帰ろ」「ほっほ、ウチでも買わせていただきたいところですなぁ」「ギッコンさん、この『7並べ』ってゲームやりましょうよ」「いいね。やろうか。ロップさんもいっしょにやりませんか?」「ん。混ぜてもらおうか。うちの相方はさっきからあの箱にかじりついてるし」「あれ、ゴゾーさん? それなんです?」「スロットだとよ……おおっ、当たった!」
わいわいガヤガヤ。まさにそう言った感じだ。将来を考えて広めに作っておいたので部屋全体から見ればかなり余裕があるが、だいぶ賑わっている。良い感じだな。
「うぐぐぐ、スロットぉ……」
そして従業員のくせしてスロットを独占しようとしていたイチカは現在休憩中だ。
大当たりも当てたが、全体で見て収支がプラマイ0になったあたりで止めた。丁度席も埋まって邪魔になってきたからな。誰も居ない空いているときならともかく、混んできても従業員が占拠してるのはよくない。
「……スロット、人気でそうだな。追加で作るか」
「ご主人様! そんならぜひウチ専用のスロットを……!」
うん、イチカ、すこし正気に戻ろうな?
(あ、書籍化決定しました。でもダイジェスト化の予定はないっぽいです)