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閑話:鍛冶屋2(ゴゾー視点)

 それから数日後。


「おお、ゴゾー! よく呼んでくれた。ロップは元気かね?」

「カンタラ! よく来てくれた、おお、あいつも元気だとも」


 久々の友との再会を祝し、ハグする。

 おっと、うっかり忘れるところだった。ちょうどダンジョンから出てくるところを捕まえたケーマを紹介してやらねぇとな。

 ケーマはこのダンジョン『欲望の洞窟』の周りに居を構えるにあたって、絶対に外せない相手だ。

 なにせ、『踊る人形亭』のオーナーの秘書にして、『欲望の洞窟』のトップ攻略者のひとりだ。

 4階層まで行ったことがあるパーティーは2組あるが、その片方がこのケーマのパーティーだ。


 パーティーメンバーはケーマ以外は奴隷。まぁ、よくあることだが、ケーマのパーティーの奴隷は二人とも元気で明るく、普通にしていたら奴隷ということを忘れてしまう程。

 これはあまりないことだ。

 まぁ、奴隷を宿で働かせてるっていうのはあるんだが、それを踏まえても十分良くしてるのが分かる。


「というわけでな、ケーマ。こいつがカンタラだ。よくしてやってくれ」

「アッハイ」


 というわけで、ケーマとカンタラの顔合わせを済ませた。

 つーか、魔法使いだったんだな、魔剣ぶら下げてるから剣士だと思ってた。


 で。これから再会の酒盛りなんだが、ケーマはそれには付き合わずに帰ってしまった。つれないやつめ。残ったのはケーマがカンタラにあげた卵の殻だけだ。炉の素材になるらしい。


「しっかし、火属性の卵の殻って、なんの卵なんだ?」

「あ、感動して聞き忘れてた。……調べてみないとよくわからん」

「ふーむ、しっかし卵の殻1個とはシケてるなぁ」

「おいおい。モンスターの卵の殻っていうのは結構なレア素材なんだ。これをポンっとくれるとか、ケーマ殿はかなり奮発してくれたぞ」

「そうなのか?」


 モンスターなんてそこらに居るんだし、たまたま火属性のモンスターの卵の殻くらい拾ってもおかしくないと思うんだが……


「採取依頼でも卵の殻なんて見たことないぞ?」

「そりゃ、普通に依頼で手に入れようとしたらBランク依頼にしないと話にならないくらいのレア素材だからだよ。ゴゾーお前Cランクだろ?」

「マジか。そりゃやべぇ」


 なんでそんな難度高いんだ? たかが卵の殻なのに。


「ゴゾー。お前、ダンジョンで子供のモンスターって見たことあるか?」

「え? そりゃおまえ……あれ、無いな。うん」


 言われてみると、ダンジョンで遭遇するのはいつも成体のモンスターばかりだ。

 子供のモンスターは……見たことあるが、それはダンジョンの外だったな。


「どういうわけかしらんが、子供のモンスターというのもレアなんだ。ワーム系とかは別だが、それでも戦闘力の無い本当の幼体はダンジョンじゃまず見ないな。まぁ、素材としては大抵親の方が優れているから全く問題ないんだが……卵の殻ってのは例外でな。その上、卵で産まれるモンスターっていうのは、大体生まれた後に自分の卵の殻を食べてしまうんだ」

「そりゃ、へぇ。そうなのか。知らなかった」

「卵の殻っていうのは、親が子供のために力を注いだものだ。つまり、力の結晶といっていい。モンスターはこれを取り込むことで最初の加護を得ると言われている……さて、そういうわけだ」

「そういう訳って……ん?」


 うん? じゃあどうやって卵の殻を手に入れればいいんだ?

 生まれてすぐ食べちまうんなら、そこらに落ちてるなんてことはないはずだ。


「つまり、どこにあるかもわからないモンスターの卵を見つけなきゃならない。そして親モンスターをどうにかする必要がある。子を守るために死に物狂いで掛かってくる親モンスターをな」

「なるほど、そりゃ大変だ」


 実際、子供を守る親っていうのはとんでもない強さを発揮する。人間でも、モンスターでも。1,2段階ランク上がるとみていいだろう。


「それにケーマ殿はまだ低ランクだろう? 相手がどのくらいのモンスターかにもよるが、運良く手に入れたとしても相当レアな素材だ。それを快くくれて、魔剣ができたら1本くれとはなぁ」


 大物だよ、彼は。と、カンタラはくっくっと笑った。


  *


 で、翌日。


「ヤバイ。ケーマ殿マジヤバイ。大物すぎる」

「な、なにがあった?! おい、カンタラ!」


 俺が目を覚ますと、カンタラが真っ青な顔でガクガクブルブルしていた。


 昨日は鍛冶場の建設予定地で星を見ながら酒盛りをした後、そのまま寝てしまっていた。あ、ツマミはケーマに頼んだら銅貨数十枚で『芋の薄揚げ』を持ってきてくれた。パリッとした食感が気持ちよく、塩味が効いてて実に酒に合い、美味かった。

 そんで今さっき起きた所で、カンタラがケーマを恐れる要素なんて……はっ!


「まさか芋揚げに何かあったのか?!」

「なんでそうなる?! いや、すっげぇ美味かったけども!」


 む、ちがったか。酒を飲まないくせにあんなに美味いツマミが作れるとかすげえと思ったんだが。


「じゃあ何があったんだよ」

「……卵の殻がな?」

「うん? 卵の殻が?」

「卵の殻が、不死鳥のだったんだ……」


 不死鳥。……Bランクの討伐対象と聞いたことがある。マジか、おい。


「……そりゃあ……つまり、あれか。すごいレア素材ってことか? 間違いないのか?」

「ああ、素材の名前が分かる魔道具も使って調べたから間違いない。正直この殻は伝説級のレアアイテムだ……ケーマ殿、一体どこでこの殻を……」


 伝説級、そりゃすげぇな。で、これを煉瓦に練りこむと最高級の性能の炉になるらしい。鍛冶屋垂涎の素材で、金貨百枚は下らんそうな。マジかおい。そんだけあれば死ぬまで酒飲み放題じゃねぇか?


「で、どうすんだ? その殻。返すか?」

「……使うさ。一度貰っちまって約束までしたんだ。こうなったらもう魔剣を作ってケーマ殿に渡すしか筋が通らないだろ。というか、こんなレア素材で炉を作れとか……本気で期待されてるんだな……こんなの初めてだ」


 魔剣を作る、というのは『あり得ない話』という扱いでされることが多い。今、帝都で最先端の研究者達でもギリギリ「なんとか魔剣……だと思う」と言える程度のものしか作れていないと聞く。……カンタラみたいな鍛冶屋が1人で作るとか、まさしくあり得ない話なのだ、本来は。


「……酒の上での話みたいなもんだろぉによ、一介の鍛冶屋が、魔剣作るなんて」

「ああ。……そうだよなぁ、ま、やれるだけやってみるさ。この殻があればあるいは、魔剣が作れるかもしれない」


 俺と話して落ち着いたのか、カンタラはもう一端(いっぱし)の鍛冶屋の面構えになっていた。


「逆にいえば、夢を叶えるいい機会さ。ここのダンジョンは魔剣も出るんだろ? いいお手本があるってことじゃないか。ゴゾー、素材集めるの、手伝ってくれるよな?」

「おう、とりあえずここで獲れるアイアンゴーレムくらいならな」


 俺はカンタラのまっすぐな目をみて、応援することに決めた。

 ……つーか、ホント読めねぇな、ケーマ。あいつ、タダモンじゃねぇってことくらいしか分かんなくなってきたぜ……




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