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閑話:鍛冶屋1(ゴゾー視点)

 俺はゴゾー。ドワーフのCランク冒険者だ。

 最近は『ただの洞窟』……改め、『欲望の洞窟』に潜っている。

 前はFランクでも入れるようなショボいダンジョン……いや、そもそもダンジョンっていうかただの洞窟だったな、アレは。なにせ通路と部屋が1ずつしかなかった。それが今や立派なダンジョンだ。

 聞いた話だと4階層まで確認されてるらしいんだが、俺はまだ3階層までしか到達してねぇんだ。


 どうにも、階段を一度戻らないと4階層には進めないらしいんだが、難しいことはよくわからねぇ。ただ、俺は一度通った道は覚えてる特技があるんだが、どうにもここの迷宮ではそれがうまく働かないんだ。

 前に通ったはずのところが壁になってたりして、最近俺は俺の特技を疑っている。


 まぁ、神様に約束されたスキルとはちがって、ただの特技だからな。そういう事だってあるさ。

 細かいところは相方のロップに任せて、俺は今日もバトルハンマーを振るうだけだ。


「どっせえぇえええ!」


 ガゴォン、と重量のある鉄の塊同士がぶつかり合う音が迷宮に響く。

 相手はそう、最近『欲望の洞窟』に出ることが分かったアイアンゴーレムだ。以前から目撃されていたんだが、いかんせんDランクやEランクにゃ荷が重い相手だ。持ち帰るにも荷車でもなきゃ厳しいし、運んでる最中に敵と遭遇することだってある。

 もっとも、こいつを倒せりゃ結構な金になるから、俺としては美味しい相手だ。バトルハンマーでぶったたけばいいだけ、実に単純で分かりやすい敵だ。うん、美味しい相手だ。

 何度かバトルハンマーで頭をぶっ叩いたところで、アイアンゴーレムは倒れた。……おー、手がジンジンする。この感じがまたたまらないねぇ。酒を飲んで手がしびれるのとも似た感じだ。


「よぉし、ブっ倒したぞ。ったく、魔石が見えねぇとこに埋まってるのは面倒くさいぜ」

「お疲れさま、ゴゾー。じゃあ荷車に乗せちゃって。今なら周りに敵居ないみたいだから」


 荷車をごろごろ引いてるロップ。こいつは俺の相方で、人間の女だ。見た目は細っこいが、俺と同じくCランク冒険者だ。実に気の合う酒飲み友達でもある。ドワーフの里にコイツが酒飲みに来たのが出会いだったくらいだ。


 っと、今はそんなことはどうでもいい。俺はハンマーを一旦置いて、代わりにアイアンゴーレムをロップの荷台に乗せる。やっぱ人間大の鉄の塊となると結構重いよなコレ。


「それじゃ、一度戻ろうか」

「おう」


 本当は2匹3匹くらい一度に狩りたいところだが、あいにくロップと荷台の方がもたない。

 そもそも階段を何度か上り下りする必要があって、そのたびに無防備になるんだ。安全を考えたら1匹ずつ狩るのが一番いい。ロップに【収納】を覚えさせてやりたいところだ。そうすれば一度にたくさん運べるからな。


 罠に気を付けながらの帰り道、何度かゴブリンに襲われたがあっさりと返り討ちにし、今日も鉄の塊を持ち帰ることができた。これで数日分の宿代になる。


「いやぁ、俺ら、もうこのダンジョンで鉱夫として生活してもいいんじゃないか?」

「私はやぁだよゴゾー。ここには酒場が無いじゃないか。メシは凄く美味いんだけど、酒が無いのだけはどうにもいただけないねぇ」


 あー、そうなんだよな。

 この『欲望の洞窟』に併設されている宿、『踊る人形亭』。というか、ここにはギルドの出張所とこの宿しかない。……まぁ宿があるだけでも十分すごいんだが。しかも温泉付きだ。ありゃぁ気持ちいいな、まるで貴族になったみたいな気分になれる。前はそんないいものだと思ってなかったが、今じゃかかせねぇな。

 で、そんな『踊る人形亭』なんだが、酒が出てこないんだ。料理には使われているみたいだが……。確かに飯はすごく美味い、寝床も最高だ。さらに温泉だってある。だから、だからこそひとつ言わせてくれ。


 ――これで酒があれば最高なのに!


 ま、持ち込みまでは禁止されてねぇから、この近くを通る商人から融通してもらったりして持ち込んでるけどな。……つーか、『ツィーア山貫通大洞窟』つったか?

 こっちもダンジョン……それも難易度不明の新しいダンジョンだ。ただし、それは全く危険が見られないという意味で、だ。


 ダンジョンの近くに新しいダンジョンができることはたまにあることだが、全く危険が無いダンジョンというのは初めてみた。『ただの洞窟』でさえゴブリンが出てきたというのに。


 こっちはどういう仕組かは知らないが、入ってすぐの小部屋でお金を払うと反対側へ通れるという、まるで関所のようなダンジョンらしい。中は馬車2台がすれ違えるほど広く、途中で休憩所まであるという都合のよさ。逆に疑いたくなるような話ではあるが、今のところ問題があったとは聞いていない。

 最近では護衛を連れた商人が出入りするのをよく見かけている。おかげでツィーアでもパヴェーラの酒や塩が安く買えるようになったとかで、俺としちゃそれだけで十分ありがたいんだがな。

 商人からしてみれば、洞窟に払う金は微々たるものらしい。


「あー、ホントこれで酒がありゃ最高なんだけどなぁ」

「温泉につかりながら酒、とかできたら最高なんだけどねぇ」

「ケーマのヤツに頼んで、酒を仕入れてもらうかなぁ」

「あ、それで酒飲めるんなら色仕掛けしてもいいよアタシ」

「それはやめてくれ。相方よ。……それにケーマの趣味は、なぁ?」

「ああ……性奴隷(ニク)がいるんだっけ……あんな小さい子が好みたぁねぇ」


 アイツも、幼女趣味さえ目を瞑ればいい冒険者なんだが……

 いや、やめよう。人の趣味をどうこう言う気はそんなにない。それに、あのお嬢ちゃんは十分良くしてもらっているようで、幸せそうだ。口をはさむのは野暮だろう。


 と、そんなふうにぼやきつつ休んでいたら、受付嬢のシリアちゃんがやってきた。


「ゴゾーさん。少しよろしいですか? 先ほどカンタラさんから手紙が届きました」

「おお! カンタラか、いい返事だといいんだが」

「鍛冶屋の件ですよね? 私も結果を聞きたいのですが」

「おう、すぐ見る。ちょっとまて」


 と、シリアちゃんから手紙を受け取りさっそく開けて読む。


「すぐ来るってよ! よかったなぁシリアちゃん」

「それはなによりです。……ああ、また大工を頼まないといけませんね。鍛冶場については『踊る人形亭』のロクコさんと相談するとして……」


 うん、シリアちゃんは忙しそうだな。もうちょっと肩の力を抜いてもいいと思うんだが。


「カンタラさん、元気だって?」

「ん? ああ、元気だってよ。親父さんもな」

「ウンタラさんが元気じゃなかったら、カンタラさんこっちに来る余裕ないでしょ」


 それもそうか。と俺はロップの言葉に頷いた。

 しかし久しぶりの再会だ。今から酒を仕入れておかねぇとな。



(もう1話分続きます)

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