挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
絶対に働きたくないダンジョンマスターが惰眠をむさぼるまで 作者:鬼影スパナ

安定した日々?

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

73/301

人手不足

 季節は流れ、夏になった。
 俺は、『踊る人形亭』の一室……自分で作った宿でなんだが、わりといい部屋でくつろいでいた。
 部屋の窓から外を見上げると、気持ちいいくらいに澄んだ青空が広がっている。
 ……実に暑い。異世界なのにちゃんと四季があるんだなと思いつつ、俺は足を水を張った木桶に突っ込んだ。
 ああ、ひんやりとした水が気持ちいい。……まぁ、すぐに温くなるんだろうけど。

 俺が異世界に来てから数か月。なんだかんだでダンジョンマスターになって、結構働いてると思うんだ俺としては。……働いてしまっていると思うんだ。せっかくツィーア山を貫通するトンネルをつくって、通行料せしめる仕組みを作って、ようやく不労所得が入るようになったというのに……宿の経営は通行料の儲けと比例して忙しくなる。そりゃそうだ、人が増えるわけだもんな。宿を使う人も増えるってわけだ。

 本来のお仕事であるダンジョンについては、第2、第3層の迷宮エリアで、ごく稀にナイフを持つゴーレムを徘徊させることにした。もちろんこのナイフはゴーレムブレード。魔力を流すと振動して切れ味を増す魔剣ナイフだ。無事倒せたら魔剣ナイフが手に入る。まだ5本しか出してないけどな。
 それと、アイアンゴーレムのスポーンも追加した。1つ5万DPしたけど、ハクさんが何度か遊びに来てくれたおかげで、謎解きエリアの先ではアイアンゴーレムが普通に徘徊している程だ。支払いがDPっていうのがデカいな。ああ、迷宮エリアにもひとつあるから、たまに冒険者とかちあってる。倒すのが大変なのか遭遇しても逃げられてるけど。
 そんな成果で釣ってるおかげで、今日も迷宮に3パーティー(うち1パーティーは、ゴブリンとの戦闘経験を積みに来た初心者パーティーだ)が入り浸っている。
 第4層の謎解きエリアは……発見はされているものの謎解きはされていない。偶然1パーティーがたどり着いたのだが、消耗していたのもあり、罠を警戒して引き返してしまったのだ。その後、迷宮で迷って中々もどかしいところまで行くのだが、たどり着けない。……一定時間で正解ルートが変わるのにはまだ気づかないようだ。

 宿やトンネルの利用者から得られる収入、DPと現金。おかげで今の生活はだいぶ安定している。現金もDPに変換できるしな。だから俺はこうして部屋でぐーたらできるってわけだ。

 だから、今日はあえてなにもしないで寝て過ごそうと思う。
 部屋にエアコン機能つけるかなぁ……いや、そもそも夏を快適に過ごせる生活魔法とかあるんじゃないか? あれ、そういえば生活魔法って『浄化』しか使ったことないんじゃないか……折角覚えた魔法スキルも、なんか【クリエイトゴーレム】しか使ってない気がする。
 なんか勿体ない……そうだ、木桶の水を水魔法下級【ウォータ】で入れ替えよう。
 俺は窓から木桶の水を捨てる。

 むんっと念じると、スクロールにより頭にインプットされた詠唱が浮かんでくる。
 ふむふむ、「水よ、小さな玉となれ」か。……ちょっと変えよう。

「冷たき水よ、小さき玉となれ。【ウォータ】」

 魔力がちょろっと抜ける感覚があり、直後に目の前に水の玉が現れる。そして狙い通り、ばちゃんっと木桶に落下した。うん、冷えてる。
 久々に【クリエイトゴーレム】以外の魔法を使った。けど、やっぱり魔法って便利だな。

「ケーマ、こっちもー」

 なぜか俺の部屋でくつろいでいる俺のパートナー、ダンジョンコアのロクコ。お前、自分の部屋あるだろうがよ。割と豪華目に作っただろうがよ。
 俺は再び詠唱をしてロクコの持つ木桶に冷えた水を入れてやる。

「あー、やっぱりケーマの魔法はおかしいわねぇ。私やニクがやるとこんなひんやりした水にならないもん」
「普通は改変しないもんな」
「できないのよ? 普通は」

 言語ってのはパターンなんだから解析されてそうなもんなんだけど、少なくともロクコの知る範囲には翻訳チートを持つ俺以外に魔法を改変できる奴はいない。ロクコ、ダンジョンコアであんまりここ離れられないから狭い人間関係だけどな。……あれ、俺と俺の奴隷のニク、イチカの3人だけじゃないか? あ、ハクさんがいたか。うちのダンジョンの福の神にして第89番ダンジョンコア。帝都のお偉いさん。

「さ、最近は宿の関係で、ほら、ギルドの受付嬢さんとやらとも知り合いになったもん。し、シリアナさん」

 たしか1文字多いような気がするがまぁ大した問題じゃないだろう。
 ギルドとも悪くない関係だ。ある程度しっかりしたギルドの出張所が建ったのだが、受付嬢さんはご飯をいまだにこちらで食べているし、1週間に1度は宿に泊まって風呂に入っていく。だいぶ気に入ったようだ。

 尚ギルドの立っているところはダンジョン領域内なので、受付嬢さんからは1日80DP以上が安定して入手できる。実に美味しい。鍵のかかった部屋に閉じ込めるとDP入手が倍になるしな。

「ご主人様、料理の補充をお願いします」

 食堂で料理の配膳を担当しているニクが入ってくる。……面倒だが、食事を用意しなければならない。俺はDPを使って不足した料理や惣菜パンを出し、ニクに渡す。
 ニクはここで渡した料理を時空魔法の【収納】で時間の止まった異空間にしまい込む。台所であらためてこれを出してお客さんに提供するのだ。日本のコンビニやファミレスで手に入るような食事はこの異世界ではとても好評で、最近は食事目当てにわざわざ来る冒険者も居るくらいだ。
 ……というか、DPとの交換はロクコがやってもいいんだが、なぜか俺がやったほうが上質なんだよな。認識の違いだろうか。

 と、ニクが俺から渡された食糧を取りこぼす。幸い落としたのはビニールに入った総菜パンだったので、床に落ちたところで大した問題ではなかったけど。

「……なんか顔色がよくないぞ。大丈夫か?」

 ここで俺はようやくニクの顔色が悪いことに気が付いた。綺麗に日焼けしたような褐色の肌だったので気付きにくかったともいえる。ロクコくらい色白ならもっと分かりやすいんだけど。

「え、と……大丈夫、だと思います、が」

 ニクは犬耳の獣人で、普通の人間にくらべたら体は頑丈ではある。が、だがまだ年齢が2桁になっているかも怪しい子供だ。俺はニクの額に手を当てる。汗ばんだ肌がぴとっと吸い付く。……すごく熱かった。

「……休め!」
「ひゃっ、え、は、はい……」

 俺はニクを布団に寝かせると、ニクのかわりに食堂で働くべく部屋を出た。

  *

 ニク、疲労だな。暑さと併せての過労だろう。しっかり休ませねば。
 で、ひとつ思った。
 ……人手不足だ!

 いやうん。前々から薄々は気が付いていたんだよ。イチカが仲間になってさ、宿始めてさ、最近安定してきて少しずつ客が増えてるわけで。
 まず受付に1人。そして食堂に1人。この2人は宿を開いている以上絶対に必要だ。 このダンジョンと宿を運営しているのは俺も含めてたったの4人。

 足りないだろこれ。しかも2人ってのは最低人数だ。
 モノを運ぶ力仕事はゴーレムが手伝うことができるので、基本的に人間の仕事は接客になる。

 生活魔法の『浄化』とかがあるから、洗濯や掃除は圧倒的に楽で手間もかからない世界だが、接客というのは体力も精神力も使うものだ。

 本日ニクの代わりに食堂での配膳をしたわけだが、
 町の食事処とかとは違って客が少ないとはいえ、食堂をニク1人で切り盛りしてるってのは凄いと思った。マジで。
 というか苦情も滅多にないんだよな、食堂。苦情が出た時はイチカが受付から駆けつけて対応するんだけど、ニクが獣人だの奴隷だの子供だのと文句を言うやつは片手の指で数えられるほど、それも1回ポッキリで2回目以降は無いのだ。

 それが今日俺が配膳をしたらそれだけでもう言い掛かりに近いレベルの苦情が飛んで来やがるんだもんな。なんなんだもう。ロクコに手伝ってもらったら落ち着いたけど、あれか、ロリコンなのかこいつら。

 そして俺はあまり意識していなくて忘れがちだったが、魔法を使うと魔力――精神的な体力というべき何か、を消耗するのだ。
 ニクは料理を出し入れするたびに【収納】を発動しているのだから、かなりの負担だろう。
 平気な顔して働いてくれているからうっかり見落としていたが、きっと毎日すごく疲れているに違いない。それなのに……俺は寝る時にもニクを抱き枕にしていて、ニクはそれすら嫌な顔一つせず笑顔でこなしてくれて……なんか言ってて俺の奴隷でいいのかって思えてきたぞ、このスーパー幼女。

「……ご主人様……?」
「お、目が覚めたか。体調はどうだ」

 俺はニクの頭を撫でてやる。体にかけたタオルケットの向こうでぱたぱたと犬尻尾が動き、喜んでいるのが分かる。

「もう大丈夫です」
「このまま寝てろ。今日は抱き枕もしなくていいから」
「……うぐ……で、でも、それだとご主人様のねる場所が……」
「空いてる部屋を適当につかうから問題ない。幸い、ウチは宿屋だからな」

 そういうとニクはしょぼんとしてしまった。
 働けなくて寂しいとか、まさに忠犬娘。

 というか、そっか。いままでロクに休日とか用意してなかったな。俺は気が向いたら寝てるし、イチカもニクも客がいないときは好きにしていいって言ってあったけど、もう最近は客が居ない日の方が少ない……というか連日お客さんがいる状況だ。
 それに加えてニクは俺の抱き枕という仕事もある程だ。
 休日なしとか……それと衣食住は提供しているものの、基本的に給料もないから、つまり無休で無給。むきゅーむきゅーって言うと可愛く聞こえるがブラックすぎてヤバい。

 というわけで、圧倒的に人手不足なのだ。
 ニクやイチカ、それに俺の睡眠のためにも、どうにかしないといけないな……


(新章ですが。不定期に2~5日くらいの間隔で更新する感じになるかとー)
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ