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絶対に働きたくないダンジョンマスターが惰眠をむさぼるまで 作者:鬼影スパナ

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スイート1泊:リザルト

「金貨25枚ですね」

 朝、ハクさんに金貨が詰まった袋をどさっと出された。
 ……はい?

「このスイート1泊の価値です。1人1泊金貨25枚、2人なので50枚ですね」

 ……銅貨1枚が100円。それが100枚、1万円で銀貨1枚だ。
 そしてさらに銀貨が100枚、100万円で金貨1枚。
 金貨50枚。
 5千万円である。

 確かに、価値が少しでも上がるようにとロクコを給仕に向かわせてみたり、一緒に温泉入るように誘導してみたりはしたけども、1泊5千万円とか聞いたことない価格である。
 しかし、ハクさんはさらに13枚の金貨をカウンターに置いた。

「それと、食事ですが……あれで金貨1枚というのは……かなり安いですね。私は事情を知ってますが、通常であればあれも金貨10枚は取れる内容ですね。最低でも金貨5枚にすべきでしょう。これは差分と、ロクコちゃんの分ですね」

 ……1食の食事で500万円?!
 『DXお子様ランチ(10DP)』に、『クリームソーダ(8DP)』で500万円……インフレがぶっ飛んでる。純利益がどうのというか、どう計算しても利益率99%以上じゃないか……
 いや、そりゃ貰えるものはなるべく貰いたいけれど、不当に貰おうとは思っちゃいない。

 気休め程度にDXがついてるとはいえ『お子様ランチ』をハクさんに食べさせた上、この価格。確かにイチカも金貨5枚は取ったほうが良いっていってたけど、日本じゃ千円で売ってるようなものを500万円で売るというのは実に……心臓に悪い。
 小市民なんだぞ俺は。ボッタクリバー勤務とかじゃないんだぞ。

「いくらなんでも貰いすぎな気がするんですが……」
「私の査定が信用できないと?」
「いえっ! 滅相もありません、ありがたく頂戴いたします!」

 背筋が凍るような殺気を感じ、俺はガタッと姿勢を正して敬礼して答えた。
 帝国のトップであるハクさんが「1泊金貨25枚」と言ったら、たとえそれが不当な価値だったとしても正当な価値となるのだ。価値とはハクさんの前になく、ハクさんの後にできるのだ。

 ……これは別に冗談でも何でもない。値段が分からない商品の場合、買った人が払ったお金が実際の価値となる。ましてやそれが「帝都のトップ」とか「Aランク冒険者」とかいう肩書があれば、他の人は「なるほどそんな価値があるんだな」となる。芸術品とかは特にそういう傾向が強い。

 ましてや今回はハクさんに値段の査定をお願いしたわけだから、これだけの価値があるとハクさんが保証したといっていい。つまり「1泊金貨25枚」、「1食金貨5枚」といったそれは、ハクさんが決定した正しい価格であり、それより安くすることはハクさんを信用していない……舐めて喧嘩売ってると言っていい。

「……納得できていないようなので、査定結果の訳を教えてあげましょう」
「は、す、すみません……」
「まず前提として、恐らく使用したDPに釣り合うような値段を付けているのでしょうけど、輸送費、技術費、といった……人件費にかかわるあらゆる費用が抜けているように感じましたね」

 たとえば、チェリーなんかは東の果ての国、ワコークでとれる果物らしく、ツィーアで食べるとなれば1粒で銀貨50枚はかかる。腐りやすいため、新鮮なものを食べるとしたら時空魔法の【収納】持ちが必要で……【収納】持ちは大体Aランク以上で、Aランクの「お使い系依頼」として、一度の輸送に最低でも金貨5枚はかかるとみていいとのことだ。
 数をそろえて入荷した上で、そこにチェリーの購入費を合算した場合。それが1粒で銀貨50枚……なるほどな。

 確かに言われてみればすっかり頭から抜け落ちていた。
 ……そうだよな、日本だと100円で手に入れられる総菜パンとかそのあたりも、工場とか輸送とか人件費とか色々ありつつ、大量生産してようやく100円になっているんだ。
 それを工場どころかレシピもない異世界でそんなパンを出した場合、見えない価値が異様に高くなるのは、当然だ。こっちの世界ではなまじダンジョンや魔法がある分、そういう大量生産の技術が発展していないのだ。

 ……くっ、銅貨1枚100円、と単純に判断していたのは失敗だったか。
 下手に日本円換算の基準(脳内レート)を作ったせいで、現代日本の感覚で計算してしまっていた。
 特に食事についてはイチカが言ってくれていた価格とほぼ同じだった。イチカももっと強く言ってくれればいいのに……って奴隷なんだからそりゃ強く言えるわけないよな。俺が完全に悪いか。

「ちなみに、Bランク以上の冒険者は貴族として扱われます。実際に爵位も与えられますからね。一応Bランクは任意ですが、Aランクからは強制です。……で、そんなAランク冒険者の支払いの基準は『金貨』から、が基本です」

 そしてAランク冒険者には――『リンゴ買うのに金貨出す。お釣りは要らない邪魔だから』――こういう言葉があるらしい。
 金銭感覚のおかしいAランク冒険者を揶揄した言葉だそうで……うん、インフレが激しいということは分かった。
 ……とはいえ、Aランクの冒険者はあまり数が多くなく、ハクさん達を抜いても20人くらいだとのこと。


「けど、それはそれとしても食事代、別にロクコの分は払わなくてもいいんじゃ――あ、いえ、そうですね、大切な妹様とのディナーの時間をご提供させていただけたこと、光栄の極みに存じますハイ」
「本当は姉として宿泊費も払いたいくらいなのよ? けど、オーナーのロクコちゃんにとってここは自宅と言えるでしょう? だから食事代だけ特別なものを用意させたという扱いで妥協したのよ、分かる?」
「わかりますとも、だから殺気飛ばさないでくださいすみませんっした」
「ふふ、分かってくれればそれでいいの。……ちなみにロクコちゃんへのチップは、DPで直接渡したほうが良いかしらね」
「え、ええ、そうですね。その方がよろしいかと」

 ちなみにハクさんとクロウェだが、1日あたりの取得DPについてはどちらも『0DP』であった。単体でどちらもAランク冒険者ということで期待してたところもあったので、これについては残念だった。
 ……ハクさんはダンジョンコアだから当然として、クロウェはなぜだろう? もしかしてダンジョンでDPを使って呼び出したモンスターだと、1日あたりのDP収入は無いのかもしれない。

「じゃあロクコちゃん、あーんして?」
「は、はひっ!」

 と、ハクさんはロクコ相手にDP受け渡しの準備をさせる。またキスシーンですね分かります……と思っていたのだが、ロクコの口内にハクさんは人差し指をつっこんだ。

「ッ、ん、く、んんっ!」
「ほら、離しちゃだめよ? ……肩の力を抜いて、リラックスして……いい? 流すわよ」
「んッ、う、んん、ふぁ、ン……!」

 ほんのりと頬を赤くさせたハクさんと、必死に指にしゃぶりついて耳まで真っ赤になっているロクコ。……こ、これはこれでなんかこう、アレだな。ぐっとくるものがあるな。
 しばらくしてロクコの口からちゅぽっと指が抜ける。すこしとろみのついた唾液が、指との間に糸を引いていた。

「……今日はキスじゃないんですね?」
「ええ。ロクコちゃんもダンジョンを正式にデビューさせたわけだし、他のダンジョンコアが潰しに来ることを考えて、粘膜交換以外での受け渡しも慣れておかなきゃと思いまして。……どうせ返り討ちにするでしょう?」

 そのとき、他のダンジョンコアとキスさせるわけにもいかないでしょう? と、ハクさんは笑む。
 ……あれ、じゃあ、そのロクコの唾液にまみれた指をぺろっと舐めるのは関係ないですよね? と言おうとしたけど、余計なこと言って殺気を浴びるのもいいかげん心臓に悪いしやめといた。


「ところで知ってるかしら。ツィーア山にはもう1つダンジョンがあるのよ。 丁度山を挟んで反対側だからすぐに会うことはないでしょうけど」


「……ハクさん、フラグって言葉知ってますか?」
「旗? 『欲張りセット』の『おむらいす』にも小さいのが刺さってたわね。それが何か?」
「イエ、ナンデモ……」

 なんだろう、非常にいやな予感しかしない。





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