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絶対に働きたくないダンジョンマスターが惰眠をむさぼるまで 作者:鬼影スパナ

人里、再び。

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「まいどっ! いやー、兄さんいー買い物したでぇ? おっと、これからはご主人様、やな!」

 奴隷商の方も、厄介な問題児がいなくなり、かつ少額とはいえ利益がでたことから「やれやれ仕方ない」といった顔だった。
 交渉があっという間に終わったのはありがたいな。
 銀貨50枚の支払いを終え、契約魔法も済ませ、ついでに服も購入した。
 ワンピース1枚と下着ひと揃えで銀貨1枚ちゃっかりとられた。

「そういえば、名前を聞いてなかったな。なんていうんだ?」
「は? 何言ってるん、奴隷の名前はご主人様がつけるもんやで? なー、ニク先輩♪」
「そうなのですか?」
「え? しらへんの? そうにきまってるやん。だって夜のお供がたまたまオカンと同じ名前でしたー、なーんてなったら、いくら美姫でもたつモンたたんやろ? だから奴隷契約の時に名前は捨てるんや」

 なるほど、納得した。

「……ま、捨てるっちゅーても別に本当に影も形もなく忘れるってわけじゃなし、奴隷になる前の名前やったら答えられるで? ……あー、でもウチ、結構恨み買ってるから心機一転新しい名前がエエなぁ。なんかないん?」
「うーん。前に買われた時の名前はなんだったんだ?」
「ん? せやなぁ、ウチも『ニク』って呼ばれてたで?」

 ぺろり、と指先を舐めて、何かの味を思い出しているように答えた。
 ……噛みちぎったアレかな、と思い至った瞬間、ひゅんっとなった。
 ふむ。しかしニクってのは奴隷の一般的な名前かなんかなのかな? 犬でいうポチ、猫でいうタマみたいな。

「名前被るのは紛らわしいな。そうだなぁ……食べるのが好きなんだよな? じゃあ食べ物から名前をとって、……リンゴとか串焼肉とか?」
「リンゴはともかく串焼肉は遠慮したいなぁ……せっかくならメロンなんてどーや? あー、メロン食べたいなあ買うてくれへん?」
「似たようなのならそのうち食わせてやるよ」
「ほんまか?! うわーこりゃウチもがんばらなあかんなー」

 けらけら、とたわわな実をゆらしつつ、奴隷らしくなく笑う……えーと、名無し。

「あ、せや。なら『イチカ』っていうのはどうや?」
「うん? どういう意味?」
「食べ物の神様にちなんだ名前や。神様はイシダカっつってな、ここらだと見ないけど海の神様でもあるんや。で、海からとれる調味料の塩をまぜて、イチカや。かっちょエェやろ?」

 イシダカに塩を混ぜたらなんでイチカになるのかは、まぁ翻訳機能の不具合だろう。慣れてきたぜ?

「じゃ、イチカでいいな。これから頼む」
「へへへ、よろしゅう♪」

 名無し改めイチカ。改めて握手した。
 しかし、握手しつつもイチカはどこかあらぬ方向を見ていた。
 ……イチカの目線の先を追っていくと、そこには串焼肉の屋台があった。

  *

 俺たちはそれぞれ手に持った串焼きをかじりつつ、冒険者ギルドに向かっていた。

「ん? こっちには確か冒険者ギルドがあるんやっけ?」
「ああ、昼間やった依頼の方の終了報告しないといけないからな」
「なんやご主人様冒険者やったん? ランクいくつや? D? C? もしかしてBとか?」
「Fランクだよ。この間なったばかりでね」
「はぁ、Fランクぅ? それでよくウチを買う金があったなぁ……貴族様か商人か何かだったん?」
「ま、それはおいおい説明するよ」

 ちゃんとそこで「ありえない!」とか否定するんじゃなく、誰かが聞いても納得のいく例が柔軟に出てくるあたり、やはりイチカは掘り出し物のようだ。

「ああ、イチカも冒険者登録しとくか? 身分証あった方が便利だろ」
「ええのん? あー、でもどうするかなぁ。いまさらGからやり直すのも……まぁエエか。じゃあお登録料の銀貨5枚貸してくれる? 体で返すから」
「返却はいい。イチカの値段が元が銀貨60枚で、イチカのおかげで50枚になったから……ま、差額半分の5枚くらいは正当な報酬だ」
「ぷっ、あはは! 奴隷に正当な報酬て! 普通奴隷は無報酬が常識やで? ま、ええわ、くれるなら貰っとく主義やさかい、あんがとな」

 にこっと歯を見せて笑うイチカ。中々いい笑顔だ、これなら宿の受付嬢としても人気がでるだろう。

 そして、冒険者ギルドに再びやってきた。
 カウンターに行くと、いつもの受付嬢さんが居た。

「……おや、早速買ってきたのですね。しかも人間で、大きい……」

 主に一部分を見つつ言う受付嬢さん。大きければ大きいほどいいという人もいるけど、俺はそこそこでいいと思うよ。足の方が肝心だし。

「依頼達成の報告と、こいつ……イチカの、ギルドへの登録をお願いします」
「はい、指名依頼2件で報酬の銅貨20枚です。……センスのかけらもない名前ですね。では、一応面接をしましょうか……こちらへ」

 と、俺も持ち主としてイチカと一緒についていく。
 ……イチカ、センスのかけらもない名前だったのか……ネーミングについてはアテにしない方がいいかもしれないな。
 いつぞやか俺とニクも面接を受けた部屋に入り、同じようにいくつか質問をしていた。

 そこで分かった経歴は以下の通り。
  出身地 :パヴェーラ(ツィーア山の向こうにある港町らしい)
  得意な事:味見、毒見、食べること。あとついでに斥候
  志願理由:美味しいご飯食べさせてくれるっていうから
  備考  :元Cランク冒険者

「え、元冒険者だったの? それもCランクか」
「せやで。ただ、これ以上はスキルなしじゃ行かれへん。かといってスキルスクロールは高いやろ? そんなん買うくらいなら普通は食いモン買うわな?」
「それなら仕方ないな」

 納得のいく理由だった。少なくとも、同じように睡眠に埋没することを目標としている俺にとっては。
 ……え? 普通は食費切り詰めてでもスクロール買って上を目指すモンだろうって?
 それは上のランクを目指そうとしている人の理論ですね。俺らにゃ関係ないこってす。
 一通りの質問を終えて、受付嬢さんは書類に何か書き込んでから言った。

「わかりました、ギルドカードを発行しましょう。しかし以前の名前は捨てられたそうなのでCランクから、というわけにはいきません。ま、Gランクは免除で、Fランクとしましょう」
「それならランクがそろっててわかりやすいですね、ありがとうございます」
「……ちなみに、彼女はいったい幾らだったのですか?」
「うまく値切れましてね。銀貨50枚でしたよ」
「それは……掘り出し物ですね、間違いなく」

 訝しげな視線を向けてくる受付嬢さん。わ、悪いことはしてないよ? ホントホント。
 銀貨はDPで出したものだけどねっ。……帝都でもDPから出した貨幣を正規通貨として発行してるらしいし、全く問題は……ぎ、偽造ではないから大丈夫のはず……!

 ともあれ登録料の銀貨5枚を支払い、イチカのギルドカードを受け取った。
 イチカの勧めでパーティーの申請をし、イチカをメンバーに加えて今日は帰ることにした。
 本日の宿は、前にも泊まったことのある『眠れる小鳥亭』だ。お金の節約ということで、1部屋だけである。イチカも、納屋を借りるよりご飯が一品増えたほうがいいと言っているし、そういわれたらイチカのために別に一部屋、というのもあれなので一緒の部屋で寝ることになった。
 ああ、当然ご飯は奴隷用じゃない普通のを3人前だ。奴隷用のはこの間食べたから十分だ。

「うん、ホンマにご飯ちゃんと食べさせてくれるんやねー。うれしいわぁ」
「イチカにとって食は大事なんだろ? 俺もその気持ちは分かる。従業員には気持ちよく仕事してほしいからな」
「ほぉ、気持ちよく? ニク先輩も血色良いし、一目見た時から『こら掘り出しモン』やって思ってたさかい、ええで。ちゃんと食わしてくれるんなら文句もないわ」

 どうやら俺のほうも掘り出し物扱いされていたようだ。
 イチカは、野菜スープをくいっと飲み干し、器の汁気を少し残したパンでふき取って綺麗に食べる。
 無駄がないな。「毒見するわ、先に食べるで」って言って主人である俺より真っ先に手を付けたのもある意味無駄がない。

「ごっそさーん、さて、どないする? さっそく寝る?」
「そうだな。イチカ。ベッドは使っていいぞ」
「へ?」

 イチカは、俺が言っていることを理解できていないのか、首をかしげる。そうか、そりゃ部屋に1つしかないベッドをイチカに譲ったら俺はどこで寝るのかって話になるもんな。
 俺は【収納】から『オフトン』をとりだし、床に敷いてみせた。

「俺とニクはこっちで寝るから」
「ちょ! なにこれめっちゃええやん! こんなん高級宿でつかう代物やで。うわー、これが先輩との差かぁ……ってか何気に【収納】使えるんやね、スクロール高ぅなかった?」
「……イチカが食に対して譲れないように、俺にも譲れないものがあるってことだ。いいか、決して俺の睡眠の邪魔をするなよ?」
「めっちゃ、よく分かった。起こさなきゃヤバい時以外は絶対ジャマせんと……朝飯に掛けて誓うわ」

 それは実に信用がおける誓いだな。俺は満足して頷いた。

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