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絶対に働きたくないダンジョンマスターが惰眠をむさぼるまで 作者:鬼影スパナ

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ダンジョンバトル、激闘

中編です。……ん? 誰か前後編と言ったかね? いやすみません。
「入口にいきなり落とし穴が?!」
「ゴブリンを先行させて! 落とし穴は踏んで見つける!」

 『白の試練』側では、ハクの腹心のうち攻勢担当があわただしくトラップに対処していた。
 出鼻を挫く落とし穴だ。さっそく何体か飲み込まれてしまった。
 もしこれがダンジョンでなければ死体で穴を埋めるまで物量を流し込みたいところだが、あいにくダンジョンバトルでは死体はすぐさま吸収されてしまう。
 もっとも、落とし穴の位置が特定できれば、それをよけて進めばいいだけだ。

「よし、落とし穴の位置は特定、侵攻再開だよ!」
「ッ! まって、ミノタウロスが落ちた! ……ぐ、串刺しでアウト、即死よっ」
「なんで?! そこはさっきゴブリンが通ってた所のはず……!」

 だが、『ただの洞窟』にはゴブリンに反応せずミノタウロスやリザードマンにのみ反応する落とし穴まであった。

「対象を選ぶ落とし穴……?! そんなの、DPをかなり使うはず……最初で勝負を決めようっていうのかしら」
「ああっ! またミノタウロスが! 残り11! リザードマンも残り30です! ちゃんと斥候の役割果たしてよミーシャ!」
「だからさっきそこはもうゴブリンが通ったんだってば!」

 またミノタウロスが落ち、数を減らす。 
 別の場所で、リザードマンとゴブリン2匹が同時にのった足場が崩れて落とし穴となっていた。
 その、足場が崩れて落ちる瞬間をハクは見逃さなかった。

「……分かったわ。ゴブリンが落ちなかった理由……きっとこれ、重量で判別してるのよ」
「なるほど、それであれば条件がおおざっぱで済む分、DP消費が抑えられ数を用意できます。……考えましたね」
「落とし穴の床下は下が空洞になってるはずよ。時間はかかるけど、叩いて、音を確認しながら進みなさい」
「ハッ! ゴブリン、かかれ!」

  *

「やばっ、動作不良だ。ゴブリンが落とし穴に嵌らなかった。……あそこらへん寝不足で作ったから床材の厚さが均一になってないんだ……うーん、ミスった。薄さが足りなかったか」
「あ、みてケーマ。ミノタウロスが落ちたわよ?」
「マジか。 おいニク、落とし穴大活躍だぞ」
「お、お役に立てて、なによりですっ」

 『ただの洞窟』側、予想外の戦果であった。

 *

「敵ダンジョンの1階層を突破しました! ……道中、しつこい不意打ちで被害が出ています。ゴブリンが少なくなってきました」
「木の戸を開けようとしたら剣が飛び出して串刺しにしたのは、秀逸でしたね」
「あれ、今度うちで使ってみたいわ。……防衛側の状況は?」
「敵部隊、3層到達! ……火炎罠で、ネズミ、一部足止めができていますっ!」

 火炎罠は文字通り火を噴き出すトラップだ。
 今回は一定のタイミングで炎が噴き出すようになっている。常に火を噴き出して完全に堰き止めてしまうようにするとトラップが動作不良を起こして無力化してしまうため、完全に留めることはできない。

「……相手がネズミじゃ、せっかくのリザードマンもあんまり役に立ってないわね。攻勢のほうは?」
「敵第二階層は……迷路となっています!」
「ふむ。『白の迷宮』相手に迷路で挑むとはね。部隊を分けて探索しなさい」

 もっとも、冒険者相手ならともかくダンジョン戦において迷路はあまり効果が無い。
 マッピングがあり、司令塔からそれを元に進路を指示できるからだ。

「む、ゴーレムが徘徊しているようです。5体1組で、……ゆ、弓?! ゴーレムが前衛後衛に分かれて、後衛が弓矢で援護しています! ゴブリンでは歯が立ちません!」
「ッ、ゴーレム風情が冒険者のマネ事? やってくれるじゃないの。リザードマンで対応するしかないわね……ゴブリンを歩哨にしてリザードマン、ミノタウロスの順にで行きなさい」
「うわわっ?! 敵の武器が強すぎです! リザードマンの剣が斬られました?! こ、このゴーレム部隊……前衛の3匹、全員魔剣装備です!」

「なんですって? ……ゴーレムに、魔剣?!」

 いくらゴーレムのDP効率いいからと言って、魔剣を装備させるほどゴーレムは強いものではない。
 魔剣はただでさえDPにしてもかなり使うのだ、折角ならもっと強い、よく動くモンスターに持たせるべきである。

「というか、先ほどからゴーレムばかりですね。よほどゴーレムが好きなのでしょうか」
「……なにか思い入れがあって使っているのかもね? でも、その甘さが命取りよ。部隊を合流させて、ミノタウロスで挟み撃ちよ!」
「ハイッ! ……あ、あれ?! ちょ、ちょっとまってください、マップがおかしいです、ここ、なんで壁になってるの?!」
「……ッ?!」

 マップとモンスターの視界を見比べるが、あるはずの道が無い。
 状況の変化に戸惑っているうちに、合流しようとしていた部隊が丸々やられてしまった。

「まさか『変幻迷宮』……ッ! うそ、この規模じゃ、10万DPで収まるワケないですよ?!」
「要所要所を、ピンポイントで指定してるんじゃないかしら。……それなら、5…いや、4万DPでもいけるはずよ。でもおそらく、これが最後の大仕掛けでしょうね」

 ハクは、この運用方法に感心した。
 少ないDPを非常に効率よく使っている。実に良い。仮初ではあるが前提として同じ量のDPを用いてのダンジョンバトル。勝敗を分けるのは、その運用方法。
 より少ないDPで相手のDPを多く削り取る、これはそんな戦いだ。
 もし、本当に同じ量のDPだけを使って戦った場合、ケーマに勝てるだろうか……? いや、ケーマの方が確実に上手である、と感じていた。

「ふふ、惜しむらくは、たった10万DPのバトルだってところかしら」

 そう、これがたった10万ではなく、100万もつかったDPであれば、基本的な戦力の差も覆せただろう。だが、たった10万。ハクから見れば、どう見積もっても短期決戦になる量しかなかった。

  *

 前衛ゴーレムの装備している量産型ゴーレムブレード。これは刃の部分だけが鉄であとは石という、地味な節約がされていた。
 こうすることで鉄インゴット1個から何本もゴーレムブレードが作れるのだ。石は掘って出てきた廃材だからタダである。
 弓矢については適当に作った。矢も廃材利用だ。 こちらに使ったのは……しいていえば、労力とマナポーション(樽)くらいか。
 尚、本来であればこれらの武器もゴーレムなのでマップ上にはパーティというより部隊というべき数が表示されるはずであったが、ゴーレム+装備品とすることでマップ上に必要以上表示されないようになった。地味に便利である。

 そして、マップを見ながら、完全に敵から死角になっている場所で壁ゴーレムを動かす。

「よし、壁ゴーレム、バレずに移動できたな、大・成・功!」
「あれって、この間ニクが殴り壊してたやつ、だっけ? 動けたの? 足とか無いのに」
「新型だ。下にタイヤつけたからな、走るぞ」

 尚、この自走式壁ゴーレムのお値段は、まさかの0DPである。廃材利用かつ手作り。ダンジョン内限定運用品のため魔石すら使っていない。
 キーワードは「エコ」であった。

  *

 迷宮を突破するころには、『白の試練』側も第4階層まで踏破されていた。ネズミはまだ150以上残っている。指示を受けているからであろうが、賢く、火炎罠を見事に避けるのだ。それでも階段部屋にリザードマンを集めて防衛したおかげでだいぶ減らせていた。

「まさか、一旦下に下がってからまた上がってこなければいけない、とは……第三層も迷宮、と思ったら、2層合わせての大迷宮でしたね」
「彼には冒険者じゃなくて、うちのダンジョンのアドバイザーとして働いてもらうのも良いかもしれないわね……」

 そして、迷宮を抜けた先にはのぼり階段があった。……2階層分だ。最初入口があったところを1とした場合…0階層、というべきなのだろうか? それとも、マイナス1階層、だろうか。

「……呼称に迷いますね」
「こんな地味なところで姑息な手を……上層1階層、と呼称します!」
「はっ、かしこまりました、上層1階層……扉があります!」

 モンスターの視界を借りてみるその扉は、非常に頑丈そうであった。
 そして、すぐ横に仰々しい看板がある。

「……なんて書いてあります?」
「ええと……謎掛けのようですね、読み上げます。『答えは簡単です。難しく考えてはいけません。1枚の銀貨を3人で分ける方法を答えなさい』……です」

「1枚の銀貨を3人で分ける……? ……えっと、銀貨を銅貨にすると100枚だから、えっと……」
「分かりました。まず銀貨1枚を銅貨100枚にします。そして、1枚ずつ3人に配り、最後に余った分を分けた人が手数料として貰えば良いのです」

 この程度の問題、歴戦のダンジョンコアであるハクにとっては簡単な謎掛けであった。

「流石ですお嬢様!」
「それなら確かに不満は出ないでしょう」
「完璧な回答です」
「というわけよ、どうだ、まいったか! 第89番ダンジョンコアさまにこの程度の謎掛け、通用しないと心得よ!」

『ハズレ、です。お帰りください』

「「「「えっ?!」」」」

 『白の試練』コアルームに、気まずい空気が流れた。
 そのまま、部屋の床全体が落とし穴になり……落ちた先は、入口のフロアであった。

「何故です、私の答えは完璧だったはず……っ!」
「ちょ、ちょっと落ち着こうか?! ほら、全部隊は部屋に入れてなかったからまだ回答できるよっ! あっ、被害報告は?!」
「あ、えっ、み、ミノタウロス1体の足首がくじけました、戦闘復帰は無理です……2体が落とし穴に直行で即死……リザードマンは、3体無事です。ゴブリンは……えと、だめでした! 残り、ミノタウロス6、リザードマン12…うち3体分断、ゴブリン8ですっ」

 ぐぐ、とハクはこめかみを手で押さえながら指示を絞り出す。

「足首をくじいたミノタウロスを生き残っているリザードマンを使って撤退させましょう……くっ、謎解きを自信満々で失敗するとは……屈辱です……! 足首をくじいたミノタウロスを剥製にして飾り、この屈辱を忘れないように……」
「お、お嬢様、もう一度、今度はゴブリンだけで行ってみましょう! 正解したら全軍で行けばいいのです!」
「…………そ、そんなみっともない真似……ッ 695番ちゃんも見てるんですよ?!」
「ここは堪えることも大事かと……」

「だ、第4階層突破されました! ネズミ、動きが洗練されています、とらえきれません!」
「お嬢様……!」

 時間がもうありません、と言外に訴えるクロウェ。
 ハクは、優秀であるがゆえに、決断した。

「わかりました……あえて、 あ え て ! ここは! ゴブリンに行かせます!」

  *

『手に入れるにあたっての貢献度に従い分配する!』
『ハズレ、です』

『端数をパーティーの共有財産にして、残りを全員で分ける!』
『ハズレ、です』

『……銀貨を3つに割って、それぞれ分ける!』
『ハズレ、です』

『この3人のうち2人が奴隷か奴隷相当のため、一人がすべて独り占めして分配はしない!』
『ハズレ、です』

『公正な第三者に預け、分配してもらう!』
『ハズレ、です』

 おうおう、見事にハマっておるわ。
 さすがに2回目以降はゴブリンを一匹ずつ生贄にすることにしたようだけど。……ある程度重量がないと回答権が得られない、っていうのも面白そうだな。

「ねぇケーマ、この謎掛けって……」
「ああ、ロクコ。お前が3秒で正解したやつだ。お前は凄い、ホント感心する。問題文最後まで聞かないんだもの」
「だ、だって答えは言ってたじゃないの! でも、まさか姉様がこんな……」
「こういうのは頭が良いやつほど、一度はまると抜け出せないんだよ。お前の姉ちゃん相当頭いいな、今出てる答えぽんぽん思いつく方がよっぽどすごいと思うぞ」

 横目で見ながら、すっかり数が少なくなり操作が楽になったネズミを着実に敵ダンジョンの奥まで潜らせる。
 ……もしかしたら、隠し玉もつかうまでもないかもしれないんじゃないか、と思いつつ。

  *

『――ハズレ、です』
「ゴフッ!」
「お嬢様ァアアアア!」

 ハクはすっかり術中に嵌っていた。
 考えても考えても、ハズレ、ハズレ、ハズレ……!

「くっ、なんて恐ろしい……まさかダンジョンバトルでこのような精神攻撃を仕掛けてくるとは……」
「あの、お嬢様。……ところでこれ、本当に『知恵の門』なのでしょうか……?」

 知恵の門。それは、ダンジョンに来る者の知恵を試す、特殊なトラップだ。
 非常に頑丈な扉であるが、ただし謎を解けば誰でも通ることができる。
 ハクも、そのつもりでこの謎掛けに挑んでいたのだ。

「……な、そ、それは根拠があるんでしょうね? クロウェ」
「ええ。まず、お嬢様の英知をもって突破できない、というのが1点。そして……これまでのDP消費を考えて、本当に『知恵の門』を設置するだけのDPが残っているのか、ということです」
「……!!」

 確かに、先ほど迷宮を抜ける際にハク自身が言っていた。「もうこの先に大きなトラップは無いだろう」と。
 『知恵の門』は、そもそも最低でも3万DPはする代物。簡単な問題ほど強固な扉と化すが、難しい問題であればあるほど扉は脆くなり、より多くのDPが必要となる。
 それは、10万DPの勝負では非常に大きな仕掛けであった。

「ということは……これは……」
「破壊前提のただの扉、という可能性がございます……あるいは、扉の前で答えを言うと落とし穴が作動する、というような」

 それは、なんという悪辣な罠だろう。いくら答えても、謎解きが正解であっても、もはや意味をなさない。そこで立ち止まり考える時点で、泥濘にはまっていたということだ。
 お、恐ろしい……ケーマ、あの男の頭の中はどうなっているというのか……ッ!

「な、なんという高度で卑劣な罠なんですか!! こんなの卑怯じゃないですか!!」
「しかも気付かなければ何度でも引っかかってしまう……」
「うう、しかし騙されるほうが悪いのです。ここはおとなしく負けを認めましょう。ふふ、しかし、よく見破りましたクロウェ。さすが私の右腕です、私が視野狭窄に陥っているところを見事支えてくださいました」
「お褒め頂き、恐悦至極に存じます」

「あの……」

 と、そこでピンク髪のワーキャット少女、ミーシャがおずおずと手を挙げる。
 彼女はこの5名の腹心の中では、謎解きとは一番縁遠い人物であった。
 簡単にいえば、おバカであった。

「なんですかミーシャ、私はもうこの扉を力尽くで破壊することに決めたのです、邪魔するのですか?」
「いえ滅相もございません! ただそのっ、もしかして、その、答え……『簡単』、なんじゃないかなぁ? って……」
「は? ……簡単? な、なにを言っているのです? ミーシャ。 ああ、そうですね、確かに簡単で単純明快な答えです、このトラップに答えなど無いという!」
「ち、ちがいます、その、だって、最初に『答えは簡単』って書いてあるじゃないですか!」

 空気が固まった。

「ま……まさか……いや、そんな……ハハハ……」
「や、やだなぁミーシャ、そ、んな……わけ……」
「あ、ははは、何をおっしゃるミーシャさん……」

 声が引きつっている。
 他の腹心も、「もしかして、その通りなのでは」と思ってしまった。

 そして、ハクも。クロウェも。

「…………クロウェ。最後に、一回だけ試します……」
「ッ……はい……」

 もしこれが正解だとしたら……自分は心が折れる、と、覚悟しつつ、その最後はハク自らが答えた。

『正解です』

 ――ポッキリ折れた。

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