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絶対に働きたくないダンジョンマスターが惰眠をむさぼるまで 作者:鬼影スパナ

閑話の章:初心者狩り

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初心者狩り (4)


 ダンジョンの中では時間は分かりにくいが、昼と夜は分かる。ダンジョン内でも夜は暗くなるからだ。
 【暗視】スキルでもないかぎり、明かりも無く夜に行動するのは厳しい。

 そんな夜中。マイオ達は見張りを立てることもなく、ゲスーノが用意したテントの中で寝静まっていた。

 ゲスーノとキワミはそのテントの前に明かりも持たずに立っていた。
 2人のテントは少し離れた所にある。ここに立っているのは勿論、襲撃するためだ。

「お邪魔するわよ……」

 と、まずはキワミがこっそりと入り込む。中はあまり広くはないが3、4人が横になれる広さはある。そこにマイオとシーナが毛布に包まって寝ており、奥には獣人のペットが座って寝ていた。

 ちらりとペットに目を向ける。座ったまま寝ているように見えたが、目が合った。

「黙っていれば、あなたには何もしないわよ?」
「……」

 興味無さげに、ただ黙ってキワミを見るペット。
 キワミは「やっぱりね」と笑うと、堂々と腰につけていたポーチから首輪――奴隷の首輪を取り出し、寝たままのシーナの首にぴったりと巻きつけた。

「■■■……■■、■■■■、■■■■■■、■■■――【違法命令(イリーガルオーダー):5】」

 ぽう、と首輪が光る。成功だ。これで、この首輪はゲスーノ達の命令で締まるようになった。
 この魔法はかつて怪しい行商人から購入したもので、奴隷の首輪を5度だけ締め付けることができるようになる魔法だ。
 かければ奴隷の首輪はちゃんと外れなくなる。ただし、5度目に首を絞めた時は死ぬまで止まらない。そういう欠陥魔法だ。

 最大の障害を排除したところで、ここからがお楽しみの時間だ。

「ダーリン、もういいわよ?」
「ありがとうハニー、愛してるよ」

 キワミがゲスーノを呼ぶと、ゲスーノは躊躇なくテントに入ってきた。
 と、マイオがもぞりと動いた。

「うぅん……はっ、キワミ様? え、な、なぜゲスーノ様がこちらに?」
「お目覚めかしらお嬢様?」
「そりゃもう、お嬢様たちをエスコートするためですよ、くっくっく」

 ゲスーノは笑った。ギルドで見せた親切そうな笑顔ではなく、今度は人の不幸が嬉しくて仕方ないといった歪んだ笑みだ。

「そんな……シーナ、起きなさい! 狼藉者を切り捨てるのです!」
「はひ、お、お嬢様! は、ただい……う! うぐ、く」

 首を絞められ、シーナはうつ伏せに倒れた。

「はッ、なんて貧弱なエルフだ。少し首を絞めただけでこのザマかよ。本当に護衛だったのか?」
「シーナに何をしたんですか!?」
「首輪をつけて躾をしただけですよ。なぁに、夜はまだこれからです、楽しみましょう。大人しくしていれば――ま、こんな小便臭いガキは趣味じゃねぇからいいか。エルフを使わせてもらおう」

 ゲスーノはシーナの荷物、ポーチを探り、ギルドカードを取り出した。

「――なんだ、Dランクじゃねぇか。どんだけ自信がある護衛だよと思ったけど、警戒するだけ損だったな。ほらハニー、プレゼントだ」
「ありがとうダーリン。愛してるわ」

 ぞんざいにシーナのギルドカードを投げるゲスーノに、受け取るキワミ。
 キワミは、【収納】から数枚のギルドカードを刺し貫いた鉄串を取り出す。シーナのギルドカードは、そこにザクリと刺し貫かれ、串の飾りに加わった。

「うふふ、Dランクのカードもだいぶ溜まったわね」

 キワミは、獲物から奪ったギルドカードを串刺しにしてコレクションにしていた。
 腐って捨てる必要もなく、場所もさほど取らない。キワミは自分のコレクションを趣味がよく合理的だと考えていた。

「……」

 すると、それを見た獣人のペットが立ち上がり、荷物をあさった。
 何をしているのかと思えば、キワミに1枚のカードを差し出してきた。
 それは、マイオのFランク冒険者ギルドカードだった。

「なにをしているの! やめなさい!」
「あらあら、お嬢様相当嫌われてたのねぇ、ウフフフ」

 キワミは座ったままカードを受け取って、【収納】から別の鉄串を取り出し、串刺しにした。
 そして【収納】にしまおうとしたその瞬間、


 獣人のペットがものすごい速さで割り込み、【収納】によって開いた穴に手を突っ込んだ。
 そして、中に入っていたEランク、Cランクのギルドカードの串刺しコレクションを掴み出した。

「なっ!?」
「ランク別? ……Bランク以上は、なさそう。まぁいいです」

 FランクやEランクは多く、それに比べたらDランクやCランクの串に刺さっているカードは極端に少なかった。

「一体な」

 何を、とキワミが口に出そうとした瞬間、顔面を殴られ、テントの床にたたきつけられた。一撃で昏倒するキワミ。獣人のペットは、殴った右手をぎゅっぱぎゅっぱと握ったり開いたりしている。

「もういいです」
「え、手口とか被害者のこと聞きださなくても良いのですか? ある意味ここからお楽しみかと思ってましたが」
「はい。被害者のカードを集めていました。これで十分です」

 どこからともなく声が聞こえた。ペットはその声と会話している。
 一体何が起きているのか、ゲスーノは一瞬(ほう)けたが、すぐに正気を取り戻した。そして、

「動くな! 動くんじゃない、いいか、少しでも動いたらお嬢様がどうなるか、分かってるんだろうな」

 と、マイオを抱き上げ、その首にナイフを突きつけた。
 ゲスーノのその判断は正解だっただろう。

「どうなるんでしょうね? ニク先輩」
「……もしかして、ご主人様のご奉仕に役立つ何か、が?」
「いやいやさすがにあそこまで体触られたらバレますからこれ以上はないでしょう」
「そうですか」

 正解だったであろう、ただしそれはゲスーノが認識している内容が正しければの話だ。
 重要人物であるお嬢様を人質にとることでキワミを助け、テントから逃げる、十分な時間が稼げるはずだったのだ。
 さらに言うと主人であるお嬢様が死亡したら、奴隷はフリーの状態になる。そこで首輪に魔力を流せば新たな主人となれるのだ。……もっとも、先ほどの動きを考えると本気を出しても難しいかもしれないが。

 しかし、その奴隷は自分の生殺(せいさつ)与奪権を有しているはずの主人が捕らえられたところで、意にも介さずキワミの手足を拘束している。端から気にしていないようだ。

「なんだよ、なんなんだよ! キワミを放せ! こいつがどうなってもいいのか!?」
「その玩具ならどうぞご自由に」
「何言って……」

 と、ゲスーノはふと違和感を覚えた。お嬢様は寝ていたわけでは無い、もう起きていたはずだ。なのに、こうして人質にとってから一言も話さず、身じろぎひとつしない。
 そもそも呼吸している気配すらなく、密着しているはずなのに体温も感じない。

 ゲスーノはここでようやく『お嬢様』を見た。
 そこにいたのは――いや、そこに在ったのは、木でできた人形であった。髪だけは妙にリアルだが、のっぺりした顔に申し訳程度の凹凸。口や眼孔すらない。
 人形は、ゲスーノの顔を見るとカタリと首をかしげた。

「ひぃっ!?」

 ゲスーノはお嬢様であった人形を放り投げた。とっさに奴隷の方に投げる形で。
 そしてゲスーノは一目散に逃げだす。キワミを見捨てて。

 奴隷に向かって人形を投げたのがよかったのか、テントの外、台座まで逃げることができた。この部屋から逃げるには、まず台座に魔剣を戻さなければならない。
 その後は再びテントの近くを通らなければならないが、逃げに徹すれば逃げられないことも無いだろう。なにせゲスーノはCランクの前衛職。腕に覚えはあるのだから。

「何なんだ、何なんだってんだ一体……ああ、さっきまで上手くいっていたのにどうして」

 何か悪い事でもしたのか、というと、無論しているが。

 ……キワミには悪いが、ここで別れた方が良いだろう。
 あいつらは人の形をした化け物だ、捕まったら殺される。そう、あいつらは人に擬態した……

「……モンスター? まてよ、ここは安全地帯だぞ」

 ということは、変異種か? そうだ、変異種だ。
 変異種の報告は冒険者の義務で、多額の報奨金が貰える。そうだ、そうとも! これは逃げるんじゃない、報告しなければいけないからこその戦略的撤退だ!

 ゲスーノは、腰に下げていた魔剣を台座に差し込んだ。

「よし、これで――」

 と、振り向いて通路を見るゲスーノ。


 だが通路は針に塞がれたままであった。
 あたかも、化物の口の中に閉じ込められたかのように。

(ところで全く関係ないけど、個人的に待ちに待っていた異種族レビュアーズという漫画がついに1巻発売しました。
 ファンタジーのエロい店に行ってレビューするという漫画だけど、サラマンダー(火精)の女体焼肉とか天原先生マジ発想の常勝無敗。大ファンです)
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