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お見合い話(ボンオドール視点):後編

 翌日、ケーマ殿に午前の間だけマイの護衛をしてもらった。

 そして戻ってきたのだが――ああ、こっそり付けてた密偵は見つかったか。やはり冒険者としての腕は確かなようだ。

 更にケーマ殿に婚約者の話を断られてしまった。うーむ、好きな女性がいるのか。やはりクロイヌ殿の母親であろうか?

 それでは仕方ない。他の手段でどうにか友誼を結べないか――


 ――と、そう思っていた矢先にケーマ殿からクロイヌ殿をマイの婚約者に、と打診された。


 これはまさに曲がり角に宝箱(思いがけない幸運を指す慣用句)だ。

 あまりの幸運に少し動揺してしまった。

 しかもケーマ殿の功績をクロイヌ殿の功績として付けてくれるらしい。

 ……飛びつきたい。ものすごく飛びつきたいが、ここは領主の面目を保つため一旦我慢して検討ということにして、裏を探り、それから飛びつこうではないか。


 そう考えていたら、ケーマ殿はクロイヌ殿のギルドカードを取り出した。

 ……よほど即決してほしいらしい、クロイヌ殿の貴族の身分を提示してきた。ここまで譲歩されては即決せざるを得ないか。裏を探るなという事だろう。


 と、ケーマ殿が追加で自分のギルドカードを見せてくる。そこにはDランクと記載されていた。

 聞けばどうやら、貴族名鑑のことを知らなかったようだ。

 そして尚も自分はDランク冒険者の平民であると言い張った。

 ……それはつまり、白の女神様から特別な優遇を受けている、特殊な事情がある重要人物ということに他ならないわけだが。


 尚、平民にはあまり知られていないことだが、ラヴェリオ帝国では同性婚が認められている。法律書に『同性であれば姉妹でも婚姻を認める』という一文がある程だ。

 そのため家の結びつきを強めるための同性婚もない訳ではない。邪法だが、混沌の神が作りし性別を混沌にする魔法薬「フタナール」があれば血を残すことすら可能だ。

 下級貴族では家が傾くほどに希少で高価な魔法薬ではあるが、我がツィーア家であれば手に入れられるだろう。


 あるいは、ケーマ殿はそれを狙っていてクロイヌ殿の性別を変えさせたいのかもしれない。……「ニク」などという名前で貴族登録までされるほどだ、推測しきれないほどに複雑な事情があるに違いない。

 私も、もしマイが「ニク」という名前で貴族登録されてしまっていて、名前を変えることができないとしたら……せめて性別だけでもマシな方にしてやりたい。それが親心というものだ。


 くっくっく、分かる、分かるぞケーマ殿。娘は可愛いものな!


「では、ケーマ殿の提案に乗ろう。クロイヌ殿を婚約者としようじゃないか」


 その後、ケーマ殿に婚約者として名前を借りる報酬として『神の枕』の情報を渡した。

 すべての情報を渡すことはできないので、話せることを誠心誠意話した。


「……マイ様が、『神の枕』の管理者だと……?」

「あるいはマイの婚約者であれば、管理者の要件を満たすであろうな」


 誰が管理者と言う事はできないが、ここまで言えば誰でも分かることだ。

 どういう事情で『神の枕』を欲しているのかは分からないが、ケーマ殿とは可愛い娘を持つ父親同士、仲良くしたいものだ。



 ケーマ殿が部屋に戻ってから、入れ替わりでマイが私の部屋へやってきた。


「わたくしはケーマ様と結婚すべきです、お父様!」

「どうしたのかねいきなり」

「孤児たちを真に救いたくば商人を雇い、教育し、仕事を与えよと。餌をやるだけではペットを愛でるのと変わらないのです!」

「う、うん? なんとなく分かったけど詳しく教えてくれるかな?」


 なんでも、マイはケーマ殿の知恵に打ちのめされたらしい。

 孤児院への援助について、孤児に教育を施し、孤児に仕事を与えて自立させるという案をケーマ殿が出してくれたという。

 もっとも、人気取りで孤児院を運営しているのなら余計なお世話だろうけど、と嫌味を言われてしまったとの事だ。


 と、マイには嫌味と聞こえたようだが、私が思うにケーマ殿の言ったことは嫌味ではなく、あえて政策でそうしたままにしていることを考えての一言だろう。

 人は、自分より下の存在が近くに居るとそれだけでどこか安心できるのだ。南門の外のスラムもあるが、町中に孤児院を置いているのはそういう意図も確かにある。


 が、わざわざその手の汚い事情は教えない方が良いだろう。民に向けて、マイには綺麗な存在でいてもらいたい。

 まぁ、孤児院が改善されても政策にあまり大きい影響はないし、マイの経験と考えて好きにやらせても良いか。


「それはすばらしいアイディアだね、経済も活発になる。今の予算をそのまま流用して実現できるだろうし、やってみるかい?」

「ええ、ぜひやらせてくださいまし!」


 きらきら光る瞳で、マイはやる気に満ちた回答をした。


「というわけで、わたくしぜひケーマ様と縁を結びたいのですわ。クロちゃ……クロイヌ様にはわたくし、お姫様抱っこされてしまいましたし? これは主人のケーマ様に責任を取って頂かなくては」

「あー、それなんだがね。……マイの婚約者は、クロイヌ殿ということになりそうだよ」

「……はい?」


 マイが首を傾げた。


「ケーマ殿との話で、クロイヌ殿が婚約者ということに落ち着いてね」

「……お、女の子同士ではないですか!」


 ああ、そういえばマイには同性婚のことはまだ教えてなかったか? あまり使われない方法だから教育が後回しになってたか。


「ケーマ殿の推薦だね。あと、クロイヌ殿は女性という風には取り扱わない方が良いだろう」

「えっ、く、クロちゃんは男の子だったのですか!?」

「うん? ……まぁ、うん、そういうことにしとこうか」


 ケーマ殿も男と言い張るようなことを言っていたし、その方が良いだろうと私は頷いた。


「……わたくし、ケーマ様とお話してまいります! 直接理由を聞かないと納得できません!」


 そう言って、マイは出て行ってしまった。

 やはりまだ子供だな。……ケーマ殿なら言い聞かせてくれると思うが、怒って破談になったりはしないことを祈ろう。報酬はもう渡しているし、その点は大丈夫だと思うが。



 その後、晩餐ではクロイヌ殿がエスコートをしていたし、見事収めてくれたのだろう。

 が、その席で次男のジルバが声を荒げた。


「まってよ、そいつは奴隷じゃないか! しかも女だ! そんなふざけたニクなんて名前のヤツがマイの婚約者に相応しい訳がない!」


 しまった、ジルバも同性婚については未教育だったか。ロンドは分かって居るようだが。ワルツもこれには苦笑いだ。

 仕方がないのでクロイヌ殿に実力を示してもらって、それで納得させることにした。


 クロイヌ殿であればジルバなら確実に勝てるだろう、と思っていたのだが……まさかロンドが翻弄されるほどの実力者とは、このボンオドールの目をもってしても見抜けなかった。


  *


 翌日、朝食は要らないとメイドに言っていたとの事でケーマ殿は朝食に来なかった。

 そしてことが発覚したのは朝食後の執務中でのことだった。


「領主様。昨夜、門で冒険爵の通行があったと兵から連絡がありました」

「ふむ……って、クロイヌ殿ではないか!?」


 貴族の出入りについては門から報告がある。時間外の通行についても緊急性の高そうな貴族はすぐに連絡が入るものだが、冒険爵では案外そうでもない。

 冒険者として活動しており、夜間に門を出入りするために使うことが多いからだ。


「しまった……」


 ケーマ殿の部屋がもぬけの殻になっており、寝具の上に1枚の便箋がおいてあった。

 手紙には、こう書かれていた。


『監視下では寝にくいので村に戻る。ニク・クロイヌの名前は1ヵ月間自由に使って良い。本人がどうしても(・・・・・)必要であれば、ゴレーヌ村まで連絡されたし』


 むぐ! ……初日の監視がバレていたのか……やはり優秀な男だ。

 しかし何も言わずにこっそり帰るとは――いや、昨晩確かに「戻っていいか」とは聞いていたか。それであれば門を冒険爵の権限で通ったのもある意味ケーマ殿らしい挨拶とも考えられる。


 ともあれ1ヵ月間はクロイヌ殿とマイを婚約者として使って良い、というお墨付きを置いている。

 ……つまりケーマ殿はこう言いたいのだな?


 『1ヵ月で納得できる準備が整えられたらウチの娘と婚約させてやる』と!

 ふっ……すばらしい娘愛だ。2人の結婚式の暁にはケーマ殿とは美味い酒が飲めそうだな。


「……フタナール、手に入れねばならんな」


 しかし娘たちの住居で言い争いが生まれそうだ。

 ……普段は別居でそれぞれ親元で暮すというのも提案してみるか?

 うむ、まぁこれはマイとクロイヌ殿次第だろうな。



(よし、前後編で済みました。次から新章かな? ただ、書籍化作業と本業でだいぶ忙しいので次の日曜の更新はできないかもです)

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玉あり!
[一言] 派手な勘違いをしているなぁ、なぜか何もしてないのに主人公の株が上がる上がる。て言うかフタナールとかいう薬作ったのレオナだろ、そんでもってセツナのふたなりはやっぱレオナのせいだろ。
[良い点] 面白いです。 [気になる点] 更新をもっと早くしてください [一言] 領主さんが、なんかやばい勘違いをしていますが、大丈夫でしょうか?正直に言いすぎるのも考えものですね。貴族って大変ですね…
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