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絶対に働きたくないダンジョンマスターが惰眠をむさぼるまで 作者:鬼影スパナ

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侵入者

「へぇ、ここがダンジョン『ただの洞窟』か……」

 冒険者の男は、その何もない洞窟に足を踏み入れた。
 数歩遅れてパーティーメンバーが後を追う。
 パーティーの人数は、全部で3人。ギルドで調査依頼を受けてやってきた、Fランクの冒険者たちだ。

「おいおい、気を付けろよ。仮にもダンジョンだぞ、どんな罠があるか分かったもんじゃないんだ」
「心配するなって、ギルドでも言われただろ? 特に何もないって。あるのはダンジョンコアだけ、ってさ」
「そうだけどさ……」

 気弱そうな仲間が止めるも、関係ないとさっさと入っていく。
 左右に通路が伸びている。が、どちらを見ても何もない……木扉の燃えカスがのこっている程度だ。

「山賊の残党も居なさそうだな」
「騎士様が討ち漏らすかよ。でも、20人は居たらしいぜ」
「うわぁ……そりゃ、前のやつは運がなかったな」
「おっと、こっちは行き止まりだな。……反対側は?」
「もうちょい部屋があるみたいだ。行ってみよう」

 何事もなく奥へ進む冒険者たち。それは当然だ。この洞窟には、罠もモンスターも出ない。
 ……ただ1ヵ所、ダンジョンコアからゴブリンが5~10匹出てくる程度だ。
 依頼の内容としては、その出てきたゴブリンの数を報告するだけで銀貨1枚も手に入る美味しい仕事だった。
 一応ゴブリンの討伐になるらしい。が、ゴブリンなんてFランク冒険者が1人いれば5匹は簡単に倒せる。3人いれば10匹でたところで余裕だ。

 そして、ダンジョンコアのある最奥の部屋へ到達する。
 ダンジョンコアからは、5匹のゴブリンが現れた。
 出ると分かっていればなんのことはない、剣を2,3回雑に振り回すだけで片が付く。

「ひーふーみー……5匹だな。よし」
「依頼終了っと。ん? どうした?」

 冒険者のひとりが、ダンジョンコアをじーっと見ていた。

「いやこれさ」
「うん」
「ダンジョンコア壊してみねえ?」
「はぁ?! 何言ってんだお前。ギルドでそれはしないように言われただろうが!」
「だって、ダンジョンコア壊せば騎士様が聖騎士になれるくらいの力がつくって話だぜ? 俺らが壊しても一気にAランクになるくらい強くなるんじゃねーの?」
「Aランク……」

 ごくり、と息をのんだ。
 Aランク。それは紛れもなく冒険者として成功した者たちの称号だ。
 一攫千金を夢見て冒険者になっても、多くはFランクからEランク。兼業冒険者になるくらいだ。
 Dランクでようやく冒険者として冒険者らしく生活できてやっと1人前と認められ、Cランクでベテランだ。Bランクともなればそのベテランの中でも尊敬を集め、1回の依頼で金貨を稼ぐのが普通となり、Aランクともなれば世界中に名をとどろかせる成功者だ。
 その上には一応Sランクとかいう人外の世界もある。Sランク1人で世界を変えられるというが、流石にここまでは関係ないだろう。

「でもさ、俺たちがフツーに何事もありませんでした、って答えるとするじゃん? でもその次のやつがコアがありませんでした、っつったら、俺たち捕まってギルドカード没収じゃないか?」
「だったら俺らでダンジョンコアはありませんでしたって言えばいいんじゃねーの? そしたら俺らじゃなくて、前のヤツが怪しいってなるだろ。……前のやつって山賊か騎士様だろ? ギルドからはなんにも言えなくないか? 山賊はもういねーし、騎士様は冒険者じゃねーし」
「……お前、天才だな」

 実際は嘘を検知する魔道具ですぐにその場でばれるだけであろうことだが、あいにくとこの3人組はそういう魔道具があることを知らなかった。

 そうと決まれば話は早い。剣を抜き、ダンジョンコアに突き立てる。
 1回、2回と剣は弾かれたが、着実に傷はついていく。
 ダンジョンコアは、あたかも「なにもするな」とでも命令されているかのように何もなく、
 そして、ついにはざっくりと剣が突き刺さり……パリン、と水晶玉のように、砕けた。

  *

「――――ッ?!」

 俺は飛び起きた。
 ……体中に嫌な汗をびっしょりとかいていた。

 ……いやな夢をみた。ダンジョンコアが破壊される夢だ。
 頭の粗末な冒険者の手にかかり、ダンジョンコアが破壊されてしまうのだ。
 ……ああ、こんな悪夢を見るなんて、野宿なんてするもんじゃないな。
 ろくな準備もしていなかったので、荷物の中に残っていた食糧と水を摂り、布の服ゴーレムに敵が来たら迎撃するようにと命令して冷たい地面に寝ていたのがまずかった。

 俺とニクは『ただの洞窟』へ戻るため全力疾走していたが、途中で完全に日が落ちてしまい、野宿することにしたのだ。
 マップと布の服ゴーレムがあるから遭難することはないが、視界が使えないまま森を移動してみたら枝やらなんやらが顔にベチベチ当たるというひどい有様で、移動を諦めた。
 布の服ゴーレム、そういえばどうやって視界とか確保してたんだろう。そもそも見えてるのかね?

 しかし夢の中の話には、思うところがいくつもあった。
 己の欲望のために冒険者になった者が、己の欲望のためにダンジョンコアを破壊する……どこにでもあり得る話だ。
 今思えば、そもそも依頼で来ておいて『ただの洞窟』のダンジョンコアを破壊するとかしなくても、別の日に依頼とは関係なく個人的に『ただの洞窟』に行ってコアを破壊してしまえば、さらにそのまま高跳びして他の町で冒険者を続ければいいだけだ。

 ……そう、つまり、今まで運が良かっただけ。

 ふらっと『ただの洞窟』に現れた者が、通りすがりにダンジョンコアを破壊しない、などという保証はどこにも無いのだ。
 あの悪夢は、このままダンジョンを続ける限りいつでも起こり得る未来だった。
 いや、あの依頼が無かった以上、今起こってもおかしくない。

「……んぅ、……ぱぱ……にゅむ……もっとー……」

 横を見ると、ニクが寝たまま抱き付いて来ていた。
 ……幸せそうな夢を見て寝ているところを起こすのは気が引けるが、仕方ない。
 だいぶ早朝とはいえ、視界はある程度確保できるようになっていた。
 俺はまだ汗でべたつく自分の体に『浄化』をかけ、ニクを起こして『ただの洞窟』に向けて移動を再開した。
 ……ぐっ……筋肉痛の反動が、ヤバイ!

  *

 『ただの洞窟』に着く頃には、もう昼近くになっていた。
 思っていた以上に時間がかかってしまったが、ようやく拠点へ到着だ。

 ……と、森を抜けて洞窟を見ると、そこにはあり得ない光景が広がっていた。
 白いテーブルとイス、そして優雅にお茶を楽しんでいる、ロクコと、見知らぬ白い長髪のお嬢様。お嬢様の傍らには黒い執事服に身を包んだ、金髪の……男? いや、男装の麗人か? が、控えて日傘を差していた。

「あ、ケーマ! おかえり、早かったのね!」
「……なにしてんの?」
「えっ、見てわからない? 淑女の嗜みのティータイムよ?」

 ロクコはナイペタな胸を自慢げに張って答えた。
 そうじゃない。なんでこんなことしているのかと聞いているんだ。

「89番姉さまが遊びに来てくださったの!」
「へえ、ハチジュウキュウバン……89番? って、ダンジョンコアの?!」

 改めて椅子に座った白いお嬢様を見る。

「はぁい、初めまして…………ケーマさん、でよろしいかしら?」

 ひらひらと優雅に手を振る白いお嬢様。
 正直滅茶苦茶タイプなのだが、何故だろう。寒気がした。

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