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説得


 俺がニクを抱き枕に寝ようとしている所にマイオドールが入ってきた。

 あたかも浮気現場を目撃された男みたいな構図になっているのがアレだな、その。なんか気まずい。

 俺はとりあえず体を起こし、話を聞くことにした。


「ケーマ様! どういうことですか!」

「はて、何がでしょう?」

「わたくしの婚約者についてです! なぜケーマ様ではなくなっているのです!?」


 ああ、それな。てっきりニクと添い寝しようとしてるとこかと思ったわ。


「ふむ。それは元々俺はお断りしていたはずですが。さらに言えば、クロの方がふさわしいからですよ」

「ケーマ様の方が良いんです! ケーマ様でなければ、イヤなのですわ!」


 マイオドールは身をずいと突きだすようにして言った。青い縦ロールが揺れる。

 勢いがあるな。さすがに奴隷でしかも女の子が婚約者はイヤなのか……偽装というのも伝えられてない可能性があるな。ニクが女の子なのを見れば偽装婚約者なのは一目瞭然だけど。


「光栄ですが、生憎(あいにく)と俺には好きな人がいましてね。今はその女性(ひと)以外とは考えられませんので」

「貴族なら正室側室で複数の妻を持つのが当然です。故に! ケーマ様もわたくしと結婚して貴族になってくだされば解決です!」

「おや。つまり領主様も側室がおられるので?」

「ええ、昨日の晩餐には来ませんでしたが」


 そうなのかー。……ということは、神の枕の管理者の資格を持つ者はマイオドール以外にもいるってことだな?

 うん、ボンオドール。嘘はついていなかったとしてもマイオドールが管理者だとは明言しなかったもんな。言質も取らせてくれなかった。……さてさて、管理者の資格がある人間は一体全体何人いる事やら。


「そ、それとケーマ様は、女装癖がある男の子が好きなのですか? ならわたくし、男にはなれませんが、男装して女装します!」

「……あ、俺の好きな人っていうのはクロのことじゃないですよ? 女性ですし、彼女は今ゴレーヌ村で留守番しています」


 一瞬誰の事かと思ったけど、そうか。ボンオドールから「ニクは男だ」と聞いたのかな?

 というか女の子が男装して女装するってもう訳が分からないぞ。漫画やゲームだとたまに見るシチュエーションだけど。


「なら、クロちゃ……クロイヌ様は既にケーマ様の側室だということではないですか? そこにわたくしがもう1人くらい入ったところで何の問題もありませんっ」


 マイオドールはどうも色々混乱しているようだ。暴走と言っても良いかもしれない。

 ……いやまぁ、10歳くらいの女の子なんだし、コロコロと婚約者を換えられたら混乱もするのは当然といえば当然だ。

 「今からこいつのこと好きになれ」みたいな感じの話だもんね、婚約者決められるのって。ましてや色々割り切れない子供で、多感な年頃。こりゃ暴走待ったなしですわ。


 おかげで有益な情報も入ったが、これボンオドール把握してるのかね?

 まぁいいや。先にボロをだしたのはあっちだ。


「まぁ、当面の婚約者はこちらのニク・クロイヌです」

「ですから、ケーマ様でなければ――……当面(・・)の?」

「……おっと、口が滑りましたかな。領主様には俺が言ったことは秘密ですよ」


 俺の発言の真意をマイオドールはしっかり拾ってくれたようだ。優秀だな、貴族教育ってやつなのかな?

 マイオドールはすぐに落ち着いてくれた。


「まぁ、その。クロイヌ様は優しいですし、見た目とは裏腹に力強いですし、その、10歳で既に冒険爵を賜るほどの優秀さですし、婚約者としてはこれ以上ないと言っても良いくらいの優良物件ですわ……女装癖と名前以外は。あ、獣人と言う点もありますか」

「些細な問題です」

「……些細でしょうか?」

「些細です。恰好は服を着替えればいい、名前もクロイヌという事にすればいい。獣人という点については、まぁ、差別主義者は()えさせとけばいいんですよ」


 と、くいくいと服を引っ張られる。振り向くとニクが上目遣いでこちらを見ていた。


「えっと。どうした?」

「……名前は変えたくない、です」

「お、おう、変えたくないなら仕方ないなー。じゃあ対外的には偽名をつかえばいいということで」

「ん」


 こくりと頷くニク。ご納得いただけたようだ。


「……そんな名前が大事なのですか? クロイヌ様」

「ん、大事です」

「そ、そうなのですか。しかしクロイヌ様はどうみても女の子にしか見えませんね」

「はい、まぁ」


 まぁ女の子だからね。男装もしてないし。

 ……それじゃ、あとはお若い2人に任せて俺は晩飯まで寝てていいかな?


 と思っていたのに、結局なぜか俺がまた冒険者の話をすることになった。

 でっちあげ冒険者シリーズもそろそろ限界なので勘弁してほしいところだが――マイオドールだけじゃなくてニクも楽しそうに聞いてるからなぁコレ。


「そしてゴールド氏は、ブラウンベアを投げ倒してテイムし、愛用のアックスを担ぎながらベアで馬に乗る稽古をしたと言います」

「えっと、ベアが馬の代わりになるのでしょうか?」

「最終的に馬に乗って活躍したという話は聞いてないですね……」

「……むしろベアをそのまま騎獣とした方が良かったのでは?」


 まぁ金太郎なんて詳しく知らんし、熊が実は人間だった可能性もあるな、知らんけど。


「あ、ケーマ様。そろそろ晩餐の時間ですわ」

「おっと、それじゃあ行きますか」

「はい、エスコートよろしくお願いします」


 と、俺に手を差し出してくるマイオドール。俺はそっとニクと立ち位置を変わった。


「……いきましょうか」

「……はい」


 ハハッ。ふてくされないで仲良くしようね、婚約者なんだからさ。


  *


「――というわけで、ケーマ殿の推薦もありマイの婚約者にはクロイヌ殿を立てる運びとなった」


 さて、食事前に婚約者についてボンオドールから発表があった。偽装、ということは言わずにだ。

 そこにいた面子は昨日と同じだったが、婦人はあらかじめ聞いていたのかにこにこ笑顔を崩さず、長男のワルツは多少渋い顔をしており、次男のジルバはダンッとテーブルを叩いて立ち上がった。


「まってよ、そいつは奴隷じゃないか! しかも女だ! そんなふざけたニクなんて名前のヤツがマイの婚約者に相応しい訳がない!」

「ジルバ。クロイヌ殿は男だ」

「ますます悪い! 認めないぞそんな女にしか見えない弱いやつ!」


 これ、偽装婚約者であることは誰にまで話していいのかな……少なくともジルバには伝わっていないようだ。ワルツは微妙な顔だけど、次期当主なら聞いてるか?


 はあ、面倒だなぁ。もうダンジョン帰ってゴロゴロ寝たい。やっぱりダンジョンマスターはダンジョンにいてこそだと思うんだよマジで。


「あらジル兄様。こうみえてクロイヌ様は力強いんですよ? わたくしを抱きかかえて中央区からこの家まで余裕で走れるのですわ。ジル兄様には無理ですよね?」

「だ、だとしても、僕より小さいし弱そうじゃないか」

「はぁ……ケーマ殿、少しクロイヌ殿に実力を示してもらっても良いかね?」

「構いませんが、クロが空腹なようなので食後でいいですか?」


 食事を目の前にお預けくらってるニクは、いい加減ご飯を食べたそうにしていた。

 今日はボアのステーキ。ああ焼けた脂の匂いがたまらんね、これは塩胡椒だけでも相当美味いってことが一目で分かる。こんなの肉好きのニクが耐えられるか? 否。ヨダレ拭きなさい。

 おっとニク、フォークとナイフの使い方はわかるよな? え、箸がいい? 俺も箸と白いご飯で食べたいけどさ。


「ああ、そうだね。折角の料理が冷めてしまうし、食べようか」

「では食後に庭で模擬戦でもしようか。折角だし私が相手させてもらおうかな?」


 で、食後に模擬戦をした。それも次男ではなく白兵戦が大好きな長男とだ。

 結果? ああ、ニクの圧勝だよ。


(まだだ、まだ終わらんよ!(書籍化作業が))

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