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絶対に働きたくないダンジョンマスターが惰眠をむさぼるまで 作者:鬼影スパナ

気まぐれな災厄

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仕込み



 その日、レオナはサキュバス村の散歩をしていた。
 といっても、村がある場所自体がただのダンジョンの1フロアなので狭い範囲だ。見た目は広い草原に見えるが、壁も天井もある。
 もはや目新しいものはない……と思っていたのだが。ふと、地面に映えた四角柱の台座に赤いボタンを見つけた。

「あら。こんなものあったかしら」

 レオナは躊躇なくそのボタンを押した。

「……? 特に何も起きないわね」

 ぽちぽちと何度も押すレオナ。
 ぽち、ぽち、ぽちぽちぽちぽち。最終的に1秒間16連打もしてみたが、全く反応がなかった。

『おいレオナ。何やってるんだ?』

 と、そこにゴーレムがやってきた。

「あら桂馬さ、ゴーレムさん。いやほら、ボタンがあったから押してたのよ」
『……お前、それを押してしまったのか?』
「押したけど?」
『何回押した? ……ふむ、52回か。じゃ、はいこれ』
「え、なにくれるの?」

 レオナが差し出した手の上に、ぽとり、とナスが落ちた。

「……いらないわ……!」
『すまない、このダンジョンの掟なんだ。このボタンを10回押したら、ボタンを押した奴がナスを1本食べなきゃダメなんだ……さ、あと4本ある』
「そんな掟、変えなさいよ!」
『変えて欲しいのか? 仕方ないな。なら代わりにレオナにも何か交換条件を飲んでもらわないとな。……ナスのかわりに賢者の石を5個貰うか? 簡単に作れるんなら丁度いいだろ、実験してみたい』
「いいわよ。はい」

 ごろごろ、と5個の賢者の石――錬金術の至宝――を地面に転がすレオナ。
 レオナにとってはただの石ころとさほど変わらない価値の石だ。

『お、サンキュ』
「まったく、なんで急に変な掟を作ったのよ?」
『サキュバスがナスを食べたがってたから作った掟だったんだ。じゃあこのボタンは撤去しておくよ』

 ゴーレムがごそごそとすると、ボタンは台座ごと地面から外れた。外した台座を木材を運ぶように肩に担ぐ。

『いいか、これに懲りたら勝手にボタンを押すんじゃないぞ。押すなよ。絶対に押すなよ』

 そして、ボタンを押すなと言って、返事も聞かずに去っていった。

「…………」

 レオナは、にっこりと笑った。


  *

「で、これで次にボタンを見つけたら絶対に押すから」
「まぁ、あれだけ押せって言ったら押すわよね」

 ……翻訳機能だとそうなるんだっけな。

「一応言っとくけど、あれは押すなと言ってるんだぞ。陰謀を感じる意図的な誤変換だ。勇者でもあるレオナなら日本語でそのまま聞こえてるだろうから問題ないはずだが」
「え、なによそれ。押すなって言ったのに……押すの?」
「間違いなく押すね」

 レオナの弱点。それは「ナス」と、「約束」……もとい、「()約束」だ。
 約束は守る。お約束はもっと守る。なぜなら鉄板だから。

 ついでに言うと、この「絶対に押すなよ」は翻訳機能が誤変換するくらい「お約束」なのだ。この前フリにより、レオナは次にボタンを見つけたら押すことが決定した――と言っていいだろう。

「これで、レオナが自主的に罠に引っかかってくれる土壌は整ったわけだ。あとは、必殺のトラップを仕掛ければ……まぁ、殺さないけど、少なくとも追い出せるぞ」

 しかし、仕込みの段階で賢者の石を手に入れてしまった。
 軽く吹っ掛けたつもりだったんだけど、レオナからしてみれば本当に石ころ程度の価値ってことなんだろうなぁ。
 ……いっそなら52個要求すればよかったかな。まあ過ぎたことを後悔してもしょうがない。

「……とりあえず、1つDPにしてみるか?」
「あ、まって。それだめ。この感覚だと……せいぜい10DPってところね」

 俺が賢者の石をお宝として奉げてDPにしようとしたとき、ロクコが止めた。
 お宝のDPが潰す前に分かるようになったのか。いつの間にそんな機能を……

「ん? なんでだ。もしかして偽物とかか?」
「分からないけど、ケーマの指輪も似たようなもんよ? 推測なんだけど、本来かかるべき手間暇をかけてないからじゃないかしら。DPって、手間をかけた分だけ多く貰えるようなところあるし」

 なるほど、俺が作った魔剣ゴーレムブレードがDP的に安いのと同じ……逆にテンサイを育てて砂糖を作った時は、安かった種を時間と労力をかけて価値を上げたって感じだったな。
 ああ、ハクさんから教えてもらったジュエルタートルを育ててDP稼ぐ方法も言われてみれば手間暇かかってるな。

「レオナからしてみたら、賢者の石はその辺の石コロから作れるんじゃない? でも機能はおんなじ、みたいな」
「なるほどなぁ……」

 それならナユタに1個くれてやろうかな? と思ったが、別段あげる理由がない。
 折角レオナから貰ったもんだし、自分のために使うとしよう。あげるにしてもタダじゃ駄目だよな。
 かといってナユタ相手に特に欲しい物もない。銃も試行錯誤中の欠陥品だし……脱ぎたて靴下くらいか?

「……って、ちょっとまて。俺のあげた指輪を潰そうとしたのか?」
「ふぇ!? ち、違うのよケーマ! ハク姉様がこの指輪を1億DPで買ってくれるっていうからちょっとどれくらいの価値があるのかなーって気になって調べただけなの、あ、もちろん断ったわよ!? 大丈夫、ケーマの愛を疑ったりお金やDPに換えたりする気は全くないから! だから、その、そう! 今夜一緒に寝ましょう!」
「待て待て待て、すていすてーい、うぇーいと」

 なにやら興奮した様子のロクコをどうどうと(なだ)める。
 ……1億DPってすげーな。しかしそれを断るロクコも凄い。俺なら売りかねない。売って布団のある豊かな睡眠生活を買いかねない。

「1億DPなら別に売っても良かったな? また作れるし」
「ケーマからもらった指輪だもん、売れるわけないでしょ? イジワル言わないでよ……」

 むぅ、と口をとがらせるロクコ。
 ……おう、なんだこの子、不覚にも可愛いと思ってしまった。
 指輪のひとつくらい、と思わなくもないが、ロクコにとっては俺から貰ったという事の方が重要らしい。

「ねぇケーマ……その、ダンジョンコアと人間って子供、作れるのかしらね? セツナとか実例があるところ見ると、作れるのよね? 子供ってどうやって作るのかしら」
「それは今しなければいけない話ではないな? はいこの話終了ー」

 子供の作り方についてはハクさんに聞いて……いや、俺が殺されるから誰にも聞かないでそっと忘れてくれ。
 しかしロクコがこういう状態になっているのって、もしかしてレオナから何か干渉を受けているのか? やはりレオナは早い所追い出さないと俺の命が無いな。

「もう、ケーマったら恥ずかしがっちゃって。私とケーマの仲じゃないの」
「そうだな、パートナーだもんな」

 俺は改めてレオナを追い出す決意を固めた。

「……それで、結局レオナ用のフロアはできたのよね? よく分からないの色々作ってたけど」
「ああ。セツナがレオナに一撃入れる機会もちゃんと用意してあるぞ」

 というわけで、仕込みも整った。
 あとは、レオナを専用フロアに送り込んで、何やかんやするだけだ。
 ……セツナ達の準備が整い次第、実行だな。

「ネルネ、セツナ達の方は?」
「マスターから頂いた武器を渡してきましたしー、いつでもいいんじゃないですかねー? 渡した武器で素振りしてましたよー」
「それなら明日、作戦開始だな」

 俺はレオナ用フロアについて最後の見直しをすることにした。
 本当は明日に備えて寝たいところだが、今寝たらロクコが布団に入ってきそうで、いろんな意味で眠れなくなりそうだからな……

(書籍4巻発売しました。わりと書き下ろしもあるよ(ダイレクトマーケティング))
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