サキュバス (3)
……はっ!
しまった、徹夜してしまった。気が付けば朝である。
……ロボットを作り出すと止まらなくなってしまう。俺としたことが睡眠欲以外を優先させてしまうとはなんたることだ。これは気を付けないとな。
まぁそのおかげでこうしてサキュバスの入れ物たるゴーレムが完成したわけだが――
「どうだ? これなら女の子っぽいだろう」
『あ、すいません寝てました。完成したんですか?』
実体無いくせに寝るのかこのサキュバス。
ちなみにテーマはロボメイド。アイアンゴーレムを球体関節のマネキンのように作り変え、女の子らしさを追求した身体の曲線は自信作である。顔以外は。
……顔はその、丸い顔にサイバーな赤いサングラスをかけたようなシンプルなものだ。一応釣り目な感じになるように人造ルビーで目を作ってはみたものの、自信がないので同じく人造ルビーで顔に対して横一本線になるようなサングラスを装着させて誤魔化した。
ロボメイドっぽさはいい感じに出てると思うんだよね。
『うーん、顔もうちょっと美人になりません? なんかのっぺりしてますよね』
「顔の造形についてはノーコメントとさせてくれ。これが限度だ……」
『えー? うーん、まぁ仕方ないですねぇ。コレで許してあげましょう』
おう、偉そうだなこのサキュバス。
「ところでロクコたちはどこ行った?」
『ロクコ様たちなら外に出て行きましたよ。帰って寝るって言ってましたけど? ダンジョンコアがどこに帰るって言うんですかね』
「ああ、外に俺が作った宿があるんだよ。普段はそこで寝起きしてるってわけだな」
……しかし、俺の【クリエイトゴーレム】を見せたというのに反応が薄いな。
『いや、そもそも昨日のうちにそこは驚きつくしましたから。もう開き直って脚の形とか腕の形とか注文付けてたじゃないですか、覚えてないんですか?』
「あー、うん、そうだったかな? そんな気がする……うん、やっぱり我ながらこの足はいい出来だ。鉄だけど柔らかみのあるフォルムがだな」
『そりゃニク先輩に私を憑依させて足参考にしてましたもんね。御しきれないとか言いつつその無駄な力の入れ具合にはドン引きですよマスター!』
記憶にないな。そんなことしたのか。
『え? 記憶ないんですか? ……めっちゃ足ぺろぺろ舐めてましたよ。くすぐったかったです。やめてください、と懇願するニク先輩でしたが、問答無用とそこに覆いかぶさるようにマスターが……そして二人は一つに』
「えっ、ちょっとまって。ゴメンそれ本当?」
『いやまあ嘘ですけど。具体的には憑依のあたりから嘘です、ロクコ様に止められました』
嘘かよこの野郎。いやサキュバスだから野郎じゃないけど。
とりあえずゴーレムに指輪を付けて憑依してもらう。最後にクリエイトゴーレムでぴったりになるよう調整して……よし。
「いいぞ」
『そんじゃ、憑依しますねっと』
ぎゅいん、とルビーの目が光った。気がした。
俺が命令せずともゴーレムは起き上がり、動き出す。……うん、ゴーレムの足なのにすごく可愛く見えてしまうな。我ながら恐ろしい造形のこだわり。
『おおっ! これは……思いのほか人間っぽいですね! なんていうんでしょう、操作感、そう、操作感がかなり人間です!』
「そうだろう、関節に微量のオリハルコンを混ぜたからな、日常生活程度の動作においてゴーレム特有の遅さはない。むしろ格闘戦も楽にこなせるだろう」
『マジすか。オリハルコン混じってるゴーレムとか半端ないっすねマスター』
ひゅんひゅんとパンチを繰り出すゴーレム。うん、オリハルコンを使うと性能が劇的に変わるな。ただのゴーレムと言うにはもはやモノが違い過ぎる。
「ゴーレム改め、ドールだな。機械人形、というには機構は無いし」
『素晴らしいですマスター! 一生ついてきます!』
「さあ、さっそくロクコたちにも見せてやるかな! この俺の最高傑作を!」
*
「で、ケーマ。おはよう。正気に戻った?」
「……うん。なんかその、寝不足のテンションでハイになってました……」
寝て起きた俺はロクコの前で正座していた。
となりにはドールに入ったサキュバスも一緒である。
「それにしてもまぁ可愛いゴーレムをつくったわね。てっきり足だけ凝ったりするかなぁと思ったんだけど」
「いやいや、足だけ凝って上に乗るのが普通のゴーレムとか気持ち悪いだろ。やるなら全身を整えるに決まってるじゃないか」
「……足のために全身を整えるの?」
「そうだけど?」
足だけ綺麗でも上がオッサンだと萎える。なら全身コーディネートというか全身クリエイトするのは至極当然の結論だろう。
「……いや、腕はあえてゴツくするのもアリだったかもしれんな……華奢な体にアンバランスなゴーレムハンド、これもまたひとつの萌え要素……」
「ケーマ、まだ睡眠足りてないんじゃない? 大丈夫?」
なぜか心配されてしまった。黙る。
「まぁとりあえず、こんなゴーレムは宿に置いておけないわよね? どうするのよコレ、ケーマの部屋にでも飾る?」
「……ああ、そうだなぁ。もういっそマッサージチェアーに憑依してもらったらいいんじゃないかって思えてきたよ。ほら、アレもゴーレムだしさ」
「なるほど、魅了効果でリピーター倍増ね。……あ、でもそれならマッサージチェアーと同じでダンジョンで拾ったことにすればいいんじゃない? 宝箱に入ってたって」
……それアリか?
たしかにダンジョンで手に入れたという触れ込みなら何が手に入ってもおかしくないし、一応俺は先駆者としてダンジョンの奥深くまで潜っていることになっている。俺だけが手に入れてるアイテム、と言っても全く問題ないだろう。
ちなみにマッサージ器具についてはゴーレムブレードと同様に魔力補充が必要なハンディタイプのものを倉庫の宝箱から出るようにもしている。地味に人気商品だ。
「今後はゴーレムも宝箱で入手できるようにすればいいじゃない。魔力補充すれば動いて、所有者のいう事を聞くようなヤツ。そうすれば、ケーマのそれも全く問題ないわよ?」
「なるほど、ただいう事を聞くだけでも結構便利だもんな」
ロクコのアイディアは中々にいいものだった。
そして俺作のゴーレムが広まれば、何かあったときに役立つかもしれない。
「よし、それじゃあ今後は従順なゴーレムが極稀に宝箱から出るようにしよう。さらに大当たりとしてはコイツみたいなドールだな。ただしサキュバス憑依とか無しにゴーレムのやつで」
「そうね、それでいいと思うわ。ギルドにもダンジョンで新しく手に入れたって言っとけば問題ないでしょ。あっても私が黙らせるし?」
ハクさんの威を借るロクコってことですね分かります。
と、いうわけで新しくゴーレム製の従業員が増えた。
「ところで、そうなるとサキュバスっていうのもアレね。ネームドにしちゃう?」
『え、マジっすか、ネームドにしてもらえるとか感激なんですけど!』
「そうだな。じゃあサキュバスだし……『ネル』でいいか。寝るから」
『ひゃっほい! 適当ー! でもネームドだぁわっしょい!』
喜んでもらえたようだ。というか、対サキュバスの警備頼むぞ?
(あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。
あ、そういえば言い忘れてましたがレビューとかも貰ってます。ありがとうございます)