サキュバス (2)
次はイチカとニクだ。
と、2人を呼び出したところで、
『ふおおおお?! なにこれスゴイッ! マスター、ヤバイのがいますよぉ!』
サキュバスが歓喜の声を上げた。……えーっと、イチカの方かな?
『この犬耳の奴隷っ娘、才能の塊です! うぇへへへ、お嬢ちゃん。わ、私の穴に指を突っ込んでごらん? ほらほら、スポって』
知ってた。……まぁ、セツナの話を思い出せば、ニクがサキュバスの才能が高いのも分からなくもない。あと指輪だから私の穴とか言うなし。間違っちゃいないけど。
「なに、サキュバスやて? あー、そら仕方ないわ。ウチ色気より食い気やしなぁ」
『身体は良いものもってますけどね。まぁニンゲンならみんな大なり小なり性欲ありますから何とかなりますよ? さっきの3人はモンスターなんでそういうの無くてもおかしくないですが』
「ネルネはベース人間のモンスターじゃないのか?」
『モンスターに至るほどの探求心と知識欲がそこにあるんですよ……ありゃモンスターです、頭じゃなくて体で理解しました』
お前体無いだろうが。
さて、それじゃあニクにつけるのはどうかと思うし――
「では失礼して」
『そ、そこよっ、そう、そのまま……あぁんっ! 憑依ッ!』
カッ! とニクが光る。勝手に何してんの。
というかネルネの時と演出が違うぞオイ。
そして、光が収まると……黒いヒモを着た、俺好みの年齢に成長した姿のニクが横たわっていた。裸足で、足の裏をこちらに向けている。誘うようにくにくにと足指を動かす。
……どくん、と心臓が鷲掴みにされたかのように鼓動した。
なんて、なんて素敵なおみ足なんだ……くぅっ!
『降臨! サキュバスわんこ!』
「……です」
ニクは、不器用な感じでにこっと口角を上げた。少し困ったような笑顔はものすごく庇護欲を誘う。あ、抱きしめて舐めたい。
「おぉぅ……ちょっとニク、あんたその姿……ほぼケーマじゃないの」
「へ? 待ちぃやロクコ様。いくら何でもご主人様とは似てへんて、まぁ、女のウチがドキドキするくらいに妙に色っぽい幼女やけど」
んん? 俺とロクコとイチカで、見えてるものが違うのか?
俺はニクの足から目が逸らせないままだが――
「おい、どうなってるんだコレ」
『すみません、【魅了】のパッシブスキルだと思います。たぶんイチカさんが一番まともに見えてるんじゃないですかね?』
「俺とロクコにはまともに見えないのか、これ」
『だとおもいます。反応見るに、めっちゃ魅了かかってますよ』
なん、だと……? 俺が、魅了されているだと……そんなバカな。俺はただ目の前の足にすりすりくんかくんかして頬ずりしたいくらいにしか思っていないぞ。今すぐにだ。
「ってやべぇめっちゃ魅了かかってる! イチカ、俺を殴れ! 命令だ!」
「あいさー! とう!」
がつん! と俺の頬にイチカの拳がめり込んだ。そのまま横に吹っ飛ぶように転がる。
マスタールームの白い床に倒れた俺は、少し頭が冷えた気がした。
俺は倒れたまま一息つく。
「ふぅ、俺は正気に戻った……」
「なにやってるのよケーマ、本当にしかたないわねぇ」
「いや、かつてないほどにヤバかったからな。よいしょっと」
体を起こすと、黒いビキニを着たニクが居た。成長はしていない。熱に浮かされたようなぽぉっとした顔が色っぽく見える程度だ。ん、目が赤くなってるか? ……そして、ロクコがニクを抱き抱えるようにしてその犬耳を咥えてハムハムしていた。熱烈に。
「なるほど……これが魅了状態か」
「ケーマ、はぁ、おいしいわケーマの耳。はむはむ」
「ふひゃっ! ろ、ロクコ様ぁ……くすぐったいです……くぅん♪」
「おい目を覚ませロクコ。それは俺じゃない、ニクだ」
「はぁはぁ……ニクでもいいじゃない……ああ、ケーマ良い匂い、くんくん」
……このままみているのもいいか。
って、まてまてヤバイって。また魅了入って来てるって。俺は頬の痛みに集中してなんとか正気を保つ。
「サキュバス、憑依解除だ!」
『は、はひぃ、ロクコ様のテクしゅごぉい……解除ぉ!』
ぱしゅんっとニクがいつものメイド服に戻る。
それから数秒してロクコが正気を取り戻した。
「はっ!? ニクじゃないの。なんで私、ニクを抱き枕にしてるの?」
「魅了されまくってたぞ」
「……恐ろしいわね、サキュバス! ところでケーマ、頬どうしたの?」
「なんでもない。【ヒーリング】」
回復魔法ってすごいな、あっというまに痛みがひいたぞ。
「ご主人様、大丈夫やった? 結構思いっきり殴ったけども」
「ああ、助かったよ。というかイチカはよく無事だったな」
「いやぁその、あのニク先輩をご主人様が毎日抱き枕にしてるんやと思ったらつい力が入っちゃうくらいにはウチも魅了されてたで?」
うちのわんこサキュバス強すぎやしませんかねぇ?
と、指輪の方からサキュバスの声が聞こえてきた。
『いやぁ、短い時間でしたがめっちゃサキュバりましたわー。魅了しまくりでサキュバス冥利に尽きるってやつですね! マスター、私、ニク先輩がいいです! とっても仲良くしたいです! 一体化するレベルで!』
「却下だ、強すぎて制御しきれん。傾国の美女って感じだったわ」
切り札にするにはいいかもしれないけど、日用にはできないな。
ウチのダンジョンに最終兵器ができてしまった。
「……少し、残念です。お役に立てると思ったのですが……」
指輪を外すニクに不意にドキッとしてしまったのは、さっきの残り香のせいだろう。
「ねぇケーマ、指輪はニクに持たせておいても良いんじゃないの? 憑依しなければいいんでしょ?」
「……うーん」
「じゃあ指輪どうするのよ。ケーマがもっとくの? いいわよ、ケーマがサキュバスでも」
「それはないな」
っと、つい人に憑依させることを考えてたけど、よく考えたら別に人に憑依させる必要ないんじゃないか?
「サキュバス。ゴーレムには憑依できるか?」
『ゴーレムにですか? できますが……ああ、体だけって意味ならそれもアリですねぇ。性欲は完全にない体ですが、明確な意識とかも無いから邪魔もないですし。魔力はマスターが注いでくれるんですよね? それならある程度は問題ないかと。それに夢の中なら実体無くても関係ないですし』
察してくれたようだ。結構賢い、話が早くていいな。
「よし、それじゃあ可愛いゴーレムを用意してやらないとな」
『へ、可愛いゴーレムですか? ゴーレムなんてみんな同じようなもんじゃ……』
「ああそうか。新入りでまだ俺の【クリエイトゴーレム】見せてないもんな。よかろう、見せてやるよ。このダンジョンのマスター……ゴーレムマスターの腕前を!」
というわけで、俺の【クリエイトゴーレム】が火を噴くぜ。
見せてやる、この俺の『可愛いゴーレム』ってやつをなァ!
(書籍化作業がひと段落付きましたが私は元気です。
あ、そういえば感想の返信はできてないですが質問については本編のネタにして返すことも多いです)