添い寝する幼女
というわけで、多分サキュバスに襲撃を受けた。
「まったく、なんてタイムリーな襲撃だ。っていうか、娼館とか絶対サキュバスの陰謀だろ、何が起きてるんだ?」
俺は目が覚めると、とりあえず横で抱き枕になってたニクをぽふぽふ撫でる。
布団からはみ出ていた犬尻尾がぴくんっと動いた。
……うん、癒されるなぁ。
ところでニクと反対側にピンク色の髪の毛をした幼女が寝てるんだけど。全裸とかマイクロビキニじゃないけど、かなり際どい恰好で横になっていた。布団の外で。
「……不法侵入か。ニクが気付かないとはかなりの手練れか?」
ちゃんと戸締りはしてあったんだけどな。あるいはそういう能力か……
とりあえず幸せそうによだれ垂らして寝てる幼女をマップを使って確認する。
1日当たりのDP入手量が20。一般人と同程度……幼女ということを考慮すれば多いってところだな。サキュバスかどうかは分からんが。
そういえば奴隷の首輪ってDPで交換できるんだよな。5000DP。
……使い方って嵌めるだけでいいのかな? 契約魔法とか要るんだっけ?
*
かけてやった布団の中で、もぞもぞとピンク髪の幼女が目を覚ました。
「……ふぁあぁ、ふにゃぁ、よくねましたー」
「おう、おはよう。朝ごはん食べる?」
「はい、いただきますー……」
サンドイッチを用意すると、おもむろにむんずと掴んではむはむ食べ始めた。
良い食べっぷりだな。
「……あれ。知らない部屋だ」
「今頃気が付いたのか。サンドイッチは美味かったか?」
「むむ、誰ですか?! 人さらい?! ……ってうわああ村長だあああ!?」
「はっはっは、おはようマドモアゼル。知ってるか? 不法侵入って犯罪なんだぜ。あ、死にたくなければ逃げない方が良いぞー」
「ぴぃ!? 死!?」
俺はとんとん、と首を叩くジェスチャーをする。
首の違和感に気付いたのか、幼女はハッとして首をさわり、首輪が付いていることに気付いた。
「な、なにをしたんですか?」
「首輪を付けただけだよ。なぁ、ニク」
「はい、ご主人様」
俺の隣にすっとニクが現れ、誇らしげに首輪を触る。
ニクの首についている奴隷の首輪。それを見た幼女はさっと顔を青ざめた。
「へ……変態ーー!? 私に何をするつもりなんですかぁっ!?」
「はっはっは、ちなみにこの部屋の防音は結構しっかり作っている。なぜか分かるか?」
「なぜって……ま、まさかっ」
そう、俺が夜静かに眠るためだ。
あ、ちなみに幼女の首についているのはただの中型犬用の首輪(10DP)である。
奴隷の首輪は契約魔法が使えないとあまり意味がないようなので、いっそのこと全ハッタリでいくことにしたのだ。
「で、何の用があって忍び込んだんだ? 小さな泥棒さん」
「泥棒? ふふん、私は盗みなんてしませんよ! 村長様の噂を調べていただけです! よって無罪だから解放してください!」
「じゃあサンドイッチ返せよ」
「……皿洗いでもお掃除でもなんでもしますから貞操だけは勘弁してください!」
貞操を気にするとは、あれ、こいつもしかしてサキュバスじゃないのか?
ニクが俺にしなだれかかるように抱き付く。俺はニクの頭を優しく撫でてやった。
それをみてピンク髪の幼女は何故かますます慌てる。
「貞操だけは! 貞操だけはどうか! 初めては好きな人にって決めてるんです! あ、それとも吐けってことですか? 私のゲロが目当てだったんですか! 女の子のゲロに興奮する人だったんですか! 女の子の胃液のすっぱいニオイがまじったドロドロの溶けかけ咀嚼物にハァハァしちゃうんですね!? それとも吐いて涙目な私が見たいんですか!? 両方? 両方ですか!?」
そう言って口に手を突っ込んで吐こうとするピンク髪幼女。うん、やめて?
しかもかなり特殊性癖に造詣が深いぞコイツ。やっぱりサキュバスか?
「吐かんでいいから。じゃあまず名前を聞こうか」
「ええっ、わ、私の名前はミチルです、食べても美味しくありませんよ!」
「ふむ。ちなみに俺の噂ってどういうのかな?」
「……お、幼い子供が好きな幼女性愛者と……!」
なるほど。その噂を信じて幼女が送り込まれたのか……相当貧弱な情報網だな。
「目的は?」
「……ええと、その……村長様の弱みを握ろうと……」
「なんで?」
「……お、お姉さまがその……分かりません。何か弱みをって言われてただけで。お願いします解放してください。解放してくれなきゃ泣きますよ!」
そのお姉さまってのが黒幕か?
俺はピンク髪幼女――ミチルにそっと近づく。びく! と怯えて体を震わせるミチル。
そんなミチルに対して、俺はそっと首輪を外してやった。
「うぇ?」
「とりあえず、解放してやろう」
困惑して俺の顔と首輪を交互に見るミチル。自分の首を触って首輪が無いことを確認する。
「……ふっ、どうやら実は既に私の魅力にメロメロだったんですね! さすが私!」
「そうだなぁ、メロメロだからこのまま逃げないなら襲ってしまおうか」
「ぴぃ!? こ、このたびはサンドイッチご馳走様でお邪魔しましたぁ!」
ミチルは窓を開けて、慌てて逃げて行った。あ、こけた。
「……ご主人様」
「ん? どうしたニク」
「ああいうのが好み……なんですか?」
「いや。なんかチョロそうだったから泳がせておこうかと」
マップでマーキングしたからダンジョン領域内にいれば居場所はすぐわかるが……ん? 村の外に行ったか。まぁ、また来たらすぐわかるだろう。
「……ご主人様って、幼い女の子に甘い気がします。わたし含めて、ですが」
「否定はできないな……子は宝っていう言葉があるし、それに良い寝顔をするヤツだった」
「寝顔ですか」
ニクはむにむにと自分の顔をつまんだり揉んだりしつつ、「寝顔……」と呟いた。
お前の寝顔も可愛くて癒されるぞ、と頭を撫でてやると、尻尾がぱたぱたした。
と、その時コンコン、と扉がノックされた。
「ケーマ、今さっき知らない幼女が窓から出てくの見えたんだけど?」
さて、面倒だが説明するかな。このままだと幼女誘拐の変態にされてしまう。
……むしろそれが目的とか? まさかね。
(あ、まだ書籍化作業終わってないんですよ)