おこめ
ワタルは、ナユタたちにお米をどうにかしてあげたいということで、少しだけ協力してやることにした。
「おいワタル、ちょっと手伝え」
「あ、はい」
と、ワタルに倉庫から厨房に米の入った袋を持ってこさせる。
そして、キヌエさんがそれをおにぎりにする。
それを俺は、
「ワタルが米持ってきてくれたからおにぎり作ったんだけど、食う? まかない扱いでタダでいいよ」
とナユタとセツナに渡してやった。
なんか驚愕した顔してたけど、嘘は言ってない。
ワタルもこっちを見て驚いてる。なぜだ。
「すげぇの、これが全ワコーク民が神話で聞くオコメ、そしてその究極系、オニギリ……!」
「私達が食べてもいいのかしら……ワコークに持ってったら高値で売れそうね」
いや、持ち帰るには腐るんじゃ……ああ、【収納】持ってるのかな?
「はぐ、はぐ。……うん、美味しいけど、いう程じゃないわね。純正ワコーク民なら違う感想になるのかしら。さすがに勇者様が通ってるだけのことはあるわね……」
「なんなら米を1袋買ってくか? 金貨100枚でいいぞ」
「……1袋ってどれくらいの量?」
「この量だ」
どさっと実物を持ってきた。
布袋ひとつで10kg。とりあえず金貨100枚(日本円にして1億円相当)と吹っかけてみたが、買うだろうか?
「金貨100枚は……これ1袋で金貨100枚は高いわよねぇ」
「勇者様、ちなみにこれはいくらで卸してるの?」
「え、えーっと……1袋金貨10枚です」
卸値を聞かれたワタルは自分が買う値段を答えた。
ちなみに借金もあるというのに毎月1袋買ってくからなコイツ。ハクさんと折半してるらしいけど。
「ボッてるわね」
「おいおい、これを買えるヤツは限られてるんだぞ? ちなみに他に許可出てるやつはいない。国外に売れるヤツはもっての外だ。手に入れるチャンスは逃せないんじゃないか?」
「……金貨20枚」
「論外だ。金貨110枚」
「増えてるじゃないの!」
「俺の気分で増えるんだよ、知らなかったのか? 得したな」
他に一切競合できる仕入先が無いからこその強気の交渉だ。
ついでに言うと別に売れなくていいもんな。現物が腐ることもないし、倉庫を圧迫するわけでもない。DPってホント便利。
「まぁこっちは売れなくてもいいからな。じゃ、そういうことで」
「ま、まって! ……き、金貨30枚」
俺が米袋を片付けようとしたらナユタが待ったをかける。だが、これはまだ釣り上げられるな。
「……この話はなかったことにしようか」
「40枚、わ、私の裁量だと40枚が上限なのよ……上司に相談してもいいかしら? ……あと即金は無理」
「まぁいいか。それなら現物を先に渡す。最低金貨40枚として、好きな値段を付けてもらえ。……モノがあった方が話が早いだろ、金額によっては今後も月1袋ずつ譲ってやっていいぞ? よく考えろと伝えておけ」
と、米袋をナユタに渡す。……重かったのでセツナが持ち上げた。
「持ち逃げするとは考えないの?」
「その時はワタルの借金に金貨100枚を追加するから大丈夫だ。いいよなワタル?」
「ちょ、ちょっとケーマさん、こっちいいですか?」
俺はワタルに呼び出された。おとなしくついて行く。
「なんで僕の借金が増えるんですか!?」
「ワコークにお米を渡すとかの話、言い出しっぺはワタルだからな。保証人にくらいなってくれ。あ、いやなら別に米1粒たりとも渡さなくていいんだ。その方が俺は楽でいいし」
それに、持ち逃げがなければ何も問題ない。
「……わかりました。金貨100枚、1ヵ月分なら……それにきっと持ち逃げなんてしませんって!」
金貨100枚を1ヵ月分で済ませられるのは勇者ならではだ。
「俺が言うのもなんだけど、あの2人に今日初めて会ったのになんでそんなに信用してるんだ?」
「いやぁ、ワコークの情報料と考えれば安いもんですって。うまくいけばタダですし。一応本物かは分からないですが通行証兼身分証っていう印籠も見せてもらいましたし」
なるほど、そういう考えもあったのか。
ちなみに印籠は漆塗りの黒色にワコークの紋章が金蒔絵で入っていたとか。割と豪華。
というわけで、話も付いたので戻ってきた。
「持ち逃げしたらワタルの借金に金貨100枚を追加するから。勇者の信用を失いたくなければしっかり払うように」
「くれぐれも! くれぐれも持ち逃げはしないようにしてくださいねナユタさん」
「あ、うん……わかりました。勇者様の信用は裏切れないですからね」
尚、米袋1つで50DPである。俺も最近ボッタクリに慣れてきたな。
「ま、他に帝国から直接仕入れるルートでも見つかったら翌月からすっぱり切っていいぞ」
「潔いわね。ふん、すぐに見つかるわよ、そもそも最初のオコメを手に入れたルートがあるはずだもの」
それにしても根本はこっちに来るんだけどな。
こっちが卸してる以外にルートができたなら、むしろ教えて欲しいくらいだよ。
*
3人の紹介も一通り済んで、ちょっかいも十分にかけたところで俺は村長部屋に戻った。
あれだけ言っておけばワタルも余計なことは言わないだろうし、なによりネルネを監視につけた。
「とまぁ、そんなわけで儲け話が1つ増えたよ」
「ケーマはお金稼ぎが上手ねぇ。頼もしいわ」
そしてなぜか遊びに来たロクコ。まるでモニターで俺の行動をずっと見ていたかのようなタイミングの良さだったが、特に言うことは無い。
「それにしてもあの姉妹、ワコークの諜報員だったのね」
「隠してないあたり、忍者じゃないんだろうなぁ」
「ニンジャ? それが諜報機関の名前?」
「そういう可能性もあるな。帝や大名みたく日本にちなんだ職業の呼び名だ」
一応忍者について簡単に説明してやった。諜報・工作に特化した影の存在だと。
「……ニンジャ! シュリケン、マキビシ、ケムリダマ……ニンジュツ!」
「ちなみにシノビというのもある。こっちはより静かに現実的な存在だ」
「あ、そっちは良いわ」
良いのか。
「はー、しかしスッキリしたわね。あの姉妹の正体がニンジャ……かどうかはさておき、ワコークの諜報員だったなんてね。それならクビにする必要はないわね」
「……まぁ、あれくらいオープンに情報収集してるならこっちもやりやすいし、米のやり取りもできる。でも、まだ大事な点が残ってるぞ」
「……ふたなりな所?」
「そっちは単に生まれもっての体なら別段疑問でもない。というかなんでそれが出てくるんだ? もっと大事なのがあるだろ」
「いやぁ、最近ケーマがそっち付きっ切りだったから、好みなのかもって。おっぱいなら私だって負けないけど、下は無いから……私も生やした方が良いのかなって」
「絶対に生やさなくていいからな」
「頼まれても生やせないわよ、ケーマじゃあるまいし」
「俺でも自在に生やせたりは……ああ、【超変身】あるもんな。うん」
もっとも、対象が実在することという縛りはあるけど。っと、話が逸れた。
「で、大事なのって?」
「DPだよ、DP。1日当たりのDPが0だっただろ、姉の方」
「あー、そういえばあったわね」
そう。セツナの入手DPがなんで0DPなのか、その謎が残っていた。
……しかしこんな大事な事を忘れるロクコ。最近がんばってたからその反動かな? ほっとするね。
(明日あたり本屋行ったらダンぼる3巻早売りしてるんじゃないかな。
そういえば今回も店舗特典あるらしいですよ)