面談
オーナー室で待っていると、コンコン、と扉をノックする音が聞こえた。
どうやらアルバイト2人がやってきたようだ。
「どうぞ」と入室許可を出すと、「失礼するのー!」「失礼するわ」と、割と勢いよく扉を開いて犬……うさぎ? どっちか分からんが薄いこげ茶の耳を持った、巨乳体操服ケモ耳冒険者と、白衣を着ている金髪犬耳眼鏡っ娘が入ってきた。どちらの耳も毛の先が白い。
宿の制服であるコスプレメイド服からは着替えていたが、その恰好は何だ。しょっぱなからキャラが濃いぞオイ。
「……凄い恰好だな」
「んきゅ! 動きやすいいい服なの、ダンジョンで見つけたの!」
「ええ、私のこれもそうよ、中々に機能的で気に入ってるわ。帝都の服屋で買ったら金貨数枚ってところかしらね?」
あ、そういえばダンジョンのお宝に用意してたんだったな。体操服や白衣、眼鏡とか。まさか本当に着る奴がいるとは思わなかったけど、こういうの実際帝都で売ってたもんな。……あれ、なんだろう。ちょっと背筋がぞくっとしたぞ?
で、えーっと。まぁいい、初対面だし、自己紹介から始めておこう。
「俺はここの村の村長で、宿のオーナーの秘書をやっているケーマだ。先日はすまないね、ちょっと用事があったもので面接に参加できなくて。ええと、すまないが名前は?」
「ボクはセツナなの。拳闘士なの。聞いてるの、眠くて寝てたって」
「私はナユタよ。錬金術師ね。よろしく村長さん。1日23時間働ける薬とか要る?」
なんだよその悪魔の薬、いらねぇよ。しかも中毒とかになるやつだろソレ。
「副作用のないただの栄養ドリンクよ。集中力用のエナジードリンク、体力用のスタミナドリンクね。ポーションよりは効果が弱くて目に見える程の回復はしないけど、その分安価でコスパがいいわ。そこそこ腕のある錬金術師ならだれでも作れるわね」
どちらにしてもタチがわるそうだな。いろんな意味で。
「えっと、2人とも冒険者だったか。ここへはなんで来たんだ?」
「歩いてきたの!」
そうじゃなくて。
即答でボケたセツナを押さえて、ナユタが答える。
話はナユタから聞いた方が良いのだろう。
「ええと、姉妹でパーティーを組んでるのだけど、ツィーアに行こうと思ってて元々ここは通過するだけの予定だったのよ。そしたら、情報より規模が大きくて集落になってて、思いのほかいい具合のダンジョンだったから、少し稼いでいこうってなったわけね。見ての通り、いいものを手に入れたわ」
普通に冒険者をやってると急な予定変更はよくあることのようだ。綿密な計画を立てて冒険する方が少ない。稼げそうな時に稼ぐし、逆に目的地を素通りすることもある。
予定は未定、ってやつだな。
「……ふむ。姉妹、か。あまり似てなくないか?」
「お姉ちゃんと私は父親が違うからね。いわゆる種違いってヤツで……そのあたりは家庭の事情だから突っ込まないでくれると嬉しいわ」
父親違いの姉妹か。……複雑な家庭環境だな、あまり触れない方がよさそうだ。
ちなみにナユタがゴールデンレトリバー的な金髪なのに対し、セツナはいかにも獣っぽい茶髪だ。
「ちなみに私は犬獣人だけど、お姉ちゃんは犬とウサギのハーフね。獣人は両親のどっちかになることが多いんだけど、混ざったのが産まれることも稀にあるのよ」
「いぬうさなの。ハーフは少なくてレアだよ!」
と、セツナはくるりと振り向いてくりんとした尻尾を見せる。確かにウサギと犬を足して2で割ったような尻尾だ。
獣人のハーフ。そういうのもあるのか。言われてみればナユタの尻尾が前からも見えるくらいふさふさの犬尻尾なのに対し、セツナのはくりんと小さく前からは見えなかった。
犬と猫でネヌとか、ライオンと虎でライガーとか、馬と鹿で馬鹿とかもいるのだろうか。ちょっと気になる。
「ちなみになんで冒険者やってるかは聞いても大丈夫か?」
「んきゅ、ナユタ、説明したって」
「大した話じゃないわ。モンスターのせいで住んでた村が無くなった。良くある話でしょ? ああ、黒い狼には気を付けた方が良いわよ」
「お、おう、黒い狼か。前の冬に来てたな。また来るかもしれん」
「……そう」
ナユタは眉間に軽くしわを寄せた。それを隠すように眼鏡の位置を直す。
もしリンなら、ダンジョン内で仇討ちするセッティングまでは手伝ってもいいな。
どうなるかは知らんけど。
「で、ウチでの仕事はどうだ?」
「いい仕事なの! 美味しいまかないも出るし、ダンジョンに潜る時間もあるし」
「もうしばらく雇ってもらえるとありがたいわね。色々珍しい魔道具も手に入りそうだし、錬金術師としてはとても気になるわ。レジスターや、マッサージ椅子もここで手に入れたんでしょう?」
「ああ。ならもうしばらく雇うけど、なんなら普通に就職して定住するか? 若い女冒険者は少ないし、村としては歓迎するぞ」
現状、ここゴレーヌ村の男女比は7:3くらいなのだ。ウチの宿を入れて。
もともと冒険者は男が多い。ツィーアから奥さん連れて移住してきたやつとかも居るけど、俺は村長として村民の結婚相手を探してやらなきゃならなかったりするんだろうかね?
「それもいいね、ごはん美味しいし。どうするナユタ?」
「そうね、一応考えておくわ。腰を据えられる拠点の候補として」
期待はしないが、割と乗り気なようだ。
「逆にそっちから何か質問とか要望はあるか。給料上げろとか」
「給料は宿代と食事代だけで十分よ。……お姉ちゃんはよく食べるから特に助かってるわ」
「んきゅぅ、面目ないの。ダメなお姉ちゃんでごめんねぇ」
「はいはい。で、質問ね。……クロ先輩、あれ、何者? 凄腕の暗殺者? ああその、聞いたら命が危ないとかなら言わなくていいわ。同じ犬耳として少し気になっただけだから。あの年齢でお姉ちゃんとまともに近接戦闘できるのはちょっとした『異常』ね」
「クロちゃんすごく強かったの! あれはまだまだ伸びるね、きっとああいうのが将来Aランクになるんだと思うの」
「あー、うん。アレはまぁ、俺にもよく分からん」
クロ、こと、ニク・クロイヌの正体は、俺の奴隷で犬耳の獣人という事以外は不明だ。目と髪の毛の色からして、勇者の血が入ってるんじゃないかとは思うけど。
なにせ、現在の1日当たりのDPが160DPである。ウチの村の冒険者代表であるゴゾーが1日あたり85DPであることからして、この値の異常さが分かるだろう。どうしてこうなった。才能の塊か。
「そういや、そっちのランクを聞いてなかったな。いくつだ?」
「2人ともCだよ、でもBクラスの実力はあると思うな。昇級試験受けてないだけだし」
「貴族は面倒事が多いもの。Bになると税も多く取られるし、ダンジョンに潜るのに支障ないCくらいが気楽でちょうどいいわ。特に獣人だと、色々と煩い国もあるしね」
そういうものなのか。Cランクの層がやたら厚い理由が分かった気がする。
そして、それから多少和やかに雑談して面談はお開きとした。
バカッぽ……のんびりほわほわした笑顔のセツナに、しっかり者のナユタ。
色々と凸凹だが、姉妹としてバランスがとれているようだ。いい姉妹と言わざるを得ない。
が、俺はこの面談であの2人への警戒を強めた。
「ところでセツナ……姉の方、俺の質問に対してボケたよな」
「なんで来た」という質問に「歩いてきた」と、日本語ならあまり違和感のない勘違いだ。だが英語ではWhyとHowの違いがあるような内容だ。
この世界ではどうなのか? 俺はロクコに尋ねた。
「――そういえば、変な回答だったわね」
さて、何者だ? あの姉妹。
(※ 日本語 → スキルで異世界語に翻訳 → スキルで再翻訳 の場合でも精度はとても高いので「うおーー!」が「さかなーー!」になったりはしません)