新しい従業員
昼寝剣シエスタがダンジョンのネームドモンスター一覧に追加されてしまっていた。
うっかりしてたよ、そういや魔剣ってモンスターだったね。
そんなわけで、ダンジョン『欲望の洞窟』に帰ってきた。
結局、ほぼ毎日通ってたようなもんだけど、ずっとこっちは放置してたからなぁ。改めて状況を確認してみよう。俺は1日ぐっすり寝てからレイを呼び出した。
「じゃあ状況を確認させてもらおうか」
「はい、マスター」
まずはダンジョン。
あいかわらずDランク以下の冒険者が浅い階層で訓練を重ねつつ、Cランク程度の冒険者がアイアンゴーレム目当てに潜ったり、魔剣ゴーレムブレードを求めてちょっと無理したりといった具合だ。
謎解きエリアを無くしたとはいえ、その先の螺旋階段を下りるのは結構命がけだったりする。……ん? ここ、罠が増えてるな。壁から槍が飛び出す所があるのか。
「あ、そこは倉庫エリアに向かう冒険者が結構居たので、追加しておきました」
「ふむ。いい判断だ。倉庫からゴーレムブレードを持ち出す奴が増えすぎても困るからな」
増やしたのはレイか。なかなかいい仕事じゃないか、牽制になる。
「倉庫エリアの方はどのくらい人が入った?」
「8パーティー程。うち1パーティーは螺旋階段で全滅、4パーティーは変則ゴーレムを見て様子見、魔剣を持って行ったのは3パーティーで、石剣3、鉄剣3の計6本です。倉庫から先に到達したパーティーはいません」
全滅が1パーティーあったか。御愁傷様、そしてご馳走様。
そしてゴーレムブレードの出荷数は1ヵ月で6本か……丁度いいペースかな。あとで補充しとこう。
「宿は?」
「はい、新人2人を加えて5人で回していましたが、こちらは特に変わりありません。さすがにひと月程度では客足の変動も大してありませんね」
まぁ、人員も増えてたしそんなもんだろう。新しく2人が宿で働いていた。宿で寝泊まりしているようだが、従業員寮を増設しようかな。ダンジョンバトルも終えたし、しばらくは平和で時間もあるだろう。
「そういえばいつの間にか増えてたけど、あの新人達は何のモンスターだ? どっちもケモ耳だったからミーシャみたいなワービースト系かな」
「ええと、あれはモンスターではなく獣人です」
……獣人? DPで呼べたっけ?
ガチャなら俺という例外もあるから呼べるんだろうけど、カタログからは非モンスターの人類である人や獣人といったものは無かったはずだ。
少なくとも俺のカタログにはないし、ダンジョンマスターの俺が出せないものをレイが出せるとは考えられないんだが……
「どうやってDPで呼んだんだ?」
「はい。DPは使っておりません、通りすがりの獣人冒険者を餌付けして雇用しました。マスターの好きな低コストで最大の結果を出す方針です」
レイは満面のドヤ笑みで言った。
「えっと。つまりダンジョンの支配下に、無いってことか?」
「ええ、ありませんが、問題ありましたか?」
……問題しかなくない!?
「いやまてまて、俺聞いてないんだけど」
「え、ロクコ様からも許可は貰っていますが」
「マジか……あとでお話だな……で、えっと。ダンジョンの支配下に無いのは問題じゃないか……?」
「宿の仕事をさせているだけですし、一応、冒険者ギルドを介しての短期雇用となっています。この半月以上何も問題は起きていません」
なら……いい、のか?
「何か問題を起こしたならギルドに訴えればいいですし、秘密がばれたのであれば始末すれば良いだけでしょう、何も問題はありません」
「おう、割り切ってるな……」
レイは案外シビアな考えができる、このダンジョンでは貴重な存在だ。俺も決めるときは決めるけど普段はやっぱり甘めになってしまうからな。
俺は改めて座り直す。仕切り直しだ。
「そういえば5万DP渡してあっただろ。あれはどうした?」
「え? あれは……罠の追加の他は、私の強化にすべてつぎ込みました」
「……は? レイの強化に?」
「はい。私の強化に。ダンジョンの戦力増強ということでしたので」
ちょっとまて。あれは新人を召喚するのに使えという意味だったんだが……
……バイトとはいえ新人が入ってるし、残りはレイが好きに使って問題ないのか?
うーん、まぁ、ちょっと自分の強化しちゃったってのがひっかかるけど、レイだしな。ここは良いとしよう。
「そうか。キヌエさんとネルネの方は?」
「キヌエはすこし料理のレパートリーが増えました。ネルネは魔法陣の研究に没頭していますね。まだお土産に頂いた魔道具に興奮している感じです」
キヌエはお給料のDPやお金で料理のレシピを購入したり、ネルネは魔法陣の話でカンタラと盛り上がったりと結構充実した生活を送っているようだ。
レイはレイで俺に仕事を任されていたのがうれしかった様子。忠誠度高くていいね。
話を充分聞けたので、俺はロクコに会いに向かった。
当然バイトについて聞くためだ。
「おいロクコ! ちょっと話があるんだが」
「なにかしら。神の掛布団使いたいの?」
「それはそれでおいといて、アルバイトの件だ、アルバイトの」
「え、今更?」
ロクコにとっては今更だろうけど、俺はさっき初めて聞いたんだよ。
「単に普通に冒険者ギルド経由で雇ってるだけよ。レイが提案したのよ、考えたわよね」
「だけど、ウチの宿にはバレたらヤバイ秘密があるだろうが」
「普通アルバイトの従業員にはそんな深い話はしないし、宿はどこもやましい所はない。そうでしょう?」
「ゴーレムとかあるだろ」
「ケーマが出してる普通のクレイゴーレムじゃないの。魔力供給はしてるように見せかけてるし、どこも不自然じゃないわ」
「料理とかは」
「キヌエが調理してるでしょ。今はDPで直接出す方が少ないわね、食材はDP使ってるけど、これも倉庫や【収納】があるから見られることはないわ」
「温泉は……」
「アルバイトに任せてるのは宿の受付と食堂の接客よ。掃除は『浄化』とキヌエの趣味、お湯の方は『そういう魔道具』って認識になってるわね。あ、受付のレジもよ」
あれ? なんかロクコに言い負かされたぞ。まったく反論できない。
バイトが全く問題ないように思えてきた。むしろバイトを雇うことでダンジョンに専念できる名案なんじゃなかろうか。
「ちなみにバイト代は宿代を無料にして食事の提供ね。ギルドにはちょっと手数料払ってるけど、宿の儲けから考えれば本当に些細なものよ」
……最近のロクコはホント成長したなぁ。
「ちなみに面接とかはしたのか?」
「うん、私とレイとイチカでしたわ。というかケーマも呼んだんだけど、寝てたから」
そういえばダンジョンバトル期間中にロクコがこっちに帰ってきてるときがあったな。
俺もなんか言われてた気がするけど……
うーん、一応俺も話を聞いておくかなぁ。
「今から呼び出せるか?」
「え? んー、まぁ、今なら大丈夫でしょ。もうそろそろ上がりの時間だし」
「なら、面談ってことで呼び出してくれ」
「わかった。レイに伝えとくわ。寝ずに待ってなさいよ?」
ちょいちょいとロクコはレイに連絡を入れる。
それにしてもアルバイトか……うーん、どんな奴なんだろう。俺は一応雇用側なんだからビシッとしなきゃだよな。ああ、緊張してきた。
(ついに200か…思い返せば連載開始からもう1年半ですね。いつもありがとうございます)